202 / 526
第四章 地底に眠りし幼竜姫
第201話 アダムと三人のイブ
しおりを挟む
「こ……こは」
二つのまぶたが開いた瞬間、感じたのは最近慣れた独特の浮遊感。
物のように持ち上げられ、すごい速さで振り回されるなんて経験、巨人族とでも戦わなきゃそうそう味わえるものでもないだろう。それに、巨人に捕まったら最後、次の瞬間にはぺちゃんこってオチが待ってるだろうから、味わって生きてるなんて奴もそう居るもんじゃない。
あり得るのは、某週刊漫画の戦闘民族とか、実を食べて強くなった奴らぐらいで、某どっかの兵団もしっかりお陀仏になるしな。
それはともかく、今の俺は何故かどこかに固定され、吊り上げられている状態らしい。しかも体には、とても懐かしい違和感を感じる。
それが何かと言うと……あるんだよ、人間の体が。腕、足、それにこか……んは想像に任せるとして、本来の俺がここには居る。と言っても、貧相で小さなこの体に、誇るなんて要素一欠片も無いんだけどな。
それに、後ろにある大樹のようなものに繋がれ、身動きをとることができない。両腕、両足に絡みつく四本の鎖が、俺の動きを阻んでいる。
とまぁ、この状態だと自然と下半身に目が行く訳で、それを振り払うために俺は辺り一帯を見回す事にする。
視線の先一面に広がるのは緑の芝生。それから、同じような木々が不規則に並んでいる。そして、木の枝になっているのは、赤くみずみずしい大きなりんご達。このイメージは、アダムとイブか?
って事は、やっぱりここは夢の中か……何かの拍子に人間の体に戻ったか? とも考えたけど、世の中そんなに甘くねーよな。
それに、この世界のアダムが俺だとすると、この夢には決定的な違いが一つある。それは、目の前にいるイブが三人だと言うこと。
一人は白銀に輝く天使の翼を持ち、一人は漆黒を纏った悪魔の翼、もう一人は燃え盛る不死鳥にも似た炎の翼。間違いなく、シャーリーと天道にスクルドだ。彼女達三人は、芝生を囲むようにちょこんと座り、白い布のワンピースをその身に纏っている。全裸の俺に比べると酷い差別だ……って言ったら怒られそうなので黙っておくことにしよう。
まぁ、要するに俺は、三人の事をそういう対象として見ているらしい。結局、素直になれないだけってのが良くわかる。三人のイブに、一夫多妻制ねぇ……っと、今はそんな事考えてる場合じゃないか。ここが夢の中ならば、俺が動かないと始まらない。
それに、そんな能力は無いと思うけど、夢まで干渉する精神攻撃とかブネが使えたら、じっとしてるだけこちらが不利になるからな。とりあえず声をかけてみるか。
剣になってから一度も行っていない声帯を使った声出しに、若干の不安はあるものの、意を決して俺は声を張り上げる。
「シャーリー! スクルドー! 天道! ここは一体どこだ! 俺達どうなってる!」
すると、懐かしい自分の声が喉の奥からしっかりと発声され、ある種の感動を覚えた。どうやら、声帯の方は問題ないらしい。良かった、見た目だけ人間に戻って、声は出せないなんて状態だったら最悪だもんな。
とにかく、一つ目の問題は解決された。後は三人から情報を聞いて、ここから抜け出す方法を探そう。でも、その前に、夢の中でぐらい三人に直接触れてみたいな。この体がある内にさ。なんて、呑気な事を考えている俺に、耳を疑うような言葉が飛び込んでくる。
「あぁ、クソ弱の先輩か」
「……え?」
一瞬、彼女の言葉を脳内が拒絶し、何を言われたのかわからないと、たまらず俺は疑問の言葉を投げかける。
「だから、何も出来ない激弱の先輩って呼んだの。脳みそ入ってる?」
けれど、それは聞き間違いでも冗談でもなく、俺は天道に、突然罵倒されたのだった。ちょっとバカだけど、俺に対する優しさとエッチなことしか言わない後輩の口から吐き出された暴言。それに戸惑っていると、左右に座っていた天道とスクルドが一斉に立ち上がり、俺の事を睨みつける。
「あのような無様な結末、女神としてトオル様にはがっかり致しました」
「そうそう、戦う前からやられちゃうとか、先輩だっさいよねー」
食べ散らかされたゴミを見るような二人の目に、絶対に聞くことは無いと思っていた罵りの言葉。二つのあり得ない出来事に、頭の中が真っ白に染まる。これは夢だと頭の隅ではわかっていても、二人の侮蔑に俺の心は耐えきれなかった。
「いやだもー、すっごいマヌケ面してる。私達にちょっと弄られたからって、それは無いんじゃないかなー」
「流石の私も、トオル様の心の弱さは弁明の余地もございません」
唖然とする俺を見ながら二人は好き勝手に俺を嘲り、楽しそうに笑い出す。
何で、こんな?
俺への好意など微塵もない敵意に溢れた二人の仕打ちに、頬の上を冷たいものが伝わり始める。
「うわ、泣いてる。女の子にちょっと強くあたられただけで泣くとかさ、キモいんですけど」
「このような中傷に対し、言い返すことも出来ないのですか? 貴方、最低ですね」
二人の言う通り、自然と俺は涙を流していたのだ。そこに、他人行儀なスクルドの貴方呼びが加わって、想像以上のきつさに俺は吐き気を覚える。名前で呼ばれていたことが、こんなにも清々しく気持ちの良いものだったなんて、今まで考えた事もなかった。
「吐くなよ、このクズ! あんたみたいなのに目の前で吐かれたら、かわいい私が汚れる」
「女神の前でそのような行為、万死に値しますよ?」
自律神経の乱れに負け俺が頬を膨らませると、二人の見る目がゴミから吐瀉物へと変わり、頭は軽いパニック状態へと陥る。瞬間、せり上がってきたものを必死で飲み込み、胃の中へと押し戻した。
何故吐き出してしまわなかったのか。それは、これ以上二人から蔑みの目で見られたくなかったから。
「おー、よく耐えた、偉い偉い。なんて言うと思ったかよ。行こ、スクルド。こんなの相手にしてても、何の得にもならないよ」
けど、それで二人が優しい二人に戻るわけでなく、天道とスクルドは背中を向け俺とは正反対の方向へ歩き出す。
このままでは二人が何処かへ行ってしまう。焦った俺は、必死に体を揺さぶり四つの鎖を外そうとするが、どれも硬く俺の力ではびくともしない。
しかし、何故か左手の鎖だけは簡単に外れ、唯一自由になったその手を、精一杯二人に向けて伸ばし続ける。けど、俺を慕っていたはずの淫魔と女神は、惨めな姿を嘲笑うかのように、ゆっくりとした足並みで遠ざかる事を止めなかった。
「天道! スクルド!!」
「何もできないクズにはさ、やっぱ一人がお似合いなんだよ」
「薄汚いまがい物は、どこかの森で死んでください」
そして、最後の足掻きと俺は二人の名前を呼ぶが、願いは成就することなく、背中の翼をはためかせ、空の彼方へと二人は無慈悲に消えていった。
茫然自失、俺はまた大切なものを失った。結局、見た目なんかに意味はないんだ。人間の体をしていようと、心が弱ければ俺から皆離れていく。それはきっと、どこの世界でも変わらない。あの頃のように俺は、また一人に……
「……トオル?」
無力感に打ちひしがれ、失意と共に下を向くと、そこには俺を見上げる一人の天使の姿があった。
そうだ、俺にはまだ彼女がいる。悲しそうな瞳で不安気に俺を見てくれる、そんな彼女さえ居てくれれば、俺はまだ生きていける。
「シャーリー? シャーリーは、俺の側に居てくれるよな? 俺の隣に、ずうぅぅぅぅぅっと居てくれるよな?」
それでも、俺の声は完全に震えていた。もし、彼女まで豹変してしまったら、そう考えるだけで心臓は早鐘を打つように鳴り響き、胸の奥は苦しさに酷く締め付けられる。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせ、平常心を取り戻した瞬間、儚くも希望は音を立てて崩れ去る。
「トオル、ごめんなさい」
シャーリーの体が光を放つと、ディアインハイトも使わずに彼女の姿は大人となり、申し訳なさそうに上から俺を見下ろしてくる。そして、彼女の後ろからもう一つの影が現れると、シャーリーは全てを預けるようにその男にもたれかかった。
「私、貴方よりも素敵な人を見つけたの。私を支え、この国を救ってくれた人」
「あぁ」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
目の前のそいつは高身長で、筋肉もあり声もハスキーで、口許は爽やかに笑っている。そう、目の前の影は、俺とはまるで正反対の、俺が求めた理想像。まるで当てつけのような存在。
「私は、この人を愛してしまった。トオルと違って、心だけじゃなく、全てが完璧なこの人を。だから、さようなら」
さようならって、どういう事だよ? なんで、そんな事言うんだよ?
裏切られた。そんな思いが心の中を満たしていく。けど、本当は違う。裏切られたんじゃない、俺が裏切らせたんだ。彼女の期待に答えられなかったから、彼女は俺を見ることを止めてしまった。ただ、それだけの事。
けど、諦めたくなかった。
「ま、待ってくれシャーリー! 俺、頑張るから! もっと頑張って強い男になるから! だから、だから!!」
彼女を繋ぎ止めたいと俺の感情は暴走を始め、よぎった言葉が次から次へと喉の奥から吐き出されていく。
嫌だ、嫌だ、独りは嫌だ。もうあの頃には戻りたくない。だから、行かないで、頼むから行かないで。けれど、必死の声は彼女に届かず、シャーリーもまた遠くへと消えていく。
「シャーリー、お願いだ。戻ってきて、一人にしないで。シャーリー、シャーリー!!」
二つの影が見えなくなっても、俺はまだ声を張り続ける。頬を伝う水の量は二人の時の比ではなく、くしゃくしゃの顔は酷く醜いものへと変わっていく。止まらない、醜い涙が止まらない。
弱い自分。その現実に、全てがかっさらわれていく。誰もいない日差し溢れる自然の中、俺の叫びが木霊し、意識は覚醒した。
二つのまぶたが開いた瞬間、感じたのは最近慣れた独特の浮遊感。
物のように持ち上げられ、すごい速さで振り回されるなんて経験、巨人族とでも戦わなきゃそうそう味わえるものでもないだろう。それに、巨人に捕まったら最後、次の瞬間にはぺちゃんこってオチが待ってるだろうから、味わって生きてるなんて奴もそう居るもんじゃない。
あり得るのは、某週刊漫画の戦闘民族とか、実を食べて強くなった奴らぐらいで、某どっかの兵団もしっかりお陀仏になるしな。
それはともかく、今の俺は何故かどこかに固定され、吊り上げられている状態らしい。しかも体には、とても懐かしい違和感を感じる。
それが何かと言うと……あるんだよ、人間の体が。腕、足、それにこか……んは想像に任せるとして、本来の俺がここには居る。と言っても、貧相で小さなこの体に、誇るなんて要素一欠片も無いんだけどな。
それに、後ろにある大樹のようなものに繋がれ、身動きをとることができない。両腕、両足に絡みつく四本の鎖が、俺の動きを阻んでいる。
とまぁ、この状態だと自然と下半身に目が行く訳で、それを振り払うために俺は辺り一帯を見回す事にする。
視線の先一面に広がるのは緑の芝生。それから、同じような木々が不規則に並んでいる。そして、木の枝になっているのは、赤くみずみずしい大きなりんご達。このイメージは、アダムとイブか?
って事は、やっぱりここは夢の中か……何かの拍子に人間の体に戻ったか? とも考えたけど、世の中そんなに甘くねーよな。
それに、この世界のアダムが俺だとすると、この夢には決定的な違いが一つある。それは、目の前にいるイブが三人だと言うこと。
一人は白銀に輝く天使の翼を持ち、一人は漆黒を纏った悪魔の翼、もう一人は燃え盛る不死鳥にも似た炎の翼。間違いなく、シャーリーと天道にスクルドだ。彼女達三人は、芝生を囲むようにちょこんと座り、白い布のワンピースをその身に纏っている。全裸の俺に比べると酷い差別だ……って言ったら怒られそうなので黙っておくことにしよう。
まぁ、要するに俺は、三人の事をそういう対象として見ているらしい。結局、素直になれないだけってのが良くわかる。三人のイブに、一夫多妻制ねぇ……っと、今はそんな事考えてる場合じゃないか。ここが夢の中ならば、俺が動かないと始まらない。
それに、そんな能力は無いと思うけど、夢まで干渉する精神攻撃とかブネが使えたら、じっとしてるだけこちらが不利になるからな。とりあえず声をかけてみるか。
剣になってから一度も行っていない声帯を使った声出しに、若干の不安はあるものの、意を決して俺は声を張り上げる。
「シャーリー! スクルドー! 天道! ここは一体どこだ! 俺達どうなってる!」
すると、懐かしい自分の声が喉の奥からしっかりと発声され、ある種の感動を覚えた。どうやら、声帯の方は問題ないらしい。良かった、見た目だけ人間に戻って、声は出せないなんて状態だったら最悪だもんな。
とにかく、一つ目の問題は解決された。後は三人から情報を聞いて、ここから抜け出す方法を探そう。でも、その前に、夢の中でぐらい三人に直接触れてみたいな。この体がある内にさ。なんて、呑気な事を考えている俺に、耳を疑うような言葉が飛び込んでくる。
「あぁ、クソ弱の先輩か」
「……え?」
一瞬、彼女の言葉を脳内が拒絶し、何を言われたのかわからないと、たまらず俺は疑問の言葉を投げかける。
「だから、何も出来ない激弱の先輩って呼んだの。脳みそ入ってる?」
けれど、それは聞き間違いでも冗談でもなく、俺は天道に、突然罵倒されたのだった。ちょっとバカだけど、俺に対する優しさとエッチなことしか言わない後輩の口から吐き出された暴言。それに戸惑っていると、左右に座っていた天道とスクルドが一斉に立ち上がり、俺の事を睨みつける。
「あのような無様な結末、女神としてトオル様にはがっかり致しました」
「そうそう、戦う前からやられちゃうとか、先輩だっさいよねー」
食べ散らかされたゴミを見るような二人の目に、絶対に聞くことは無いと思っていた罵りの言葉。二つのあり得ない出来事に、頭の中が真っ白に染まる。これは夢だと頭の隅ではわかっていても、二人の侮蔑に俺の心は耐えきれなかった。
「いやだもー、すっごいマヌケ面してる。私達にちょっと弄られたからって、それは無いんじゃないかなー」
「流石の私も、トオル様の心の弱さは弁明の余地もございません」
唖然とする俺を見ながら二人は好き勝手に俺を嘲り、楽しそうに笑い出す。
何で、こんな?
俺への好意など微塵もない敵意に溢れた二人の仕打ちに、頬の上を冷たいものが伝わり始める。
「うわ、泣いてる。女の子にちょっと強くあたられただけで泣くとかさ、キモいんですけど」
「このような中傷に対し、言い返すことも出来ないのですか? 貴方、最低ですね」
二人の言う通り、自然と俺は涙を流していたのだ。そこに、他人行儀なスクルドの貴方呼びが加わって、想像以上のきつさに俺は吐き気を覚える。名前で呼ばれていたことが、こんなにも清々しく気持ちの良いものだったなんて、今まで考えた事もなかった。
「吐くなよ、このクズ! あんたみたいなのに目の前で吐かれたら、かわいい私が汚れる」
「女神の前でそのような行為、万死に値しますよ?」
自律神経の乱れに負け俺が頬を膨らませると、二人の見る目がゴミから吐瀉物へと変わり、頭は軽いパニック状態へと陥る。瞬間、せり上がってきたものを必死で飲み込み、胃の中へと押し戻した。
何故吐き出してしまわなかったのか。それは、これ以上二人から蔑みの目で見られたくなかったから。
「おー、よく耐えた、偉い偉い。なんて言うと思ったかよ。行こ、スクルド。こんなの相手にしてても、何の得にもならないよ」
けど、それで二人が優しい二人に戻るわけでなく、天道とスクルドは背中を向け俺とは正反対の方向へ歩き出す。
このままでは二人が何処かへ行ってしまう。焦った俺は、必死に体を揺さぶり四つの鎖を外そうとするが、どれも硬く俺の力ではびくともしない。
しかし、何故か左手の鎖だけは簡単に外れ、唯一自由になったその手を、精一杯二人に向けて伸ばし続ける。けど、俺を慕っていたはずの淫魔と女神は、惨めな姿を嘲笑うかのように、ゆっくりとした足並みで遠ざかる事を止めなかった。
「天道! スクルド!!」
「何もできないクズにはさ、やっぱ一人がお似合いなんだよ」
「薄汚いまがい物は、どこかの森で死んでください」
そして、最後の足掻きと俺は二人の名前を呼ぶが、願いは成就することなく、背中の翼をはためかせ、空の彼方へと二人は無慈悲に消えていった。
茫然自失、俺はまた大切なものを失った。結局、見た目なんかに意味はないんだ。人間の体をしていようと、心が弱ければ俺から皆離れていく。それはきっと、どこの世界でも変わらない。あの頃のように俺は、また一人に……
「……トオル?」
無力感に打ちひしがれ、失意と共に下を向くと、そこには俺を見上げる一人の天使の姿があった。
そうだ、俺にはまだ彼女がいる。悲しそうな瞳で不安気に俺を見てくれる、そんな彼女さえ居てくれれば、俺はまだ生きていける。
「シャーリー? シャーリーは、俺の側に居てくれるよな? 俺の隣に、ずうぅぅぅぅぅっと居てくれるよな?」
それでも、俺の声は完全に震えていた。もし、彼女まで豹変してしまったら、そう考えるだけで心臓は早鐘を打つように鳴り響き、胸の奥は苦しさに酷く締め付けられる。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせ、平常心を取り戻した瞬間、儚くも希望は音を立てて崩れ去る。
「トオル、ごめんなさい」
シャーリーの体が光を放つと、ディアインハイトも使わずに彼女の姿は大人となり、申し訳なさそうに上から俺を見下ろしてくる。そして、彼女の後ろからもう一つの影が現れると、シャーリーは全てを預けるようにその男にもたれかかった。
「私、貴方よりも素敵な人を見つけたの。私を支え、この国を救ってくれた人」
「あぁ」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
目の前のそいつは高身長で、筋肉もあり声もハスキーで、口許は爽やかに笑っている。そう、目の前の影は、俺とはまるで正反対の、俺が求めた理想像。まるで当てつけのような存在。
「私は、この人を愛してしまった。トオルと違って、心だけじゃなく、全てが完璧なこの人を。だから、さようなら」
さようならって、どういう事だよ? なんで、そんな事言うんだよ?
裏切られた。そんな思いが心の中を満たしていく。けど、本当は違う。裏切られたんじゃない、俺が裏切らせたんだ。彼女の期待に答えられなかったから、彼女は俺を見ることを止めてしまった。ただ、それだけの事。
けど、諦めたくなかった。
「ま、待ってくれシャーリー! 俺、頑張るから! もっと頑張って強い男になるから! だから、だから!!」
彼女を繋ぎ止めたいと俺の感情は暴走を始め、よぎった言葉が次から次へと喉の奥から吐き出されていく。
嫌だ、嫌だ、独りは嫌だ。もうあの頃には戻りたくない。だから、行かないで、頼むから行かないで。けれど、必死の声は彼女に届かず、シャーリーもまた遠くへと消えていく。
「シャーリー、お願いだ。戻ってきて、一人にしないで。シャーリー、シャーリー!!」
二つの影が見えなくなっても、俺はまだ声を張り続ける。頬を伝う水の量は二人の時の比ではなく、くしゃくしゃの顔は酷く醜いものへと変わっていく。止まらない、醜い涙が止まらない。
弱い自分。その現実に、全てがかっさらわれていく。誰もいない日差し溢れる自然の中、俺の叫びが木霊し、意識は覚醒した。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる