俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

文字の大きさ
上 下
262 / 526
第五章 もう一人の剣

第261話 再戦

しおりを挟む
(オラァ、グラシャラボラス! 最初っから、ぶっ放していくぞ!!)

 疾風迅雷。怒涛の攻めで先制したのは、霧崎を振りかぶったグラシャラボラス。人の身では認識する事すら叶わない高速の斬撃をいなし、シャーリーは魔神の懐に飛び込むが、大振りの返し切りに見舞われ後退を余儀なくされる。

 その連撃は、パワーもスピードも前回とは桁違いであり、明らかに彼女を殺しにかかった動き。奴が本気で戦いを楽しんでいる事が伺える。

 これでシャーリーを連れ帰ろうとか冗談も大概にしろと言いたいが、奴にとっては結果等どうでもいいのだろう。生きていればそれで良し、死んだら死んだでしょうがない。自らの欲を満たした上で、いきあたりばったりの成果を、奴の上司に報告するつもりなのだ。

 全く、これで人の役に立っていたと言い張るのだからたちが悪い。一部の声を、大衆の意見のように捉えるとは、言語道断。全ての人間が、お前の身勝手な殺人を支持してると思ってんじゃねーぞ。

「太刀筋が良くなってる。それにパワーも。やっぱり、一筋縄じゃいかないわね」

 そんな霧崎とグラシャラボラスの動きの違いに、シャーリーも気がついているようで、斬撃を避けながら奴等の動きを慎重に分析していく。

「トオル、いつもより荒っぽく行くけど、ついてこれる?」

(あぁ、勿論だ。どんな動きだろうと、必ずついて行ってみせるさ!)

「良い返事ね。それでこそ、私のパートナーにふさわしいわ!」

 霧崎が繰り出した、十五回目の斬撃。その袈裟斬りの合間を縫って駆け出すと、彼女は一際俺の刀身を輝かせると同時に、左足で地面を踏み込む。

「リィンバース式剣術 弐ノ型 裏式」

 宣言通り繰り出されるいきなりの大技に驚いたものの、なんとか意識を集中させ、切っ先に力を込める。

撃突マグナム・轟大地インパクト

 豪快に地面を蹴り、弾丸のように突き進む俺達の体は、グラシャラボラスの腹部に突き刺さると、魔力を一気に開放する。

 切っ先より放たれた光の線は、魔神の内部を突き抜け後方へと鋭く伸びる。しかし、蚊にでも刺されたようにケロッとしているグラシャラボラスを見るに、効果はあまりなかったようだ。

 マグナムインパクト本来の仕様は、パイルバンカーのそれに近い。故に、彼女より大柄な相手へと打ち込む場合、威力は半減してしまうのだろう。

 グラシャラボラスの体格なら、本来足元を狙うべきなのだろうが、前回の戦いで足への攻撃を避けられた事を、無意識に思い出してしまったようだ。

 強気に振る舞ってはいるが、彼女もれっきとした一人の女性。内面では、揺れ動くものがあるのかもしれない。

「自幻流 八の太刀十節 残光ざんこう蝉時雨せみしぐれ!」

 それでも彼女は臆さず進み、次の一手を魔神に叩き込む。程よく隆起したグラシャラボラスの体を足場とし、魔神の全身に激しい斬撃を八連続で浴びせかけると、彼女は空中で体を捻り、さらなる一撃を加えようとする。

「自幻流 一の太刀六節 雷鳴閃らいめいせん!」

(調子に、乗ってんじゃねぇぞ!)

 だが、霧崎達が大人しくやられる訳もなく、俺の体は奴の刀身に防がれ、彼女は一時距離をとる。

 ある程度予想はしていたが、並の攻撃では歯が立たず、魔神の体に傷一つ与えることが出来ない。奴を倒すには、必殺の一撃をお見舞いする必要が有るって事か。

 ただ、こちらにとっても、悪いことばかりではない。俺達の見込み通り、霧崎のエナジードレイン発動には、時間がかかるようである。今の打ち合いで、魔力を吸われなかったのが何よりの証拠だ。

 しかし、このままでは埒が明かない。下手な引き伸ばしは、こちらが一方的に不利になるだけ。やはりここは、全力で決めるしか無い。

(シャーリー!)

「だめ、切り札はきれない。今魔力を使い切ったら、後がなくなる」

 目の前にそびえ立つは、巨大で強大な魔神。時間をかければ不利になるが、失敗は許されない。そのジレンマが、俺と彼女を苦しめる。

 ここでもし、全ての魔力を使い切れば、バルカイト達が戻って来てもどうにもならない。スクルドと天道に任せるなんてのはもっての外だ。慎重に確実に、奴等を倒せる方法を探らなければ。

「けど、大丈夫。使わないのは、あくまでとっておきだけ。それ以外で何とかしてみせるわ」

 しかし、渾身の一撃だけが彼女の武器じゃない。技術に裏打ちされた多彩な技を使い分け、俺達は今まで勝利を収めてきたんだ。

 彼女には策がある。そう感じ取った俺は、シャーリーの計略に乗ることにした。

(手加減なんかして、俺様に勝てると思ってるのかよ!)

「手加減なんてしないわ」

 四日前の戦いに比べて、グラシャラボラスの動きは格段にキレを増しているが、奴の巨体では動ける速さに限界がある。どれほど素早く切り返しても、あの筋肉質な腕を動かすまでに僅かな隙が出来るのだ。

 そのコンマ零何秒の隙を的確に見出し、奴等の攻撃を抜けて、シャーリーは地面を駆ける。

「貴方がどこまでついてこれるか、試してあげてるだけよ!」

 勢いよく回転する魔神の斬撃をすり抜け、一際大きくなった奴等の隙を突き彼女は動く。

「リィンバース式剣術、伍ノ型 散式 荒拡がる爆炎火口ヴォルカニックザッパー・スプレッド!!」

(同じ小細工が、通用するわけねーだろうが!)

 振り下ろされた俺の刀身が地面に着くのと同時に、威力に乏しい火柱を複数上げるだけの目くらまし。奴の言う通り、これだけでは意味がない。

 しかも、この場には木々もなく、子供だましにしても効果は薄すぎる。

 だが、彼女の攻撃は、この一撃で終わらない。

「リィンバース式剣術、参ノ型 波打つ泡の変則防壁バブル・ウェイブ!!」

(な、これは!?)

 薙ぎ払われた俺の体から、泡となった複数の魔力が飛び出し、それらが一斉に火柱へと接触すると、水蒸気爆発を引き起こしグラシャラボラスにダメージを与える。それと同時に視界も熱も、前回以上に奴等の感覚から奪うことに成功した。

 そして、俺達の必殺技は既に完成している。彼女が最も得意とする、刺突から繰り出される七連撃。地面に描かれた七芒星と、空を翔ける星々の煌めき! 

「自幻流奥義 七の太刀ニ節 天翔る七剣星グローサー・ヴァーゲン!!」

 左後方の死角からグラシャラボラスの脇腹へと飛び込み、目にも留まらぬ刺突の連撃を、魔神の体に七発叩き込む。

 いつもなら、この一撃で魔神に致命傷を与えられるはずなのだが……

「……嘘? 全部、かわされた!?」

 俺の切っ先は、霧崎の刀身により全て防がれてしまっていたのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...