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第四章 地底に眠りし幼竜姫
第182話 第四章プロローグ 竜殺しの魔神
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マグマあふるる地底の奥で、黒衣の王は静かに吼える。黒の鱗を纏いし竜は、無謀にも現れし挑戦者を、見下すように睨みつけた。
ここは火口の奥深く、精霊の加護無しでは入ることすら難しい秘境中の秘境。そんな場所へ、コートを被った一人の男が突然姿を表した。十数年ぶりの客人かと、竜の王は過去の出来事を思い起こすが、物思いに耽るつもりはない。
何故ならそれは、不快と屈辱に彩られし、とても残忍で忌まわしき記憶。懐かしむのもはばかられる数々の恥辱にまみれていたからだ。あの時、身をもって警告したつもりだったが、人とはかくも愚かな者と、嘲りを込め威嚇の炎を吹きかける。
大半の生物なら、今の炎に恐怖を覚え真っ先に逃げ出すのだが、二足歩行の脆弱者はその身を炎がかすめようと、怯える気配を一向に見せない。男の度胸に感服し、その力量を見定める王であったが、武器を持たない男の姿に落胆の息を吐いてしまう。
竜へと挑む男は大柄、自らの体に余程自信があるのだろう。しかし、聖剣クラスの武器でなければ、黒竜の鱗には傷一つ負わせることが出来ない。せめて上位魔法でも使えればと考えたが、この男から魔導の才覚は一切感じ取れなかった。やはり人とは愚かなものだ。
にもかかわらず、フードに隠れた素顔からは狂気の色がにじみ出ている。王はそれを訝しんだが、所詮は人間是非も無しと本気の炎を浴びせかけた。
黒竜が吐き出す炎の色は黒、赤や青、その他全ての炎を凌駕する、神をも屠る地獄の業火。その力に、男の体は焼き尽くされ、悲鳴を上げる暇も無く灰となって消えていった。
また、愚かなものを消してしまった。ここは我等が守りし土地、奥で眠るは我等が姫、その安らぎを人間如きに妨げさせはしない。
そうして王は、何の感慨も覚えず再び眠りにつこうとする。だが、彼にそのような安息は二度と許されない。
四つの足を綺麗に折り曲げ、大地に全てを預けた瞬間、王の身体を激しい衝撃が貫いた。感じたことのない痛みに、王は無様に悲鳴を上げるが、それでも彼は王なのだ。命ある限り、安々と痛みに屈する訳にはいかない。
翼を一枚もがれた所で戦いに支障はないと、攻撃が放たれたと思われる黒い残り火を睨みつける黒竜。赤い双眸が見つめる先、炎と炎の隙間から先程の男が姿を現した。燃え尽きたのは衣服のみで体の方は五体満足、火傷の一つも負っていない。それどころか、地面に残る黒炎を腰から生やした二つの頭で、一筋残さず喰らっていく。
そんな彼の頭には二つの鋭利な角がそびえ、瞳の奥は悪魔のように黒い空洞になっている。何より王が驚いたのは、自分と同じ翼と尻尾をその男が持っていた事。この男は危険だ、強者の本能が疼くと同時に、王は再び呼吸の動作へと入る。次こそは全力で、目の前の男を排除する。
王が大きく息を吸い込み、吐き出そうとした直前、男の足から放たれたとても鋭利で鋭い影が、王の喉元へ深々と突き刺さる。伝説の鉱石、オリハルコンにも匹敵する強度を持った鱗が、紙切れのように貫かれるのと同時に、神経を焼き切られた王は瞳を白黒させながら絶命する。
勝敗は決した、それでも男は攻撃をやめず影の刃は次から次へと竜を突き刺し、最後にはその全てを喰らいつくす。黒竜の座っていた場所には血の一滴も残っておらず、何事もなかったかのように、辺りは静寂に包まれた。
沸き立つマグマの音を背に、男はこの場を後にする。新たな敵、根絶やしにするべき相手を求めて。しかし、男は気づかなかった。王が背にして守っていた、結界張られし小さな穴の存在に。
奥では一匹の幼竜が、安らかな寝息を立てている。どれだけ陰惨な出来事があろうと、彼女が目覚める事はない。永久に眠り続けること、それが彼女に与えられし運命。
故に彼女は眠り続ける、深い深い夢の中で。故に彼女は待ち続ける、清き魂の持ち主を。彼女の心を奮い立たせる奇異な王子が現れるまで、彼女はそこに伏せ続ける。
ここは火口の奥深く、精霊の加護無しでは入ることすら難しい秘境中の秘境。そんな場所へ、コートを被った一人の男が突然姿を表した。十数年ぶりの客人かと、竜の王は過去の出来事を思い起こすが、物思いに耽るつもりはない。
何故ならそれは、不快と屈辱に彩られし、とても残忍で忌まわしき記憶。懐かしむのもはばかられる数々の恥辱にまみれていたからだ。あの時、身をもって警告したつもりだったが、人とはかくも愚かな者と、嘲りを込め威嚇の炎を吹きかける。
大半の生物なら、今の炎に恐怖を覚え真っ先に逃げ出すのだが、二足歩行の脆弱者はその身を炎がかすめようと、怯える気配を一向に見せない。男の度胸に感服し、その力量を見定める王であったが、武器を持たない男の姿に落胆の息を吐いてしまう。
竜へと挑む男は大柄、自らの体に余程自信があるのだろう。しかし、聖剣クラスの武器でなければ、黒竜の鱗には傷一つ負わせることが出来ない。せめて上位魔法でも使えればと考えたが、この男から魔導の才覚は一切感じ取れなかった。やはり人とは愚かなものだ。
にもかかわらず、フードに隠れた素顔からは狂気の色がにじみ出ている。王はそれを訝しんだが、所詮は人間是非も無しと本気の炎を浴びせかけた。
黒竜が吐き出す炎の色は黒、赤や青、その他全ての炎を凌駕する、神をも屠る地獄の業火。その力に、男の体は焼き尽くされ、悲鳴を上げる暇も無く灰となって消えていった。
また、愚かなものを消してしまった。ここは我等が守りし土地、奥で眠るは我等が姫、その安らぎを人間如きに妨げさせはしない。
そうして王は、何の感慨も覚えず再び眠りにつこうとする。だが、彼にそのような安息は二度と許されない。
四つの足を綺麗に折り曲げ、大地に全てを預けた瞬間、王の身体を激しい衝撃が貫いた。感じたことのない痛みに、王は無様に悲鳴を上げるが、それでも彼は王なのだ。命ある限り、安々と痛みに屈する訳にはいかない。
翼を一枚もがれた所で戦いに支障はないと、攻撃が放たれたと思われる黒い残り火を睨みつける黒竜。赤い双眸が見つめる先、炎と炎の隙間から先程の男が姿を現した。燃え尽きたのは衣服のみで体の方は五体満足、火傷の一つも負っていない。それどころか、地面に残る黒炎を腰から生やした二つの頭で、一筋残さず喰らっていく。
そんな彼の頭には二つの鋭利な角がそびえ、瞳の奥は悪魔のように黒い空洞になっている。何より王が驚いたのは、自分と同じ翼と尻尾をその男が持っていた事。この男は危険だ、強者の本能が疼くと同時に、王は再び呼吸の動作へと入る。次こそは全力で、目の前の男を排除する。
王が大きく息を吸い込み、吐き出そうとした直前、男の足から放たれたとても鋭利で鋭い影が、王の喉元へ深々と突き刺さる。伝説の鉱石、オリハルコンにも匹敵する強度を持った鱗が、紙切れのように貫かれるのと同時に、神経を焼き切られた王は瞳を白黒させながら絶命する。
勝敗は決した、それでも男は攻撃をやめず影の刃は次から次へと竜を突き刺し、最後にはその全てを喰らいつくす。黒竜の座っていた場所には血の一滴も残っておらず、何事もなかったかのように、辺りは静寂に包まれた。
沸き立つマグマの音を背に、男はこの場を後にする。新たな敵、根絶やしにするべき相手を求めて。しかし、男は気づかなかった。王が背にして守っていた、結界張られし小さな穴の存在に。
奥では一匹の幼竜が、安らかな寝息を立てている。どれだけ陰惨な出来事があろうと、彼女が目覚める事はない。永久に眠り続けること、それが彼女に与えられし運命。
故に彼女は眠り続ける、深い深い夢の中で。故に彼女は待ち続ける、清き魂の持ち主を。彼女の心を奮い立たせる奇異な王子が現れるまで、彼女はそこに伏せ続ける。
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