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第四章 地底に眠りし幼竜姫
第220話 リィンバースの国交関係
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暗く長い洞窟を、俺達は慎重に進んでいく。一度抜けた道とは言え、いつまた魔神の襲来があるかと考えると、慎重にならざるお得ない。
(なぁ、スクルド? 俺達がリースを保護してるのって、外交上問題ないのか?)
そして俺は、これから起こるであろう魔改造の恐怖に対し、適当な話題を並べ気持ちをごまかしている。
強くなるためとは言え、竜の息吹とか言われたら恐れおののくのが当たり前であろう。絶対に安全ですので、ドラゴンブレス吹きかけますね―。と言われて、喜んで受けるやつがこの世の中にどれだけ居るってんだ。
あぁ、目の前のドM女神なら、喜んで受けるかもな。
「その点に関しましては、問題ないと思われます。実質シュトロームガルフは、竜族の生態を放棄しているようなものですからね。彼らを保護する権利は、リィンバースに有ると考えて間違いないでしょう」
(なるほどな……ってかさ、この国と国交のある国って、どのぐらいあるわけ?)
背中から、なんで私に聞いてくれないの? と言うオーラを感じるが、聞いてしまったものはしょうがない。それに、言ったら確実に怒られるけど、スクルドと会話する方が話のテンポが良いからな。
もちろん、普段は全然気にしないし、シャーリーといっぱい話したいけど……これじゃただの言い訳だな。心の中で謝っておこう、ごめんなさい。
「東のシュトロームガルフに、南のヘキサパイトス 北西は沿岸となっておりますので、隣接している国家はこの二つとなります。私の知る限りでは、建国以降大きな争いやいがみ合いは起きていないですね」
(へぇ。小国同士、一度や二度の争いはあるものと思ってたけど、意外に平和主義なんだな)
自国の領土を増やすため、頻繁に小競り合いを繰り返しているのが俺の中での中世のイメージだったけど、この世界では人間同士の争いが少ない事に、俺は驚いている。
それに、国交と聞いて、隣国の名前を即座に上げたということは、遠方とのやり取りは皆無と見て間違いないだろう。スルスカンティーヌが、貿易都市のモデルケースと言うのも頷ける。
しかしながら、俺の考えと、この国が争いに巻き込まれない理由は、どうにも違うらしい。
「いえ、違いますよトオル様。小国同士だからです。下手な消耗は、返って隣国に付け入る隙を与えます。シュトロームガルフもヘキサパイトスも、リィンバースのように二つの国に囲まれているわけではないですからね」
なるほど、そういう事か。この国の場合、最悪の状況でも二つの国としか戦争にならない。だが、シュトロームガルフもヘキサパイトスも、三箇所以上の国家と戦わなければならないリスクを常時秘めている。下手に仕掛けて後ろがお留守では、自国がそのまま侵略されかねないって話なわけだ。
そう考えると、シュトロームガルフの起こした竜族全滅作戦なんて、最もリスキーな気がするけど、後顧の憂いを断ちたかったんだろうな、当時の王族としては。
「それに、現在リィンバースと呼ばれる土地は、元々魔族の住処でしたから。両国もあまり強くものを言えないのでしょう。実際の所、初代女王であらせられる、ヴァネッサ・リィンバース様に助けていただいたようなものですから」
(って事は、シャーロットの先祖に当たるセイクリッドが来なければ、この辺り一帯は壊滅していた可能性が高いと)
「はい。あの方は優秀な尖兵だったらしく、オーディン様からも一目置かれていたそうです。それでも、ギリギリの戦いだったと聞いております」
そして、この国が安全な理由をもう一つ聞くと同時に、セイクリッドの使命がどれ程危険なものなのかを、また一つ思い知らされる。
(やっぱり、その……命がけなんだな)
戦いの中で生きるか死ぬか、神にとって、それだけがセイクリッドの存在理由なら、俺は一人の男として、彼女の事を愛し続ける。愛して、愛して、愛しぬいて、神の傀儡で無いことを証明してやる。
「はい。彼女達は駒、代替えの効く量産品。それが当たり前と思ってきましたが、自身の境遇を考えますと、酷い言い草もあったものです。所詮は私達も、同じ粗製品なのに……」
(す、スクルド! お前は違う! お前の代わりなんていない、だから! もう、そんな風に言わないで欲しい)
そんな呪縛に囚われている、もう一人の幼女。彼女が見せる、物憂げな表情を見ていられなくて、がむしゃらに俺は言葉を並べる。
不可抗力とは言え、自身の恐怖をごまかすために彼女の傷をえぐった自分が、どうしても許せなかったのだ。
「トオル様……ありがとうございます。スクルドは、本当に幸せものです」
(そっか。えっと、その、シャーリーも、俺にとってはシャーリーだから。考えたこと無いかもだけど、セイクリッドだからどうのって悩まなくて――)
スクルドの笑顔を見るのと同時に、シャーリーもまた不安を感じているのではと慌てて気持ちを言葉にすると、彼女の右手が俺の柄頭にそっと乗せられる。
「……大丈夫……私は……幸せだから」
しっとりとした彼女の声音に俺の方が慰められて、なんだかちょっと情けないけど、気持ちは伝わっていると考えて良いらしい。こんなにも熱く見つめられたら、俺まで幸せになってしまう。
「スクルドー、私からも質問!」
すると、今まで外野に徹していた天道が、突然スクルドに質問を投げかける。
「はい、何でしょうか?」
良い雰囲気になりつつある俺達三人を見て、羨ましくなったのだろうか? 等と考えていると、現状とは関係のないことを、彼女は口にする。
「メイデン系の魔法ってさ、処女じゃないと使えないの?」
脈絡のないその問いに、俺の口は開いたまま、塞がらなくなる。一体何を聞いてるんですかね、この淫魔は。
「メイデン、ですか? それはまた、唐突な質問ですね」
「うん! メイデンって確か、処女って意味じゃん。うちらの世界だとアイアンメイデンが主流だったんだけど、こっちの世界だとなんか複数種類ありそうだし、どうなのかな~って」
アホらしい。ここは適当にごまかして、スルーするのが吉だな。こんな質問、女の子が堂々と答える話題じゃない。そこら辺は流石に、スクルドもわきまえてるはず――
「メイデン系の魔法は」
「メイデン系の魔法は?」
……ちょっと待て。まさかこの駄女神、その質問に律儀に答えるつもりなのか?
「処女で」
「処女で?」
エロトークで睨み合う女子二人を前に、俺の中の緊張が高まっていく。元アイドルと女神が紡ぐ処女という言葉に、男の本能が活性化し、って、まてまてまて。おかしいだろ! なんで平然とこんな話ができる!
いや、まてよ……女の子同士の下ネタって、男子よりエグいって聞くし、まさかこれが普通なのか? わからん! 俺にはさっぱりわからん!!
「処女……でなくとも使えますが! 威力は劇的に半減します!!」
「ほー、なるほど。リアルに反映されるんだ。中々に現実的な魔法ですな」
あー、言ちゃったよ―、まじで答えっちゃったよ―。こんなん聞かされてさー、どない反応しろっちゅーねん!
「はい、されます。されますが……なんでそれを聞くんですか! 貴方は私のことを、アバズレ女神だとでも思っていると!?」
「いやー、純粋に興味興味」
乙女の園の真実なんてものは、男の俺には一生わからないだろうけど、目の前の女神がバカ正直で、真っ直ぐなのは良くわかる。それが例えエロバナでも、答えてしまうのが彼女なんだ。
しかもこれ、天道の方はバルカイトに魔族扱いされた仕返しと言うか、ただの八つ当たりな気がする。
「だから貴方は嫌いなんです! 私が処女でなかったら、トオル様のお側になどとても、恐れ多くて居れるわけないじゃないですか!」
天道の気持ちも少しはわからんでもないけど、こういう性的な嫌がらせはあまりにも失礼だと思う訳で、怒らずにはいられない。
「えーっと、そんな怒らなくても。ほら、スキンシップ、スキンシップ」
(……天道?)
「あー……ご、ごめんね、スクルド」
嫌がるスクルドに対し、謝ろうともしない天道の顔を睨みつけると、彼女は頬をかきながら観念したように頭を下げる。俺に言われて謝るぐらいなら、最初からしなきゃ良いのに。天道のそういう所、俺にはわからん。
(はぁ。スクルド、悪いんだが、許してやってくれないか?)
「は、はい! 私の方こそ、取り乱しました。大丈夫です、慣れるよう努力します」
(ごめんな、こんなやつで)
「えーっと、うーんと……ごめん、なさい」
天道もスクルドも根はすごく真面目なのに、なんでこう仲良くなれないのか……九割方、俺のせいだろうけどな。
円滑なハーレムの構築って、本当に難しい。
「あ! ち、ちなみに、私も処女だかんね!」
そしてこれも、場を和ませるための彼女なりの努力なんだろうけど、そんな事、誰も聞いとらんわ。
(なぁ、スクルド? 俺達がリースを保護してるのって、外交上問題ないのか?)
そして俺は、これから起こるであろう魔改造の恐怖に対し、適当な話題を並べ気持ちをごまかしている。
強くなるためとは言え、竜の息吹とか言われたら恐れおののくのが当たり前であろう。絶対に安全ですので、ドラゴンブレス吹きかけますね―。と言われて、喜んで受けるやつがこの世の中にどれだけ居るってんだ。
あぁ、目の前のドM女神なら、喜んで受けるかもな。
「その点に関しましては、問題ないと思われます。実質シュトロームガルフは、竜族の生態を放棄しているようなものですからね。彼らを保護する権利は、リィンバースに有ると考えて間違いないでしょう」
(なるほどな……ってかさ、この国と国交のある国って、どのぐらいあるわけ?)
背中から、なんで私に聞いてくれないの? と言うオーラを感じるが、聞いてしまったものはしょうがない。それに、言ったら確実に怒られるけど、スクルドと会話する方が話のテンポが良いからな。
もちろん、普段は全然気にしないし、シャーリーといっぱい話したいけど……これじゃただの言い訳だな。心の中で謝っておこう、ごめんなさい。
「東のシュトロームガルフに、南のヘキサパイトス 北西は沿岸となっておりますので、隣接している国家はこの二つとなります。私の知る限りでは、建国以降大きな争いやいがみ合いは起きていないですね」
(へぇ。小国同士、一度や二度の争いはあるものと思ってたけど、意外に平和主義なんだな)
自国の領土を増やすため、頻繁に小競り合いを繰り返しているのが俺の中での中世のイメージだったけど、この世界では人間同士の争いが少ない事に、俺は驚いている。
それに、国交と聞いて、隣国の名前を即座に上げたということは、遠方とのやり取りは皆無と見て間違いないだろう。スルスカンティーヌが、貿易都市のモデルケースと言うのも頷ける。
しかしながら、俺の考えと、この国が争いに巻き込まれない理由は、どうにも違うらしい。
「いえ、違いますよトオル様。小国同士だからです。下手な消耗は、返って隣国に付け入る隙を与えます。シュトロームガルフもヘキサパイトスも、リィンバースのように二つの国に囲まれているわけではないですからね」
なるほど、そういう事か。この国の場合、最悪の状況でも二つの国としか戦争にならない。だが、シュトロームガルフもヘキサパイトスも、三箇所以上の国家と戦わなければならないリスクを常時秘めている。下手に仕掛けて後ろがお留守では、自国がそのまま侵略されかねないって話なわけだ。
そう考えると、シュトロームガルフの起こした竜族全滅作戦なんて、最もリスキーな気がするけど、後顧の憂いを断ちたかったんだろうな、当時の王族としては。
「それに、現在リィンバースと呼ばれる土地は、元々魔族の住処でしたから。両国もあまり強くものを言えないのでしょう。実際の所、初代女王であらせられる、ヴァネッサ・リィンバース様に助けていただいたようなものですから」
(って事は、シャーロットの先祖に当たるセイクリッドが来なければ、この辺り一帯は壊滅していた可能性が高いと)
「はい。あの方は優秀な尖兵だったらしく、オーディン様からも一目置かれていたそうです。それでも、ギリギリの戦いだったと聞いております」
そして、この国が安全な理由をもう一つ聞くと同時に、セイクリッドの使命がどれ程危険なものなのかを、また一つ思い知らされる。
(やっぱり、その……命がけなんだな)
戦いの中で生きるか死ぬか、神にとって、それだけがセイクリッドの存在理由なら、俺は一人の男として、彼女の事を愛し続ける。愛して、愛して、愛しぬいて、神の傀儡で無いことを証明してやる。
「はい。彼女達は駒、代替えの効く量産品。それが当たり前と思ってきましたが、自身の境遇を考えますと、酷い言い草もあったものです。所詮は私達も、同じ粗製品なのに……」
(す、スクルド! お前は違う! お前の代わりなんていない、だから! もう、そんな風に言わないで欲しい)
そんな呪縛に囚われている、もう一人の幼女。彼女が見せる、物憂げな表情を見ていられなくて、がむしゃらに俺は言葉を並べる。
不可抗力とは言え、自身の恐怖をごまかすために彼女の傷をえぐった自分が、どうしても許せなかったのだ。
「トオル様……ありがとうございます。スクルドは、本当に幸せものです」
(そっか。えっと、その、シャーリーも、俺にとってはシャーリーだから。考えたこと無いかもだけど、セイクリッドだからどうのって悩まなくて――)
スクルドの笑顔を見るのと同時に、シャーリーもまた不安を感じているのではと慌てて気持ちを言葉にすると、彼女の右手が俺の柄頭にそっと乗せられる。
「……大丈夫……私は……幸せだから」
しっとりとした彼女の声音に俺の方が慰められて、なんだかちょっと情けないけど、気持ちは伝わっていると考えて良いらしい。こんなにも熱く見つめられたら、俺まで幸せになってしまう。
「スクルドー、私からも質問!」
すると、今まで外野に徹していた天道が、突然スクルドに質問を投げかける。
「はい、何でしょうか?」
良い雰囲気になりつつある俺達三人を見て、羨ましくなったのだろうか? 等と考えていると、現状とは関係のないことを、彼女は口にする。
「メイデン系の魔法ってさ、処女じゃないと使えないの?」
脈絡のないその問いに、俺の口は開いたまま、塞がらなくなる。一体何を聞いてるんですかね、この淫魔は。
「メイデン、ですか? それはまた、唐突な質問ですね」
「うん! メイデンって確か、処女って意味じゃん。うちらの世界だとアイアンメイデンが主流だったんだけど、こっちの世界だとなんか複数種類ありそうだし、どうなのかな~って」
アホらしい。ここは適当にごまかして、スルーするのが吉だな。こんな質問、女の子が堂々と答える話題じゃない。そこら辺は流石に、スクルドもわきまえてるはず――
「メイデン系の魔法は」
「メイデン系の魔法は?」
……ちょっと待て。まさかこの駄女神、その質問に律儀に答えるつもりなのか?
「処女で」
「処女で?」
エロトークで睨み合う女子二人を前に、俺の中の緊張が高まっていく。元アイドルと女神が紡ぐ処女という言葉に、男の本能が活性化し、って、まてまてまて。おかしいだろ! なんで平然とこんな話ができる!
いや、まてよ……女の子同士の下ネタって、男子よりエグいって聞くし、まさかこれが普通なのか? わからん! 俺にはさっぱりわからん!!
「処女……でなくとも使えますが! 威力は劇的に半減します!!」
「ほー、なるほど。リアルに反映されるんだ。中々に現実的な魔法ですな」
あー、言ちゃったよ―、まじで答えっちゃったよ―。こんなん聞かされてさー、どない反応しろっちゅーねん!
「はい、されます。されますが……なんでそれを聞くんですか! 貴方は私のことを、アバズレ女神だとでも思っていると!?」
「いやー、純粋に興味興味」
乙女の園の真実なんてものは、男の俺には一生わからないだろうけど、目の前の女神がバカ正直で、真っ直ぐなのは良くわかる。それが例えエロバナでも、答えてしまうのが彼女なんだ。
しかもこれ、天道の方はバルカイトに魔族扱いされた仕返しと言うか、ただの八つ当たりな気がする。
「だから貴方は嫌いなんです! 私が処女でなかったら、トオル様のお側になどとても、恐れ多くて居れるわけないじゃないですか!」
天道の気持ちも少しはわからんでもないけど、こういう性的な嫌がらせはあまりにも失礼だと思う訳で、怒らずにはいられない。
「えーっと、そんな怒らなくても。ほら、スキンシップ、スキンシップ」
(……天道?)
「あー……ご、ごめんね、スクルド」
嫌がるスクルドに対し、謝ろうともしない天道の顔を睨みつけると、彼女は頬をかきながら観念したように頭を下げる。俺に言われて謝るぐらいなら、最初からしなきゃ良いのに。天道のそういう所、俺にはわからん。
(はぁ。スクルド、悪いんだが、許してやってくれないか?)
「は、はい! 私の方こそ、取り乱しました。大丈夫です、慣れるよう努力します」
(ごめんな、こんなやつで)
「えーっと、うーんと……ごめん、なさい」
天道もスクルドも根はすごく真面目なのに、なんでこう仲良くなれないのか……九割方、俺のせいだろうけどな。
円滑なハーレムの構築って、本当に難しい。
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