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第五章 もう一人の剣
第240話 もう一人の自分
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「……ン! ……ツッ! ……ハアァァァッ!!」
光を纏った俺の刀身を一閃、二閃。襲い来る魔物の群れを軽く斬り伏せ、シャーリーは高く飛び上がると、目の前の一つ目の巨人を、頭頂部から一刀のもとに両断する。
(今ので、最後か?)
「……今のところ」
血しぶきを撒き散らす青き巨体が、二つに割れるのと同時に、俺達は再び警戒に入る。筋骨隆々の体が倒れ、地面の揺れが収まると、辺りは静けさを取り戻した。
倒した魔物の数は、約百体。正面入り口から迫る、千にものぼる魔物の群れとは別に、後方から来る小さな分隊を察知した俺達は、あえてそちらに向かったが、どうやらこちらが本命だったようである。
一つ目の巨人サイクロプスに、同等の大きさを持つ怪鳥マグナ・イーグル、岩をも砕く鋭利な爪を備えたシャープパンサーにデスグリズリーと、周辺の生態系とは一線を画した魔物達が多数存在していた。
天道やスクルドが相手でも問題は無いと思うが、町に侵入されるリスクを考えれば、ここで食い止められたのは、最善と言って間違いない。後は、伏兵がいない事を祈るばかりだが……その瞬間、頭の中に奇妙な声が響き渡る。
(面倒なお使いに連れ回されてみりゃ、面白いやつがいるじゃねぇか!)
声の聞こえて来た方角へと視線を向けると、そこには、今まで影も形もなかった、四本脚の巨大な魔物が、仁王立ちで俺達を見下ろしていた。
大きさはざっと、ブネが変身したファフニールと同じぐらい。正確には、ほんの少し小さいかもしれないけど、それでも十分な威圧感だ。
こんなのが町を襲ったら、ひとたまりもない。今ここで、何としても止めないと。
(いい殺気じゃねぇか。こっちの世界に来てから、こんな殺意を向けられたのは初めてだぜ。しかも、二人も)
同時に振り向いたことから、シャーリーにもこの声は聞こえているようだが、俺が気になったのはそこじゃない。こいつは今、俺達を見て二人と言った。って事はだ、あの魔物、俺の存在を認識している!?
たくましい筋肉と、獣のような面構えから粗暴な印象を受けるが、喋れないだけで知能は高いのかも。そうなると、逆に厄介だ。見た目通りのパワーで、理知的に動かれては、シャーリーでも苦戦は必死。最悪の場合、敗北もあり得る。
とにかく、今は時間を稼ごう。本体が片付き、バルカイト達が来れば、勝ち目はある。情けないかもしれないけど、俺達は皆でチームなんだ。
しかし、刀身にこびりつくようなこの違和感はなんだ? 目の前の魔物から、思念が送られているような気がしない。周りに気配は無いし、不自然なものと言えば……まさか!?
その瞬間、魔物の右手に一本の剣が握られている事に俺は気がつく。不釣り合いな大きさの剣を、何故こいつが握っているのか? 俺の仮説が正しければ、あいつは……俺だ。
(気づいたって顔してるな。いい洞察力だ、ますます面白くなってきたぜ!)
再び脳内に響く言葉と共に、相手の持つ日本刀型の剣から、靄のようなものが現れる。瞬間、俺の顔が見えると言う、二人の言葉の意味がわかった。ホログラムのように浮かぶ、東洋人の顔。シャーリーや天道には、あんな風に俺の表情が見えていたんだ。
釣り上がる眉と不敵な笑みに、嫌なものを感じるが、意を決して俺は、その剣に声をかける。
(そこの剣、お前、なのか?)
(ああ、そうだとも。はじめまして、もう一人の俺)
もう一人の自分か。言い得て妙だが、奴の言葉は正しいのだろう。俺とあいつは同類、その事に相手も気づいている。
(お前も元人間だろ? 鼻でわかるんだよなー。独特の匂いってか、あー、言いたいこと、わかんだろ?)
その予感は正しく、獣が持つ剣は、まるで全てを理解しているかのように話を続けた。
(って事は、あんたも異世界転生者なのか?)
(異世界転生ねぇ……まっ、そういう事になるんだろうな。漫画とかアニメとか、そういうのに俺は、詳しくねぇんだけどよ)
詳しく無いとはいえ、言葉の意味が通じるということは、俺が生まれた年代と、近しい世代の人間と言うことになる。恐らく十年前後、もしかしたら、波長が合うかもしれない。
その場合、戦闘を回避することや、うまくいけば仲間に、友達になれるかも。淡い期待かもしれないが、ここはその線で話を進めてみようと思う。
(おもしれぇなぁ、まさか俺みたいのがもう一人いるとはよ。考えたこともなかったぜ)
(俺もだよ。散々だよな、こんな体にさせられて)
(散々って……なんだお前、望んでなったんじゃねーのかよ?)
しかし、雲行きはかなり怪しく、相手との会話が既に噛み合っていない。望んでって、どういう意味だ?
(俺と同じ物好きかと思ったんだが、あてが外れたか。ならよ、何でこの体に? 話ぐらいなら聞いてやるぜ?)
正直不安しか無いが、とにかく今は、話を続けよう。最初から疑ってたら、仲良くなんてなれないもんな。
(……職業勇者の後に、スラッシュ入れてエクスカリバーって書いたら、勇者ノエクスカリバーって誤認された)
(あ? ゆうしゃのエク……おいおいおい、それで間違えられて、こんな体になったって?)
剣になった者同士、共通の話題となれば当然語るべき事なのだろうけど、この失態は完全に末代までの恥だな。俺を認めてくれるシャーリー達には悪いけど、子供が出来たら百パーセント笑われる自信がある。子供が出来るなら、の話だけど。
ほら、目の前の同類にも、既に笑われてるし。
(笑わないでくれよ)
(いやいやいや、おもしれぇってお前! その発想はなかったわー。それで、律儀に女の尻に敷かれて、戦ってるって訳かよ?)
(まぁ、な。することもねぇし、頼られてるからさ……悪いかよ)
(悪くねぇ、むしろ最高だわお前。それでこんな妙ちくりん、軽くツボに入りそうだ)
「……笑わ……ないで」
他人の不幸は蜜の味、とまではいかないだろうけど、奴にとっては相当面白かったらしく、目の前の剣の男は、腹を抱えて笑っている。
これだけ盛大にバカにされると、流石の俺も気が滅入る。けれど、俺をからかう男に対し、不快感を顕にしてくれるシャーリーに、思わず笑みが溢れてしまう。
(悪い悪い、彼氏のこと気に入ってんだ。許してくれ)
それでも奴は笑いを止めず、うわべだけの謝罪を述べる。バルカイトと言い、こういう性格の軽いやつは、どうも苦手だ。そうだよな、仲間に引き入れるも何も、元々俺ってボッチな挙げ句、受け身体質だもんな。
唯一の友達とも、趣味が合うから意気投合してるだけで、それが無ければ話しかけすら出来ないってのに……そもそも、こっちに来てからだって、一度も俺から話しかけた事ねーじゃねーかー!!
これだけ女の子に囲まれて、全員逆ナンとか、笑えよ、ベジタブル王子。って感じだ。
(さて、ここで会ったのも何かの縁だ。お前、俺の仲間になる気はないか?)
あまりの自分の不甲斐なさに、心の中で悶ていると、目の前の剣から、逆に交渉を持ちかけられる。相手から誘われるのは、予想外だった。
(それってつまり、魔神の側に付けって事かよ?)
ただし、向こう側に付くって事は、魔神の味方になれという事。
(意外と悪くないぜ? ちょっと面倒だが、三食昼寝付き、しかも食い放題ときた。結構な高待遇と思うんだがな?)
普通の人間が聞けば、奴の言葉は耳触りの良いものに聞こえるのかもしれない。けれど、欲望のままに、魔神と一緒に他人を蹂躙するなんて事、俺に出来るわけがない。
(そう言えば、この近くに村があったよな。他に魔物が千匹ほど近づいて来てんだが、お前が仲間になんなら、止めてやっても良いぜ?)
それに、やっぱりこいつが、裏で糸を引いてるって訳か。
(あいにく、そっちには信頼してるのが何人か居るんでね。それに、魔物の群れを止めた所で、お前は行くつもりなんだろ? だったら、止めなきゃいけないのは、お前のほうだろうが)
(正解だ。よーく、わかってるじゃないの。それなりに頭が切れるのも、お兄さん好印象だぜ。で、こっちに付く気は本当にないのかよ?)
(あぁ、大切な誰かを見捨ててまで、生き延びようとは思わないんでね)
(あーあ、同じ剣のよしみで、折角生かしておいてやろうと思ったのに、残念なこって)
交渉は決裂した。魔神でこそ無いものの、考え方そのものは、今までの奴らと同じ。ここで止めなければ、ベルシュローブだけでなく、リィンバース全土に被害が及ぶ。
(まっ、いいさ。結局のところ、俺とお前は、同じ臭いの持ち主だからな)
ただ、なんだこの感じ? まるで、心の奥を見透かされているような……
(お前さ、世界ってやつに絶望したことあるだろ?)
男に睨まれた次の瞬間、俺の喉元に、死神の鎌が寸分違わず押し付けられる。
(面見ればわかるんだよ。もう何も怖くない、生に執着するぐらいなら死んだほうがマシだって書いてあるぜ)
それは、紛れもなく悪魔のささやきだった。
(何を、根拠に……)
(目が真っ直ぐすぎんだよ。両目がギラついてて、鏡で見た時の俺そっくりだ)
俺が死にたがりだったなんて話は、とっくの昔にシャーリーにしてる。けど、こいつが見てるのは、もっと奥にある深い部分。大切な人にも知られたくない深淵。いかがわしいものとは違う、もう一つの狂気。それを彼女に聞かれているという状況に、冷や汗が止まらない。
(まぁ、そうだよな。あんな肥溜めみたいな世界、生きてるだけで吐き気がするもんな。わかるぜその気持ち、だからこうして死んだんだろ。やりたいことをやるためにさ!)
不快感と言い回しに頭がついていかず、奴の言葉に俺は、完全に呑まれかけていた。
光を纏った俺の刀身を一閃、二閃。襲い来る魔物の群れを軽く斬り伏せ、シャーリーは高く飛び上がると、目の前の一つ目の巨人を、頭頂部から一刀のもとに両断する。
(今ので、最後か?)
「……今のところ」
血しぶきを撒き散らす青き巨体が、二つに割れるのと同時に、俺達は再び警戒に入る。筋骨隆々の体が倒れ、地面の揺れが収まると、辺りは静けさを取り戻した。
倒した魔物の数は、約百体。正面入り口から迫る、千にものぼる魔物の群れとは別に、後方から来る小さな分隊を察知した俺達は、あえてそちらに向かったが、どうやらこちらが本命だったようである。
一つ目の巨人サイクロプスに、同等の大きさを持つ怪鳥マグナ・イーグル、岩をも砕く鋭利な爪を備えたシャープパンサーにデスグリズリーと、周辺の生態系とは一線を画した魔物達が多数存在していた。
天道やスクルドが相手でも問題は無いと思うが、町に侵入されるリスクを考えれば、ここで食い止められたのは、最善と言って間違いない。後は、伏兵がいない事を祈るばかりだが……その瞬間、頭の中に奇妙な声が響き渡る。
(面倒なお使いに連れ回されてみりゃ、面白いやつがいるじゃねぇか!)
声の聞こえて来た方角へと視線を向けると、そこには、今まで影も形もなかった、四本脚の巨大な魔物が、仁王立ちで俺達を見下ろしていた。
大きさはざっと、ブネが変身したファフニールと同じぐらい。正確には、ほんの少し小さいかもしれないけど、それでも十分な威圧感だ。
こんなのが町を襲ったら、ひとたまりもない。今ここで、何としても止めないと。
(いい殺気じゃねぇか。こっちの世界に来てから、こんな殺意を向けられたのは初めてだぜ。しかも、二人も)
同時に振り向いたことから、シャーリーにもこの声は聞こえているようだが、俺が気になったのはそこじゃない。こいつは今、俺達を見て二人と言った。って事はだ、あの魔物、俺の存在を認識している!?
たくましい筋肉と、獣のような面構えから粗暴な印象を受けるが、喋れないだけで知能は高いのかも。そうなると、逆に厄介だ。見た目通りのパワーで、理知的に動かれては、シャーリーでも苦戦は必死。最悪の場合、敗北もあり得る。
とにかく、今は時間を稼ごう。本体が片付き、バルカイト達が来れば、勝ち目はある。情けないかもしれないけど、俺達は皆でチームなんだ。
しかし、刀身にこびりつくようなこの違和感はなんだ? 目の前の魔物から、思念が送られているような気がしない。周りに気配は無いし、不自然なものと言えば……まさか!?
その瞬間、魔物の右手に一本の剣が握られている事に俺は気がつく。不釣り合いな大きさの剣を、何故こいつが握っているのか? 俺の仮説が正しければ、あいつは……俺だ。
(気づいたって顔してるな。いい洞察力だ、ますます面白くなってきたぜ!)
再び脳内に響く言葉と共に、相手の持つ日本刀型の剣から、靄のようなものが現れる。瞬間、俺の顔が見えると言う、二人の言葉の意味がわかった。ホログラムのように浮かぶ、東洋人の顔。シャーリーや天道には、あんな風に俺の表情が見えていたんだ。
釣り上がる眉と不敵な笑みに、嫌なものを感じるが、意を決して俺は、その剣に声をかける。
(そこの剣、お前、なのか?)
(ああ、そうだとも。はじめまして、もう一人の俺)
もう一人の自分か。言い得て妙だが、奴の言葉は正しいのだろう。俺とあいつは同類、その事に相手も気づいている。
(お前も元人間だろ? 鼻でわかるんだよなー。独特の匂いってか、あー、言いたいこと、わかんだろ?)
その予感は正しく、獣が持つ剣は、まるで全てを理解しているかのように話を続けた。
(って事は、あんたも異世界転生者なのか?)
(異世界転生ねぇ……まっ、そういう事になるんだろうな。漫画とかアニメとか、そういうのに俺は、詳しくねぇんだけどよ)
詳しく無いとはいえ、言葉の意味が通じるということは、俺が生まれた年代と、近しい世代の人間と言うことになる。恐らく十年前後、もしかしたら、波長が合うかもしれない。
その場合、戦闘を回避することや、うまくいけば仲間に、友達になれるかも。淡い期待かもしれないが、ここはその線で話を進めてみようと思う。
(おもしれぇなぁ、まさか俺みたいのがもう一人いるとはよ。考えたこともなかったぜ)
(俺もだよ。散々だよな、こんな体にさせられて)
(散々って……なんだお前、望んでなったんじゃねーのかよ?)
しかし、雲行きはかなり怪しく、相手との会話が既に噛み合っていない。望んでって、どういう意味だ?
(俺と同じ物好きかと思ったんだが、あてが外れたか。ならよ、何でこの体に? 話ぐらいなら聞いてやるぜ?)
正直不安しか無いが、とにかく今は、話を続けよう。最初から疑ってたら、仲良くなんてなれないもんな。
(……職業勇者の後に、スラッシュ入れてエクスカリバーって書いたら、勇者ノエクスカリバーって誤認された)
(あ? ゆうしゃのエク……おいおいおい、それで間違えられて、こんな体になったって?)
剣になった者同士、共通の話題となれば当然語るべき事なのだろうけど、この失態は完全に末代までの恥だな。俺を認めてくれるシャーリー達には悪いけど、子供が出来たら百パーセント笑われる自信がある。子供が出来るなら、の話だけど。
ほら、目の前の同類にも、既に笑われてるし。
(笑わないでくれよ)
(いやいやいや、おもしれぇってお前! その発想はなかったわー。それで、律儀に女の尻に敷かれて、戦ってるって訳かよ?)
(まぁ、な。することもねぇし、頼られてるからさ……悪いかよ)
(悪くねぇ、むしろ最高だわお前。それでこんな妙ちくりん、軽くツボに入りそうだ)
「……笑わ……ないで」
他人の不幸は蜜の味、とまではいかないだろうけど、奴にとっては相当面白かったらしく、目の前の剣の男は、腹を抱えて笑っている。
これだけ盛大にバカにされると、流石の俺も気が滅入る。けれど、俺をからかう男に対し、不快感を顕にしてくれるシャーリーに、思わず笑みが溢れてしまう。
(悪い悪い、彼氏のこと気に入ってんだ。許してくれ)
それでも奴は笑いを止めず、うわべだけの謝罪を述べる。バルカイトと言い、こういう性格の軽いやつは、どうも苦手だ。そうだよな、仲間に引き入れるも何も、元々俺ってボッチな挙げ句、受け身体質だもんな。
唯一の友達とも、趣味が合うから意気投合してるだけで、それが無ければ話しかけすら出来ないってのに……そもそも、こっちに来てからだって、一度も俺から話しかけた事ねーじゃねーかー!!
これだけ女の子に囲まれて、全員逆ナンとか、笑えよ、ベジタブル王子。って感じだ。
(さて、ここで会ったのも何かの縁だ。お前、俺の仲間になる気はないか?)
あまりの自分の不甲斐なさに、心の中で悶ていると、目の前の剣から、逆に交渉を持ちかけられる。相手から誘われるのは、予想外だった。
(それってつまり、魔神の側に付けって事かよ?)
ただし、向こう側に付くって事は、魔神の味方になれという事。
(意外と悪くないぜ? ちょっと面倒だが、三食昼寝付き、しかも食い放題ときた。結構な高待遇と思うんだがな?)
普通の人間が聞けば、奴の言葉は耳触りの良いものに聞こえるのかもしれない。けれど、欲望のままに、魔神と一緒に他人を蹂躙するなんて事、俺に出来るわけがない。
(そう言えば、この近くに村があったよな。他に魔物が千匹ほど近づいて来てんだが、お前が仲間になんなら、止めてやっても良いぜ?)
それに、やっぱりこいつが、裏で糸を引いてるって訳か。
(あいにく、そっちには信頼してるのが何人か居るんでね。それに、魔物の群れを止めた所で、お前は行くつもりなんだろ? だったら、止めなきゃいけないのは、お前のほうだろうが)
(正解だ。よーく、わかってるじゃないの。それなりに頭が切れるのも、お兄さん好印象だぜ。で、こっちに付く気は本当にないのかよ?)
(あぁ、大切な誰かを見捨ててまで、生き延びようとは思わないんでね)
(あーあ、同じ剣のよしみで、折角生かしておいてやろうと思ったのに、残念なこって)
交渉は決裂した。魔神でこそ無いものの、考え方そのものは、今までの奴らと同じ。ここで止めなければ、ベルシュローブだけでなく、リィンバース全土に被害が及ぶ。
(まっ、いいさ。結局のところ、俺とお前は、同じ臭いの持ち主だからな)
ただ、なんだこの感じ? まるで、心の奥を見透かされているような……
(お前さ、世界ってやつに絶望したことあるだろ?)
男に睨まれた次の瞬間、俺の喉元に、死神の鎌が寸分違わず押し付けられる。
(面見ればわかるんだよ。もう何も怖くない、生に執着するぐらいなら死んだほうがマシだって書いてあるぜ)
それは、紛れもなく悪魔のささやきだった。
(何を、根拠に……)
(目が真っ直ぐすぎんだよ。両目がギラついてて、鏡で見た時の俺そっくりだ)
俺が死にたがりだったなんて話は、とっくの昔にシャーリーにしてる。けど、こいつが見てるのは、もっと奥にある深い部分。大切な人にも知られたくない深淵。いかがわしいものとは違う、もう一つの狂気。それを彼女に聞かれているという状況に、冷や汗が止まらない。
(まぁ、そうだよな。あんな肥溜めみたいな世界、生きてるだけで吐き気がするもんな。わかるぜその気持ち、だからこうして死んだんだろ。やりたいことをやるためにさ!)
不快感と言い回しに頭がついていかず、奴の言葉に俺は、完全に呑まれかけていた。
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