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第三章 恋する駄女神
第146話 例えばこんなSとM
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(……スクルド。罰と言う訳ではないんだが、これから少し酷いことを言わせてもらおうと思う。いいか?)
「は、はい! 勿論です! どのような処罰であろうと、甘んじて受け入れる所存でしゅ!!」
今からお前を傷つけるぞと、俺はスクルドに宣言した……つもりだったのだが、やはり彼女は期待に満ちた眼差しで、俺の体を見つめてくる。叱られる身としては、この反応は正しいのかもしれないが……いや、やっぱり正しくないか。
正直ここでやめてしまっても構わない。そんな気もするのだが、再び不満をぶつけられるという無限ループにはまりそうなので、仕方なく続ける事にする。
にしても、やっぱり嬉しそうだなぁこいつ。見れば見るほど、目の前に餌を垂らされている動物のようだ。
(こほん。それじゃあいくぞ)
俺の抱える嫌な予感が現実味を帯びてきた所で、咳払いと共に俺は妄想を開始する。これから始めるのは一種の心理ゲーム。催眠と言うほど高尚なものではないが、特殊な状況を脳内で体験してもらうことで、そいつの本質を引き出そうという作戦だ。
(俺達は、森の中を歩いている。霧が深く気味の悪い森だ。長時間の探索による疲労と、あまりの視界の悪さに、たまたま俺を握っていたお前はシャーリーと天道、二人の仲間とはぐれてしまう)
「ふむ、状況再現によるシミュレーション訓練ですか。有り得そうなシチュエーションですね。それから?」
会話の内容が内容だけにいい感じに集中できているのか、スクルドの表情が戦闘時のように引き締まる。これはいい傾向だ、このまま化けの皮が剥がれなければ願ったり叶ったりなのだが……話を続けよう。
(はぐれた二人を心配する俺は、どうにも落ち着かない様子。それを不憫に思ったお前は、休憩も挟まず森の奥へと進んでいく。すると、突然目の前にゴブリンが現れ、俺達の行方を塞ぐよう立ちはだかる。俺を守ろうと身構えるお前だが、緑色をした下級ゴブリンの姿に安堵し、肉弾戦の構えをとった)
「トオル様、私は何故、魔法を使わなかったのでしょうか? 一匹とは言え、その方が楽なのではないかと」
(良い質問だ。この森に入ってからお前達は戦闘を何十回と繰り返し、それでも出口が見えない。しかも今はバラバラで、フォローし合えない現状を考えると少しでも魔力を温存したいと考えたんだ)
「なるほど。皆様とはぐれるほど注意力が散漫になっている状態なら、その考えに至るかもしれませんね。温存しなければ、強大な敵からトオル様をお守りすることができなくなるかもしれませんし」
スクルドのこういう、多少無茶な俺の考えをあっさり切り捨てない所には好感が持てる。こんな戯言に真面目に付き合ってくれる人間って、やっぱり少ないしな。だけど、これから妄想の中とは言え、こいつをはめようとか考えているのだから心も痛む。しかし、始めてしまったのだから、最後まで責任はとらないと。
(疲労により多少体は重たいが、魔法を使うまでもないとふんだお前は、そいつを倒そうと正面から突っ込んでいく。しかしそれは罠で、左右の茂み、そして木の上から数十匹のゴブリンがお前めがけて奇襲を仕掛けて来た)
「失礼ですが、その程度の数であれば、奇襲と言えど簡単にいなせると考えますが?」
確かに、今の彼女のように女神として万全であればその通りであろう。だが、どんなに強い存在にも例外はある。
(そうだな、いつものお前なら簡単に倒せるだろう。だけどな、森に充満した霧は、実は呪詛の塊で、女神すらもか弱い少女のように非力にさせる、それはそれはとても強力なものだったんだ)
そう、罠の中なら話は別だ。俺はそれを、シャーリーを通して見て来たからわかる。抗えないものは必ず存在するって。
もし世の中に真の完璧が在るのなら、そいつの力で、この世界はとっくに支配されている事だろう。と、話がそれたな。
(当然、お前を含めた三人はこの森がおかしいことに気がついていたが、俺の様態がおかしくてな。腕利きの鍛冶屋が住む街への最短ルートはここだけだった。他の道が無いわけでもないが、迂回すると一週間は多くかかる。この状況だったら、二人でも同じ決断をするだろ?)
突然話を振られた二人だが、特に驚く事もなく、苦虫を噛み潰したような表情で深く頷く。こんな寝言のような話を、今まで真剣に聞いてくれていたのだろう。俺を抱えているシャーリーなんか、その腕を小さく震わせている程だ。
本音を言うと、それはそれで二人の事が心配なわけだが、首を横に振られたらと考えると、心臓が張り裂けそうなほど痛む自分もいる。心配されないのは嫌だけど、危険にも合わせたくない、複雑な男心ってやつだ。
(そんな俺をなんとしても守りたい。その意志がお前を油断させたんだ。この状態でも一匹ぐらいならと思って飛び出したのが運の尽き、呪詛を大量に吸い込み弱体化したお前は、ゴブリン達に手も足も出ず囚われてしまう。そう、一匹なら最弱のゴブリンに、お前がだ)
「そ、そんな。しょ、しょの気になれば指先一つで倒しぇるゴブリンに……私が」
もし目の前の幼女がプライドの塊のような人間だったら、そんな事はありえませんと、否定の言葉を述べていただろう。
しかし、スクルドの発言には既に興奮の色が見え隠れしている。そこで俺は確信した。彼女の性癖も、俺のようにねじ曲がっていることを。
(しかも最悪なことに、そいつらはちょうど発情期でな、メスならなんでもいいと見境なく酷いことをしてくるんだ。それも、まるで俺に見せつけるようにな。そんなスクルドさんの、今の……お気持ち……はぁ)
「た、たいしぇつなトオルしゃまをお守りできじゅ、と、トオルしゃまのまえで、ちたいをしゃらす。しかみょ、ごぶりんにゃんかに、ごぶりんにゃんかに、まけ、まけ、くやしいはずにゃのに、かんじ、かんじ、うへ、うへへへ」
やっぱりそうだ、こいつ……生粋の超ドMだ。しかも、好きな人に見られて興奮するタイプのわりとヤバいやつ。いや、今の発言だと普通のSMプレイヤーさんに失礼だな。NTRれて興奮するわりとヤバいやつと訂正しておこう。
ってか、NTRせて興奮するSと、NTRれて興奮するドMの超変態コンビとか言うレッテルを貼られたくないんで、せっせと話を切り上げなくては。
(スクルド―、そろそろ戻ってこようか。スクルドさ~ん)
「ら、らめぇ、とおりゅしゃまみにゃいで、みにゃいでください、こんにゃあわれにゃわたくし、みられたりゃ、もっとかんじてぇ、どんどんにゃめににゃっちゃい、にゃっちゃい」
だが、俺の予想以上に話に埋没していたのか、スクルドが正気に戻る気配はない。だめだ、声が全く届いてねぇ。しかも、妄想でここまで墜とされるとか、やっぱりこいつ根本的に堕女神なんだな。
それよりも、このまま放っておいたらこいつ、妄想だけで本当に昇天しかねない。ここまで乱れさせて威厳も尊厳も無いかもしれないが、彼女の名誉と俺の理性のために、そろそろ止めないとまじでやばい。とは言え、普通に声をかけても駄目だし……仕方ない、一つ大きな作戦に出るとしよう。
題して! 好きな人に言われたら喜びそうな事を並べてみよう大作戦! ……安直すぎてすまない。でもな、目の前のドMが天にも昇る心地状態になっているのも、正真正銘俺の言葉の力だ。ならば、彼女を引き戻せるのも言葉の力! 違う意味でぶっ飛ぶような、最高に甘い声で、俺は囁いてみせる!
(スクルド、愛してるぜ)
「らめぇ、あいしてるにゃんて、あいして……愛してる……ふ、ふぇ!? にゃ、にゃにをおっしゃられておりまするまするですか、とおるしゃま! ハレンチれす! もったいないれす! はれ? はれ? はれれ!?」
愛してる。そんな他愛のない一言に、女神は激しく取り乱し、喋ることさえままならない。俺の声がイケボである自信は無いのだが、想像以上に効果あるなこれ。覚えておこう。難点をあげるなら、他の二人から睨まれることを覚悟しないといけないぐらいか。
……一応、フォローしとく? なんか二人共、目がマジだし。
スクルドに対し、愛してると言った瞬間から、シャーリーの細腕にごっそりと絞め上げられ、合わせた目も笑っているけど笑っていない。当然天道も一緒で、俺の柄を握り潰したそうに右手を形作り、上下に動かしている。なんか、卑猥な動きに見えないこともないが、気のせいだよなきっと。
はぁ、こっちの世界に来てからずっと、気圧されっぱなしだなぁ俺。そう思いながらも二人の曇った眉間のシワが怖いので、俺がどれほど愛しているのか二人に伝えてみようと思う。
まずはシャーリーから。大丈夫大丈夫、普段の感情を口にするだけだし、なんてこと、なんてこと……
なんてこと無いはずなのに、言葉が上手く喋れない。意識の奥が粘ついて、喋ることを阻害してくる。芯の奥がドキドキと昂ぶって、体が張り裂けてしまいそうだ。えぇい! 勇気を出せ! 今更戸惑うことでもないだろ!
(しゃ、シャーロット……愛、してるよ)
頭の中が真っ白だった。自分で発した言葉さえも、幻聴のように聞こえてくる。こんなに自分が情けないなんて……改めて彼女を見ると、瞳を合わせることすら出来ず、体を包み込んでいる体温とか感触とか、全部俺の大好きな人なのだと認識すると、目の前まで真っ白になって、刀身はスマホのように発熱していた。
「……う、うん……私も……好き」
そんな俺の動揺が彼女にも伝わったのか、シャーリーも頬を真っ赤に染めると、潤んだ両目で見つめてくる。頼む、今は俺を見ないでくれ。シャーリーの全部が可愛すぎて死にそうになる。むしろ死にたい! 言葉にできない感情が苦しすぎて死んでしまいたい!
「何だこの、初々しい恋人オーラは……羨まけしからん」
そんな中、一人残された天道が冷静にツッコミを入れ始めた。こいつの事だ、俺の愛情合戦に置いてけぼりを食らうことを良しとする訳がない。
「せ~んぱい、わたしは?」
だから、こんな状態であろうとも、彼女はお構いなく俺に言葉を求めてくる。
(あ、あぁ、お前も、好きだよ)
しかし、今の俺がまともに話せるわけもなく、適当にはぐらかすのが精一杯。
「む~、何かなぁ、なんで私の扱いだけ雑なのかなぁ!」
当然彼女は不満をあらわにするが……許せ天道、お前を調子づかせると後が面倒なんだ。というか、お前は俺を恥ずか死させるつもりかよぉ。無理だよぉ、これ以上言えねぇよぉ。今の好きだよだって、素っ気なく言ったつもりだけど、めっちゃ恥ずかしかったんだよぉ。
こうして四人中三人、しかも、幼女二人と剣が顔を真っ赤にして身悶えるという異様な光景が、数分間にも渡り続くこととなるのだった……
「わーたーしーもーまーぜーろぉぉぉぉぉっ!!」
「は、はい! 勿論です! どのような処罰であろうと、甘んじて受け入れる所存でしゅ!!」
今からお前を傷つけるぞと、俺はスクルドに宣言した……つもりだったのだが、やはり彼女は期待に満ちた眼差しで、俺の体を見つめてくる。叱られる身としては、この反応は正しいのかもしれないが……いや、やっぱり正しくないか。
正直ここでやめてしまっても構わない。そんな気もするのだが、再び不満をぶつけられるという無限ループにはまりそうなので、仕方なく続ける事にする。
にしても、やっぱり嬉しそうだなぁこいつ。見れば見るほど、目の前に餌を垂らされている動物のようだ。
(こほん。それじゃあいくぞ)
俺の抱える嫌な予感が現実味を帯びてきた所で、咳払いと共に俺は妄想を開始する。これから始めるのは一種の心理ゲーム。催眠と言うほど高尚なものではないが、特殊な状況を脳内で体験してもらうことで、そいつの本質を引き出そうという作戦だ。
(俺達は、森の中を歩いている。霧が深く気味の悪い森だ。長時間の探索による疲労と、あまりの視界の悪さに、たまたま俺を握っていたお前はシャーリーと天道、二人の仲間とはぐれてしまう)
「ふむ、状況再現によるシミュレーション訓練ですか。有り得そうなシチュエーションですね。それから?」
会話の内容が内容だけにいい感じに集中できているのか、スクルドの表情が戦闘時のように引き締まる。これはいい傾向だ、このまま化けの皮が剥がれなければ願ったり叶ったりなのだが……話を続けよう。
(はぐれた二人を心配する俺は、どうにも落ち着かない様子。それを不憫に思ったお前は、休憩も挟まず森の奥へと進んでいく。すると、突然目の前にゴブリンが現れ、俺達の行方を塞ぐよう立ちはだかる。俺を守ろうと身構えるお前だが、緑色をした下級ゴブリンの姿に安堵し、肉弾戦の構えをとった)
「トオル様、私は何故、魔法を使わなかったのでしょうか? 一匹とは言え、その方が楽なのではないかと」
(良い質問だ。この森に入ってからお前達は戦闘を何十回と繰り返し、それでも出口が見えない。しかも今はバラバラで、フォローし合えない現状を考えると少しでも魔力を温存したいと考えたんだ)
「なるほど。皆様とはぐれるほど注意力が散漫になっている状態なら、その考えに至るかもしれませんね。温存しなければ、強大な敵からトオル様をお守りすることができなくなるかもしれませんし」
スクルドのこういう、多少無茶な俺の考えをあっさり切り捨てない所には好感が持てる。こんな戯言に真面目に付き合ってくれる人間って、やっぱり少ないしな。だけど、これから妄想の中とは言え、こいつをはめようとか考えているのだから心も痛む。しかし、始めてしまったのだから、最後まで責任はとらないと。
(疲労により多少体は重たいが、魔法を使うまでもないとふんだお前は、そいつを倒そうと正面から突っ込んでいく。しかしそれは罠で、左右の茂み、そして木の上から数十匹のゴブリンがお前めがけて奇襲を仕掛けて来た)
「失礼ですが、その程度の数であれば、奇襲と言えど簡単にいなせると考えますが?」
確かに、今の彼女のように女神として万全であればその通りであろう。だが、どんなに強い存在にも例外はある。
(そうだな、いつものお前なら簡単に倒せるだろう。だけどな、森に充満した霧は、実は呪詛の塊で、女神すらもか弱い少女のように非力にさせる、それはそれはとても強力なものだったんだ)
そう、罠の中なら話は別だ。俺はそれを、シャーリーを通して見て来たからわかる。抗えないものは必ず存在するって。
もし世の中に真の完璧が在るのなら、そいつの力で、この世界はとっくに支配されている事だろう。と、話がそれたな。
(当然、お前を含めた三人はこの森がおかしいことに気がついていたが、俺の様態がおかしくてな。腕利きの鍛冶屋が住む街への最短ルートはここだけだった。他の道が無いわけでもないが、迂回すると一週間は多くかかる。この状況だったら、二人でも同じ決断をするだろ?)
突然話を振られた二人だが、特に驚く事もなく、苦虫を噛み潰したような表情で深く頷く。こんな寝言のような話を、今まで真剣に聞いてくれていたのだろう。俺を抱えているシャーリーなんか、その腕を小さく震わせている程だ。
本音を言うと、それはそれで二人の事が心配なわけだが、首を横に振られたらと考えると、心臓が張り裂けそうなほど痛む自分もいる。心配されないのは嫌だけど、危険にも合わせたくない、複雑な男心ってやつだ。
(そんな俺をなんとしても守りたい。その意志がお前を油断させたんだ。この状態でも一匹ぐらいならと思って飛び出したのが運の尽き、呪詛を大量に吸い込み弱体化したお前は、ゴブリン達に手も足も出ず囚われてしまう。そう、一匹なら最弱のゴブリンに、お前がだ)
「そ、そんな。しょ、しょの気になれば指先一つで倒しぇるゴブリンに……私が」
もし目の前の幼女がプライドの塊のような人間だったら、そんな事はありえませんと、否定の言葉を述べていただろう。
しかし、スクルドの発言には既に興奮の色が見え隠れしている。そこで俺は確信した。彼女の性癖も、俺のようにねじ曲がっていることを。
(しかも最悪なことに、そいつらはちょうど発情期でな、メスならなんでもいいと見境なく酷いことをしてくるんだ。それも、まるで俺に見せつけるようにな。そんなスクルドさんの、今の……お気持ち……はぁ)
「た、たいしぇつなトオルしゃまをお守りできじゅ、と、トオルしゃまのまえで、ちたいをしゃらす。しかみょ、ごぶりんにゃんかに、ごぶりんにゃんかに、まけ、まけ、くやしいはずにゃのに、かんじ、かんじ、うへ、うへへへ」
やっぱりそうだ、こいつ……生粋の超ドMだ。しかも、好きな人に見られて興奮するタイプのわりとヤバいやつ。いや、今の発言だと普通のSMプレイヤーさんに失礼だな。NTRれて興奮するわりとヤバいやつと訂正しておこう。
ってか、NTRせて興奮するSと、NTRれて興奮するドMの超変態コンビとか言うレッテルを貼られたくないんで、せっせと話を切り上げなくては。
(スクルド―、そろそろ戻ってこようか。スクルドさ~ん)
「ら、らめぇ、とおりゅしゃまみにゃいで、みにゃいでください、こんにゃあわれにゃわたくし、みられたりゃ、もっとかんじてぇ、どんどんにゃめににゃっちゃい、にゃっちゃい」
だが、俺の予想以上に話に埋没していたのか、スクルドが正気に戻る気配はない。だめだ、声が全く届いてねぇ。しかも、妄想でここまで墜とされるとか、やっぱりこいつ根本的に堕女神なんだな。
それよりも、このまま放っておいたらこいつ、妄想だけで本当に昇天しかねない。ここまで乱れさせて威厳も尊厳も無いかもしれないが、彼女の名誉と俺の理性のために、そろそろ止めないとまじでやばい。とは言え、普通に声をかけても駄目だし……仕方ない、一つ大きな作戦に出るとしよう。
題して! 好きな人に言われたら喜びそうな事を並べてみよう大作戦! ……安直すぎてすまない。でもな、目の前のドMが天にも昇る心地状態になっているのも、正真正銘俺の言葉の力だ。ならば、彼女を引き戻せるのも言葉の力! 違う意味でぶっ飛ぶような、最高に甘い声で、俺は囁いてみせる!
(スクルド、愛してるぜ)
「らめぇ、あいしてるにゃんて、あいして……愛してる……ふ、ふぇ!? にゃ、にゃにをおっしゃられておりまするまするですか、とおるしゃま! ハレンチれす! もったいないれす! はれ? はれ? はれれ!?」
愛してる。そんな他愛のない一言に、女神は激しく取り乱し、喋ることさえままならない。俺の声がイケボである自信は無いのだが、想像以上に効果あるなこれ。覚えておこう。難点をあげるなら、他の二人から睨まれることを覚悟しないといけないぐらいか。
……一応、フォローしとく? なんか二人共、目がマジだし。
スクルドに対し、愛してると言った瞬間から、シャーリーの細腕にごっそりと絞め上げられ、合わせた目も笑っているけど笑っていない。当然天道も一緒で、俺の柄を握り潰したそうに右手を形作り、上下に動かしている。なんか、卑猥な動きに見えないこともないが、気のせいだよなきっと。
はぁ、こっちの世界に来てからずっと、気圧されっぱなしだなぁ俺。そう思いながらも二人の曇った眉間のシワが怖いので、俺がどれほど愛しているのか二人に伝えてみようと思う。
まずはシャーリーから。大丈夫大丈夫、普段の感情を口にするだけだし、なんてこと、なんてこと……
なんてこと無いはずなのに、言葉が上手く喋れない。意識の奥が粘ついて、喋ることを阻害してくる。芯の奥がドキドキと昂ぶって、体が張り裂けてしまいそうだ。えぇい! 勇気を出せ! 今更戸惑うことでもないだろ!
(しゃ、シャーロット……愛、してるよ)
頭の中が真っ白だった。自分で発した言葉さえも、幻聴のように聞こえてくる。こんなに自分が情けないなんて……改めて彼女を見ると、瞳を合わせることすら出来ず、体を包み込んでいる体温とか感触とか、全部俺の大好きな人なのだと認識すると、目の前まで真っ白になって、刀身はスマホのように発熱していた。
「……う、うん……私も……好き」
そんな俺の動揺が彼女にも伝わったのか、シャーリーも頬を真っ赤に染めると、潤んだ両目で見つめてくる。頼む、今は俺を見ないでくれ。シャーリーの全部が可愛すぎて死にそうになる。むしろ死にたい! 言葉にできない感情が苦しすぎて死んでしまいたい!
「何だこの、初々しい恋人オーラは……羨まけしからん」
そんな中、一人残された天道が冷静にツッコミを入れ始めた。こいつの事だ、俺の愛情合戦に置いてけぼりを食らうことを良しとする訳がない。
「せ~んぱい、わたしは?」
だから、こんな状態であろうとも、彼女はお構いなく俺に言葉を求めてくる。
(あ、あぁ、お前も、好きだよ)
しかし、今の俺がまともに話せるわけもなく、適当にはぐらかすのが精一杯。
「む~、何かなぁ、なんで私の扱いだけ雑なのかなぁ!」
当然彼女は不満をあらわにするが……許せ天道、お前を調子づかせると後が面倒なんだ。というか、お前は俺を恥ずか死させるつもりかよぉ。無理だよぉ、これ以上言えねぇよぉ。今の好きだよだって、素っ気なく言ったつもりだけど、めっちゃ恥ずかしかったんだよぉ。
こうして四人中三人、しかも、幼女二人と剣が顔を真っ赤にして身悶えるという異様な光景が、数分間にも渡り続くこととなるのだった……
「わーたーしーもーまーぜーろぉぉぉぉぉっ!!」
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