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第五章 もう一人の剣
第230話 第五章プロローグ とある男の狂気な最後
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打ち付ける波音が耳をつんざく。防波堤を越えようと、荒ぶる波が地面を叩いた。
「くだらねぇ、つまんねぇよなぁ!」
迷路のような細い道、建造物の光すら無い暗闇の中、くたびれた男が小さな愚痴を吐く。誰に言うでもなく、薄汚れたコンテナに叩きつける言葉は、狂気の色に彩られていた。
「変わらねぇ変わらねぇ、世の中なんてこんなもんか」
そんな彼の全身には、大量の朱が染み込んでいる。遠くからでもわかる血の匂い、それは彼のものでなく、切り刻まれた誰かのもの。ふんぞり返る人間を、殺しに殺した名誉の証。
「ちっ、古傷が痛みやがる。あぁ! 殺してぇ、殺してぇよ!!」
血の染み込んだ右手のナイフを、何度も何度もコンクリートの床に叩きつけ、狂ったように彼は雄叫びを上げる。
「クソッ! 物足りねぇ。なんか刺激を! このままじゃ、俺が死んじま……そうだ、どうせなら、いっそ自分が死んでみるか!」
血みどろの男がそんな風に考えたのは、遠くにサイレンの音が聞こえ始めた頃。終わりを悟った彼なりの、最後の抵抗だったのかもしれない。
「どんな感じなんだろうなぁ、自分の腸を引き裂く感覚、痛みってやつはよぉ!」
自らの命を賭した、一世一代の大勝負。彼の死に様を世界中の人間が知ったら、間違いなく逃げだと考えることだろう。しかし、男にとっては探究心、死んででも知りたい、快楽の瞬間だったのだ。
「クオッ! キッタァ! この痛み、この感触、この熱ぅ! たまらねぇ、たまんね……ゲホッ!」
自身の腹部へと、何のためらいもなくナイフを突き刺し、えぐるようにこねくり回す狂気の男。口から血反吐を吐こうとも、右手の動きを止めようとはしない。
本当にエクスタシーを感じているのか、地面の上は彼の排泄物でぐちゃぐちゃだった。
「さぁ、つれてけよ神様ってやつ。この俺を、地獄って場所によぉ! たっぷり、たーっぷり! 暴れてやるから、さあぉッぁッ!!」
そして、終わりの時が訪れる。体内の血の数パーセントを排出した男は、白目をむき、意識は既に途切れる直前、絶命するまであと一歩と言った所。
その醜悪な死に様に、彼は何も感じないだろう。彼が求めているのは快楽、自身のための幸せなのだから。
「ふへっ。次は、何が、斬れるか……な」
そんな言葉を最後に、彼という存在はこの世を去る。これが一時期、世界を震撼させた、ある殺人鬼の最後の姿。しかし、その場から彼の死体が発見されることはなく、現場には血濡れた服と、血痕付きのナイフだけが残されていた。
「くだらねぇ、つまんねぇよなぁ!」
迷路のような細い道、建造物の光すら無い暗闇の中、くたびれた男が小さな愚痴を吐く。誰に言うでもなく、薄汚れたコンテナに叩きつける言葉は、狂気の色に彩られていた。
「変わらねぇ変わらねぇ、世の中なんてこんなもんか」
そんな彼の全身には、大量の朱が染み込んでいる。遠くからでもわかる血の匂い、それは彼のものでなく、切り刻まれた誰かのもの。ふんぞり返る人間を、殺しに殺した名誉の証。
「ちっ、古傷が痛みやがる。あぁ! 殺してぇ、殺してぇよ!!」
血の染み込んだ右手のナイフを、何度も何度もコンクリートの床に叩きつけ、狂ったように彼は雄叫びを上げる。
「クソッ! 物足りねぇ。なんか刺激を! このままじゃ、俺が死んじま……そうだ、どうせなら、いっそ自分が死んでみるか!」
血みどろの男がそんな風に考えたのは、遠くにサイレンの音が聞こえ始めた頃。終わりを悟った彼なりの、最後の抵抗だったのかもしれない。
「どんな感じなんだろうなぁ、自分の腸を引き裂く感覚、痛みってやつはよぉ!」
自らの命を賭した、一世一代の大勝負。彼の死に様を世界中の人間が知ったら、間違いなく逃げだと考えることだろう。しかし、男にとっては探究心、死んででも知りたい、快楽の瞬間だったのだ。
「クオッ! キッタァ! この痛み、この感触、この熱ぅ! たまらねぇ、たまんね……ゲホッ!」
自身の腹部へと、何のためらいもなくナイフを突き刺し、えぐるようにこねくり回す狂気の男。口から血反吐を吐こうとも、右手の動きを止めようとはしない。
本当にエクスタシーを感じているのか、地面の上は彼の排泄物でぐちゃぐちゃだった。
「さぁ、つれてけよ神様ってやつ。この俺を、地獄って場所によぉ! たっぷり、たーっぷり! 暴れてやるから、さあぉッぁッ!!」
そして、終わりの時が訪れる。体内の血の数パーセントを排出した男は、白目をむき、意識は既に途切れる直前、絶命するまであと一歩と言った所。
その醜悪な死に様に、彼は何も感じないだろう。彼が求めているのは快楽、自身のための幸せなのだから。
「ふへっ。次は、何が、斬れるか……な」
そんな言葉を最後に、彼という存在はこの世を去る。これが一時期、世界を震撼させた、ある殺人鬼の最後の姿。しかし、その場から彼の死体が発見されることはなく、現場には血濡れた服と、血痕付きのナイフだけが残されていた。
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