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第四章 地底に眠りし幼竜姫
第189話 みんなのアイドル 俺だけのアイドル
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「それに、女の子の価値は、仕事のできるできないじゃないってね。セリーヌは料理うまいし子供達にも優しいから、男の子が放っておかないよ。もちろん、結婚だけが幸せなんて言わなけどさ、セリーヌは十分すぎるものを持ってると思う。だから自信持ってよ。顔もかわいいしね」
「そんな風に褒めたって何も出ないよ。アサミはほんと、面白いんだから」
これでもかと褒めちぎる天道の言葉に、セリーヌさんは苦笑を交えながらも、その端正な顔立ちに、ひまわりのような明るい笑顔を浮かべる。
「あ、でも、先輩だけは譲らないよ。先輩の好みなら、私のほうが断然かわいいかんね。ってかさ、そこで負けると料理に洗濯、女子力的な部分じゃ完全に勝てないし」
しかし、天道は何故か話題を俺の方へと寄せ始め、その唐突さに今度は俺が苦笑いを浮かべてしまう。そこで張り合う必要性が、全くもって見つからないのだが? と言うかこいつ、まともに料理できたんだな。
(天道、お前、料理できたのか)
「できたのかって、でーきーまーすー! 普通ぐらいにはつくれますー! セリーヌとかシャーロットとか、周りの女の子が上手すぎるだけだよ!」
素朴な疑問と軽い驚きに俺が言葉を滑らせると、天道は頬を膨らませ二人を指差し怒鳴り始める。真剣な彼女の表情と、力強い目力、そして聞こえてくる「これでも、先輩のためにがんばったんだから」という小さな言葉に、ちょっと悪いことをしたかなと心の中で反省する。それと同時に、ちょっと嬉しいなと思う自分がいて、なんだかとても不思議な気持ちに包まれた。
なんだかんだと天道に対し、悪態をつく俺だけど、異性に尽くしてもらえるのは結局の所嬉しかったりする。特に、俺みたいな非モテ野郎がこんなに愛してもらえるんだ、ニヤけない方がおかしいってもんだよ。
「アサミがその剣、トオルくんのこと好きなのは、よくわかったよ。大丈夫、私には声聞こえないから、どうにも出来ないって」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「そっか、よかった!」
天道の迫力からその心を読み解き、大人の対応でこの場を鎮めるセリーヌさん。流石はリアル姉、自由奔放な人間の扱いが本当に上手い。妹の面倒を見るのに、かなり苦労してきたんだろうな。と言っても、クロエちゃんが我儘な妹とは思えないし、天道の方が迷惑かけてる気もするけど
そんな、先輩大好きアピールを欠かさない天道の事を、横から睨み続けるシャーリーの姿を尻目に、二人は更に会話の花を咲かせる。
「でも、ほーんと凄いなー……ねぇねぇセリーヌ? 刀鍛冶ってさ、私にもできるようになるかな? 熱いのは我慢するとして、魔力の素養はかなりある方って言われたんだよね。だからさ、頑張ったら私でも、先輩の役に立てるのかな~って」
「うーん、そうだなー……一から打つのは難しいけど、魔力構築ならできるかも」
「え? ほんと! それ覚えたら、先輩にいっぱい褒めてもらえるかな!」
皆が出来ないなら私が頑張ると、無茶な主張を始める天道だが、ある一つの可能性に彼女は両目を輝かせる。
「ただ、トオルくんの場合、体の奥にある芯の問題だから、簡単なコーティングぐらいじゃ駄目だと思う」
「そっかー、残念」
しかし、そう簡単に事は運ばず、彼女は盛大にため息を漏らし、意気消沈と肩を落とした。
「ごめんね、期待させちゃって」
「いいよいいよ、ありがとね、セリーヌ」
期待はずれに終わったものの、文句の一つも言わない天道と、彼女に優しく微笑み返すセリーヌさん。そんな二人の優しい世界を、とても微笑ましく見つめてしまう。なんだかとても尊い。
「ですが、アサミさんにそういった精密作業は無理じゃないですかね? 考え方が大雑把ですし」
だが、そこに水を差したがる女神が一人。スクルドが、ここぞとばかりに天道にちょっかいを掛けだしたのである。恐らく先程の、褒められるかな? と言う言葉に過剰反応したのだろうが、余りにも敏感すぎんだろ。
「む、それってさ、考えなくても皮肉だよね! これでも、ファンサービスはかなり細かくやってた方だよ。あと、スクルドには言われたくない」
「本当ですか~?」
「ほんとだってば! ね! 先輩」
そして二人は、とても醜い泥の掛け合いを始める。と言っても、原因は俺なので、強く言えないのが悲しいところだが。
さて、喧嘩を売られた天道さんに、ご褒美を待つ犬のように見つめられては答えぬわけにも行くまい。それに、薙沙ちゃんの活動については、俺も聞きたいと思ってた事があるしな。
まず俺の知る限り、天道の発言は概ね間違っていない。事務所がよく許したなと心配になるぐらい、薙沙ちゃんはファンサービス旺盛だったのだ。
しかし、その対応が全ての人に向けられていたものなのか、俺はずっと疑問に思っていたのである。俺に対する異常なまでのレスポンスの速さ、そして、他のファンから向けられるやっかみ。疑うべき材料は十分で、今こそそれを問いただす良い機会。この際全部、本人の口から聞きだしてやる!
(確かに、俺のところにはよくリプ返してくれたよな、お前の立場の割に。で、俺以外にもちゃんとしてたんだろうな? そういう事)
「あ、あったりまえじゃんかー」
リプと言うのは、ネット上で様々な人とコミュニケーションを取れるツールにおける返信の事なのだが、彼女はその速度が異常に早く、芸能人にも関わらず一般に向けて返す頻度もかなり高かった。そして、地名こそ特定できない範囲ではあったが、私生活について語ることも多く、彼女の力になりたいと、俺含めたファンの皆はこぞってコメントを送りまくったのである。
が、何時の頃からか、彼女のその行動は特定のファンにだけ行われているものなのでは? という疑惑が持ち上がり、その中でも俺が一番多く返信を受けている、と言う話題が何処からか上がり始めたのだ。
確証の無い言われに、確かに心はすり減ったが、それは薙沙ちゃんに相手にされないスレ民による、ストレス発散のための生贄だろうと思い耐えてきた。しかし、こちらの世界で彼女の愛を知ってからというもの、それが真実だったのでは? と思う事が増え始めたのである。
そして今、彼女の両目は焦りと共に、空を泳ぎ始めていた。怪しい。
とにかく、もう少しだけ話を進めてみよう。突然の質問に対し、驚いてるだけかもしれないからな。
(一部のファンから、俺だけ優遇されてるってイチャモンつけられたこともあるんだけど。何か心当たりは?)
「そ、そんなの、あるわけナイヨー、あるわけないじゃん」
そんな、小さくて淡い期待にすがろうとしたものの、天道の声は徐々に上ずって行き、こいつは完全に黒だな。だが、簡単には認めないだろうし、もう一押し行ってみるか。
(薙沙の友達って子から、タイミングよく感謝のメールが来たことあるけど、あれ、お前だろ?)
「な、ナンノコトカナ。ワタシワカンナイヨー」
最後のダメ押しを食らい、全身から冷や汗をかき続ける彼女にはもう、弁明の力は残されていなかった。どれもこれもはぐらかす事しかできない彼女の態度に、俺の心から盛大なため息が漏れ出る。
こいつの実態を知って、ある程度予想は出来ていたが、お気に入りのファンにだけ手厚いサービスしてるとか、職務怠慢もいいところだろ。ちゃんと仕事しろ仕事。
こいつの内面を知れば知るほど、憧れの薙沙ちゃん像が、どんどん音を立てながら崩れていく気がする。
「で、でもほら、私が先輩をひいきしてたーってことは、憧れのアイドルを独り占めしてたってことだよ。漫画とか、アニメとか、エロゲーみたいで、ちょっと興奮――」
(しません! ったく、お前はお前だけの都合で動いてるわけじゃないんだぞ。支えてくれる皆に、感謝の気持ちを持って平等に接しろ)
「……一番感謝してるのは先輩なのに」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、それとこれとは話が別だ。全く、こんなんじゃ他のファンの皆に申し訳がたたないし、それで晒されるのは俺なんだぞ。実際晒されてたし。
ただ、向こうの世界にはもう戻れないから、今は関係ないんだろうけど。
「そうそう、向こうの世界には戻れないんだし、いっそ全部忘れて――」
(て・ん・ど・う~~~~)
「……ごめんなさい」
彼女のあまりの無責任さに俺が怒りを顕にすると、天道は深く縮こまり、膝に顔を埋めてしまう。椅子の上で体育座りを始めた彼女は、まるで怯えた子供のように俺をチラチラと覗いてくる。いつもの事とは思いながらも、薙沙ちゃんの顔でその反応は、反則過ぎんだろ。
勿論、天道自身が可愛いのは俺も認める所だが、薙沙ちゃんの面影がちらつくのは、至極当然で仕方のない事なのである。そして、そんな彼女を放っておけないのも俺であり、叱る以上は最後まで面倒を見ようと思うのであった。
(そりゃさ、憧れの存在に贔屓されるのは嬉しいよ。でも、お前は皆の薙沙ちゃんなんだ。それを忘れたら、いくら俺でも軽蔑する)
こういう話題って、何処まであるのかわからないけど、俺達の気づかない所で、ある程度起こっている出来事なのだと思う。それを悪いとは思わないけど、こいつの場合、いちばん大切な時期にそれをやって、約束された未来を棒に振ったんだ。しかも、こんな俺のために。
だけど、今の彼女は間違いなく俺だけの薙沙ちゃんで、俺だけのアイドル。そんな彼女まで拒絶するのは、やっぱりバチが当たるかもしれない。
彼女の勝手は見過ごせないけど、こうなっちまった以上、向こうで嘆くファンのぶんまで俺が背負っていかないと。それが俺に課せられた業、彼女をこちらに呼んでしまった俺の責任。
そのためにはまず、泣きそうな彼女を笑顔にしないとな。
(だけど、だけどさ。俺の、俺だけの天道朝美なら、悪い気はしないかな……って)
そんな気持ちに後押しされ口をついて出た言葉、その意味に気づいた時、俺はなんてキザなセリフを言ったのだろうと、後悔してももう遅い。思いつめていたはずの天道の表情は、既に大輪の花を咲かせると同時に、華奢な体を左右にくねくねとくねらせていたのである。
「も~、先輩のばかー。わざとでしょ~、今までの前振り絶対わざとでしょ~。いやだも~、耳まで真っ赤じゃんか私~。でへ、デヘヘヘヘ」
脱げば意外と豊満ボディな天道さんだが、服の上からだと全くわからず痩せているように見えてしまう。勿論、裸とか見てないぞ! サキュバスの時に感じた彼女の肉感を思い出してるだけで、決して全裸とか見てない、見て……精神体の時にバッチリ凝視したっけ。思い返すとあれ、ムチムチで結構やば……自重自重。
あられもない天道の姿を思い描き、興奮を禁じ得ない俺の様子に、シャーリーは不快な視線を向けるのだった。
「そんな風に褒めたって何も出ないよ。アサミはほんと、面白いんだから」
これでもかと褒めちぎる天道の言葉に、セリーヌさんは苦笑を交えながらも、その端正な顔立ちに、ひまわりのような明るい笑顔を浮かべる。
「あ、でも、先輩だけは譲らないよ。先輩の好みなら、私のほうが断然かわいいかんね。ってかさ、そこで負けると料理に洗濯、女子力的な部分じゃ完全に勝てないし」
しかし、天道は何故か話題を俺の方へと寄せ始め、その唐突さに今度は俺が苦笑いを浮かべてしまう。そこで張り合う必要性が、全くもって見つからないのだが? と言うかこいつ、まともに料理できたんだな。
(天道、お前、料理できたのか)
「できたのかって、でーきーまーすー! 普通ぐらいにはつくれますー! セリーヌとかシャーロットとか、周りの女の子が上手すぎるだけだよ!」
素朴な疑問と軽い驚きに俺が言葉を滑らせると、天道は頬を膨らませ二人を指差し怒鳴り始める。真剣な彼女の表情と、力強い目力、そして聞こえてくる「これでも、先輩のためにがんばったんだから」という小さな言葉に、ちょっと悪いことをしたかなと心の中で反省する。それと同時に、ちょっと嬉しいなと思う自分がいて、なんだかとても不思議な気持ちに包まれた。
なんだかんだと天道に対し、悪態をつく俺だけど、異性に尽くしてもらえるのは結局の所嬉しかったりする。特に、俺みたいな非モテ野郎がこんなに愛してもらえるんだ、ニヤけない方がおかしいってもんだよ。
「アサミがその剣、トオルくんのこと好きなのは、よくわかったよ。大丈夫、私には声聞こえないから、どうにも出来ないって」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「そっか、よかった!」
天道の迫力からその心を読み解き、大人の対応でこの場を鎮めるセリーヌさん。流石はリアル姉、自由奔放な人間の扱いが本当に上手い。妹の面倒を見るのに、かなり苦労してきたんだろうな。と言っても、クロエちゃんが我儘な妹とは思えないし、天道の方が迷惑かけてる気もするけど
そんな、先輩大好きアピールを欠かさない天道の事を、横から睨み続けるシャーリーの姿を尻目に、二人は更に会話の花を咲かせる。
「でも、ほーんと凄いなー……ねぇねぇセリーヌ? 刀鍛冶ってさ、私にもできるようになるかな? 熱いのは我慢するとして、魔力の素養はかなりある方って言われたんだよね。だからさ、頑張ったら私でも、先輩の役に立てるのかな~って」
「うーん、そうだなー……一から打つのは難しいけど、魔力構築ならできるかも」
「え? ほんと! それ覚えたら、先輩にいっぱい褒めてもらえるかな!」
皆が出来ないなら私が頑張ると、無茶な主張を始める天道だが、ある一つの可能性に彼女は両目を輝かせる。
「ただ、トオルくんの場合、体の奥にある芯の問題だから、簡単なコーティングぐらいじゃ駄目だと思う」
「そっかー、残念」
しかし、そう簡単に事は運ばず、彼女は盛大にため息を漏らし、意気消沈と肩を落とした。
「ごめんね、期待させちゃって」
「いいよいいよ、ありがとね、セリーヌ」
期待はずれに終わったものの、文句の一つも言わない天道と、彼女に優しく微笑み返すセリーヌさん。そんな二人の優しい世界を、とても微笑ましく見つめてしまう。なんだかとても尊い。
「ですが、アサミさんにそういった精密作業は無理じゃないですかね? 考え方が大雑把ですし」
だが、そこに水を差したがる女神が一人。スクルドが、ここぞとばかりに天道にちょっかいを掛けだしたのである。恐らく先程の、褒められるかな? と言う言葉に過剰反応したのだろうが、余りにも敏感すぎんだろ。
「む、それってさ、考えなくても皮肉だよね! これでも、ファンサービスはかなり細かくやってた方だよ。あと、スクルドには言われたくない」
「本当ですか~?」
「ほんとだってば! ね! 先輩」
そして二人は、とても醜い泥の掛け合いを始める。と言っても、原因は俺なので、強く言えないのが悲しいところだが。
さて、喧嘩を売られた天道さんに、ご褒美を待つ犬のように見つめられては答えぬわけにも行くまい。それに、薙沙ちゃんの活動については、俺も聞きたいと思ってた事があるしな。
まず俺の知る限り、天道の発言は概ね間違っていない。事務所がよく許したなと心配になるぐらい、薙沙ちゃんはファンサービス旺盛だったのだ。
しかし、その対応が全ての人に向けられていたものなのか、俺はずっと疑問に思っていたのである。俺に対する異常なまでのレスポンスの速さ、そして、他のファンから向けられるやっかみ。疑うべき材料は十分で、今こそそれを問いただす良い機会。この際全部、本人の口から聞きだしてやる!
(確かに、俺のところにはよくリプ返してくれたよな、お前の立場の割に。で、俺以外にもちゃんとしてたんだろうな? そういう事)
「あ、あったりまえじゃんかー」
リプと言うのは、ネット上で様々な人とコミュニケーションを取れるツールにおける返信の事なのだが、彼女はその速度が異常に早く、芸能人にも関わらず一般に向けて返す頻度もかなり高かった。そして、地名こそ特定できない範囲ではあったが、私生活について語ることも多く、彼女の力になりたいと、俺含めたファンの皆はこぞってコメントを送りまくったのである。
が、何時の頃からか、彼女のその行動は特定のファンにだけ行われているものなのでは? という疑惑が持ち上がり、その中でも俺が一番多く返信を受けている、と言う話題が何処からか上がり始めたのだ。
確証の無い言われに、確かに心はすり減ったが、それは薙沙ちゃんに相手にされないスレ民による、ストレス発散のための生贄だろうと思い耐えてきた。しかし、こちらの世界で彼女の愛を知ってからというもの、それが真実だったのでは? と思う事が増え始めたのである。
そして今、彼女の両目は焦りと共に、空を泳ぎ始めていた。怪しい。
とにかく、もう少しだけ話を進めてみよう。突然の質問に対し、驚いてるだけかもしれないからな。
(一部のファンから、俺だけ優遇されてるってイチャモンつけられたこともあるんだけど。何か心当たりは?)
「そ、そんなの、あるわけナイヨー、あるわけないじゃん」
そんな、小さくて淡い期待にすがろうとしたものの、天道の声は徐々に上ずって行き、こいつは完全に黒だな。だが、簡単には認めないだろうし、もう一押し行ってみるか。
(薙沙の友達って子から、タイミングよく感謝のメールが来たことあるけど、あれ、お前だろ?)
「な、ナンノコトカナ。ワタシワカンナイヨー」
最後のダメ押しを食らい、全身から冷や汗をかき続ける彼女にはもう、弁明の力は残されていなかった。どれもこれもはぐらかす事しかできない彼女の態度に、俺の心から盛大なため息が漏れ出る。
こいつの実態を知って、ある程度予想は出来ていたが、お気に入りのファンにだけ手厚いサービスしてるとか、職務怠慢もいいところだろ。ちゃんと仕事しろ仕事。
こいつの内面を知れば知るほど、憧れの薙沙ちゃん像が、どんどん音を立てながら崩れていく気がする。
「で、でもほら、私が先輩をひいきしてたーってことは、憧れのアイドルを独り占めしてたってことだよ。漫画とか、アニメとか、エロゲーみたいで、ちょっと興奮――」
(しません! ったく、お前はお前だけの都合で動いてるわけじゃないんだぞ。支えてくれる皆に、感謝の気持ちを持って平等に接しろ)
「……一番感謝してるのは先輩なのに」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、それとこれとは話が別だ。全く、こんなんじゃ他のファンの皆に申し訳がたたないし、それで晒されるのは俺なんだぞ。実際晒されてたし。
ただ、向こうの世界にはもう戻れないから、今は関係ないんだろうけど。
「そうそう、向こうの世界には戻れないんだし、いっそ全部忘れて――」
(て・ん・ど・う~~~~)
「……ごめんなさい」
彼女のあまりの無責任さに俺が怒りを顕にすると、天道は深く縮こまり、膝に顔を埋めてしまう。椅子の上で体育座りを始めた彼女は、まるで怯えた子供のように俺をチラチラと覗いてくる。いつもの事とは思いながらも、薙沙ちゃんの顔でその反応は、反則過ぎんだろ。
勿論、天道自身が可愛いのは俺も認める所だが、薙沙ちゃんの面影がちらつくのは、至極当然で仕方のない事なのである。そして、そんな彼女を放っておけないのも俺であり、叱る以上は最後まで面倒を見ようと思うのであった。
(そりゃさ、憧れの存在に贔屓されるのは嬉しいよ。でも、お前は皆の薙沙ちゃんなんだ。それを忘れたら、いくら俺でも軽蔑する)
こういう話題って、何処まであるのかわからないけど、俺達の気づかない所で、ある程度起こっている出来事なのだと思う。それを悪いとは思わないけど、こいつの場合、いちばん大切な時期にそれをやって、約束された未来を棒に振ったんだ。しかも、こんな俺のために。
だけど、今の彼女は間違いなく俺だけの薙沙ちゃんで、俺だけのアイドル。そんな彼女まで拒絶するのは、やっぱりバチが当たるかもしれない。
彼女の勝手は見過ごせないけど、こうなっちまった以上、向こうで嘆くファンのぶんまで俺が背負っていかないと。それが俺に課せられた業、彼女をこちらに呼んでしまった俺の責任。
そのためにはまず、泣きそうな彼女を笑顔にしないとな。
(だけど、だけどさ。俺の、俺だけの天道朝美なら、悪い気はしないかな……って)
そんな気持ちに後押しされ口をついて出た言葉、その意味に気づいた時、俺はなんてキザなセリフを言ったのだろうと、後悔してももう遅い。思いつめていたはずの天道の表情は、既に大輪の花を咲かせると同時に、華奢な体を左右にくねくねとくねらせていたのである。
「も~、先輩のばかー。わざとでしょ~、今までの前振り絶対わざとでしょ~。いやだも~、耳まで真っ赤じゃんか私~。でへ、デヘヘヘヘ」
脱げば意外と豊満ボディな天道さんだが、服の上からだと全くわからず痩せているように見えてしまう。勿論、裸とか見てないぞ! サキュバスの時に感じた彼女の肉感を思い出してるだけで、決して全裸とか見てない、見て……精神体の時にバッチリ凝視したっけ。思い返すとあれ、ムチムチで結構やば……自重自重。
あられもない天道の姿を思い描き、興奮を禁じ得ない俺の様子に、シャーリーは不快な視線を向けるのだった。
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