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第四章 地底に眠りし幼竜姫
第183話 報酬
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「だあぁぁぁ!! 安い、安すぎる!」
ベリトの事件から二日が経過し、俺達はスルスカンティーヌへと戻って来ていた。あれから大きな戦いはなく体の傷は癒えたのだが、俺に対するシャーリーの口数が、皆に比べて明らかに少ない。
俺から声をかけても無視される事が増え、避けられていると言うか……どっちかって言うと、怒ってるんだろうな。仲直りできたと思っていたのは、どうやら俺だけだったらしい。
無茶をしすぎた罰と言われればそれまでなのだが、こういう気まずい空気、やっぱ苦手だな。
「……先輩さー、考え事もいいけど、今は一番近くにいる子のことを考えてくれないかなー」
(あー、はいはい。安くて残念だったな)
そんな今も、俺の体は天道に預けられ、彼女は少し前を歩き俺達に背中を向けている。ここに辿り着くまでは、定期的にギュッと抱きしめられたりして、嫌われている事は無いと思ってたんだけど、正直自信が無くなってきている。
両手が空いている状態で彼女が俺を他人に渡す。無いことじゃないけど、寂しいと言うか、個人的にはかなりしんどい。やっぱ俺、シャーリーに依存し過ぎなのかなぁ……
「むー、なんかすっごい投げやり」
っと、彼女の事ばっか考えてないで、こっちの相手もしてやらないと。俺と喋りたくない人が、二人に増えちまう。
(投げやりったって、しょうがないだろ。実際、このぐらいが相場なんだから)
ムスッとした天道が何に嘆いているのかと言うと、今回もらった報酬が想像以上に安かったのである。
その内訳を説明すると、まず、俺達が苦労して倒したゴーレム……お前は倒してないだろ、ってツッコミは無しな。あの機械仕掛けのゴーレムをこっちの世界ではアンティークゴーレムって呼ぶんだが、普通のゴーレムとは違い、古代遺跡なんかから時おり発見されるものらしい。
ギルドの討伐リストには載っているのだが、強さがまちまちと言うか現存数が少なく、報告も稀なため、一律金貨一枚と決められているんだそうな。
因みに、普通のゴーレムは、泥や土から作られた岩造りのもので、機械が何故アンティークなのかと言うと、所謂ロストテクノロジー、オーパーツなんて呼ばれる、この時代には存在しない魔術で動いているんだと。
そのゴーレムが報奨としては一番高く、ゴーレム三体で金貨三枚、ワイバーン含めたその他魔物で金貨一枚、計金貨四枚が今回の討伐報酬。更にそこから、塔の調査で金貨十枚、危険手当が各二枚ずつの金貨六枚、合計金貨二十枚が今回俺達に与えられた報酬だ。
魔神の討伐料はどうしたって? 残念ながら、そんなものは無い!
こちらも軽く説明すると、ギルドの報酬ってのは基本クエスト依頼から出るようになっている。特定の地域の問題解決、例えば俺達の受けた塔の調査なんかがそうで、受ける内容によって金額が決まっている。ただし、成功の度合いによる増減もあって、今回みたいに生存者無しで値引かれたりする事も多い。この辺は、内容によってまちまちだ。
そして、それ以外の野良モンスターは、一体いくらという感じで、討伐リストに記されている。討伐報酬と説明したのが主にこっちだ。魔神の場合、討伐リストには記されておらず、値段が決まるのはクエスト依頼に当たる。
理由としては、個々の能力に開きがあるからだそうで、認知してからでないと値段のつけようがないらしい。どっちかって言うと、賞金首、俺達の住んでた国で言うと、指名手配犯って感じかな。要するに、訳のわからないものには金を出せないって事なのだろう。
変な所で現実的と言うか、事件が大きくならないと動けないのは何処も一緒って事で、ギルドも冒険者も社会の歯車の一員なんだなって、夢も希望も無いことを考えてしまったのである。
生粋の冒険者からすれば、魔神を倒したって経験が最高の称号なんだろうけど、やりがい搾取って言葉が俺の頭の中をよぎった。それでもこの時代、その日暮らしで生きてるって人も多いんだろう。ちょっとのお金と、明日のパンツがあれば生きていけるって感じでね。
実際、銅貨数枚払えば最低限の寝床と食事は確保できるし、その点から見れば金貨二十枚は大金で、戦果は上々なのである。
「それはわかってるけどさー、こんなんじゃ、この街で生活出来ないじゃんかー!」
しかし、この街の物価だけを考えれば、この程度の収入では生きていけないのも事実。ここに永住するためには、それ相応の資金繰りが必要で、もちろん、長期滞在でもそれは変わらない。
だから俺達も、のんびり出来ないと言うのが本音で、貴族大っきらいなベリトが、この街を消そうとしていた理由も頷けるって話なのだ。
「それは仕方のない事と思いますよ。今のスルスカンティーヌは、富裕層がお金を回すために作られた都市と聞いております。そこに試験的な外交を取り入れて、今の形になったのだそうで。当然、温泉という特産物を使い、他国から金銭を巻き上げようという打算的な部分が強いとは思われますが」
この街の金銭感覚を見てずっと思っていたが、やっぱりそういう裏話があるんだな。
(ってか、よく知ってるなスクルド)
「はい! これでも私、この土地一帯を管理する女神でもありましたので!」
ついでに、ひょんな事から新たな事実が判明したが、今は忘れておこう。ここで話題を増やすと、収集がつかなくなる。
「むー。塔攻略で三十金貨入ったら、高級旅館で先輩と一緒に露天風呂入ろうと思ってたのに―!」
(お前、そんな事考えてたのかよ。それに、俺達の目的は金じゃないだろ?)
今回の基本報酬は、元々金貨三十枚で、天道はそれを当てにしていたらしい。全く、依頼を受けたのは、あくまで合法的に調査しやすいようにってだけなのに。
「わかってる、わかってるけどさー……混浴は! 高級旅館だけなんだよここ!」
しかも理由はそんな事かい! どうせ天道の事だ、先輩と一緒に露天風呂~、とか考えてたんだろうけど、公衆浴場に剣が入れるのかって話なんだよなー。絶対に無理だと思うけど。
それに、なんつーかもう金持ちの道楽って感じで、金額からして泊まりに来る層が容易に想像できる。エロ目的のおっさんが、金と権力ちらつかせて待ってるとか、考えないのかねぇ。先輩一途と言うわりに、そういう所は無防備なんだよな。心配するこっちの身にもなれってーの。
「あーあ、こんなんだったらベリトにこの街、ふっとばしてもらうんだったなー……えーっと、冗談、だからね?」
まぁ、今回の場合、わざとらしく気を引くところを見るに、シャーロットの事が気になって頭が回ってない、なんて線も考えられるけど。
「うーん、本当に反応ないなぁ。ここまで無反応だと、流石の私も心配になってくるよ」
ほらな。シャーリーの事、心配してくれるのは嬉しいけど、自分の事を疎かにして金持ちの手に落ちるサキュバスとか、見たくねーぞ俺は。そんな事になったら、今度こそ色んな意味で自分自身を制御できる自信がない。
こういう時、頭の中でくすぶってるよりも、お前を何処にも行かせたくないって後ろから抱きしめて、殴られた方がよっぽどいいのに、それすら出来ないのがこの体の悪いところよな。
ベリトの事件から二日が経過し、俺達はスルスカンティーヌへと戻って来ていた。あれから大きな戦いはなく体の傷は癒えたのだが、俺に対するシャーリーの口数が、皆に比べて明らかに少ない。
俺から声をかけても無視される事が増え、避けられていると言うか……どっちかって言うと、怒ってるんだろうな。仲直りできたと思っていたのは、どうやら俺だけだったらしい。
無茶をしすぎた罰と言われればそれまでなのだが、こういう気まずい空気、やっぱ苦手だな。
「……先輩さー、考え事もいいけど、今は一番近くにいる子のことを考えてくれないかなー」
(あー、はいはい。安くて残念だったな)
そんな今も、俺の体は天道に預けられ、彼女は少し前を歩き俺達に背中を向けている。ここに辿り着くまでは、定期的にギュッと抱きしめられたりして、嫌われている事は無いと思ってたんだけど、正直自信が無くなってきている。
両手が空いている状態で彼女が俺を他人に渡す。無いことじゃないけど、寂しいと言うか、個人的にはかなりしんどい。やっぱ俺、シャーリーに依存し過ぎなのかなぁ……
「むー、なんかすっごい投げやり」
っと、彼女の事ばっか考えてないで、こっちの相手もしてやらないと。俺と喋りたくない人が、二人に増えちまう。
(投げやりったって、しょうがないだろ。実際、このぐらいが相場なんだから)
ムスッとした天道が何に嘆いているのかと言うと、今回もらった報酬が想像以上に安かったのである。
その内訳を説明すると、まず、俺達が苦労して倒したゴーレム……お前は倒してないだろ、ってツッコミは無しな。あの機械仕掛けのゴーレムをこっちの世界ではアンティークゴーレムって呼ぶんだが、普通のゴーレムとは違い、古代遺跡なんかから時おり発見されるものらしい。
ギルドの討伐リストには載っているのだが、強さがまちまちと言うか現存数が少なく、報告も稀なため、一律金貨一枚と決められているんだそうな。
因みに、普通のゴーレムは、泥や土から作られた岩造りのもので、機械が何故アンティークなのかと言うと、所謂ロストテクノロジー、オーパーツなんて呼ばれる、この時代には存在しない魔術で動いているんだと。
そのゴーレムが報奨としては一番高く、ゴーレム三体で金貨三枚、ワイバーン含めたその他魔物で金貨一枚、計金貨四枚が今回の討伐報酬。更にそこから、塔の調査で金貨十枚、危険手当が各二枚ずつの金貨六枚、合計金貨二十枚が今回俺達に与えられた報酬だ。
魔神の討伐料はどうしたって? 残念ながら、そんなものは無い!
こちらも軽く説明すると、ギルドの報酬ってのは基本クエスト依頼から出るようになっている。特定の地域の問題解決、例えば俺達の受けた塔の調査なんかがそうで、受ける内容によって金額が決まっている。ただし、成功の度合いによる増減もあって、今回みたいに生存者無しで値引かれたりする事も多い。この辺は、内容によってまちまちだ。
そして、それ以外の野良モンスターは、一体いくらという感じで、討伐リストに記されている。討伐報酬と説明したのが主にこっちだ。魔神の場合、討伐リストには記されておらず、値段が決まるのはクエスト依頼に当たる。
理由としては、個々の能力に開きがあるからだそうで、認知してからでないと値段のつけようがないらしい。どっちかって言うと、賞金首、俺達の住んでた国で言うと、指名手配犯って感じかな。要するに、訳のわからないものには金を出せないって事なのだろう。
変な所で現実的と言うか、事件が大きくならないと動けないのは何処も一緒って事で、ギルドも冒険者も社会の歯車の一員なんだなって、夢も希望も無いことを考えてしまったのである。
生粋の冒険者からすれば、魔神を倒したって経験が最高の称号なんだろうけど、やりがい搾取って言葉が俺の頭の中をよぎった。それでもこの時代、その日暮らしで生きてるって人も多いんだろう。ちょっとのお金と、明日のパンツがあれば生きていけるって感じでね。
実際、銅貨数枚払えば最低限の寝床と食事は確保できるし、その点から見れば金貨二十枚は大金で、戦果は上々なのである。
「それはわかってるけどさー、こんなんじゃ、この街で生活出来ないじゃんかー!」
しかし、この街の物価だけを考えれば、この程度の収入では生きていけないのも事実。ここに永住するためには、それ相応の資金繰りが必要で、もちろん、長期滞在でもそれは変わらない。
だから俺達も、のんびり出来ないと言うのが本音で、貴族大っきらいなベリトが、この街を消そうとしていた理由も頷けるって話なのだ。
「それは仕方のない事と思いますよ。今のスルスカンティーヌは、富裕層がお金を回すために作られた都市と聞いております。そこに試験的な外交を取り入れて、今の形になったのだそうで。当然、温泉という特産物を使い、他国から金銭を巻き上げようという打算的な部分が強いとは思われますが」
この街の金銭感覚を見てずっと思っていたが、やっぱりそういう裏話があるんだな。
(ってか、よく知ってるなスクルド)
「はい! これでも私、この土地一帯を管理する女神でもありましたので!」
ついでに、ひょんな事から新たな事実が判明したが、今は忘れておこう。ここで話題を増やすと、収集がつかなくなる。
「むー。塔攻略で三十金貨入ったら、高級旅館で先輩と一緒に露天風呂入ろうと思ってたのに―!」
(お前、そんな事考えてたのかよ。それに、俺達の目的は金じゃないだろ?)
今回の基本報酬は、元々金貨三十枚で、天道はそれを当てにしていたらしい。全く、依頼を受けたのは、あくまで合法的に調査しやすいようにってだけなのに。
「わかってる、わかってるけどさー……混浴は! 高級旅館だけなんだよここ!」
しかも理由はそんな事かい! どうせ天道の事だ、先輩と一緒に露天風呂~、とか考えてたんだろうけど、公衆浴場に剣が入れるのかって話なんだよなー。絶対に無理だと思うけど。
それに、なんつーかもう金持ちの道楽って感じで、金額からして泊まりに来る層が容易に想像できる。エロ目的のおっさんが、金と権力ちらつかせて待ってるとか、考えないのかねぇ。先輩一途と言うわりに、そういう所は無防備なんだよな。心配するこっちの身にもなれってーの。
「あーあ、こんなんだったらベリトにこの街、ふっとばしてもらうんだったなー……えーっと、冗談、だからね?」
まぁ、今回の場合、わざとらしく気を引くところを見るに、シャーロットの事が気になって頭が回ってない、なんて線も考えられるけど。
「うーん、本当に反応ないなぁ。ここまで無反応だと、流石の私も心配になってくるよ」
ほらな。シャーリーの事、心配してくれるのは嬉しいけど、自分の事を疎かにして金持ちの手に落ちるサキュバスとか、見たくねーぞ俺は。そんな事になったら、今度こそ色んな意味で自分自身を制御できる自信がない。
こういう時、頭の中でくすぶってるよりも、お前を何処にも行かせたくないって後ろから抱きしめて、殴られた方がよっぽどいいのに、それすら出来ないのがこの体の悪いところよな。
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