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第四章 地底に眠りし幼竜姫
第207話 見捨てたりなんかしない
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(ゴモリーの時さ)
「……うん」
(ゴモリーと戦った時の俺はさ、あんな状況にも関わらず、襲われそうになったシャーリーの顔を見て、不覚にも欲情した。当然、お前の体にもめちゃくちゃビンビンになって、自分がおかしくなりそうだったのをよく覚えてる。でも、ベリトの時はさ、なーんも興奮しなかったんだ。シャーリーの匂いとか、胸の感触とか、少しぐらいの誘惑はあったけど、あの時みたいに背徳的に感じるものは全然なくて……なんか、自分を正当化してるみたいで、嫌なんだよ)
両方共、同じ襲われている状況なのに、命の危険が無い時は、獣みたいに興奮して、彼女が死にかけている時は、子供みたいに駄々をこねる。そんな自分が、最低のクズに思えてきて、彼女への思いが全部嘘なんじゃないかって、自分がもっと嫌いになった。
「えーと、とりあえず言うね。私に興奮してくれたのは、素直に嬉しい」
苦しくて苦しくて、深刻な話のはずなのに、目の前ではにかむ淫魔の笑顔が、地獄から俺を救ってくれる。
「それに、一応あの人色欲の魔神だし、私が出してたサキュバスフェロモンだってあるでしょ? だから、あの時の先輩は、あれでしょうがなかったんだと、私は思うんだよね」
(でも、俺の性癖は、お前も知ってんだろ)
「うん! 先輩がファンタジーエロス大好きで、超非現実的な事に興奮する変態さんなのは、存じるところだよ」
(だろ? そんな俺だから、ゴモリーにもお前にも抗えなくて……二次元と三次元の区別もつかない、ブタ野郎なんだよ、きっと)
でも、心の奥の根付きは深くて、そんな自分は何なんだろう、生きてて良いのかなって思いは、一つの笑顔で消えるようなものじゃない。
「んー、要するに先輩は、怖いんだよね。いつか自分の欲に負けて、どんなにむごい状況でも、私達に手を出すんじゃないかって。で、その感情を払拭できないまま変わっていく自分が、更に怖くてたまらない、と」
とぼけた顔してるくせに、なんでこいつは、すぐにわかってくれるのか。俺からすれば、そっちの方が怖いぐらいだ。
「でも、それってさ、考えようによっては、成長してるってことなんじゃないかな?」
(成長?)
「うん。先輩はさ、色欲に流された時、大切な人を壊しちゃうんじゃないかって、ずっと思って来たんだよね? 自分の中にある妄想みたいに、苦しんでる私達を、いつか辱めちゃうんじゃないかって。でも、二度目の同じ状況を味わって、同じ感情がわかなくなった事に戸惑ってる。どこまでが自分で、どこまでが自分じゃないのか。何が理性で、何が欲望なのかってさ」
彼女が言葉にした事は、大方合っていると思う。自分の中の獣の欲と、彼女達へのおしみない愛。どれが本当の自分なのか、俺自身よくわからない。
「私も上手く説明できないけど、二回目が、本当の先輩なんじゃないかな。一回目はほら、エロくなっちゃう要素いっぱいあったし。それに、エロい欲望をはねのけて、純粋にシャーロットを守りたくなった。そういう心の成長もあるんじゃないかなって、私は思ったりするんだよね」
(変われてるのかな、俺)
「うん! 先輩は少しずつ、成長してると思う」
嘘偽りのない、彼女の純粋な笑顔。その輝きに、俺はまた涙を流しそうになる。嬉しかったんだ。彼女の言葉が本当なら、知らず知らずのうちに、俺は成長できていたんだって。
「人間ってさ、不思議だよね。悪いと思ってることでも、案外あっさりできちゃったり、自分で考えてる事と真逆のことしちゃったりさ。真面目に考えると、悩みのタネはほんとに尽きない」
そして、時たま見せる、哲学的な彼女の顔。その言葉は、今の自分を見透かされているようで、少しだけ怖い。
「先輩は、確かに変態さんだけど、それをシャーロットにしたいとか、私にしたいとか、普段からは考えて無いんだよね?」
(あ、当たり前だろ! 誰が好き好んで、好きな女に触手けしかけるんだよ)
「触手って、も~、先輩は本当に、先輩なんだから」
そんな彼女の質問に、慌てて真面目に答えた俺は、困り笑いを浮かべる淫魔に、少しだけ不満を覚える。
「なら大丈夫。先輩は、妄想と現実の区別がついてるよ。偶発的に起きるエロイベントは、とりあえず楽しんじゃえ!」
女の子に肯定してもらえるのは嬉しかったけど、自分からエロを楽しめっていうのは、倫理的にどうかと思う。それに、天道の起こすエロイベントを楽しんだら、確実に彼女の思う壺で、俺の貞操がヤバい。
「それに、妄想ってのはそれを抑えるためのはけ口だったりするわけだし、夢の中でぐらい、悪い事したいじゃん。私だってほら、先輩のことヒィヒィ泣かせてみたいとか、少しぐらいは考えたことあるし。まぁ、実際今ならできるんだけど……ね、してないっしょ」
だってほら、こんなこと言ってるんですよ。遠慮なく楽しんだら、付け込まれて、ボロ雑巾になるぐらい、魔力を搾り取られること間違いなし。
わかっていた事だけど、こいつが本気を出したら、俺なんてすぐ、喘ぐだけの魔剣に成り果てるんだろうな。四肢もないから抵抗のしようもないし、そういう意味ではちょっと怖い。
けど、彼女の恐ろしさは、俺の想像の斜め上を、駆け抜けて行くのである。
「ダイジョブダイジョブ、怖いって思えてるなら、現実じゃ絶対しないって。それに、もしその一線を超えたくなったら、私が全部受け止めてあげる。先輩が、私の声をおかずにしてたみたいにね!」
絶句した。何故って? 俺が一番知られたくなかったことを、一番知られたくなかった本人に、知られていたからである。
「フフフッ、先輩が私のダメボと悲鳴で興奮してたのは知ってるんだからね~。因みに、二年目の頭ぐらいから質上がったでしょ。あれ、先輩に聞かせるために気合い入れたかんね!」
世の女性の皆様方からは、軽蔑の眼差しを向けられる事と思いますが、声優さんの演技というのは本当に凄くてですね、悲鳴にまで魂がこもっているせいか、やけに艶かしく、エロく聞こえるものなんですよ。
その声が、ふと遺伝子レベルで琴線に触れると、男として覚醒したりする訳で……だって、しょうがないじゃないか! あの大好きな薙沙ちゃんの声で、キャアとかアンとか真に迫った演技で言われたら、体が反応するんですよ、反射的に! しかも、それを本人が理解してやってたとか、恥ずかしすぎて、もうお婿にイケない。
「も~、私だから良いけどさ、他の子でするのはやめなよ。そういう目的でお仕事してるわけじゃないんだから」
すいません、すいません。もう色んな意味で弁明の余地もございません。
「でもま、悲鳴って喘ぎ声に近いところあるし、無意識レベルで生物としての支配欲が高まるのも、理解はできるんだよね。知り合いにもさ、少年漫画のアニメなのに、あのキャラの負け試合そそられるよね、とか、あの人の悲鳴が最高で、とか言っちゃう女性の方もおりましたし。男だから―とか、女だから―なんて言うつもり、私はないよ。因みにその人、普段はめっちゃ常識人で、めっちゃ優しい」
そんな慰めで安心してはいけないのだろうけど、異性にも同族がいると聞かされると、そこはやっぱり安心する。理解の深い後輩を持ったことも、ある意味幸運だったのかもしれない。
まぁ、その後輩も、ある意味俺より酷かったり、業界人であることがネックだったりするんだけどさ。憧れのアイドルが俺のストーカーとか、喜ぶべきか、悲しむべきか、思い出す度に、未だに複雑な気持ちになる。
「だから、あんまり深く考えなくていいと思うなー。確かに、他の人に聞かれたら恥ずかしい事かもしんないけど、だいたい皆一つぐらいはそういうの持ってるし、先輩は、先輩らしくいればいいんだよ。もちろん! 思考停止してリアルに持ち込むのは駄目だかんね!」
それに、釘を刺されなくても、そんな事はわかってるさ。実際に女の子が泣く所なんて、見たって何も楽しくないし、苦しいだけって、俺は十二分に味合わされたんだから。
「でも、本当に悩んでるのはそこじゃないっしょ?」
自分のネジ曲がった部分、それが女の子に対する引け目になっているのは間違いない。けど、俺が今悩んでいるのはそれじゃない。
「大丈夫、何があっても、あの子は先輩を見捨てないよ」
肉付きの良い、彼女のムッチリとした包容力。それに優しく包まれて、俺はまた妖艶の世界へ堕ちていく。
(天道……)
「いつも言ってるじゃんか、先輩の声は全部聞こえてるって」
シャーリーもたまにそんな事を言うけど、天道のそれは比じゃなくて、俺の全てを掌握されているような、そういった次元の狂気を感じる。
「それに、あの子がこの程度のへんたいで、先輩の事を見限るなら好都合。だって~、私が変わりに、先輩のこと拾っちゃうんだから! ね、安心っしょ!」
怖い。そう思いながらも、彼女の笑顔を見ていると、言いしれない不安にかられていく。見えないんだ、彼女の本音が。
俺の全てがわかるからこそ、役者と言う名の仮面を被っているような気がして、彼女の行動が、全て嘘なのではないかと思えてしまう。
「しかも、ひろうのは捨てられた時だけっていうね。二番手ってのはちゃんと守るんだから! フッふーん。こんなに寛大な愛人を持ったことを、少しは感謝してくたまえよ、先輩君」
けれど、こんなにも真っ直ぐな笑みなのだから、彼女の事を、俺は信じてみようと思う。もし、偽りの仮面なら、彼女がそれを外して、心から甘えられる時まで、俺は騙され続けてやる……って、それはそれで不味いのか。サキュバスに本気で甘えられたら、理性を繋ぎ止められる自信がない。
やっぱりこの関係って、複雑。
「……うん」
(ゴモリーと戦った時の俺はさ、あんな状況にも関わらず、襲われそうになったシャーリーの顔を見て、不覚にも欲情した。当然、お前の体にもめちゃくちゃビンビンになって、自分がおかしくなりそうだったのをよく覚えてる。でも、ベリトの時はさ、なーんも興奮しなかったんだ。シャーリーの匂いとか、胸の感触とか、少しぐらいの誘惑はあったけど、あの時みたいに背徳的に感じるものは全然なくて……なんか、自分を正当化してるみたいで、嫌なんだよ)
両方共、同じ襲われている状況なのに、命の危険が無い時は、獣みたいに興奮して、彼女が死にかけている時は、子供みたいに駄々をこねる。そんな自分が、最低のクズに思えてきて、彼女への思いが全部嘘なんじゃないかって、自分がもっと嫌いになった。
「えーと、とりあえず言うね。私に興奮してくれたのは、素直に嬉しい」
苦しくて苦しくて、深刻な話のはずなのに、目の前ではにかむ淫魔の笑顔が、地獄から俺を救ってくれる。
「それに、一応あの人色欲の魔神だし、私が出してたサキュバスフェロモンだってあるでしょ? だから、あの時の先輩は、あれでしょうがなかったんだと、私は思うんだよね」
(でも、俺の性癖は、お前も知ってんだろ)
「うん! 先輩がファンタジーエロス大好きで、超非現実的な事に興奮する変態さんなのは、存じるところだよ」
(だろ? そんな俺だから、ゴモリーにもお前にも抗えなくて……二次元と三次元の区別もつかない、ブタ野郎なんだよ、きっと)
でも、心の奥の根付きは深くて、そんな自分は何なんだろう、生きてて良いのかなって思いは、一つの笑顔で消えるようなものじゃない。
「んー、要するに先輩は、怖いんだよね。いつか自分の欲に負けて、どんなにむごい状況でも、私達に手を出すんじゃないかって。で、その感情を払拭できないまま変わっていく自分が、更に怖くてたまらない、と」
とぼけた顔してるくせに、なんでこいつは、すぐにわかってくれるのか。俺からすれば、そっちの方が怖いぐらいだ。
「でも、それってさ、考えようによっては、成長してるってことなんじゃないかな?」
(成長?)
「うん。先輩はさ、色欲に流された時、大切な人を壊しちゃうんじゃないかって、ずっと思って来たんだよね? 自分の中にある妄想みたいに、苦しんでる私達を、いつか辱めちゃうんじゃないかって。でも、二度目の同じ状況を味わって、同じ感情がわかなくなった事に戸惑ってる。どこまでが自分で、どこまでが自分じゃないのか。何が理性で、何が欲望なのかってさ」
彼女が言葉にした事は、大方合っていると思う。自分の中の獣の欲と、彼女達へのおしみない愛。どれが本当の自分なのか、俺自身よくわからない。
「私も上手く説明できないけど、二回目が、本当の先輩なんじゃないかな。一回目はほら、エロくなっちゃう要素いっぱいあったし。それに、エロい欲望をはねのけて、純粋にシャーロットを守りたくなった。そういう心の成長もあるんじゃないかなって、私は思ったりするんだよね」
(変われてるのかな、俺)
「うん! 先輩は少しずつ、成長してると思う」
嘘偽りのない、彼女の純粋な笑顔。その輝きに、俺はまた涙を流しそうになる。嬉しかったんだ。彼女の言葉が本当なら、知らず知らずのうちに、俺は成長できていたんだって。
「人間ってさ、不思議だよね。悪いと思ってることでも、案外あっさりできちゃったり、自分で考えてる事と真逆のことしちゃったりさ。真面目に考えると、悩みのタネはほんとに尽きない」
そして、時たま見せる、哲学的な彼女の顔。その言葉は、今の自分を見透かされているようで、少しだけ怖い。
「先輩は、確かに変態さんだけど、それをシャーロットにしたいとか、私にしたいとか、普段からは考えて無いんだよね?」
(あ、当たり前だろ! 誰が好き好んで、好きな女に触手けしかけるんだよ)
「触手って、も~、先輩は本当に、先輩なんだから」
そんな彼女の質問に、慌てて真面目に答えた俺は、困り笑いを浮かべる淫魔に、少しだけ不満を覚える。
「なら大丈夫。先輩は、妄想と現実の区別がついてるよ。偶発的に起きるエロイベントは、とりあえず楽しんじゃえ!」
女の子に肯定してもらえるのは嬉しかったけど、自分からエロを楽しめっていうのは、倫理的にどうかと思う。それに、天道の起こすエロイベントを楽しんだら、確実に彼女の思う壺で、俺の貞操がヤバい。
「それに、妄想ってのはそれを抑えるためのはけ口だったりするわけだし、夢の中でぐらい、悪い事したいじゃん。私だってほら、先輩のことヒィヒィ泣かせてみたいとか、少しぐらいは考えたことあるし。まぁ、実際今ならできるんだけど……ね、してないっしょ」
だってほら、こんなこと言ってるんですよ。遠慮なく楽しんだら、付け込まれて、ボロ雑巾になるぐらい、魔力を搾り取られること間違いなし。
わかっていた事だけど、こいつが本気を出したら、俺なんてすぐ、喘ぐだけの魔剣に成り果てるんだろうな。四肢もないから抵抗のしようもないし、そういう意味ではちょっと怖い。
けど、彼女の恐ろしさは、俺の想像の斜め上を、駆け抜けて行くのである。
「ダイジョブダイジョブ、怖いって思えてるなら、現実じゃ絶対しないって。それに、もしその一線を超えたくなったら、私が全部受け止めてあげる。先輩が、私の声をおかずにしてたみたいにね!」
絶句した。何故って? 俺が一番知られたくなかったことを、一番知られたくなかった本人に、知られていたからである。
「フフフッ、先輩が私のダメボと悲鳴で興奮してたのは知ってるんだからね~。因みに、二年目の頭ぐらいから質上がったでしょ。あれ、先輩に聞かせるために気合い入れたかんね!」
世の女性の皆様方からは、軽蔑の眼差しを向けられる事と思いますが、声優さんの演技というのは本当に凄くてですね、悲鳴にまで魂がこもっているせいか、やけに艶かしく、エロく聞こえるものなんですよ。
その声が、ふと遺伝子レベルで琴線に触れると、男として覚醒したりする訳で……だって、しょうがないじゃないか! あの大好きな薙沙ちゃんの声で、キャアとかアンとか真に迫った演技で言われたら、体が反応するんですよ、反射的に! しかも、それを本人が理解してやってたとか、恥ずかしすぎて、もうお婿にイケない。
「も~、私だから良いけどさ、他の子でするのはやめなよ。そういう目的でお仕事してるわけじゃないんだから」
すいません、すいません。もう色んな意味で弁明の余地もございません。
「でもま、悲鳴って喘ぎ声に近いところあるし、無意識レベルで生物としての支配欲が高まるのも、理解はできるんだよね。知り合いにもさ、少年漫画のアニメなのに、あのキャラの負け試合そそられるよね、とか、あの人の悲鳴が最高で、とか言っちゃう女性の方もおりましたし。男だから―とか、女だから―なんて言うつもり、私はないよ。因みにその人、普段はめっちゃ常識人で、めっちゃ優しい」
そんな慰めで安心してはいけないのだろうけど、異性にも同族がいると聞かされると、そこはやっぱり安心する。理解の深い後輩を持ったことも、ある意味幸運だったのかもしれない。
まぁ、その後輩も、ある意味俺より酷かったり、業界人であることがネックだったりするんだけどさ。憧れのアイドルが俺のストーカーとか、喜ぶべきか、悲しむべきか、思い出す度に、未だに複雑な気持ちになる。
「だから、あんまり深く考えなくていいと思うなー。確かに、他の人に聞かれたら恥ずかしい事かもしんないけど、だいたい皆一つぐらいはそういうの持ってるし、先輩は、先輩らしくいればいいんだよ。もちろん! 思考停止してリアルに持ち込むのは駄目だかんね!」
それに、釘を刺されなくても、そんな事はわかってるさ。実際に女の子が泣く所なんて、見たって何も楽しくないし、苦しいだけって、俺は十二分に味合わされたんだから。
「でも、本当に悩んでるのはそこじゃないっしょ?」
自分のネジ曲がった部分、それが女の子に対する引け目になっているのは間違いない。けど、俺が今悩んでいるのはそれじゃない。
「大丈夫、何があっても、あの子は先輩を見捨てないよ」
肉付きの良い、彼女のムッチリとした包容力。それに優しく包まれて、俺はまた妖艶の世界へ堕ちていく。
(天道……)
「いつも言ってるじゃんか、先輩の声は全部聞こえてるって」
シャーリーもたまにそんな事を言うけど、天道のそれは比じゃなくて、俺の全てを掌握されているような、そういった次元の狂気を感じる。
「それに、あの子がこの程度のへんたいで、先輩の事を見限るなら好都合。だって~、私が変わりに、先輩のこと拾っちゃうんだから! ね、安心っしょ!」
怖い。そう思いながらも、彼女の笑顔を見ていると、言いしれない不安にかられていく。見えないんだ、彼女の本音が。
俺の全てがわかるからこそ、役者と言う名の仮面を被っているような気がして、彼女の行動が、全て嘘なのではないかと思えてしまう。
「しかも、ひろうのは捨てられた時だけっていうね。二番手ってのはちゃんと守るんだから! フッふーん。こんなに寛大な愛人を持ったことを、少しは感謝してくたまえよ、先輩君」
けれど、こんなにも真っ直ぐな笑みなのだから、彼女の事を、俺は信じてみようと思う。もし、偽りの仮面なら、彼女がそれを外して、心から甘えられる時まで、俺は騙され続けてやる……って、それはそれで不味いのか。サキュバスに本気で甘えられたら、理性を繋ぎ止められる自信がない。
やっぱりこの関係って、複雑。
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