俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第五章 もう一人の剣

第254話 先輩の背中は私が守る

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「さて、先輩の調子も戻りつつあるようなので続きおば。私だって、生きてる理由は私利私欲だよ? 先輩の隣りにいたい、先輩に愛してもらいたいっていう純粋な欲望。人間の生きる強さなんてものは、結局のところ願望の大きさなんだと私は思う。違いがあるとすればその更に奥、ドス黒い部分を認識してる人、認識してない人、わかってて行ってる人。そのぐらいじゃないかな」

 立ち直る俺を見て笑顔で語りだした天道の言葉は、彼女の言う通り欲望に満ち溢れている。けれど、それが悪い事とは思えなくて、目標があるからこそ人間は前に進んでいけるってのも、今ならわかる気がした。

「先輩は偉いと思うよ。だって、自分の悪いところ、ちゃんと理解してるんだから。それでいて、抑え込もうと努力してる。危険性を認識できてるからこそ自分に恐怖できて、お前も同じだって言われるのが怖い、だよね? ……でも、違うよ。認識できてる人間と、わかっててやってる人間の溝は、凄く深くて大きいんだよ」

 そして、彼女は的確に俺の気持ちを読み解いてくる。怖いと思える事はたぶん、とても大切な事で、恐怖を知っているからこそ自分を戒めることが出来る。それが出来る人間なんだと彼女は俺を認めてくれて、何だかそれがとても嬉しい。

「だっておかしいじゃん。既に傷付けてる人間が、我慢してる相手に対してお前も同じなんだよって言うとか、わけわかんないよ。辛くても学校行ってる子がさ、万年サボりの奴に、お前は学校嫌いなんだからいつか俺と同じになる。だからお前も俺と同じサボり魔なんだよ、って言われるぐらい不公平で、わけのわからない言い分だよ。それに、僕たちは殺したいから殺しますけど、反撃したら同じ人殺しなんで、そっちは人道的に許されませーん。なんてのは、理不尽を通り越してバカだよバカ。斬って良いのは、斬られる覚悟のあるやつだけだ! って名言もあるわけだし、自分の行動には責任持てってーの。それで先輩を悩ませてるんだから、ほんと腹が立つ!」

 更に彼女は俺を庇い、俺のために怒ってくれている。彼女の怒りの大きさは、話した言葉の量から伝わって来て、ちょっと意味のわからない所もあるけど、霧崎の言葉の歪さを、示してくれたと俺は思う。

「まっ、個人的に最悪なのは、認識しないでやる奴だと思うけど。あのプロデューサー、悪気のない顔して無意識にセクハラしてくるんだから。私の体は先輩のものだっちゅーのに」

 その裏にあるのが仕事のストレスと言うのはどうかと思うけど、彼女の想いはしっかりと伝わって来た。売れっ子とは言え新人だもんな、表には出さないけど、辛いこともたくさんあったと思う。それでも彼女は頑張ってきて、そんな彼女の言葉だから受け止められる。

 だって、彼女は俺のために……自分で言うと照れくさいから、今のは無しで。

「そりゃ、犯罪はいけないことって私でもわかるよ。けどさ、無抵抗に殺されろってのは、やっぱりなんかおかしいよ。私いやだもん、先輩がいなくなっちゃうの……」

(天道……)

 再び泣き出す彼女を見て、俺の中で少しずつ決意が固まっていく。

「そ、それはともかくとして。先輩はまだ、その一線を越えていない。だから大丈夫、あれと先輩は平等じゃないよ。悦楽で人を殺すやつに、護りの剣である先輩を、同じ穴のムジナだなんて絶対に言わせない。ちょっと特殊性癖だからって、リアルに触手と獣けしかける犯罪者予備郡のアニメオタとか、誰にも言わせないんだから。それに、先輩の鬼畜に耐えれるのは、私だけだしね」

 だと言うのに、涙を拭った天道は俺の性癖を言及し、危険な妄想を俺にならやられても良いとほのめかしてくる。途中からこれ、完全にやばい奴認定されてるよな……けど、まぁいいか。呆れるようなやり方で元気をふりまくのが、こいつのやり方だもんな。

「というわけで、朝美ちゃんのアドバイスはこんな所かな。貪欲なまでの私の私欲に、恐れおののいたでしょ」

(そうだな。俺の命令なら触手でも人外でも突っ込まれたいってのは、流石にドン引きしたよ)

「ね、だから大丈夫。思ってるだけで、先輩にはそんなこと出来ないんだから」

(お前、そのために)

「あ、でももし、本当にしたくなったらしていいよ? NTRに苦しんで興奮する先輩に興奮して、乗り切るから!」

(誰が何と言おうと、絶対にしないのでご安心下さい!)

 こいつといると俺の全てが肯定されてるみたいで、考えるのがバカらしくなってくる。

「ほーらね、やっぱり先輩は偽善者じゃないよ。だってだって、絶対にしないって、ちゃんと言えてるじゃん」

 そして、彼女の誘導尋問の凄さに、俺は何も言えなくなった。一体どこまでが、彼女の手のひらの上なのだろうか、俺にはさっぱりわからない。

「前にも言ったけど、妄想は妄想、現実は現実。頭の中でぐらい悪いことしないと、人間壊れちゃうってね。そのための妄想だぞ」

 堂々と笑顔で語る天道を見ていると、ついつい彼女を見直してしまう。相手の心を掌握する持ち前の明るさ、アイドル声優天童薙沙は、やっぱり凄い人間だったのだと改めて思い知らされる。

「じゃなかったら、今頃私は先輩をぶっ壊しちゃってないと気がすまないわけで。それをしなくていいのも、頭の中で気持ちよくなってるおかげなんだから!」

 けど、危ない発言も遠慮なくするわけで、馬鹿と天才は紙一重ということわざも、あながち間違いではないなと思ってしまった。

 因みに、天才とキチガイは紙一重、と言うのが本来のことわざらしく、馬鹿と天才はという言葉は元々なかったらしい。

「えっと、つまり気の持ちようと言いますか、頭の使いようと言いますか……うまくまとまんないけど! 分別の付く人間が、一番人間として人間らしいんだよ! 頭が良くても、性格クソなのはゴミだよゴミ!」

 最後のはなんか、ただの暴言な気もするけど、こいつが居てくれるおかげで俺は、本当に助かっているのかもしれない。

「それに、彼氏の妄想にまで文句言って縛るのは、女としてどうかと思うし。私なんか、サキュバスになるぐらい頭の中で先輩ぐっちょんぐっちょんにしてるわけで、おあいこにしないと、死ぬまで快楽漬けにされなきゃならんといいますか、なんといいますか……」

 なーんて、綺麗にまとめてみようと思いましたが、本日二度目の前言撤回。やっぱりこいつ、めちゃくちゃ危ないわ。

(はいはい、出来れば頭の中だけにしておいてくれよ。俺の体にだって限界はあるんだから)

「え!? なになに! それは遠回しに、朝美ちゃんにエッチなことをして欲しいって合図なのかな!」

 そんな彼女のエロ妄想に呆れ果ててしまった俺は、しぶしぶ彼女に言葉を返す。すると、彼女は両目を輝かせながら、都合の良い解釈とともに俺の体に迫って来た。

(調子に乗るな)

 それを適当にいなしてやると、彼女は嬉しそうに舌を出す。全く、天道相手だと、シャーリー以上に勝てる気がしないのが無性に腹立たしい。ただのエロ魔神のくせに。

(にしても、お前ってほんと、俺のことならなんでもお見通しな)

「ふふん! この私が淫らな発言以外でシャーロットに勝てる、数少ない部分だからね」

 あまりに献身的な彼女の姿に心の中で両手を上げると、それが余程嬉しかったのか、彼女は自信満々に俺に向けて胸を張る。けどな天道、その言葉、全くもって自慢になってねぇぞ。

 後、強調されてる二つの膨らみが、見上げれば見上げるほど雄々しすぎて目のやり場に困ります。

「それに、舐めないで欲しいな。何年私が先輩のこと、好きだったと思ってるわけ?」

(そうだな……多く見積もっても一年半ぐらいか……案外短いよな)

 頭の中も体つきも、なんかもう色々と可愛すぎて、逆に腹いせに意地悪くしては見たものの、裏を返せば一年半で俺を知り尽くすぐらい好きになってくれた証拠でもあり、彼女に勝てないのも頷けてしまう。

「うっ。で、でもでも! その一年半のアドバンテージは大きいよね! ねっ!!」

(さーて、どうだろうな?)

「うー、先輩のいじわる」

(嫌だったら、嫌いになってもいいんだぞー?)

「むー、先輩のバカ! 大好きだもん!」

 だからかな、シャーリーと違って、こうやってバカやれるのが本当に楽しい。まるで長年連れ添った幼馴染のように、お互いの加減がわかってしまう。その理由はわからないけど、今の俺がとてつもなく幸せな事だけは良くわかった。

 シャーリーに天道、二人とも離したくない。その願いの代償がこの体なのだとしたら、人間の体ぐらいくれてやらぁ! 皆と出会えて俺は、本当に幸せなんだ。

「じゃあじゃあ、最後にもう一つ、これだけ言わせて」

 可愛らしく頬を膨らませ、不機嫌にしていた天道は床から俺を抜き取ると、力いっぱい刀身を抱きしめる。どうせこいつの事だ、最後にとんでもない事を言って俺をギャフンと言わせたいのだろう。散々煮え湯を飲まされたんだ、今回ばかりはそうはさせるか。

「先輩がもし、殺戮を楽しむようになったら、私が絶対にとめたげる。斬られてでも、とめたげるから」

 彼女の口から出た予想外に深刻な発言に、今まで通りいかがわしい言葉がくるものと身構えていた俺の思考は、一瞬停止する。

「ほら、さすがの先輩も、私斬ったら正気に戻るっしょ? だって、大好きな朝美ちゃんだもんね」

(おまえを、斬るって……ば、ばか! そんな事するわけ――)

「だから大丈夫。先輩は、自分の信じた道を進んで。背中は、私が守るから」

 正気とは思えない彼女の言葉にとっさに異を唱えた俺を、彼女は深くそっと抱きしめ直す。殺人だけじゃなく、彼女は自分の身を挺して、誰かを傷つける怖さを教えてくれているんだ。暴力もいじめも中傷も、大切な人に向けられたそれはとても許せないもので、だから誰にもしちゃいけないんだって。

 その人にも、大切に思ってくれている人が必ずいるから。

(……わかった。俺の背中、しっかりと頼んだぜ)

「うん、任せといてよ。だって、大好きな先輩だもん」

 彼女もきっと、俺にとっては必要不可欠な存在なんだと思う。こいつが居ればいつまでも俺は、今の自分のままでいられる。霧崎との決着が着いたら、こっちの問題にも決着を着けよう。俺が二人をどうしたいのかという、その決着を……

 そして、俺が刺さった床の傷、後で怒られないかなと、内心心配になるのであった。
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