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第三章 恋する駄女神
第154話 女神が堕ちた理由
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今のスクルドにとって、俺を好きだという気持は生きる意味の全て。だから、自分にできる最善の方法で俺を繋ぎ止めようとしている。その想いはきっと、シャーリーにしがみつく俺の気持ちと一緒なんだ。
好きな人に好かれていたい。それだけを考えた彼女は、こうして心身ともに堕落を始めている。たぶん、彼女の中にある最高の奉仕ってやつが、男として気持ちよくなってもらうことなのだろう。偉そうな事を言えた義理じゃないけど、恋というものが何なのか、彼女にはまだわかっていないんだ。それに、こいつはどこか俺に似ている、そんな気がする。
(えっと……ごめん)
「な、なぜ、トオル様が謝られるのですか?」
(……私はいらない子なのでしょうか? って前にも言ってただろ?)
「あ……」
それは、俺がひた隠しにしていた感情。この世界に、自分を必要としてくれている人は一人も居ないんじゃないかと言う不安。だから誰かに好かれたいと、絶対に嫌われたくないと、否定一つを恐れるあまり自分に完璧を求めてしまう。そんな思いがあるから、そういう言葉が出てくるんじゃないかって。
(だから、その、気にしなくて良いって言うか、側にいる事自体はやぶさかじゃないと言うか、えーっと……)
……駄目だ、言いたいことがまとまらない。どんな言葉をかければ、彼女を安心させてやれるだろう。あれだけやったギャルゲーも、こんな時には微塵も役に立たないとか……くそっ、もっとハーレム物に手を出しておくべきだった。
「トオル様は本当にお優しいのですね」
言い淀む俺の体に、スクルドの小さな手がそっと添えられる。励ます側の俺が気を使われ、安心させられている事がとても悔しい。その辛さに歯噛みしていると、小さな鼻息と共にスクルドが話を始めた。
「そのお気持ちは嬉しいですが、薬というものは与え過ぎれば毒にもなります。例えばですが、動物は甘やかしすぎるとつけあがりますよね。自分よりも低俗な存在だから尽くしてくれる、何をしても大丈夫、と認識するわけです」
饒舌に語る彼女を見ていると何故か心が落ち着く。ただ、こんな話を始めた理由が俺にはさっぱりわからないのだが。それに、言い回しに棘がある理由もとても気になる。あれか、親切にした犬に手でも噛まれたのかこの女神。
「それは人間も同じで、お金持ちのAさんが彼女のBさんを叱りもせずなんでも買い与えた場合、Bさんは徐々にAさんをアトムと認識するようになるわけです」
しかも話題は徐々にエスカレートし、過激な発言が目につくようになり始める。ってか、アトムってなんだ? 鉄の腕か? ……あぁ、ATMの事か。なんかこう、酷い例えだな。
「そうするとですよ、BさんはAさんをお金としか見なくなり、刺激を求めてCさんに浮気をするわけなのです」
しまいには浮気とか言い出して、めっちゃドロドロしてるんですけど……俺の蔵書以外でこいつ、どこから知識を得たのやら。さっきの話といい、彼女の事がだんだん心配になってきた。一人で歩かせたら最後、周りの人間に何を言い出すかわかったもんじゃない。
……過保護な親って、こんな気持なのかな?
「いかなる時も大切にしていただける。それはとても幸せな事ですが、必ずしも正しいというわけではございません。ですから、必要とあらば私達のこと、存分に叱りつけてくださいませ」
結局、最後の最後まで戸惑い続けた俺を尻目に、スクルドは笑顔で話を締めくくった。
例え話はともかく、内容としては、甘やかしすぎるとろくな事にならないよと言いたいのだろう。そして、迷惑に思った時は、女神である自分にも遠慮なく制裁を加えて欲しい。こんなところか?
彼女なりに俺の目線に立とうとしてくれるのは嬉しいけど、やっぱ、その例えはどうかと思う。それに、俺が女の子を怒る時って相当なんだけどな。
ともかく、そこまで彼女が言うのなら、言いたいことの一つぐらい俺にもある。それをここで言わせてもらおう。
(それじゃ一つ言わせてくれ。全身、び……敏感化機能なんて危険なもの、どうして付けようと思ったんだよ?)
正直、言葉にするだけで恥ずかしいこの機能、何故つけたのか未だに不思議で仕方がない。一応封印したらしいし、そこまで気にする必要は無いのかもしれないけど、あんなもん誤爆してみろ、俺が危ないのは当然として、状況によってはシャーリーを危険に晒すことになる。それだけはどうしても避けたい。
「あの機能、トオル様も否定的ですか?」
(当たり前だろ! あんな危険なもん付けるほうがどうかしてる!)
「……」
先程まで上機嫌だったスクルドも、荒々しい俺の物言いに言葉を失う。彼女いわく、かなりの自信作だったようだからな。真っ向から否定され、精神的に堪えたのだろう。寂しげな表情からも自信の程が伺える。
(……せめて理由を説明してくれ。じゃないと、俺はお前を信じきれない)
俺だってそんな顔をさせたい訳じゃない。でも、こいつの本音がわからない以上、俺の中にあるわだかまりは消えないと思う。だから、ここではっきりさせたいんだ、彼女が俺の本当の仲間だと言うことを。
「……かしこまりました。それでは、説明させていただきます」
俺の思いが通じたのか、スクルドは意を決しその理由を語り始める。果たして、どのような答えが返ってくるのか。その期待と不安に、思わず俺は息を呑む。
「その、ですね。トオル様の事ばかり考えるようになって初めて人間というものに興味を持ち、私なりに調べたんです。そうしたら、人間は気持ちよくなると幸せになれると知りまして、その中でも快楽によって高みに昇った瞬間が最も至福だと、あるページに書いてあったのです」
始めの内こそ、気恥ずかしさからか頬を染めるスクルドであったが、次第に凛とした表情を見せいつもの彼女に戻っていく。
しかし、彼女の説明を聞けば聞くほど、俺の体のありとあらゆる部分から冷や汗が吹き出るのを感じた。ああ、なんとなく見えてきたぞ、彼女がそれを作った理由が。
「最初は私も半信半疑と言いますか、訳がわからなかったのですが。いんたーねっつなる場所のギュルギュル先生にご教示頂いた所、人間は否定の言葉を述べながらも幸せそうな表情をする不思議な種族とわかりまして、その矛盾に再び疑問を抱きました。トオル様の御部屋からもそのような書物を発見し、私は頭を抱えたのです。人という種の難解な言動を微塵も理解できなかった私に、トオル様にお会いする資格は無いのではと考えました。そこで、私は自らの身体を使い、真偽の程を確かめる決意をしたんです」
なるほど、スクルドは人間の持つ矛盾という部分に興味を示したのか。それはまだ良い、まだ良いのだが、頭を抱えたいのは俺の方だよ。こいつの頭の中は、大半が恐らくネットから得た知識。しかも、検索トップに出てきたものを手当たり次第に閲覧し、理解した気になってる感じがする。これはたぶん、典型的な頭でっかち……最悪のパターンなのではないだろうか。
「更に調べを進めた所、人間の脳には快楽中枢というものがあるらしく、そこに刺激を与えると気持ちよくなれる事がわかりました。幸運にも私達は人間を模して作られています。そこで、全身から魔力を送り込み、その部位に刺激を与え続ける装置を開発したんです」
言い知れぬ不安の中淡々と語られる内容に、開いた口が塞がらない。何が幸運にもだよ、なんつーもん作りやがったんだてめぇは! 悪用されたら人間……というか社会秩序が滅ぶぞ、マジで。
良い子のみんなは、ネットの情報を一から百まで信じるのは、危険だからやめようね。お兄さんとの約束だぞ! ……いかん、現実逃避してる場合じゃなかった。真面目に聞こう。真面目に聞かないと、もっとヤバイ事になりそうな気がする。
「それから私は自分の部屋に結界を張り、保険として六時間の稼働制限を設けると、試作品であるそれを躊躇なく起動させました。始めの内は何事も無かったんです。そもそも、喜びという感情を理解していなかった私に、肉体の微弱な変化に気づけと言うのが無理な話だったんです。当然、それが仇となりました。時すでに遅く、疼きに気づいた私の体は、既に快楽を受け入れてしまっていたのです。腕は勿論のこと、足の先まで力は入らず、私の肉体は装置のなすがままに蹂躙され続けました」
話の中、眉一つ動かすことのなかったスクルドの表情に、徐々に変化が現れる。その時の情景を鮮明に思い返しているのだろう。火照る小さな体から俺の刀身まで熱量が伝わってくる。そして俺も、その時のスクルドを思い描き、悪い事だとわかっていながら興奮のあまり没頭していく。
「息は上がり、体の自由も全く効かない。それでも、私は必死に抵抗を試みました。女神である私が、こんな装置一つに手も足も出ない。そんな事、許されるはずがないと考えたからです。しかし、現実は非常でした。数分をかけて到達した腕は装置を剥がす力を持たず、体に触れれば触れるだけその刺激は快楽へと変わり、逆に私を弱めていきます。足も同じです。立ち上がろうと力を込めれば、それは全て快楽となり私から力を奪いました。動けないなら魔法で、とも考えましたが、気持ちよさに呆けきった私の体に魔力を集中させる術はなく、ろれつの回らない舌では詠唱もままならない。下手に喋れば、それすらも快楽へと変換されて……この私が、女神と崇められ、魔神とも互角以上に戦える私が、意思を持たない魔導具如きに為す術もなく翻弄される、その悔しさすらも呑み込まれ、逆に癖になっていく私が……私が……」
俺の中の純白の女神が機械の檻に穢されていく。その背徳感に全てを委ね、夢の世界に溺れていると、スクルドの言葉が突然止んだ。それと同時に、背中に微弱な振動を感じ、不思議に思い目を開けると、震える小さな女神の姿が俺の義眼に飛び込んできた。
(……スクルド? おい、おい! 大丈夫か! スクルド! スクルド!!)
「申し訳ありません、申し訳ありませんトオル様。これ以上は、これ以上はどうかご勘弁を」
か細い腕で、自らを抱きしめる彼女の姿に焦った俺は、不安に突き動かされるまま声を張り上げる。スクルドからの返答は、体同様震えていた。
自分が自分で無くなりそうになる感覚。天道に味合わされ、俺自身、身をもって知っているはずなのに。欲望に任せて妄想して……畜生、これじゃ俺も何も変わらないじゃないか。
好きな人に好かれていたい。それだけを考えた彼女は、こうして心身ともに堕落を始めている。たぶん、彼女の中にある最高の奉仕ってやつが、男として気持ちよくなってもらうことなのだろう。偉そうな事を言えた義理じゃないけど、恋というものが何なのか、彼女にはまだわかっていないんだ。それに、こいつはどこか俺に似ている、そんな気がする。
(えっと……ごめん)
「な、なぜ、トオル様が謝られるのですか?」
(……私はいらない子なのでしょうか? って前にも言ってただろ?)
「あ……」
それは、俺がひた隠しにしていた感情。この世界に、自分を必要としてくれている人は一人も居ないんじゃないかと言う不安。だから誰かに好かれたいと、絶対に嫌われたくないと、否定一つを恐れるあまり自分に完璧を求めてしまう。そんな思いがあるから、そういう言葉が出てくるんじゃないかって。
(だから、その、気にしなくて良いって言うか、側にいる事自体はやぶさかじゃないと言うか、えーっと……)
……駄目だ、言いたいことがまとまらない。どんな言葉をかければ、彼女を安心させてやれるだろう。あれだけやったギャルゲーも、こんな時には微塵も役に立たないとか……くそっ、もっとハーレム物に手を出しておくべきだった。
「トオル様は本当にお優しいのですね」
言い淀む俺の体に、スクルドの小さな手がそっと添えられる。励ます側の俺が気を使われ、安心させられている事がとても悔しい。その辛さに歯噛みしていると、小さな鼻息と共にスクルドが話を始めた。
「そのお気持ちは嬉しいですが、薬というものは与え過ぎれば毒にもなります。例えばですが、動物は甘やかしすぎるとつけあがりますよね。自分よりも低俗な存在だから尽くしてくれる、何をしても大丈夫、と認識するわけです」
饒舌に語る彼女を見ていると何故か心が落ち着く。ただ、こんな話を始めた理由が俺にはさっぱりわからないのだが。それに、言い回しに棘がある理由もとても気になる。あれか、親切にした犬に手でも噛まれたのかこの女神。
「それは人間も同じで、お金持ちのAさんが彼女のBさんを叱りもせずなんでも買い与えた場合、Bさんは徐々にAさんをアトムと認識するようになるわけです」
しかも話題は徐々にエスカレートし、過激な発言が目につくようになり始める。ってか、アトムってなんだ? 鉄の腕か? ……あぁ、ATMの事か。なんかこう、酷い例えだな。
「そうするとですよ、BさんはAさんをお金としか見なくなり、刺激を求めてCさんに浮気をするわけなのです」
しまいには浮気とか言い出して、めっちゃドロドロしてるんですけど……俺の蔵書以外でこいつ、どこから知識を得たのやら。さっきの話といい、彼女の事がだんだん心配になってきた。一人で歩かせたら最後、周りの人間に何を言い出すかわかったもんじゃない。
……過保護な親って、こんな気持なのかな?
「いかなる時も大切にしていただける。それはとても幸せな事ですが、必ずしも正しいというわけではございません。ですから、必要とあらば私達のこと、存分に叱りつけてくださいませ」
結局、最後の最後まで戸惑い続けた俺を尻目に、スクルドは笑顔で話を締めくくった。
例え話はともかく、内容としては、甘やかしすぎるとろくな事にならないよと言いたいのだろう。そして、迷惑に思った時は、女神である自分にも遠慮なく制裁を加えて欲しい。こんなところか?
彼女なりに俺の目線に立とうとしてくれるのは嬉しいけど、やっぱ、その例えはどうかと思う。それに、俺が女の子を怒る時って相当なんだけどな。
ともかく、そこまで彼女が言うのなら、言いたいことの一つぐらい俺にもある。それをここで言わせてもらおう。
(それじゃ一つ言わせてくれ。全身、び……敏感化機能なんて危険なもの、どうして付けようと思ったんだよ?)
正直、言葉にするだけで恥ずかしいこの機能、何故つけたのか未だに不思議で仕方がない。一応封印したらしいし、そこまで気にする必要は無いのかもしれないけど、あんなもん誤爆してみろ、俺が危ないのは当然として、状況によってはシャーリーを危険に晒すことになる。それだけはどうしても避けたい。
「あの機能、トオル様も否定的ですか?」
(当たり前だろ! あんな危険なもん付けるほうがどうかしてる!)
「……」
先程まで上機嫌だったスクルドも、荒々しい俺の物言いに言葉を失う。彼女いわく、かなりの自信作だったようだからな。真っ向から否定され、精神的に堪えたのだろう。寂しげな表情からも自信の程が伺える。
(……せめて理由を説明してくれ。じゃないと、俺はお前を信じきれない)
俺だってそんな顔をさせたい訳じゃない。でも、こいつの本音がわからない以上、俺の中にあるわだかまりは消えないと思う。だから、ここではっきりさせたいんだ、彼女が俺の本当の仲間だと言うことを。
「……かしこまりました。それでは、説明させていただきます」
俺の思いが通じたのか、スクルドは意を決しその理由を語り始める。果たして、どのような答えが返ってくるのか。その期待と不安に、思わず俺は息を呑む。
「その、ですね。トオル様の事ばかり考えるようになって初めて人間というものに興味を持ち、私なりに調べたんです。そうしたら、人間は気持ちよくなると幸せになれると知りまして、その中でも快楽によって高みに昇った瞬間が最も至福だと、あるページに書いてあったのです」
始めの内こそ、気恥ずかしさからか頬を染めるスクルドであったが、次第に凛とした表情を見せいつもの彼女に戻っていく。
しかし、彼女の説明を聞けば聞くほど、俺の体のありとあらゆる部分から冷や汗が吹き出るのを感じた。ああ、なんとなく見えてきたぞ、彼女がそれを作った理由が。
「最初は私も半信半疑と言いますか、訳がわからなかったのですが。いんたーねっつなる場所のギュルギュル先生にご教示頂いた所、人間は否定の言葉を述べながらも幸せそうな表情をする不思議な種族とわかりまして、その矛盾に再び疑問を抱きました。トオル様の御部屋からもそのような書物を発見し、私は頭を抱えたのです。人という種の難解な言動を微塵も理解できなかった私に、トオル様にお会いする資格は無いのではと考えました。そこで、私は自らの身体を使い、真偽の程を確かめる決意をしたんです」
なるほど、スクルドは人間の持つ矛盾という部分に興味を示したのか。それはまだ良い、まだ良いのだが、頭を抱えたいのは俺の方だよ。こいつの頭の中は、大半が恐らくネットから得た知識。しかも、検索トップに出てきたものを手当たり次第に閲覧し、理解した気になってる感じがする。これはたぶん、典型的な頭でっかち……最悪のパターンなのではないだろうか。
「更に調べを進めた所、人間の脳には快楽中枢というものがあるらしく、そこに刺激を与えると気持ちよくなれる事がわかりました。幸運にも私達は人間を模して作られています。そこで、全身から魔力を送り込み、その部位に刺激を与え続ける装置を開発したんです」
言い知れぬ不安の中淡々と語られる内容に、開いた口が塞がらない。何が幸運にもだよ、なんつーもん作りやがったんだてめぇは! 悪用されたら人間……というか社会秩序が滅ぶぞ、マジで。
良い子のみんなは、ネットの情報を一から百まで信じるのは、危険だからやめようね。お兄さんとの約束だぞ! ……いかん、現実逃避してる場合じゃなかった。真面目に聞こう。真面目に聞かないと、もっとヤバイ事になりそうな気がする。
「それから私は自分の部屋に結界を張り、保険として六時間の稼働制限を設けると、試作品であるそれを躊躇なく起動させました。始めの内は何事も無かったんです。そもそも、喜びという感情を理解していなかった私に、肉体の微弱な変化に気づけと言うのが無理な話だったんです。当然、それが仇となりました。時すでに遅く、疼きに気づいた私の体は、既に快楽を受け入れてしまっていたのです。腕は勿論のこと、足の先まで力は入らず、私の肉体は装置のなすがままに蹂躙され続けました」
話の中、眉一つ動かすことのなかったスクルドの表情に、徐々に変化が現れる。その時の情景を鮮明に思い返しているのだろう。火照る小さな体から俺の刀身まで熱量が伝わってくる。そして俺も、その時のスクルドを思い描き、悪い事だとわかっていながら興奮のあまり没頭していく。
「息は上がり、体の自由も全く効かない。それでも、私は必死に抵抗を試みました。女神である私が、こんな装置一つに手も足も出ない。そんな事、許されるはずがないと考えたからです。しかし、現実は非常でした。数分をかけて到達した腕は装置を剥がす力を持たず、体に触れれば触れるだけその刺激は快楽へと変わり、逆に私を弱めていきます。足も同じです。立ち上がろうと力を込めれば、それは全て快楽となり私から力を奪いました。動けないなら魔法で、とも考えましたが、気持ちよさに呆けきった私の体に魔力を集中させる術はなく、ろれつの回らない舌では詠唱もままならない。下手に喋れば、それすらも快楽へと変換されて……この私が、女神と崇められ、魔神とも互角以上に戦える私が、意思を持たない魔導具如きに為す術もなく翻弄される、その悔しさすらも呑み込まれ、逆に癖になっていく私が……私が……」
俺の中の純白の女神が機械の檻に穢されていく。その背徳感に全てを委ね、夢の世界に溺れていると、スクルドの言葉が突然止んだ。それと同時に、背中に微弱な振動を感じ、不思議に思い目を開けると、震える小さな女神の姿が俺の義眼に飛び込んできた。
(……スクルド? おい、おい! 大丈夫か! スクルド! スクルド!!)
「申し訳ありません、申し訳ありませんトオル様。これ以上は、これ以上はどうかご勘弁を」
か細い腕で、自らを抱きしめる彼女の姿に焦った俺は、不安に突き動かされるまま声を張り上げる。スクルドからの返答は、体同様震えていた。
自分が自分で無くなりそうになる感覚。天道に味合わされ、俺自身、身をもって知っているはずなのに。欲望に任せて妄想して……畜生、これじゃ俺も何も変わらないじゃないか。
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