俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第四章 地底に眠りし幼竜姫

第228話 その無機物に口づけを

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「……トオル……スクルドに優しい」

「だよねー。俺の女神とか言っちゃってさ―」

 と言うよりも、二人共めっちゃスクルドのこと妬んでるんだけど、そんなに態度違うか? 俺。

「……水の中……放る?」

「いいねぇ。死なないぐらいに水攻め」

 彼女を女神と認めてからは、今までより真面目に接するようになったとは思う。けど、二人が不満を漏らすほどじゃ……なんて、恋する乙女からすれば、この程度でも死活問題なのか。

「あ、えっと、それはちょっと」

 にしても、完全にこりゃ、ただのいじめだな。スクルドが子供に戻ったおかげで、余計に二人の悪役感が増している。遠目から見ると、高校生の姉を連れて来て同級生をいじめる悪ガキそのもの。王女様のする事とは、とても思えん。

「なら、後で温泉、一緒に入ろうか? 溶岩温泉が体にいいって話だし、傷も疲れも一瞬で癒えるよ~」

「い、いえ、私はいいです。いいですから……こ、怖いれす、アサミさんの手付き、怖いれすからぁ!」

 それに、そろそろ止めないとマジでヤバそうだ。俺のせいでヒートアップしてるようなもんだし、天道が味を占め始めて、悦に入ってる。

(二人共、もう十分だろ? 子供いじめて楽しいか?)

 元の見た目はあれだけど、実年齢は九歳だしな、言ってることは何も間違ってない。

「……だって」

「そうそう、先輩が贔屓するのがいけないんだぞ!」

 小さな言葉を妬ましく思うって事は、それだけ二人に愛されてるって事なんだろうけど、スクルドを責めるのはやっぱり違うと思う。

(だったら俺に直接言え、ちゃんと考えるから。それに、自分のために誰かを蹴落とそうとする性格の悪い女は、俺は嫌いだぞ)

「「……わかった」」

 傍若無人を通す二人にはっきり気持ちを伝えてやると、渋々ながらも瞳を合わせ女神に対し頭を下げる。二人共、悪い事してる自覚はあるのな。まっ、わかってくれれば良いんだけど。

 それに、俺が目指すハーレムは、皆仲良くだからな。

(ごめんな、俺のせいで怖がらせて)

「い、いえ、いいんです。私の未熟がいけないんれすから」

 二人の少女に虐められ、また彼女は泣いてしまう。気を抜いてる時のスクルドって、良くも悪くも子供なんだよな。そのおかげで余計に構いたくなるんだけど、そこが贔屓目に見えるんだろう。実際今も、何かしてやりたくてウズウズしてる。女の子を泣かせてダンマリなんて、俺には出来ないから。

(スクルド、俺にして欲しい事はないか? 大したことは出来ないけど、罪滅ぼしがしたい)

「つみ、ほろぼし? ……!? め、滅相もございません! 本来であれば、主君に頭を垂れさせるだけでも、女神としては重罪でございます! それを詫びなどさせようものなら、戦乙女として、腹を切らねばなりません」

 わかっていたつもりだけど、彼女にとっての俺は本当に絶対なんだな。責任の取り方が、切腹って所は若干気になるけど。

(なら、お前に褒美をやる。今まで頑張ってくれた礼にさ。家臣の忠義に応えるのも、君主としての役目だろ?)

「……トオル」

 その瞬間、何故かシャーリーに切望の眼差しを向けられたんだが、その理由がわからん。あっ、そう言えば君主って、国を治める人の事だったな、主君が個人の事で。もしかすると、国王としての自覚がもう目覚めたとか、そんな事を思われていたのかも。

「そ、そんな! トオル様から施しを受けるなど、私には出来ません!」

 まっ、そう来るだろうな。シャーリーに同じこと言われたら、一度は断る自信あるし。だから俺は、俺に与えられた権限を、存分に使うことを決める。

(だったら、これは命令だ。俺からの施しを受けろスクルド)

「か、かしこまりましたトオル様」

 命令という言葉に逆らえないのは女神の性か、スクルドは簡単に俺の頼みを受け入れてしまう。仕方がないからやったけど、ちょっとだけ後味が悪い。征服欲なんて微塵も感じられなくて、さっきの俺はやっぱり何かおかしかったんだと思う。一時の気の迷い、そういう事にしておこう。

(とは言ったものの、本当に大したこと出来ないからな……かけて欲しい言葉とか、触れたい場所とか、なんかないか?)

 言葉はともかく、今の俺に触れたい場所って……どんな刀剣フェチだよ。

「そ、それでは、あの……接吻、なるものがしたいのですが」

「接!」

「……吻」

 接……二人共、俺より先に驚かないでくれ、頼むから。その反応の早さだと、俺の出番が無くなる。

「好きな人との口づけは、勇気をもらえるとどこかの書物に」

 その台詞は確か、魔法の戦士ラディカルスィートの中盤、惨敗したヒロインが恋人の力で新たな力に目覚める、そういった感じのシチュエーションだったと思う。なるほど、前に進むための勇気が欲しいってわけか。

 気持ちが高揚しているせいか、以外にも冷静な自分がいる。いつかは女の子と、なんて考えてたけど、この体に口づけして、相手の方が満足出来るのだろうか?

(って言っても、俺の体に口とか無いぞ?)

「け、結晶体の部分が人間の顔に近いはずです! ですからそこに、そこに!」

 スクルドの鼻息の荒さからするに、その心配は無いらしい。そんな所で良いのなら是非させてあげたい。ただ、求めてるものと違っても、文句だけは言うなよ。

 後は、二人が許すかだけど……

「……わかった……でも」

 今までの流れから、どちらかが止めに入るだろうと考えゆっくり後ろを振り向くと、暖かな吐息が俺の鍔めがけ吹きかけられる。

 完璧な不意打ちだった。気がついた時には既に遅く、シャーリーの唇が結晶に吸い付くよう押し付けられる。拒絶する間もなく触れられた、大切な人の柔らかな感触。今まで感じてきた膨らみとはまた違い、繊細でいてもちっとしたパンのような、不思議で気持ちのいいものだった。

「ぷはっ……これで……一番」

 震える程の気持ちよさに、意識が飛んでいきそうになる。とろけた脳は彼女を求め、自分の体が別の誰かに渡されている事にすら気づけ無い。

「そ、それでは、失礼致します!」

 そこから二度目の不意打ち。先程よりも拙いがむしゃらな柔らかさに、息苦しい感覚が心音を早めていく。言葉にならない幸せが麻薬のように頭の中を駆け巡り、全身がおかしくなりそうだった。幸せの絶頂なんて言うけど、本当に頂きを超えてしまいそうで、このままだと嬉死ぬ。

「あぁー!! 二人共ずーるーいー! 先輩! 私にも! 私ともキス、キィスゥ!!」

「……アサミは……だめ」

「なんでぇ! 私も頑張ったよね! アサミちゃん命がけで頑張ったよね!!」

「……トオルが……もたない」

 そんな中、どこかで最高に天道がごねているけど、シャーリーの言葉通り俺のキャパシティは限界を迎えていた。こんな状態でもわかる……いや、こんな状態だからこそわかるが、もう一度、それも天道になんてされたら、自分が自分でなくなってしまう自信がある。

「それは、そうかもだけど……むぅぅぅぅぅっ! 不公平だぁ! 先輩は心配だけど不公平だぁ!!」

 ただ、一人だけ仲間はずれにするのは彼女の言う通り不公平で、俺の理念にも反する。

(わかったよ……こんど、してやるから)

 だから、彼女の口づけに耐えれる自信がついた時に、好きなだけさせてやろうと思う。シャーリーは、猛反対するだろうけど。

「!? ……トオ……ル」

(実際、不公平だろ? もし、シャーリーが天道の立場だったら、納得、できるか?)

「……それ……は」

 そんな俺の予想通り、俺の体を睨みつけてくるシャーリー。彼女の不安もわかるけど、自信があるから言えるんだ。何があっても、俺は絶対に裏切らない。シャーリーが俺の一番だよ。

「約束! 絶対だよ。先輩、絶対だかんね!!」

(あぁ、約束だ)

 震える両目を滲ませて、天道と俺は約束を取り交わす。これでようやく、本当に終わりかな。

(さて、そろそろ戻るか)

「……リース」

 キスの余韻も抜けきった所で俺がそう提案すると、シャーリーは俺を鞘に戻し、リースを呼んで抱きかかえる。

(えっと、俺はこっちですか?)

「……リース……かわいそう……トオルは反省」

 わかっていた事とは言え、前途多難だなこりゃ。

「お嬢、トオル、爺さんのことなんだが」

 シャーリーとの恋人関係、王様への道、皆が幸せになれるハーレムの構築と、目指すものの大きさにため息と気合を入れる。バルカイトと三人、デオルドさんの亡骸について話し合い、俺達はこの祭壇を後にした。
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