俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第四章 地底に眠りし幼竜姫

第192話 デオルドの弟子

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 あれからもう、どれだけの階段を下りただろうか。感覚としてはかれこれ十分以上、俺達は急勾配な階段を下り続けている。弱音を吐くつもりはないけど、この町は何処まで続いているのか、余りにも底が深すぎる。

 それでも、通路事態はしっかり整備されており、各フロア毎に快適な広さの公道と家の数々、そこかしこに魔術式の電灯が設置されている。正直、俺が想像していた地下都市のイメージよりも明るく、深夜の大都会と同じぐらい昼夜の感覚がわからない。まっ、ここの場合、地下と言うこともあって、日が差してくることは無いんだけど。

 そんな地下都市に一つ問題があるとすれば、下れば下るほど上がっていくこの気温。入り口の気候が初夏と考えると、今いる辺りは真夏に近く、普通に汗が止まらない。言葉には出していないけど、三人共かなり辛そうにしているのは俺の目でもわかる。

 当然、俺の体も熱に浮かされてはいるが、汗は魔力に反映されないようで、表面から溢れ出たりはしないらしい。これでもし、涙のように流れ出たら、鞘の中がベチョベチョになって、最悪な住心地となっていたのは間違いないだろう。

 それに、俺は一切歩いてないからへばる要素も無いし、三人が無理をしていないか、それだけが心配で仕方がない。まさかこれも、デオルド爺の作戦では!? なんて事を無駄に想像してしまうあたり、俺の中の人見知りは大切な人を得たことで、一段と酷い方向へと、成長してしまったようである。

「さて、ここがわしの家じゃ。長い移動、ご苦労じゃったのう」

 そう言いながら立ち止まったデオルドさんの先、目の前にそびえる家の大きさに、俺達は一斉に目を丸くする。

「……大きい」

「流石はドワブンの長、良き所に住んでいますね」

「ほっほっほっ、女神様に褒められるとは、わしも大きくなったかのう」

 こんな地下深くだと言うのに、豪邸と見間違う程の迫力見せるデオルドさんの家。外装が他と変わらないのは、あくまでこの家が、鍛治を行うために作られたものだからなのだろう。機能性を重視した、職人基質溢れるシンプルなデザイン。俺は、嫌いじゃない。

 それよりも、スクルドの正体まで見抜くとは、なんて恐ろしい御老体だ。このデオルドと言う御仁、やはり油断ならないのかもしれない。

「いやいや、お爺ちゃん。そのサイズで大きいはないでしょ?」

「むっ、やはりそうかの? わしはちっこいか。ほっほっほっ」

 そんなドワブンの小さなボケにも、軽々対応する天道の話術。薙沙ちゃんと言うアイドルを経て、異種族の老人までをも虜にするようになった後輩の背中を、俺は複雑な眼差しで見つめている。俺ももっと、彼女の強さを見習わなくちゃいけないのかな? って。

「ともかく上がりなされ、大したもてなしはできんがの」

 デオルドさんに促されるまま、踏み込んだ家の中は想像よりも狭く、居住スペース自体はあまり広くない。セリーヌさんの家と一緒で、奥の工房が主な面積を締めているのだろう。家具なんかも簡素なもので、美味しいお茶とかお菓子なんかは、あまり期待できそうにない。

 べ、別に、ねだってる訳じゃないからな。俺はどうせ食べれないし、もてなしと聞いて想像しただけで……そもそも俺って、人間の時からあまり食い物に興味が無いんだよ。本当に本当だから! 

 そんな言い訳を考えてる内に、三人は、石でできた四角い椅子へと腰を下ろす。同じく、石で作られたテーブルの上に俺は乗せられ、皆は同時にため息をついた。

 それもそのはず、体感ではあるもののこの辺りの気温は三十度を超え、ちょっと暑めの夏日のような状態。天道はともかく、比較的涼しいリィンバースの気候に慣れた二人には、かなり堪えると言った所だろう。

「ホッホ、こんな暑い地下深くですまんのう。人間のお嬢さん方には辛いじゃろうて」

「……大丈夫」

「いえいえ、大丈夫っすよ。猛暑に比べればこのぐらい、大したこと無いですから。ね! 先輩」

 そんな彼女達の表情を見たデオルドさんは、陶器製のコップに水を汲み、三人の前に差し出してくれる。

 天道の言う通り、俺達が住んでいた世界の最高気温に比べれば、ここの気温も大したことはないのだけど、流石に冬服のままでは暑いのだろう、既に彼女はブレザーを脱ぎ、シャツのボタンを上から二つ外している。その隙間から、可愛いブラと艷やかな谷間がしっかり顔を覗かせていて……全くもってけしからん。

「先輩? も~、先輩は本当にエッチなんだから~。でも~、みたいならみていいよ~」

(遠慮させていただきます)

 この暑さと俺の視線に、骨の髄までやられたのか、胸元をちらつかせながら近づいてくるエッチな後輩。汚物を見るようなシャーリーの視線も何のその、大きな膨らみを更に寄せ上げ、テーブルの上にたぷんと乗せる。

 眼前に迫った、二つの巨大な戦術兵器。しかし、そんなものに呑まれるほど、俺の理性はやわじゃない。

 等と言いながらも、自然と視線は彼女の胸元をチラチラと追ってしまい……これも男の性か、汗ばみ蒸れるみずみずしい柔肌が俺の心を惑わすのだ。悲しい。

「ウーム、若いとは良いものじゃの~」

「はい! 天道朝美、大好きな人のために、この体張っております!」

 そんな俺達を見て豪快に笑うデオルドさんは、なんだかとても楽しそうで、再び乗っかる天道といい、二人はもう完全に仲良しだった。敬礼を見せつつ半脱ぎで笑う元アイドルと、とても楽しそうなドワブンの爺さん。この不可思議な状況に、俺の視線は彼女の胸元に釘付けとなる。

「師匠! まーた知らない内にどっかいって。出かける時は声かけてくださいっていつも――」

 脈絡もなくサイズDの魔力に吸い寄せられる俺が、怒りの正妻に右手で押し潰されていると、奥の工房から厚手の作業着をまとった少年が現れる。

 師匠と言うことは、彼はデオルドさんに仕える職人見習いなのだろう。すす汚れた全身が、今の今まで作業に勤しんでいた事を物語っている。

 しかし、三人の女性を連れ帰った師の存在に、大層彼は困惑しているように思えた。

「えっと……どちら様、でしょうか?」

「ユーゴよ! 女性の前では、先に男が名乗るのが礼儀じゃろうて」

「はっ!? し、失礼しました! 俺、アサギリ・ユーゴって言います。デオルド様の下で修行させてもらってる鍛治見習いで、三度の飯より鉄を打つ事が好きです!」

 美少女三人の来訪に目を白黒させる少年だったが、デオルドさんの一喝に触発され、一息のもと自己紹介を済ませる。

 ユーゴと名乗った少年の見た目は俺よりも若く、年齢は十四、十五と言った所か。黒髪の童顔で低身長、捲り上がった袖の下の筋肉を除けば、人間の頃の俺と瓜二つと言っても過言ではない。そのせいか、彼を見る天道の目つきが獲物を狙う獣のように細められている。

「アサギリ、って事は、ユーゴくんも転生者?」

 彼の名前が俺達と同じ、苗字、名前の順である事に気づいた彼女は、その疑問に対し、容赦なく切り込んで行く。

「えっと、一応、そうらしいです」

「……一応?」

 そんな彼の返答に、今度はシャーリーが食いつき、ユーゴは困ったように言葉を濁す。何か理由があるのだろうかと訝しんだ俺も、次の言葉を聞いた瞬間、驚きに言葉を失う。

「その、俺、記憶が無いんですよね、前世の記憶ってやつ」

 記憶が、ない? 俺の知ってる異世界転生、もしくは異世界召喚ってやつは、前世の記憶を引き継いで行われるのが基本だ。しかし、目の前の彼にはその法則性が当てはまらず、とてもイレギュラーに感じられたのだ。

 そもそも、記憶が無い時点で転生というカテゴリーに当てはまるのか? という疑問もある。それでも彼の場合、名前だけは覚えているし、自身が転生者である事も理解はしているようで、百パーセント間違いとも言い切れない。そこで俺は、不可解な事もたまにはあるのだなと、自分自身を納得させる。

「世の中には、数奇な運命を背負ったものが幾人もいる。そう言う事じゃて。お前さんのようにな」

 そして、デオルドさんの言葉を聞いてハッとさせられた。記憶こそあるものの、俺だってこんな体で転生させられた不可解な存在の一人。人間として不完全な状態で復活したという意味で、俺達二人は本当に似た者同士なのかもしれない。
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