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第四章 地底に眠りし幼竜姫
第229話 第四章 エピローグ 動き始めた驚異
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「爺さん、安らかに眠ってくれ」
頭に被るカウボーイハットのつばを持ち、バルカイトは目の前の石碑に軽い会釈をする。デオルドさんの名が刻まれた小さな石碑は、彼が昨晩徹夜で作り上げたものだ。
師のために最後まで腕を披露する弟子、泣けてくる話じゃねぇか。これなら、デオルドさんも安心して成仏できることだろう。
とは言え、彼の亡骸はこの場所には埋まっていない。息を引き取った場所、火口の奥にあるエーテルの海に鎮めてきた。思う所はあったものの、バルカイトの選択だ。火の精霊らしく、あそこで眠るのが最良と彼は考えたのだと思う。
いつの日か再び、あの場所が使われる時が来たら、デオルドさんの想いが最高の武器に仕立て上げてくれることだろう。それに、あの竜を通じて、世界の架け橋になってくれるのではないだろうかと、そんな気がしている。
「悪いな、付き合わせちまって」
(いや、俺も世話になったからさ)
「……そっか」
俺たちに気を使うバルカイトであったが、こんなに優しい彼の笑みを俺は初めて見た気がする。言葉こそ発さないが、後ろの三人も同じ気持ちを抱いている事だろう。朗らかな空気が、辺り一面を包み込んでいた。
本当に、惜しい人を無くしたと思う。けど、涙は見せない。俺のせいだなんて言ったら、それこそバルカイトに怒られちまう。工房で一人喪失感に暮れるユーゴにも、申し訳が立たないしな。
「さて、これからどうするよお嬢?」
「……一緒に?」
「あぁ、こんな状況だしな。トオルにも俺が必要だろ?」
「……ん、ありがとう」
これで、パーティーは四人。RPGなら、本格的に行動を開始する頃合いだけど、俺達がやろうとしている事は小さな戦争だ。出来る限り、協力者は多いに越したことはない。
ただ、今までの状況を考えると魔神と殴り合える人間、もしくは、俺達のような転生者に巡り会える可能性はかなり低いと見て間違いない。このままだと、反攻作戦は何年後になることやら。
「……北……西」
シャーリーも似たような事を危惧しているのか、次の目的地を決めるのに難儀している様子。すると、空の彼方から、小さな鳥が俺達めがけて飛んでくる。
鳩のような見た目をした鳥は、迷うことなくバルカイトの肩に止まると、耳打ちするように小さなくちばしを上下に動かす。ナベリウスも確か、カラスみたいな使い魔を使ってたし、鳥を使った伝達方法はこの世界では普通なのかも。
そんな一人と一羽を見ていると、初めこそ温和な雰囲気だったが、バルカイトの表情はみるみるうちに険しいものへと変わっていく。なんとなく、嫌な予感がした。
「お嬢、悪い知らせだ」
その予感は的中し、真剣そのものなバルカイトの声音に、この場にいる全員が息を呑む。
「王都に攻め入った魔神共が、動き出したらしい」
両目を見開くシャーリーに、王都という単語。俺達の知らないところで、状況は確実に動き出していた。
頭に被るカウボーイハットのつばを持ち、バルカイトは目の前の石碑に軽い会釈をする。デオルドさんの名が刻まれた小さな石碑は、彼が昨晩徹夜で作り上げたものだ。
師のために最後まで腕を披露する弟子、泣けてくる話じゃねぇか。これなら、デオルドさんも安心して成仏できることだろう。
とは言え、彼の亡骸はこの場所には埋まっていない。息を引き取った場所、火口の奥にあるエーテルの海に鎮めてきた。思う所はあったものの、バルカイトの選択だ。火の精霊らしく、あそこで眠るのが最良と彼は考えたのだと思う。
いつの日か再び、あの場所が使われる時が来たら、デオルドさんの想いが最高の武器に仕立て上げてくれることだろう。それに、あの竜を通じて、世界の架け橋になってくれるのではないだろうかと、そんな気がしている。
「悪いな、付き合わせちまって」
(いや、俺も世話になったからさ)
「……そっか」
俺たちに気を使うバルカイトであったが、こんなに優しい彼の笑みを俺は初めて見た気がする。言葉こそ発さないが、後ろの三人も同じ気持ちを抱いている事だろう。朗らかな空気が、辺り一面を包み込んでいた。
本当に、惜しい人を無くしたと思う。けど、涙は見せない。俺のせいだなんて言ったら、それこそバルカイトに怒られちまう。工房で一人喪失感に暮れるユーゴにも、申し訳が立たないしな。
「さて、これからどうするよお嬢?」
「……一緒に?」
「あぁ、こんな状況だしな。トオルにも俺が必要だろ?」
「……ん、ありがとう」
これで、パーティーは四人。RPGなら、本格的に行動を開始する頃合いだけど、俺達がやろうとしている事は小さな戦争だ。出来る限り、協力者は多いに越したことはない。
ただ、今までの状況を考えると魔神と殴り合える人間、もしくは、俺達のような転生者に巡り会える可能性はかなり低いと見て間違いない。このままだと、反攻作戦は何年後になることやら。
「……北……西」
シャーリーも似たような事を危惧しているのか、次の目的地を決めるのに難儀している様子。すると、空の彼方から、小さな鳥が俺達めがけて飛んでくる。
鳩のような見た目をした鳥は、迷うことなくバルカイトの肩に止まると、耳打ちするように小さなくちばしを上下に動かす。ナベリウスも確か、カラスみたいな使い魔を使ってたし、鳥を使った伝達方法はこの世界では普通なのかも。
そんな一人と一羽を見ていると、初めこそ温和な雰囲気だったが、バルカイトの表情はみるみるうちに険しいものへと変わっていく。なんとなく、嫌な予感がした。
「お嬢、悪い知らせだ」
その予感は的中し、真剣そのものなバルカイトの声音に、この場にいる全員が息を呑む。
「王都に攻め入った魔神共が、動き出したらしい」
両目を見開くシャーリーに、王都という単語。俺達の知らないところで、状況は確実に動き出していた。
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