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第五章 もう一人の剣
第250話 私が希望になる
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(前だけ向いて、か……)
バルカイトに言われた言葉を、思い返すこと数時間、答えを探せば探すほど頭の中は糸のように絡まり、意識は底に沈んでいく。考えれば考えるほど、締まりのない表情で聖水を流し続けるシャーリーの姿が浮かんできて、イライラが募ると同時に気持ちがナーバスになる。
強くなれたと思ったのに、絶対にもう負けないと思っていたのに、結局は井の中の蛙で、俺はまた一番大切な人を危険にさらしてしまった。それも、今までで一番最悪の醜態を晒させて、やっぱり俺は、肝心な所で何も出来ないヘタレなのだと、思考がそこに帰結してしまう。
シャーリーが泣き叫び、天道が喘ぎちらし、スクルドが心の底まで汚されようと、俺は一人じゃ何も出来ない、何一つ出来ない無能の……くっ!
(畜生!!)
抑えきれなくなった魔力の歪みがテーブルへと叩きつけられ、小さな音をたてる。しかし、それだけで、テーブルが揺れることはなく、怒りに任せて地面を叩くことすら俺にはできないのだ。
人生を含め、今が一番幸せなはずなのに、この無力感。生き延びた代償はとても大きく、霧崎との戦いで失ったものは、あまりにも多い。
だって、初めてなんだ。初めて出来た彼女なんだよ。その娘を守れず穢されて、すぐ立ち直れなんて鬼の所業。男としての尊厳は、どうしようもなく打ち砕かれたんだ。
彼氏として、何も出来ない自分が情けなさすぎて……やっぱり、顔を合わせられないのは、俺のほうじゃないか。
(……どうしよう)
こんな自分に、彼女と話す資格があるのかと、あてもなく視線を彷徨わせていると、部屋の外から女の子達の声が聞こえてくる。
「シャーロットが、先輩の一番のお姫様だしね。そこは優遇してあげるよ」
「そうですね。それが一番、トオル様がお喜びになられると思いますし」
「……アサミ……スクルド……ありがとう」
天道にスクルドに……シャ―ロット。三人の少女達が、俺を心配して集まってくれたらしい。そして、会話の流れから察するに、俺が一番会いたくない人が、これから部屋に入ってくる。
どうしたら良い? 何を話す? むしろ、怒っていないのが、不気味で怖い。でも、霧崎に負けてから、一度も彼女怒ってないし、俺の、考えすぎなのか?
なら逆に、今、彼女に慰められたら、俺はきっと甘えてしまう。俺はもっと、彼女の彼氏でいられなくなる……そんなのは、ダメだ!
互いに苦しい境遇なら、彼女を支えるのが彼氏としての男の役目。特に俺なんか、その部分を除いたら、出来ることなんて何一つ無い――
「……トオル……入るね」
考えがまとまりきらず、焦りに焦る中、律儀にノックを三回はさみ、彼女はゆっくりと部屋の中へと入ってくる。丁重に扱われたら、余計引け目を感じてしまうというのに、義理堅い彼女は、こんな俺にも礼儀を忘れない。
けれど、彼女の体はまだふらついていて、無理をしているのが遠目にでもわかった。
(頼む……一人にしてくれ)
息を切らす彼女の姿を見ていられなくて、逃げるように扉から視線をはずした俺は、嘘の言葉を彼女へと投げつける。本当は側にいて欲しいのに、男としてのプライドが、彼女の存在を遠ざけようとした。
「……嫌」
(一人にしてくれって言ってんだよ! なんでお前はそうやって、俺の言うことを聞いてくれ――)
ないんだよ! と叫ぼうとした瞬間、俺の体は力強く彼女の腕に抱きしめられる。
「……嫌……ここで……逃げたら……トオル……居なくなっちゃう……大好きなトオル……消えちゃう……だから」
酷い言葉を叩きつけていると言うのに、彼女はなんで俺の体を掴みに来る?
真っ直ぐでひたむきな、彼女の優しさが心を揺さぶり、ひんやりとした体が触れるだけで、シャーリーの息が上がっていくのがわかる。彼女の体温を感じるだけで、自然と気持ちがほだされていくのを感じた。
「……こんな事しか……できなくて……ごめん……なさい」
声を少し震わせながら、耳元で謝るシャーリーだけど、人間の出来ることなんて、多いようで意外と少ない。そこに加えて今の俺だ、出来ることなんてものすごく限られている。だから俺自身いつも悩んでて、彼女が責任を感じる必要なんて無い。抱きしめられるだけで幸せで、この体で良かったと、俺は思えるから。
「……最近……トオル……怖く……なった」
だからこそ、震える彼女の唇に、胸の奥がつんざかれる。
現実の厳しさを知り、大切なものを守りたくて、壊れそうになる自分を必死に押し殺しながら、自分に出来ることをやろうと思った。そうやって力を欲し、足掻きながら進んだ自分は、霧崎と同じ。
力を求め、すがることを悪いなんて言わない。守るだけなら、最強を願えばいいと思う。けど、その代償に、守るべき大切なものを巻き込んだら、意味がないんだ。怖がらせたら、意味がないんだよ。
「……わかってる……私が言っちゃ……いけないって」
その言葉に、先程聞いた、バルカイトの話を思い出す。
自らの無力を知り、歩き出した修羅の道。強さを求め、敵を倒すことだけに執着していく自分と、今の俺を彼女は重ねている。自分と同じ、狂気の仮面を被って欲しくないと、彼女は願ってくれているんだ。
「……でも……トオルの脆さが……儚さが……わかった気がした……だから……ごめんなさい」
(なんで謝るんだよ)
「……気付いて……あげれなかったから」
彼女を苦しめた挙げ句、自分の方が心配されて、どんどん惨めになっていく。何で彼女はこんなにも、俺を見てくれているのだろうって。
(隠してたんだから、気付かれたら意味ねーんだよ)
心の中にある弱さ、呆れるほどに残酷な負の感情、絶望に囚われたもう一人の自分。笑い方すら忘れてしまう程の深淵を、彼女にだけは見せたくなかったのに……だって、そんな物を見せたら、大切な人に嫌われてしまう。誰だって嫌だろ? 相手の狂気とか、エロ本の趣味とか、自分の理解できないものを見せつけられるのはさ。
綺麗なものだけ見て、汚いものは全て忘れて幸せでありたい。そう願うのが、人間って生き物なんだ。でも、本当はどこかで気づいて欲しいと願ってしまう。それもまた人間であって、人間ってのは、本当に面倒くさい。
「……わがまま……だけど……優しいトオルで……いてほしい……ううん……あなたの優しさが……欲しい」
だからこそ、大切な誰かが必要なんだ。綺麗であり続けて欲しいと願ってくれる、友達、恋人、家族。勿論、全てをわかって欲しいとは言わない。そんな願いを押し付けるのは、相手に対して失礼な事で、とてもおこがましい。おこがましいから、今の俺は幸せ者なんだ。
「……私が……あげる……未来を……あげる」
こんな可愛い子に求められて、一緒に歩こうって言ってくれる。世界中探したって二人と見つからない、俺だけのお姫様。今なら信じられる、運命の赤い糸ってやつが、この世界には存在するって。
「……綺麗じゃ……無いかもだけど……希望になる……私が……希望になるから……だから」
鈴の音のように優しい声と、情熱的な彼女の瞳に、自然と心が吸い寄せられていく。弱い自分を受け入れてくれる、シャーリーの懐の深さに俺は、身も心も支配され、そして……
「……もう……絶望しないで」
その一言に、ハートを撃ち抜かれた。これが、彼女を王女たらしめている理由の一つなんだ。
他者を深く抱きしめられる、彼女の心の強さに皆、自然と引き寄せられていく。そして俺も、彼女無しでは生きていけないだろう。
「……それに……大丈夫」
(大丈夫って、何が?)
「……私は……貴方を……見捨てない……捨てたり……しないから」
あぁ、くそぅ。こんなの、わかってても勝てるわけ無いじゃね―か。俺のためにって気持ちが、言葉の隅々から伝わって来て、痛いぐらいに心がギュッと締め付けられる
「……どれだけ……ボロボロでも……弱くなっても……絶対に……裏切らない」
(それで、危険にさらしても? どんなに酷い目にあっても、俺を責めないつもりかよ)
だから、試したくなってしまった。あまりに彼女が美しすぎて、俺の心が耐えきれなくなってしまったのである。
「……うん……覚悟は……できてる……トオルの屈辱……比べたら……生温い」
けど、彼女にとってはそんな質問、赤子の手をひねるより簡単で、臆すること無く俺の目を、真剣に見つめてくる。死にたくなるぐらい恥ずかしい目にあったばかりなのに、見せつけられた俺の方を心配してくれるとか、好きになっちまうに決まってるじゃね―かよ。
「……それに……前にも……あった……逃げた時……私……恐怖で……酷かったから」
頬を赤く染めながら、困ったように笑う彼女を、俺は直視できずにいる。バルカイトの言ってた通り、彼女は知っているんだ。戦場と言うものの、本当の怖さを。
俺達はきっと、どこか似た者同士。失う怖さを知っているからこそ、恐怖に立ち向かっていける。と言っても、俺はまだ駆け出しだけどさ。
本当は、そうじゃなくても良い。傷の舐め合いと言われても構わない。俺がそう思いたい、そう思ってあげたいんだよ。
「……弱いの……恥じゃない……逃げるの……駄目……だから……前に……進も?」
ダメだ、彼女の気持ちが伝わりすぎて、気を抜いたら、今すぐにでも泣き出してしまいそうで……気を強く持たないと。彼女の前で、泣き顔なんて見せたくないから。
「……勇気……くれたの……トオル……だよ?」
(そうだな。逃げたら軽蔑するって言ったのは、俺の方だったな。わかったよ、俺も男だ。覚悟、決めてやる)
これで何度目の覚悟だ? って笑われるかもしれないけど、それだけ人生甘く見て生きてきたんだ。
生まれた時から両親が居て、何不自由なく生きていける。だから俺にも彼女が出来て、父さんや母さんのように、当たり前の人生を送れるのが普通だと思ってた。
けど、生きるってことは、そんな生易しいものじゃない。誰かと一緒に添い遂げるには、それ相応の覚悟が必要なんだ。綺麗なところも、汚いところも、全部全部抱きしめて、大切な人を幸せにする覚悟ってやつがさ。
バルカイトに言われた言葉を、思い返すこと数時間、答えを探せば探すほど頭の中は糸のように絡まり、意識は底に沈んでいく。考えれば考えるほど、締まりのない表情で聖水を流し続けるシャーリーの姿が浮かんできて、イライラが募ると同時に気持ちがナーバスになる。
強くなれたと思ったのに、絶対にもう負けないと思っていたのに、結局は井の中の蛙で、俺はまた一番大切な人を危険にさらしてしまった。それも、今までで一番最悪の醜態を晒させて、やっぱり俺は、肝心な所で何も出来ないヘタレなのだと、思考がそこに帰結してしまう。
シャーリーが泣き叫び、天道が喘ぎちらし、スクルドが心の底まで汚されようと、俺は一人じゃ何も出来ない、何一つ出来ない無能の……くっ!
(畜生!!)
抑えきれなくなった魔力の歪みがテーブルへと叩きつけられ、小さな音をたてる。しかし、それだけで、テーブルが揺れることはなく、怒りに任せて地面を叩くことすら俺にはできないのだ。
人生を含め、今が一番幸せなはずなのに、この無力感。生き延びた代償はとても大きく、霧崎との戦いで失ったものは、あまりにも多い。
だって、初めてなんだ。初めて出来た彼女なんだよ。その娘を守れず穢されて、すぐ立ち直れなんて鬼の所業。男としての尊厳は、どうしようもなく打ち砕かれたんだ。
彼氏として、何も出来ない自分が情けなさすぎて……やっぱり、顔を合わせられないのは、俺のほうじゃないか。
(……どうしよう)
こんな自分に、彼女と話す資格があるのかと、あてもなく視線を彷徨わせていると、部屋の外から女の子達の声が聞こえてくる。
「シャーロットが、先輩の一番のお姫様だしね。そこは優遇してあげるよ」
「そうですね。それが一番、トオル様がお喜びになられると思いますし」
「……アサミ……スクルド……ありがとう」
天道にスクルドに……シャ―ロット。三人の少女達が、俺を心配して集まってくれたらしい。そして、会話の流れから察するに、俺が一番会いたくない人が、これから部屋に入ってくる。
どうしたら良い? 何を話す? むしろ、怒っていないのが、不気味で怖い。でも、霧崎に負けてから、一度も彼女怒ってないし、俺の、考えすぎなのか?
なら逆に、今、彼女に慰められたら、俺はきっと甘えてしまう。俺はもっと、彼女の彼氏でいられなくなる……そんなのは、ダメだ!
互いに苦しい境遇なら、彼女を支えるのが彼氏としての男の役目。特に俺なんか、その部分を除いたら、出来ることなんて何一つ無い――
「……トオル……入るね」
考えがまとまりきらず、焦りに焦る中、律儀にノックを三回はさみ、彼女はゆっくりと部屋の中へと入ってくる。丁重に扱われたら、余計引け目を感じてしまうというのに、義理堅い彼女は、こんな俺にも礼儀を忘れない。
けれど、彼女の体はまだふらついていて、無理をしているのが遠目にでもわかった。
(頼む……一人にしてくれ)
息を切らす彼女の姿を見ていられなくて、逃げるように扉から視線をはずした俺は、嘘の言葉を彼女へと投げつける。本当は側にいて欲しいのに、男としてのプライドが、彼女の存在を遠ざけようとした。
「……嫌」
(一人にしてくれって言ってんだよ! なんでお前はそうやって、俺の言うことを聞いてくれ――)
ないんだよ! と叫ぼうとした瞬間、俺の体は力強く彼女の腕に抱きしめられる。
「……嫌……ここで……逃げたら……トオル……居なくなっちゃう……大好きなトオル……消えちゃう……だから」
酷い言葉を叩きつけていると言うのに、彼女はなんで俺の体を掴みに来る?
真っ直ぐでひたむきな、彼女の優しさが心を揺さぶり、ひんやりとした体が触れるだけで、シャーリーの息が上がっていくのがわかる。彼女の体温を感じるだけで、自然と気持ちがほだされていくのを感じた。
「……こんな事しか……できなくて……ごめん……なさい」
声を少し震わせながら、耳元で謝るシャーリーだけど、人間の出来ることなんて、多いようで意外と少ない。そこに加えて今の俺だ、出来ることなんてものすごく限られている。だから俺自身いつも悩んでて、彼女が責任を感じる必要なんて無い。抱きしめられるだけで幸せで、この体で良かったと、俺は思えるから。
「……最近……トオル……怖く……なった」
だからこそ、震える彼女の唇に、胸の奥がつんざかれる。
現実の厳しさを知り、大切なものを守りたくて、壊れそうになる自分を必死に押し殺しながら、自分に出来ることをやろうと思った。そうやって力を欲し、足掻きながら進んだ自分は、霧崎と同じ。
力を求め、すがることを悪いなんて言わない。守るだけなら、最強を願えばいいと思う。けど、その代償に、守るべき大切なものを巻き込んだら、意味がないんだ。怖がらせたら、意味がないんだよ。
「……わかってる……私が言っちゃ……いけないって」
その言葉に、先程聞いた、バルカイトの話を思い出す。
自らの無力を知り、歩き出した修羅の道。強さを求め、敵を倒すことだけに執着していく自分と、今の俺を彼女は重ねている。自分と同じ、狂気の仮面を被って欲しくないと、彼女は願ってくれているんだ。
「……でも……トオルの脆さが……儚さが……わかった気がした……だから……ごめんなさい」
(なんで謝るんだよ)
「……気付いて……あげれなかったから」
彼女を苦しめた挙げ句、自分の方が心配されて、どんどん惨めになっていく。何で彼女はこんなにも、俺を見てくれているのだろうって。
(隠してたんだから、気付かれたら意味ねーんだよ)
心の中にある弱さ、呆れるほどに残酷な負の感情、絶望に囚われたもう一人の自分。笑い方すら忘れてしまう程の深淵を、彼女にだけは見せたくなかったのに……だって、そんな物を見せたら、大切な人に嫌われてしまう。誰だって嫌だろ? 相手の狂気とか、エロ本の趣味とか、自分の理解できないものを見せつけられるのはさ。
綺麗なものだけ見て、汚いものは全て忘れて幸せでありたい。そう願うのが、人間って生き物なんだ。でも、本当はどこかで気づいて欲しいと願ってしまう。それもまた人間であって、人間ってのは、本当に面倒くさい。
「……わがまま……だけど……優しいトオルで……いてほしい……ううん……あなたの優しさが……欲しい」
だからこそ、大切な誰かが必要なんだ。綺麗であり続けて欲しいと願ってくれる、友達、恋人、家族。勿論、全てをわかって欲しいとは言わない。そんな願いを押し付けるのは、相手に対して失礼な事で、とてもおこがましい。おこがましいから、今の俺は幸せ者なんだ。
「……私が……あげる……未来を……あげる」
こんな可愛い子に求められて、一緒に歩こうって言ってくれる。世界中探したって二人と見つからない、俺だけのお姫様。今なら信じられる、運命の赤い糸ってやつが、この世界には存在するって。
「……綺麗じゃ……無いかもだけど……希望になる……私が……希望になるから……だから」
鈴の音のように優しい声と、情熱的な彼女の瞳に、自然と心が吸い寄せられていく。弱い自分を受け入れてくれる、シャーリーの懐の深さに俺は、身も心も支配され、そして……
「……もう……絶望しないで」
その一言に、ハートを撃ち抜かれた。これが、彼女を王女たらしめている理由の一つなんだ。
他者を深く抱きしめられる、彼女の心の強さに皆、自然と引き寄せられていく。そして俺も、彼女無しでは生きていけないだろう。
「……それに……大丈夫」
(大丈夫って、何が?)
「……私は……貴方を……見捨てない……捨てたり……しないから」
あぁ、くそぅ。こんなの、わかってても勝てるわけ無いじゃね―か。俺のためにって気持ちが、言葉の隅々から伝わって来て、痛いぐらいに心がギュッと締め付けられる
「……どれだけ……ボロボロでも……弱くなっても……絶対に……裏切らない」
(それで、危険にさらしても? どんなに酷い目にあっても、俺を責めないつもりかよ)
だから、試したくなってしまった。あまりに彼女が美しすぎて、俺の心が耐えきれなくなってしまったのである。
「……うん……覚悟は……できてる……トオルの屈辱……比べたら……生温い」
けど、彼女にとってはそんな質問、赤子の手をひねるより簡単で、臆すること無く俺の目を、真剣に見つめてくる。死にたくなるぐらい恥ずかしい目にあったばかりなのに、見せつけられた俺の方を心配してくれるとか、好きになっちまうに決まってるじゃね―かよ。
「……それに……前にも……あった……逃げた時……私……恐怖で……酷かったから」
頬を赤く染めながら、困ったように笑う彼女を、俺は直視できずにいる。バルカイトの言ってた通り、彼女は知っているんだ。戦場と言うものの、本当の怖さを。
俺達はきっと、どこか似た者同士。失う怖さを知っているからこそ、恐怖に立ち向かっていける。と言っても、俺はまだ駆け出しだけどさ。
本当は、そうじゃなくても良い。傷の舐め合いと言われても構わない。俺がそう思いたい、そう思ってあげたいんだよ。
「……弱いの……恥じゃない……逃げるの……駄目……だから……前に……進も?」
ダメだ、彼女の気持ちが伝わりすぎて、気を抜いたら、今すぐにでも泣き出してしまいそうで……気を強く持たないと。彼女の前で、泣き顔なんて見せたくないから。
「……勇気……くれたの……トオル……だよ?」
(そうだな。逃げたら軽蔑するって言ったのは、俺の方だったな。わかったよ、俺も男だ。覚悟、決めてやる)
これで何度目の覚悟だ? って笑われるかもしれないけど、それだけ人生甘く見て生きてきたんだ。
生まれた時から両親が居て、何不自由なく生きていける。だから俺にも彼女が出来て、父さんや母さんのように、当たり前の人生を送れるのが普通だと思ってた。
けど、生きるってことは、そんな生易しいものじゃない。誰かと一緒に添い遂げるには、それ相応の覚悟が必要なんだ。綺麗なところも、汚いところも、全部全部抱きしめて、大切な人を幸せにする覚悟ってやつがさ。
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