俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第四章 地底に眠りし幼竜姫

第216話 想いをぶつけて 後編

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(バルカイトにさ色々言われたよ、シャーリーを救ったのも、ベルシュローブを救ったのも俺だって。だから自信を持とうと思った。目の前のシャーリーが、今こうやって笑って泣いて怒って、俺といて幸せだって感じてくれるのは、二人があそこで出会えたからなんだって。でも、シャーリーの進む道の中で、俺がお荷物になるっていうなら、潔く切り捨てて欲しい。俺は君を守るためにここに居る。決して、道を曲げさせるために居るわけじゃないんだ)

 彼女の言動が俺を中心として成り立っているように、俺の想いも彼女が居なければ成立しないことを説明する。けど、すぐに理解できるはずもなく、彼女はまだ泣き乱れることをやめない。

「……わかんない……わかんないよぉ……なんでそこまでできるの? ……私のためなんかになんで……なんで……命を粗末にできるの?」

 普段見せない弱気な彼女の表情が、心から愛おしい。王女としてでなく、神聖使者セイクリッドとしてでなく、ただのシャーロットとしての姿。俺にしか見せてくれない、たった一つのシャーロット。

 少女としての儚さが、本当に本当に可憐すぎて、抱きしめてしまいたくなる。

(俺としては、粗末にしてるつもりはないんだけどな。それに、命を懸ける理由なんてそれこそ愚問だろ? シャーリーのことが、好きで好きで大好きで、目に入れても痛くないぐらい、好きで好きでたまらないからだよ)

 そんな彼女を正面から見つめ、俺に出来る最大級の愛情表現でぶつかると、彼女は少しだけ目を見開いたような気がする。でもまだだ、まだ俺の思いは伝わりきっていない。

(まあその、いくら大切な人だからって自分の命には変えられない、自分のほうが大切だってやつのほうが世の中には多いと思う。そりゃ当然だよな、命なんて一つしか無いんだから。でもさ、世の中にはたまに俺みたいなバカが居て、誰かのために何かしてないと幸せを感じられない、自分の命より大切な人が大事、そんな変態も居るんだよ)

 世界は否定するかもしれない。けどそれが、俺が人間に描く理想の形。誰かのために何かが出来て、皆で幸せを作れる。人間ってのはそういう生き物だって、俺は信じていたいんだ。

「……なんで……そんな風に……思える……の?」

 そんな俺の理想を聞いて、彼女の表情に少しずつ変化が訪れる。向こう見ずな俺の事を心配してくれてるのかな? なんて思いつつ、自分の想いを精一杯語っていく。

(そうだな……自信を持とう、って言ったばかりだけどさ、結局の所俺は、自分に自信が持てないんだと思う。自分の生きてる価値ってやつを、見つけられねぇんだわ俺。バカだろ? 超大バカだろ? だからせめて、何かを守りたい、誰かの助けになりたいって、ずっと正義の味方に憧れてきた。でもそれで何ができたわけでもなくて、俺なんかいつ死んでもいいって、ずっと思って生きてきたんだ)

 彼女には話していなかったと思う、こんな自分の情けない姿。大きな憧れに近づけなかった俺は自分にも世界にも絶望し、どうしようもなく、くすぶりながら生きてきた。本当に、いつ死んでも良いと思いながら。

(だからさ、向こうの世界で死んだ時、正直なところ何も思わなくて、くだらない人生からやっと解放されたって、せいせいしたぐらいだったよ。そしたらさ、異世界転生して世界を救いませんかって言われて、俺は喜んでその提案に飛びついた。飛びついたけどさ、俺ってバカだからカッコつけて、勇み足踏んだ結果が……これだよ)

 そんな中起きた、夢のようなシチュエーション。あり得ないと思っていた事が起きて、現実も捨てたもんじゃないなって興奮した。まぁ、その結果がこの体なわけで、結局自分はバカなんだって、痛感させられただけだけど。

(それでも、頑張ろうって思った。ダメそうな持ち主だったけど、何かを成したいって気持ちはわかったから。けど、そんなやつにもあっさり見限られて、結局俺は、何もできない屑なんだって改めて思い知らされた。そんな中、俺の目の前に、一人の女の子が現れたんだ)

「……それって……私?」

(あぁ。深い絶望のどん底で、俺は君と、シャーリーと出会った)

 けど、悪いことばかりじゃなくて、シンジとは上手くやれなかったけど、俺はシャーリーと、運命の女性と出会うことができた。

(もちろん最初は戸惑ったし、また捨てられるんじゃないかっていう恐怖もあった。話を聞いて、信じて見たいと思いながら、復讐って言葉に、不安で心がいっぱいだった時もある。それからも、何度かピンチになったり、死にかけたりで大変だったけど、俺、これでも幸せなんだぜ)

 それからはもう激動の毎日で、向こうの世界じゃ考えられないスリリングな体験と、あり得ないぐらいの女の子達に囲まれて、苦労を苦労と思えないぐらい、幸福に満ち溢れていた。そこには当然、シャーロットが居たから。

(シャーリーと一緒に居て、シャーリーのために何かができる。正義の味方にはなれなかったし、後悔もいっぱいしてるけどさ、正直なところ、人間でいた時よりも充実してるんだ。生きてるって実感があるんだよ)

 彼女が居なければきっと、この世界にも俺は絶望していたと思う。人生ってのは、出会った相手で決まるって言葉の意味を、俺は彼女と出会って理解したのかもしれない。

(そりゃもちろん、シャーリーと離れ離れになるのは嫌さ。二人で戦いの無い、のんびりとした……ちょっぴりエッチな生活をおくるっていうのも悪くないと思ってる。でもそれは、将来的な話であって今じゃない。戦いに勝って、戦いを終わらせて、そうやって手に入れるご褒美だと俺は思ってるんだ。だってシャーリーは、そのために俺を掴んだんだから。そうだろ?)

 そして、歳相応の未経験男子の気持ちを交えながら、俺が今どうしたいのかを説明すると、彼女は俺の問に小さく頷いてくれる。

(それに、俺だってわからないんだ。シャーリーを好きになっていく度、自分が男だって思い直す度、自分が剣なんだって痛感させられていく。俺には人並みの幸せは作れ無いんだって……それ以上に、人並みの幸せをお前に与えてやれないんだって。そう考えると、苦しくて苦しくて仕方がなくて、君を愛して良いのかわからなくなる)

 人並みの幸せを与えられない。自分で言いながら、危うく自分で泣きそうになる。人間と思われてるなら尚の事、男として悔しく感じたんだ。

(だからさ、シャーリーが俺を好きだって思ってくれるなら、俺のこと使って欲しい。俺ができる、俺にしかできない方法で、君を幸せに、君の役に立ちたいから)

 けど、そんな自分だからこそ出来ることもある。愛の形なんて千差万別、俺は俺の最大限で、彼女の愛に報いたい。

(それに、俺は死なねぇ。こんな良い女が好いてくれてるっていうのに、死んでなんていられねえよ。だからさ、シャーリーは思い切り俺を使え。自分の思うとおりに俺を使って戦って欲しい。自分のために、国のために、そして、俺のためにさ)

 迷いに迷ってたどり着いた、俺なりの答え。自分の殻に閉じこもって、何をしてもうまくいかない、そんな自分はもう嫌だから。だから守り通す、どんな事があっても守り通す。だって俺は何よりも、シャーリーの事が大好きだから。

 後は彼女の気持ち次第。どんな返答が返ってこようと、全てを受け入れる覚悟で構えていると、彼女は突然俺を床に置き、その体を四つん這いにして覆いかぶさってくる。

「……幸せだよ……十分……幸せだよ……だって……こんないい男に……愛して……貰えてるんだから」

 その瞬間、俺の心臓は、破裂するぐらい大きな音を立て始めた。悲壮な表情を見せながら精一杯話す彼女の言葉は、俺に対する愛情で満ちあふれていて、二人の好きが、初めて心の奥で繋がった気がする。

 けど、その返しは卑怯すぎるだろ。確かに俺もいい女とは言ったけどさ……

 床ドンのようなシチュエーションに、真っ赤に腫らした彼女の泣き顔。呼吸も出来ない息苦しさに、俺はもうおかしくなりそうだった。

「……ごめん……ごめんねトオル……私……泣いてばっかりだ」

(き、気にすんなよ。何も考えないで素直に泣けるのは、俺の前でだけ……なんだろ? ってそれはちょっと自惚れ過ぎか)

 彼女を見ているだけで、怖いぐらいに心臓が跳ね上がる。声も自然と掠れてしまって、動揺がきっとバレバレだろうな。笑顔で頷いてるだけなのに、それだけなのに、本当に可愛いらしい。

「……じゃあ……私からも……ひとつ」

(お、おう)

 改めて認識させられる彼女の美しさに見惚れ果て、俺はもう会話すらまともに出来そうにない。そして、全てを開放したシャーロットは、男の俺を堕落の底に引きずり込もうとしてくる。

「……トオルは……騎士様で……英雄……だよ」

(は……はあ!?)

 想定外の言葉を柄横で艶めかしく囁かれ、頭の中は完全にパニックに陥る。自分の中が、シャーロットという名の天使に支配されていくようで、快楽を超えた恐怖すら感じてしまう。

(いや、おま、ちょっ、何を――)

「……騎士に……必要なのは……守りたい……そういう心」

 それだけでもやばいのに、突然変わった彼女の口調に、今度は緊張で何も言い返せなくなる。優しくも気高い孤高の姫騎士。それもまた、俺の愛するシャーロット・リィンバースなのだ。

 ただ、続けて追い打ちとか、俺の体が持たない。

「……トオルは……私の事……憧れの騎士って言った……けど……私にとってトオルは……守ってくれる騎士……私だけの……騎士様……私だけの……英雄……私だけの……だ……だ……大切な人……だから」

 騎士に英雄、そんな風に彼女から言われるのはめちゃくちゃ恥ずかしかったけど、それは小さな憧れで、俺は凄く嬉しかった。でも、最後のダダってなんだろう? 特撮の怪獣かな? なんて呑気な事を考えていると、彼女は俺の刀身を抱きしめ、地面にゴロンと寝転んでしまう。

(!? そ、そんなとこで寝たら 服、汚れるって)

「……いい……トオル……可愛い」

 そして、汚れる服など気にせず、シャーリーは妖艶な声で、甘い言葉を囁きかけてくる。

「……好き……好き……大好き……トオル」

 抑揚は控えめながらも、子供のように甘えてくる熱烈なシャーリーの愛情表現に、体の中が、隅から隅まで侵されていく。溢れんばかりの匂いや、猫のように撫で回されるキューティクルな声に、童貞の俺はオランウータンのような奇声を口から自然と発してしまった。

「フフッ……よろしくね……私の……騎士くん」

 甘美な声に転がされる情けない俺の姿を見て、突然お姉さんぶった彼女の発言に、俺の耳は完全にノックアウトされていた。
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