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第四章 地底に眠りし幼竜姫
第217話 家族
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(……なんか、色々遊ばれたなぁ)
シャーリーに全身ハグされて、可愛い、大好き、なんて囁かれ続けた俺は、生気を吸いつくされたミイラのように疲れ果てている。
天道の激しい求愛に比べたらジャブみたいな言葉なのに、なんだこれ? 脳の奥が蕩け落ちそうだ。
もし、体の問題が解決されて、二人が一線を超えるような状況になったら、俺の精神持つんだろうか? まっ、そん時はそん時で、獣のように求め合えば……なんて、いい訳ねぇよなぁ。
そこは一番気を使わなきゃいけない所だし、乱れに乱れた挙げ句、できちゃった、なんて事になったら、男として最低だ。そうならないよう、もっと精神鍛えないと。
(それに、結構怒られたし)
最終的に納得してはもらえたものの、無鉄砲な今の俺じゃ、またいつか悲しませる。自分自信の扱いも、見直さないといけないか。
そう考えると、彼女の言葉で一番引っかかったのはなんだろう……
(……俺の命が軽い、か)
シャーリーからそう言われ、改めて気づいたことがある。いつからだろう、自分の死が怖く無くなったのは。
嫌われたくないって気持ちは依然としてあるし、生への執着が微塵も無いってことは無いと思う。それに、昔は何をするにも怯える、最低の軟弱者だった……だった、はずなのに。何がきっかけで、いつ死んでもいいなんて思うようになったのだろう。
大切なものができたから? 向こうで一度死んだから? 違う、違う気がする。いったい、いつだったか……
(……母さん)
悩みに悩んだ結果、俺が無意識に呟いたのはそんな言葉だった。ああ、そうか、結局俺はあの時の事を引きずったままなんだ。
(なんだかんだと理由をつけて、結局俺はマザコンなんじゃねえか)
口から振るえ出る、乾いた笑いが止まらない。何もできぬまま、目の前の現実から逃げ出して、後悔した挙げ句……
(はっ、罪滅ぼしのつもりかよ……だっせぇ)
心の底から湧き上がる、自虐の思いが止まらない。確かに俺は子供だった。でも、何かもっと出来たはずだ。
苦しむあの人の顔を見たくなくて、逃げて逃げて逃げまくって……本当に守りたかった物は、シャーリーだったのだろうか?
天道にスクルド、そして最愛の女性の姿さえも、母の面影がダブって歪む。もしかしたら俺は、自分の中の大切なものを、彼女達に押し付けていただけなのかもしれない。
(あれだけカッコつけといて、結局はただの自己満足。独りよがりかよ)
想いなんてものは、そう簡単に変えられないし、心の奥に刺さった棘なら、尚の事抜くのは難しい。そう考えると俺は、これから先、皆をずっと騙し続ける事になるのではないかと、罪悪感に苛まれていく。
大切なものを亡くし、周りとの距離感もわからなくなって……自分が嫌いなのもきっと、ここに起因してるんだ。昔の自分に振り回され、母を求めるこんな俺に、誰かを愛する資格なんて……
「キュ? キュキュ!」
鬱屈していく過去への思い。まるで自分が悪者のような、そんな錯覚に囚われて、家族を求める事がそんなにおかしいのかと、存在しない誰かに不満をぶつけたくなる。
ジリジリと溢れ出す苛立ちの中、可愛らしい鳴き声の方へ視線を向けると、小さなドラゴンが俺の刀身に寄りかかっていた。
(リースか……どうした? シャーリーの側にいなくても良いのか?)
「キュー!」
怒りのままに怒鳴らぬよう、一匹でやって来た赤い竜に、なるべく優しい言葉をかける。すると、リースは最高の笑顔で、俺に鳴き声を上げてくれた。
(そっか、慰めてくれてるのか。ありがとな)
不平不満を一切漏らさず、献身的に努めてくれるチビを見ていると、小さい頃に飼っていた犬の姿を思い出す。そういやペロも、あんまり長く生きなかったっけ……もしかして俺って、死神?
(パパ、パパ)
思い起こされる傷心の記憶。黒い感情に潰されていく俺の心を救ったのは、頭に響く、幼い少女の笑い声。
(だ、誰だ!)
(難しく思い悩むことはありません。誰かを求めることは、人間として当たり前の行為ですから)
精神に直接語りかけて来るこの感覚、天道が使っていたものと同質だが、あいつの声にしては違和感を感じる。キャラ作り含めても、あいつのロリ声はこんなに落ち着いていない。なら、誰が……!?
(もしかして、リース? お前、なのか?)
(はい! パパと同じ波長を使って問いかけています)
驚きだった。ドラゴンとは言え、まさかリースにこんな能力があったなんて。
(誰かに甘えること、わたしはそれを悪いこととは思いません。母に甘え、父を敬う。それは種としての本能であり、否定することは傲慢であると考えます。もし仮に、母の愛情や温もりを悪いものと捉えるのであれば、その方は、女性に安らぎを求めずに生きてきたのですね。と私は問いたいです。母の愛と、妻の愛、似て非なるものではありますが、根幹は同じであり、求めるは必定。パパが求めるのであれば、リースは母にもなります。それに、男であるから甘えてはならないと言うのであれば、それは立派な差別です)
(えっと……難しいこと言うんだな、リースは)
当てずっぽうから始まったリースとの念話だったが、その内容は難しく、一気にまくしたてられたのもあって良くわからない。けど、リースが俺を元気づけようとしてくれている事だけは理解できる。
ただ、今の会話で耳に残った「母にも」って言葉、リースって、女の子だったんだな。幼竜に欲情する程の変態ではないが、女の子って言われると躊躇……は、しそうにないな。
(はい! これでもパパより長生きしてますから、リースは結構、かしこいんですよ)
小さな体でふんぞり返る可愛らしい姿を見せられて、人間として扱うのは無理がありすぎる。やっぱり彼女はチビ竜なペット、家族、かな。まったく、自信満々にドヤ顔して、大人なのか子供なのか。
(加えて、先程の問を否定する殿方は、女性のことを物同然に扱っているとも考えられます。相手を求めぬ関係など、支配欲を満たすためか生存本能、もしくは、尽くすための人形ですから。私なら、パパと求め合うような、濃密な恋がしたいです)
でも、考え方はしっかりしていて、自分の意志を表現できる所は俺なんかより大人だと思う。尽くすための人形って部分は少し耳が痛いけど、そういう考え方も……ん? 恋? 恋ってどういう事だ?
(感情がある以上、生物は心に闇を抱えます。しかしです、闇そのものは悪ではありません。闇と向き合い、何を成すか、試されているのはそこなのですよ。私がお慕いするパパは、そんな物には負けないと信じていま……す)
「キュー」
不可解な彼女の発言に頭を悩ませながら、続くリースの口撃に頷いていると、突然言葉の波が止み、ため息のような鳴き声が小さな口から聞こえてくる。
(ん? 大丈夫か?)
彼女の変化を心配し声をかけると、リースは眉をひそめながら、苦笑交じりに言葉を返す。
(ごめんなさい。なれない言葉と力の使い方で、少し、疲れてしまいました)
(良いよ、無茶すんな。ありがとうな)
(パパ――)
「キュキュキュ―、キューイ」
そこで思念が途切れると、彼女の鳴き声が辺り一帯にこだまする。一時的に、魔力が底をついてしまったらしい。
(ありがとな、リース)
疲労困憊になるまで励まし続けてくれた幼竜に、力一杯感謝の言葉を俺は述べる。リースの話は難しすぎて、言ってることの半分も理解できなかったけど、彼女が俺を心配し、受け入れようとしてくれている魅力的な女性である事は良くわかった。
こっちの世界に来てから俺は、本当に本当に、いい女の子達に恵まれてるよ。向こうの世界でもこんなだったら、なんて考えるのは、流石に罰当たりか。それに、そんな事言ったら、天道に泣かれるだろうしな。気づかなかったのは先輩でしょ! って。
「……リース? ……ここに……居た」
クタクタで座り込む幼竜の姿を眺めていると、リースを探しに来たシャーロットが、部屋の中へ入ってくる。そして、小さな体を見つけると、柔らかな両腕で、彼女を優しく抱き上げた。
「……トオル……が?」
(あぁ)
彼女の質問に反射的に頷いてしまったが、俺がリースをヘトヘトにしたとか思われてないだろうな? なんて不安になるも、そんな心配は何処吹く風と、腕の中に抱えたチビをシャーリーは優しく上下に揺らし始める。
良かった。リースにまでヤキモチ焼かれたら、心の休まる暇がない。それに、幼竜に慰められてたとか、男として立つ瀬ないしな。まっ、シャーリーがそれで幻滅するような、器の小さい女の子とは思ってないけど。
(そうしてるとまるで、母親みたいだよな。リースが俺達の子供でさ)
安心で気が緩んだのと、先程まで考えていた母への想いが重なり、彼女の動きが赤ん坊をあやす母親のように見えてしまって、そんな言葉を口走ってしまう。
「!? バ……バカ……」
(あ!? ご、ごめん。つい)
何気なく発した思わせぶりな発言に、そそくさとシャーリーは顔をそらし、俺も彼女から視線をはずす。甘ったるいこの感覚、好きだけど、ドキドキする。
(そ、そうだよな! その体だと、母親ってよりお姉ちゃんだよな)
早鐘を打つ動悸の音色を誤魔化すように俺は言葉を並べ立てるが、その内容は言い訳にすらなっていない。鳴り止まぬ音が彼女の耳に聞こえぬよう、ひたすら俺は視線を下にそらし続けた。
「……嫌じゃ……無い」
恥ずかしさから赤面する、二人の均衡を破ったのはシャーリーの方。潤んだ瞳を俺に向けると、彼女は懸命に、小さな口を動かしていく。
「……トオルの……子供……なら」
その言葉はとても甘美で、何もかもを忘れてしまいそうになる。
「……でも……まだ……違う……違う……から……っつ!」
夢心地の中に俺一人を叩き落とし、シャーリーは脱兎のごとく部屋を飛び出す。元気に鳴いたリースの声を最後に、俺の空間は静まり返った。
シャーリーに全身ハグされて、可愛い、大好き、なんて囁かれ続けた俺は、生気を吸いつくされたミイラのように疲れ果てている。
天道の激しい求愛に比べたらジャブみたいな言葉なのに、なんだこれ? 脳の奥が蕩け落ちそうだ。
もし、体の問題が解決されて、二人が一線を超えるような状況になったら、俺の精神持つんだろうか? まっ、そん時はそん時で、獣のように求め合えば……なんて、いい訳ねぇよなぁ。
そこは一番気を使わなきゃいけない所だし、乱れに乱れた挙げ句、できちゃった、なんて事になったら、男として最低だ。そうならないよう、もっと精神鍛えないと。
(それに、結構怒られたし)
最終的に納得してはもらえたものの、無鉄砲な今の俺じゃ、またいつか悲しませる。自分自信の扱いも、見直さないといけないか。
そう考えると、彼女の言葉で一番引っかかったのはなんだろう……
(……俺の命が軽い、か)
シャーリーからそう言われ、改めて気づいたことがある。いつからだろう、自分の死が怖く無くなったのは。
嫌われたくないって気持ちは依然としてあるし、生への執着が微塵も無いってことは無いと思う。それに、昔は何をするにも怯える、最低の軟弱者だった……だった、はずなのに。何がきっかけで、いつ死んでもいいなんて思うようになったのだろう。
大切なものができたから? 向こうで一度死んだから? 違う、違う気がする。いったい、いつだったか……
(……母さん)
悩みに悩んだ結果、俺が無意識に呟いたのはそんな言葉だった。ああ、そうか、結局俺はあの時の事を引きずったままなんだ。
(なんだかんだと理由をつけて、結局俺はマザコンなんじゃねえか)
口から振るえ出る、乾いた笑いが止まらない。何もできぬまま、目の前の現実から逃げ出して、後悔した挙げ句……
(はっ、罪滅ぼしのつもりかよ……だっせぇ)
心の底から湧き上がる、自虐の思いが止まらない。確かに俺は子供だった。でも、何かもっと出来たはずだ。
苦しむあの人の顔を見たくなくて、逃げて逃げて逃げまくって……本当に守りたかった物は、シャーリーだったのだろうか?
天道にスクルド、そして最愛の女性の姿さえも、母の面影がダブって歪む。もしかしたら俺は、自分の中の大切なものを、彼女達に押し付けていただけなのかもしれない。
(あれだけカッコつけといて、結局はただの自己満足。独りよがりかよ)
想いなんてものは、そう簡単に変えられないし、心の奥に刺さった棘なら、尚の事抜くのは難しい。そう考えると俺は、これから先、皆をずっと騙し続ける事になるのではないかと、罪悪感に苛まれていく。
大切なものを亡くし、周りとの距離感もわからなくなって……自分が嫌いなのもきっと、ここに起因してるんだ。昔の自分に振り回され、母を求めるこんな俺に、誰かを愛する資格なんて……
「キュ? キュキュ!」
鬱屈していく過去への思い。まるで自分が悪者のような、そんな錯覚に囚われて、家族を求める事がそんなにおかしいのかと、存在しない誰かに不満をぶつけたくなる。
ジリジリと溢れ出す苛立ちの中、可愛らしい鳴き声の方へ視線を向けると、小さなドラゴンが俺の刀身に寄りかかっていた。
(リースか……どうした? シャーリーの側にいなくても良いのか?)
「キュー!」
怒りのままに怒鳴らぬよう、一匹でやって来た赤い竜に、なるべく優しい言葉をかける。すると、リースは最高の笑顔で、俺に鳴き声を上げてくれた。
(そっか、慰めてくれてるのか。ありがとな)
不平不満を一切漏らさず、献身的に努めてくれるチビを見ていると、小さい頃に飼っていた犬の姿を思い出す。そういやペロも、あんまり長く生きなかったっけ……もしかして俺って、死神?
(パパ、パパ)
思い起こされる傷心の記憶。黒い感情に潰されていく俺の心を救ったのは、頭に響く、幼い少女の笑い声。
(だ、誰だ!)
(難しく思い悩むことはありません。誰かを求めることは、人間として当たり前の行為ですから)
精神に直接語りかけて来るこの感覚、天道が使っていたものと同質だが、あいつの声にしては違和感を感じる。キャラ作り含めても、あいつのロリ声はこんなに落ち着いていない。なら、誰が……!?
(もしかして、リース? お前、なのか?)
(はい! パパと同じ波長を使って問いかけています)
驚きだった。ドラゴンとは言え、まさかリースにこんな能力があったなんて。
(誰かに甘えること、わたしはそれを悪いこととは思いません。母に甘え、父を敬う。それは種としての本能であり、否定することは傲慢であると考えます。もし仮に、母の愛情や温もりを悪いものと捉えるのであれば、その方は、女性に安らぎを求めずに生きてきたのですね。と私は問いたいです。母の愛と、妻の愛、似て非なるものではありますが、根幹は同じであり、求めるは必定。パパが求めるのであれば、リースは母にもなります。それに、男であるから甘えてはならないと言うのであれば、それは立派な差別です)
(えっと……難しいこと言うんだな、リースは)
当てずっぽうから始まったリースとの念話だったが、その内容は難しく、一気にまくしたてられたのもあって良くわからない。けど、リースが俺を元気づけようとしてくれている事だけは理解できる。
ただ、今の会話で耳に残った「母にも」って言葉、リースって、女の子だったんだな。幼竜に欲情する程の変態ではないが、女の子って言われると躊躇……は、しそうにないな。
(はい! これでもパパより長生きしてますから、リースは結構、かしこいんですよ)
小さな体でふんぞり返る可愛らしい姿を見せられて、人間として扱うのは無理がありすぎる。やっぱり彼女はチビ竜なペット、家族、かな。まったく、自信満々にドヤ顔して、大人なのか子供なのか。
(加えて、先程の問を否定する殿方は、女性のことを物同然に扱っているとも考えられます。相手を求めぬ関係など、支配欲を満たすためか生存本能、もしくは、尽くすための人形ですから。私なら、パパと求め合うような、濃密な恋がしたいです)
でも、考え方はしっかりしていて、自分の意志を表現できる所は俺なんかより大人だと思う。尽くすための人形って部分は少し耳が痛いけど、そういう考え方も……ん? 恋? 恋ってどういう事だ?
(感情がある以上、生物は心に闇を抱えます。しかしです、闇そのものは悪ではありません。闇と向き合い、何を成すか、試されているのはそこなのですよ。私がお慕いするパパは、そんな物には負けないと信じていま……す)
「キュー」
不可解な彼女の発言に頭を悩ませながら、続くリースの口撃に頷いていると、突然言葉の波が止み、ため息のような鳴き声が小さな口から聞こえてくる。
(ん? 大丈夫か?)
彼女の変化を心配し声をかけると、リースは眉をひそめながら、苦笑交じりに言葉を返す。
(ごめんなさい。なれない言葉と力の使い方で、少し、疲れてしまいました)
(良いよ、無茶すんな。ありがとうな)
(パパ――)
「キュキュキュ―、キューイ」
そこで思念が途切れると、彼女の鳴き声が辺り一帯にこだまする。一時的に、魔力が底をついてしまったらしい。
(ありがとな、リース)
疲労困憊になるまで励まし続けてくれた幼竜に、力一杯感謝の言葉を俺は述べる。リースの話は難しすぎて、言ってることの半分も理解できなかったけど、彼女が俺を心配し、受け入れようとしてくれている魅力的な女性である事は良くわかった。
こっちの世界に来てから俺は、本当に本当に、いい女の子達に恵まれてるよ。向こうの世界でもこんなだったら、なんて考えるのは、流石に罰当たりか。それに、そんな事言ったら、天道に泣かれるだろうしな。気づかなかったのは先輩でしょ! って。
「……リース? ……ここに……居た」
クタクタで座り込む幼竜の姿を眺めていると、リースを探しに来たシャーロットが、部屋の中へ入ってくる。そして、小さな体を見つけると、柔らかな両腕で、彼女を優しく抱き上げた。
「……トオル……が?」
(あぁ)
彼女の質問に反射的に頷いてしまったが、俺がリースをヘトヘトにしたとか思われてないだろうな? なんて不安になるも、そんな心配は何処吹く風と、腕の中に抱えたチビをシャーリーは優しく上下に揺らし始める。
良かった。リースにまでヤキモチ焼かれたら、心の休まる暇がない。それに、幼竜に慰められてたとか、男として立つ瀬ないしな。まっ、シャーリーがそれで幻滅するような、器の小さい女の子とは思ってないけど。
(そうしてるとまるで、母親みたいだよな。リースが俺達の子供でさ)
安心で気が緩んだのと、先程まで考えていた母への想いが重なり、彼女の動きが赤ん坊をあやす母親のように見えてしまって、そんな言葉を口走ってしまう。
「!? バ……バカ……」
(あ!? ご、ごめん。つい)
何気なく発した思わせぶりな発言に、そそくさとシャーリーは顔をそらし、俺も彼女から視線をはずす。甘ったるいこの感覚、好きだけど、ドキドキする。
(そ、そうだよな! その体だと、母親ってよりお姉ちゃんだよな)
早鐘を打つ動悸の音色を誤魔化すように俺は言葉を並べ立てるが、その内容は言い訳にすらなっていない。鳴り止まぬ音が彼女の耳に聞こえぬよう、ひたすら俺は視線を下にそらし続けた。
「……嫌じゃ……無い」
恥ずかしさから赤面する、二人の均衡を破ったのはシャーリーの方。潤んだ瞳を俺に向けると、彼女は懸命に、小さな口を動かしていく。
「……トオルの……子供……なら」
その言葉はとても甘美で、何もかもを忘れてしまいそうになる。
「……でも……まだ……違う……違う……から……っつ!」
夢心地の中に俺一人を叩き落とし、シャーリーは脱兎のごとく部屋を飛び出す。元気に鳴いたリースの声を最後に、俺の空間は静まり返った。
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