俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第三章 恋する駄女神

第152話 その普通は普通じゃない

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「……トオル、お兄、ちゃん?」

(!?)

 何時もの如くへこみたくなるリアル女子への耐性の無さに、俺が悲観にくれていると、聞き慣れない言葉の羅列が心の奥へと響いてくる。懐かしいという感覚は、あくまで画面の中での話。現実では絶対に聞くことのでき無い破壊力に、俺は盛大に困惑した。

(ば!? な、何言い出すのだねスクルドくん!)

「い、いえ、その……と、トオル様と同じ年頃の、普通の女の子のような会話がしたいな~、なんて」

 焦る言葉の節々から、溢れ出る心の動揺。それがスクルドにも伝わったのか、彼女も頬を赤く染め、照れくさそうに笑顔を見せる。そんな彼女がとても可愛い、可愛いのだが……その普通は絶対に間違ってる。

(スクルド、それ根本的に間違ってる。普通の女子は男子の事、お兄ちゃんなんて絶対に言わないから)

「そう、なのですか?」

(そうなんだよ)

 万に一つの可能性として、スクルドの言うような女子がリアルに存在するとしよう。その場合、二人の仲はかなり親密で、友達以上恋人未満かカップル、もしくは特殊な嗜好である事は根暗な俺にも理解できる。むしろ、俺みたいのだから理解できると言っても過言ではない。あぁ、妹系幼馴染欲し……ゲホゲホ。

 しかし、全く納得していないのか、スクルドは心底不思議と言う表情で俺の事を見つめてくる。こいつはいったい、どこでそんな普通を覚えてきたんだか……!? その時、俺の頭に電流走る。もしかしてこれ、俺のせい? 

 だって、彼女が俺を基準とし世界の知識を得たのなら、まず最初に俺の部屋を漁った可能性が高い。そうなると、ゲーム、ラノベ、漫画等の、我が部屋に封印されし星の本棚が火を噴いた事は明白。

 確かに、俺も様々な可能性や考え方をそれらから学んだ。決して無駄と言わせるつもりはない! しかし、しかしだ! あれらの内容を常識とするには、あまりに無理がありすぎる。言わば、基礎を学ばずに応用を習得するようなものだ。そのせいで、彼女の知識が歪んだとなると、軽い罪悪感に襲われるな。

 でも、スクルドはスクルドなんだし、普通とか気にしなくていいのに。

(……それで、俺達どこまで落ちたのかな? だいぶ落下した気がするんだけど。ここって、地下なのかな?)

 そんな、彼女に対する後ろめたさと、お兄ちゃんと呼ばれた気恥ずかしさに耐えきれなくなった俺は、関係のない話題へと話を逸らす。

 くっ、見た目幼女にお兄ちゃん言われただけで一発KOとか、俺の耐性無さすぎ……

「それについてなのですが……」

 当然、気まずいと思っているのは俺だけのようで、特に疑問を抱くこと無く真剣な表情へと戻るスクルド。だが、いつもの凛々しい感じはなく、思い悩むような歯切れの悪い返答を見せる。何か、問題でもあるのだろうか?

(どうした? 言ってみろ?)

 そんな彼女をこれ以上不安にさせまいと、俺もまた冷静に振る舞う覚悟を決める。正直今はこっちの方が落ち着くし、少しでも多く情報が欲しい。頭の中が空っぽだと、不安で押しつぶされそうになるから。

「はい。この塔の構造についてなのですが、入り口の段階から既に空間が捻じ曲がっており、正確な位置を判別する事が私にも出来ていないんです」

(……なるほどな)

「あの……驚かれないんですか?」

 彼女の口からもたらされたのは塔の作りについての情報。彼女の説明を聞いた俺は、何も疑問に思うことなく、その内容を瞬時に理解し納得する。むしろ、あまりに沈着冷静な俺を見たスクルドの方が、逆に驚いているぐらいだ。

(まぁ、当たらずといえども遠からずと言うか、ここがまともじゃないことはなんとなく理解できてたからな)

 入り口からというのは正直意外だったが、驚くほどの事じゃない。塔の内部がおかしいのは、休憩部屋の辺りからなんとなく察していた。何せ、鉄球から逃げていただけでもあり得ないような距離を走ったし、その後階段は疎か、上へと登る通路にも出くわしていない。

 鉄球と共に転がり落ち、真っ直ぐな道を進む、この作りが塔の構造と不一致なのは、誰の目から見ても明らかだろう。そもそも、剣と魔法の異世界で、常識に縛られること自体が間違いなのかもしれないし、すぐに気づかなかったのは俺の思慮が甘かっただけ。お兄ちゃんと呼ばれる方が数十倍は動揺できる。

(って事は、落ちる前に居た階層、あの時点でまだ半分も登れてなかったのかな?)

 ただ、あれだけ駆けずり回ったにも関わらず、半分以上も登れていないとなると……二人が心配だ。あのゴーレムに勝ったとして、今までの二倍以上を登るとしたら、いくら二人でも命の保証はできない。

 ……大丈夫、二人は生きている。生きている、はずなんだ……

「……これはあくまで勘なのですが、あの時点で私達は、かなり頂上に近い位置にいたものと推察できます」

 最後に見たゴーレムが放つ渾身の一撃、あれで二人が死んだとは思いたくない。そんな願望から漏れ出た呟き、それに対するスクルドの答えに思わず俺は目を丸くする。

(なんだよ、女神でも勘とか言うのな。神様ってやつは、不確定要素を極力排除するもんだと思ってたけど)

「そうですね。このような事、少し前の私でしたら口が裂けても言わなかったと思います。と言いますか、そちらに対して驚かれる方が、私としては不本意なのですが……」

 彼女のあまりに以外な答えに俺は軽く皮肉を漏らし、彼女はそれを受け入れる。そんな彼女の小さな変化を、微笑ましく俺は思った。

(ごめんごめん。でも、こんな塔の変化より、自分のちょっとした変化に気づいて貰えたほうが嬉しいだろ?)

「そ、それはそうですが……トオル様は意地悪です」

(おちょくられて可愛い顔するお前が悪い)

 自分でもキザったらしい事言ってるのは理解してる。それでも、普段より感情豊かな彼女を見ていたら辛抱たまらなくなったのだ。

 クールな女性って、こういう所がたまらない。いつものカッコイイ雰囲気も好きだけど、不意に見せる女の子らしさが、俺の嗜虐心を掻き立てる……ってこれじゃ変態か。いや、俺は変態だから、別にこれで良いのか?

 などと、変態論議をするのも良いが、ここが何処だかわからぬ以上、なるべく早く行動したい。

(それで、体調はどうなんだ? 動けるのか?)

「大丈夫、と言いたい所ですが、少しだけ調整の時間をください。無理を通して、トオル様を危険な目に合わせるわけには行きませんので」

 普段以上に慎重になる彼女の発言に、どこか怪我でもしたのかと心配になるが、軽く見渡す限り体に外傷のようなものは見受けられない。しかし、見えない所に傷を負った可能性もあるし、精神的に不安定という線も考えられる。上の二人も心配だけど、彼女に無茶をさせては元も子もない。

 仮に、今の発言が仮病で俺を休ませるための口実だとしても、それだけ俺を心配してくれてるって事だもんな。それに、俺自身まだぼーっとしてる部分もある。何にせよ、ここは素直に乗っておくか。
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