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第三章 恋する駄女神
第181話 第三章エピローグ 三人の女神様と
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「申し訳ございません」
地上へ降りたその直後、幼女に戻ったスクルドが正座で謝罪を述べ始める。女神化していたはずの彼女が、何故この姿でしょげているのかと言うと、落下途中で魔力を使い果たし、塔の半分辺りから人力フリーフォールを決めてくれたからだ。
彼女いわく、地上の魔力は濃度が薄く、天界に比べ自由に使えないのだとか。それを全く考慮に入れず飛び降りた結果がこれ。正直めちゃくちゃ怖かった。
でも、魔力不足でつらそうな彼女を見ていると怒るに怒れない。その辛さは、俺も良く知っているし、着地直前になけなしの魔力で速度調節した所も見てしまったからな。
そんな彼女が崩壊させたベリトの塔は今や跡形も無く、結界による空気の淀みも消えている。残っているのはこのフルンティングだけ。この剣だけが、苦しい戦いの証明であり、証拠である。
そのフルンティングを抱えていた天道はというと……
「うげぇぇぇぇぇ。まだ、内蔵が揺れ、気持ちわ! うっ、うっ、うぇっぷ」
着地前後の反動に耐えきれず、森の奥で絶賛ゲロイン中だ。
情けない、と言いたいところだが、女子三人の中で唯一元人間である彼女が、初めての人力フリーフォールで気絶しなかっただけでも奇跡と言えよう。
因みに俺は、やっぱりオーバーフローしかけました。
それに、スクルドに抱えられていた腹部にも、相当な負荷がかかったことだろうしな。ここは彼女のゲロを嘆くより、無事を喜ぶべきところだろう。
「人のこと、ゲロゲロいうなー」
(おう! 俺の思考読む暇と、答える元気があるなら大丈夫だな―)
「う~、先輩のバカや!? うげぇぇぇぇぇ」
かわいそうだからそっとしておこう。ゲロキャラが定着しても困るし。
「それだけは、いや~」
悲痛な少女の嘆きを背に、俺は意識を女神に戻す。さて、彼女の処遇をどうしたものか。
反省してないわけでもないし、つけあがるとも思えない。けど、甘やかすのも俺のポリシーに反する。どこまで叱るべきか、悩みどころだ。
「あの、トオル様がお望みであれば、私の体を、お好きなようにお使いになって、よろしいんですよ?」
(お前な、すぐに体で解決しようとするなし)
「い、いえ! 私が全てをさらけ出すのは、トオル様の前、だけですから」
困っているのを察したのか、スクルドは自分から己の体を差し出そうとしてくる。いくら俺が童貞とは言え、この状況で頬を赤らめながらそんな事言われても、嬉しいけど嬉しくないわ! ったく、これだから怒るに怒れないんだよ。
(少しは相談しろってんだよ、この駄女神。お前と違って、俺は何考えてるのか百パーセントなんてわかんないんだから)
「は、はヒィ! もう少し、もう少しだけなぶるようなお言葉を!」
そんな苛立ちをぶつけながらも、俺の気持ちもわかってほしい。そんな願いを込めながら、言葉で彼女を諭してみる。しかし、調子に乗って駄女神と罵ったのがまずかった。こいつ、俺の罵声に喜びを覚え、大事な部分を全く聞いてない。更におかわりまで要求し始め、このままでは、ただ彼女を喜ばせるだけだ。
(お前の場合、叱れば叱るほどご褒美だからな。これ以上は何も言わんぞ)
「お、おホォ、こ、これがかの有名な放置プレイ! 直接叱られるのとはまた違い、怒られているのに怒ってもらえないというジレンマが、体の芯を熱くして、グヘ、ぐへへへ~」
何やってもご褒美とか、だめだこりゃ。
トリップしている変態は放っておくとして、最後はシャーリーか。ここが一番、精神的にはきついんだよな、俺が怒られないといけないやつ。
(えっと、シャーリー? 怒ってる、よな?)
塔を出てからというもの、一言も口を利いてくれない彼女と仲直りがしたい。これが俺の最終問題。どんな罵声を浴びせられてもいい、だからもう一度、寄り添える二人に戻りたい。
「……バカ」
悩む俺に向けられたのは、そんな小さな一言。
「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカァ!!」
蔑まされてるはずなのに、なんだかとても嬉しくて、彼女の本音が心地良い。
「……むちゃ……しないで」
(うん、ごめん)
決して、スクルドのように快感を覚えているわけじゃない。ベリトにめちゃくちゃ言われた彼女が、自分自身を責める事なく俺を存分に罵ってくれている。彼女のしこりになっていない、それだけで俺には、十分嬉しいんだ。
「……約束」
(ああ、約束だ)
「……死んだら……絶交……許さない」
死んだら許さない。大好きな女の子からこの台詞が聞ける俺は、たぶん幸せ者なのだろう。そしてこの先、俺がどうなっていくのかもわからない。彼女の剣として、まともに戦っていけるのだろうか?
「うぅ、でるもんなくなった。先輩、慰めて」
不安の種は募るばかりだけど、今だけは、この幸せを噛み締めていたい。
「あぁ! アサミさんずるいです。トオル様、失敗もありましたが、頑張った私も褒めて下さい」
騒がしくて、忙しなくて、迷惑ばっかりかけられてる気もするけど、それでもとても頼りになる、
「……トオル……疲れてる……だから……だめ」
三人の女神と過ごせる、この瞬間を。
地上へ降りたその直後、幼女に戻ったスクルドが正座で謝罪を述べ始める。女神化していたはずの彼女が、何故この姿でしょげているのかと言うと、落下途中で魔力を使い果たし、塔の半分辺りから人力フリーフォールを決めてくれたからだ。
彼女いわく、地上の魔力は濃度が薄く、天界に比べ自由に使えないのだとか。それを全く考慮に入れず飛び降りた結果がこれ。正直めちゃくちゃ怖かった。
でも、魔力不足でつらそうな彼女を見ていると怒るに怒れない。その辛さは、俺も良く知っているし、着地直前になけなしの魔力で速度調節した所も見てしまったからな。
そんな彼女が崩壊させたベリトの塔は今や跡形も無く、結界による空気の淀みも消えている。残っているのはこのフルンティングだけ。この剣だけが、苦しい戦いの証明であり、証拠である。
そのフルンティングを抱えていた天道はというと……
「うげぇぇぇぇぇ。まだ、内蔵が揺れ、気持ちわ! うっ、うっ、うぇっぷ」
着地前後の反動に耐えきれず、森の奥で絶賛ゲロイン中だ。
情けない、と言いたいところだが、女子三人の中で唯一元人間である彼女が、初めての人力フリーフォールで気絶しなかっただけでも奇跡と言えよう。
因みに俺は、やっぱりオーバーフローしかけました。
それに、スクルドに抱えられていた腹部にも、相当な負荷がかかったことだろうしな。ここは彼女のゲロを嘆くより、無事を喜ぶべきところだろう。
「人のこと、ゲロゲロいうなー」
(おう! 俺の思考読む暇と、答える元気があるなら大丈夫だな―)
「う~、先輩のバカや!? うげぇぇぇぇぇ」
かわいそうだからそっとしておこう。ゲロキャラが定着しても困るし。
「それだけは、いや~」
悲痛な少女の嘆きを背に、俺は意識を女神に戻す。さて、彼女の処遇をどうしたものか。
反省してないわけでもないし、つけあがるとも思えない。けど、甘やかすのも俺のポリシーに反する。どこまで叱るべきか、悩みどころだ。
「あの、トオル様がお望みであれば、私の体を、お好きなようにお使いになって、よろしいんですよ?」
(お前な、すぐに体で解決しようとするなし)
「い、いえ! 私が全てをさらけ出すのは、トオル様の前、だけですから」
困っているのを察したのか、スクルドは自分から己の体を差し出そうとしてくる。いくら俺が童貞とは言え、この状況で頬を赤らめながらそんな事言われても、嬉しいけど嬉しくないわ! ったく、これだから怒るに怒れないんだよ。
(少しは相談しろってんだよ、この駄女神。お前と違って、俺は何考えてるのか百パーセントなんてわかんないんだから)
「は、はヒィ! もう少し、もう少しだけなぶるようなお言葉を!」
そんな苛立ちをぶつけながらも、俺の気持ちもわかってほしい。そんな願いを込めながら、言葉で彼女を諭してみる。しかし、調子に乗って駄女神と罵ったのがまずかった。こいつ、俺の罵声に喜びを覚え、大事な部分を全く聞いてない。更におかわりまで要求し始め、このままでは、ただ彼女を喜ばせるだけだ。
(お前の場合、叱れば叱るほどご褒美だからな。これ以上は何も言わんぞ)
「お、おホォ、こ、これがかの有名な放置プレイ! 直接叱られるのとはまた違い、怒られているのに怒ってもらえないというジレンマが、体の芯を熱くして、グヘ、ぐへへへ~」
何やってもご褒美とか、だめだこりゃ。
トリップしている変態は放っておくとして、最後はシャーリーか。ここが一番、精神的にはきついんだよな、俺が怒られないといけないやつ。
(えっと、シャーリー? 怒ってる、よな?)
塔を出てからというもの、一言も口を利いてくれない彼女と仲直りがしたい。これが俺の最終問題。どんな罵声を浴びせられてもいい、だからもう一度、寄り添える二人に戻りたい。
「……バカ」
悩む俺に向けられたのは、そんな小さな一言。
「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカァ!!」
蔑まされてるはずなのに、なんだかとても嬉しくて、彼女の本音が心地良い。
「……むちゃ……しないで」
(うん、ごめん)
決して、スクルドのように快感を覚えているわけじゃない。ベリトにめちゃくちゃ言われた彼女が、自分自身を責める事なく俺を存分に罵ってくれている。彼女のしこりになっていない、それだけで俺には、十分嬉しいんだ。
「……約束」
(ああ、約束だ)
「……死んだら……絶交……許さない」
死んだら許さない。大好きな女の子からこの台詞が聞ける俺は、たぶん幸せ者なのだろう。そしてこの先、俺がどうなっていくのかもわからない。彼女の剣として、まともに戦っていけるのだろうか?
「うぅ、でるもんなくなった。先輩、慰めて」
不安の種は募るばかりだけど、今だけは、この幸せを噛み締めていたい。
「あぁ! アサミさんずるいです。トオル様、失敗もありましたが、頑張った私も褒めて下さい」
騒がしくて、忙しなくて、迷惑ばっかりかけられてる気もするけど、それでもとても頼りになる、
「……トオル……疲れてる……だから……だめ」
三人の女神と過ごせる、この瞬間を。
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