俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第五章 もう一人の剣

第232話 かしましい二人と目立つ一匹

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 懐かしのY字通りを道なりに進み、俺達はベルシュローブのギルドへと向かう。

 想像していたより町の中は賑やかで、魔物による被害は少ないように感じられたが、ギルドの入り口を開けると、待合所は大量の冒険者達で溢れていた。

 どこもかしこもこんな状況で、リィンバース国内は大いに荒れている。その中でもこの町は比較的良い方で、一つ前に訪れたコルラド村は、魔神の襲撃により滅ぼされていた。

 かろうじて生き延びた少数の住民が、ギルド関係者と協力し復興作業を行ってはいたが、魔物による被害が続き作業は難航。たまたま俺達が通らなければ、最後の一人まで皆殺しにされていたと思う。

 それに、村一つを滅ぼした魔神には報奨金がかけられていて、こちらはギルドから正式に討伐の依頼を受ける事となった。その額は、金貨百枚。

 決して金に目がくらんだ訳ではなく、俺達にとっては倒すべき相手、大義名分のあった方が動きやすかったのだ。それが、先ほど倒した魔神ザガン。

 本来なら一度、コルラド村へと戻るべきなのだろうけど、村の簡易ギルドじゃ報奨は受け取れないし、時間もない。一刻も早く王都へ向かい、この状況を打破しなければコルラドのような村や町が増える。

 リィンバースに平和を取り戻すこと、それこそがコルラドにとっても一番の土産になるはずだ。

「それでは、ギルドカードの提出をお願いします」

 そんなこんなで、現状について考えている間に列は進み、俺達の番がやってくる。笑顔で語りかけてくる受付嬢の要求通り、一枚のカードを胸元からシャーリーは取り出し、迷う事なく提出する。なんて所に隠してるんだおい。

 それは、彼女のためにスクルドが作った、あの偽造カード。散々非難したあれを、何だかんだで俺達は使っているのである。

 実は、あの塔へ向かう直前、スルスカンティーヌのギルド内でシャーリーの素性が疑われ、仕方なくこのカードを使ってしまったのだ。ギルド側からすれば、冒険者達が次々と消える危険な塔に、普通の子供を行かせるわけにいかなかったのだろう。

 何がパーティシステムだよ! と、システムに当たるつもりは無いが、シャーリーの見た目を考えればやはり無理が有りすぎたのだ。

 ……やっぱ、子供にしか見えないよなぁ。等と、二十歳以上、百四十センチ以下の女性の皆様方を完全に敵に回す発言をしているような気がしますが、そんな事はないので、ご容赦いただければ幸いです。

「はい、確認いたしました。続いて、証の提出をお願いします」

 そして、高額な賞金首ともなると、こうして、倒した標的の部位を求められる事が多い。幸いにも、戦闘中に飛び散った鳥の羽と、切り落とすことに成功した角が手元にあり、それを差し出す。すると、一点の曇りもない営業スマイルを見せていた受付嬢の表情が、細工に失敗した歪な石像のように固まる。

「しょ、少々お待ちください!」

 それから数瞬、カウンターを叩きながら大声を上げると、彼女は狼狽えながら建物の奥へと全速力で走り出した。そりゃそうか、いくら依頼にあるとは言え、魔神の遺恨を平然と提出されたら驚きもするってもんだよな。

「何というか、魔神って本当にすごいんだねぇ」

「あたり前のことを言わないでください。先程の魔神も、私やシャーロットさんでなければ体中の血液をワインに変えられ、一瞬のうちにあの世行きです」

 魔神という存在に対し今更驚く天道を、呆れた表情で見上げるスクルド。

「えっと、それってもしかして、私本当に、やばかったやつ?」

 ザガンの能力は、血をワインや油に変えること。それを、彼女は信じていなかったようで、苦笑いを浮かべる姿に、俺まで呆れそうになる。

「その通りです。ですから、前に出ないよう忠告したんです。これでも、心配してるんですよ」

「おぉ! スクルドぉ~」

「あなたに死なれると、トオル様が悲しまれますからね。主のために他者を守るのも、女神の務めの一つですから」

「す~く~る~どぉぉぉっ!」

 とまぁ、泣いたり怒ったり、二人仲良くじゃれ合うのは構わんけど、時と場所は選んでほしい。目立ち過ぎで、周りの視線が痛いやら恥ずかしいやら。

「キュ? キュー!!」

 そんな中、甲高い鳴き声がシャーロットの腰辺りから聞こえてくる。その方向を見下ろすと、愛らしい竜の頭が革製の小物入れから飛び出していた。

「……リース……めっ」

「キュゥー?」

 リースと呼ばれた小さな赤竜は、シャーリーのお叱りをものともせずに首を捻らせる。最近構ってなかったからな、飽きて出てきてしまったのだろう。

 いくらその、某モンスター同士を戦わせる作品の、ボールの中のような幸せ空間が展開されてるらしいポーチの中とは言え、一日誰とも出会わなければ人恋しくもなるというもの。実際中が快適なのかは、俺にも全くわからんしな。

 スクルドの説明では、アイテムストレージの応用とか言ってたけど、そもそものストレージも頻繁に使えるものでなく、その代用が、願った小物や服を作れるあの端末だったりするわけで、意外と不便なんだよなこの世界。転移魔法も無いし。

 まっ、一部の異世界がご都合主義なだけで、このぐらいが普通というか、ここも結構恵まれてる方なんだろうな、きっと。

「キュウ! キュッキュキュー!」

 等と、人間の時に読んでいたラノベと、今を比べて感傷に浸ってる場合でもないか。リースには悪いけど、今は戻ってもらわないと説明が面倒くさくなる。

(リース、後で遊んであげるから、もう少しだけ我慢してくれないか?)

「キュ? キュキュー!」

 一瞬首をかしげたものの、リースは笑顔で答えると、ポシェットの中へと再び身を隠す。素直なことで、良きかな良きかな。ただし、周囲の冒険者達の話題は既に、リースのもので持ちきりだった。

 幼竜とは言え、一介の冒険者が連れているのは、とても珍しい事なのだろう。ビュンビュン飛んでる感じも無いし、竜自体が希少なのかもな。リースだって、元はと言えば隣の国のドラゴンな訳だし。

 にしても、帰ってこないな受付の人。まさか、やばい集団と思われて、ギルドの精鋭に囲まれたりしないだろうな? バルカイトがいるから大丈夫とは思うけど、金貨百枚を手配から二日たらずで倒してきたんだ、警戒されても当然か。

 金貨百枚……村一つの命が金貨七十枚。そう考えると、吐き気すら催してくる。単価がどうのと言う訳じゃないけど、被害が出てから増える値段と言うのもな。けど、貰わなければ貰わないで、皆の命を無駄にしてる様に思えてくるし、複雑な心境だ。

「まーた難しい顔してるけど、あんまり深く考えないほうが良いと思うよ? その優しさが、先輩の良いところだけどねー」

 人が死ぬ。その重さに耐えきれず頭を抱えていると、天道に力強く柄頭を撫でられる。

「……大丈夫……私も……背負うから」

 そして、シャーリーにも強く抱きしめられ、俺は平常心を取り戻した。そうだな、こんな俺にも出来ることはある。一人でも多く守れるように、もっと強くならないと。

「君達、ちょっといいかな? そのギルドカード……」

 その瞬間、右奥にある関係者用扉が開くと同時に、爽やかな声が待合所に響き渡る。懐かしい声のする方へ視線を向けると、そこには見覚えのある黒い衣装を着た、細マッチョなイケメンが立っていた。
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