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第三章 恋する駄女神
第145話 私を叱ってください
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三階層で体験した様々な出来事により、俺達が塔の主に遊ばれていることが判明した。先程のトラップ地獄、真面目に考えれば俺達を殺すチャンスなんていくらでもあったように思える。それなのに、必ず抜け道を用意する親切心は、正しくゲーム感覚なのだろう。
本音を言えば気に食わないが、そのおかげで助かってるのも事実であり、感謝しなくてはならないのが実情である。しかも、某有名RPGのごとくキャンプポイントまで作られてしまうとぐうの音も出ない。と言う訳で、俺達は今、四層の一室で休息をとっている。
周囲には何もなく、壁掛け式の燭台がいくつか灯るだけの小部屋だが、英気を養うには十分であろう。既に部屋内は調査済みで、罠のたぐいは無く、何故か守護の結界が張られていた。至れり尽くせりの待遇に不安を抱くものの、休める時に休もうというシャーリーの提案もあり、敵の厚意に甘えているのが現状だ。
「ねー、先輩ってさー、たま~に、ものすご~く、鬼畜になるよね」
そんな中、真面目に考えている思考とは裏腹に、俺の体は天道の手によってネチネチと責められていた。先程のあれを相当根に持っているらしい。
(だから言ってんだろ、俺は別に優しくなんか無いの。放っておけないっていうか、困ってる人が居たら助けるのが当たり前だろ?)
天道やシャーリーからは優しい優しい言われるけど、俺の中は正直どす黒い。それは天道も理解しているはずなのだが……なんで美化してくれるのかねぇ。それに、体裁を整えるため困ってる人が居たら、なんて言ってしまったが、助けるのは主に女の子である。勿論、男だって助けるけど、頼まれてないのにやるとなんか絡まれそうで怖いし。
でも、俺が居た世界だと、女の子に声を掛けるだけで事案扱いされかねないのがな……天道の時は、いじめだってのがわかってたから飛び出したけど、あれだって否定されたら事案扱いになりかねないもんな。そう考えるとちょっと怖い。そりゃお節介が過ぎるのも問題だけど、善意が悪としてとられる世の中ってのは、とても悲しく感じる。
「……その発言できる人が女の子いじめてニヤニヤするとか、凄い矛盾」
(いじめとは失敬な。可愛い女の子がいたら、からかいたくなる時あるだろ!? あれだよあれ)
「あれだよって……まぁ、私より小さくて可愛い子見たら、おもちかえりしたくなる時はあるけどさ……ってか、 先輩は好きな子をいじめたくなる子供か!」
(おう、まともに恋もしたことのない、彼女いない歴年齢だったDTで悪かったな)
しかし、こいつとの会話は調子が狂うと言うか、自然と幼馴染同士の口喧嘩みたいになってしまう。理由はよくわからないけど、自分で思っている以上にこいつとの距離は親密なのか、それとも昔なにかあって……なーんて、ラノベの主人公じゃあるまいし、子供の頃に仲の良かった女の子がいた、ってな感じのご都合主義があるわけ無いよな。そんな記憶、俺の中には一切ないし、あったらそれこそ中二病だ。
「せ、先輩と幼馴染!? も、もうちょっとだけ続けようか」
(……いえ、遠慮させて頂きます)
それに、人の思考を勝手に読むんじゃないよこの娘は……注意しても無駄だろうけど。でも、新しい話題を与えると食いついてくるのは流石ワンコ系女子、覚えておこう。
「う~~、ワン!」
この天道、まったくもってノリノリである。とまぁ、放っておけないと言えば、そこでしょぼくれてる緑髪の幼女の方か。
いつもニコニコ俺に這い寄る女神様は、未だ深刻そうな表情で地面を見つめている。普段明るい子が落ち込んでると声かけにくい感じあるけど、本当に声をかけづらい。特に、それが自分のせいだとか思っちゃうと、謝りにくいのも理解できる。
アニメなんかのこういうシーン、じれったいなー、なんて思って見てたけど、その場に立つとよくわかる。これは結構しんどい。
さて、どのように声をかけるべきか。
「あ、あの、トオル様」
これ以上彼女を悲しませたくないと臆病者らしく尻込みしていると、チャンスが突然向こう側からやってくる。今まで塞ぎ込んでいたスクルドが、消え入りそうなか細い声で俺の名前を呼んだのだ。勇気を出してくれた彼女のためにも、この好機、逃すわけにはいかない!
(ん、どした?)
「その……私めに罰をお与えにはならないのですか?」
怒ってますか? だったら、もう怒ってないよだし、ごめんなさいだったら、俺の方こそ悪かった、なんて言って、そこからもう一度俺の方から謝ろう。そんな事を考えていたんだけど、想像からかけ離れた斜め上の回答に、俺は困惑してしまう。
でも、罰を与えて欲しいってことは、こいつなりに悪いとは思ってるみたいだし、俺が冷静に対処して彼女の気持ちをほぐしてやれればきっと大丈夫。すぐに仲直りできるはずだ。
(と、とりあえず難は逃れたしなぁ。別に俺も怒りたいわけじゃないし、伝え方が悪かった部分もある。だからその……おあいこだ。言うことがあるとすれば、これからはむやみに動くなって事ぐらいだな。あと、駄女神とか怒鳴って悪かった。ごめん!)
よし、謝れた。これで今度こそ、わかりました以後気をつけます! みたいな感じで元のスクルドに戻るはず。そんな淡い俺の期待は、一瞬のもとに打ち砕かれる事となる。
「無いんですか! 罰をお与えにならないんですか! 詰ったり! 蔑んだり! 哀れんだりしないんですか!!」
正直わけがわからない。罵詈荘厳を求め鬼気迫る形相で詰め寄る女子とか見たこと無い。それ程までに、何故叱られることを望むのだろうか彼女は。
(えっと……しま、せんよ?)
「そんな! それでは私の気が収まりません! 主君を危険に晒した挙げ句罰が無いなど、戦乙女として、女神として、一生の恥です! 生殺しです!」
本音を言えば俺だって怒りたくない。だから拒絶をしたのだけど、それを振り切るよう大声を上げるスクルドの勢いに、全くもって為す術がない。おかしい、許そうとしているはずの俺の方が、何故か怒られてる気分だ。
それに、今の彼女の発言、途中まではまっとうなことを言ってるように聞こえたけど、明らかに最後の一文が違和感の塊だった。
これほどまでに仕置きを望み、鼻息を荒くする人間がこの世の中に存在するものだろうか? それとも、女神ってやつは何か欠陥を抱えた……いや、いるな。ある種の性癖の人間なら怒られて喜ぶはず。
もしかしてこいつ……試してみるか。
本音を言えば気に食わないが、そのおかげで助かってるのも事実であり、感謝しなくてはならないのが実情である。しかも、某有名RPGのごとくキャンプポイントまで作られてしまうとぐうの音も出ない。と言う訳で、俺達は今、四層の一室で休息をとっている。
周囲には何もなく、壁掛け式の燭台がいくつか灯るだけの小部屋だが、英気を養うには十分であろう。既に部屋内は調査済みで、罠のたぐいは無く、何故か守護の結界が張られていた。至れり尽くせりの待遇に不安を抱くものの、休める時に休もうというシャーリーの提案もあり、敵の厚意に甘えているのが現状だ。
「ねー、先輩ってさー、たま~に、ものすご~く、鬼畜になるよね」
そんな中、真面目に考えている思考とは裏腹に、俺の体は天道の手によってネチネチと責められていた。先程のあれを相当根に持っているらしい。
(だから言ってんだろ、俺は別に優しくなんか無いの。放っておけないっていうか、困ってる人が居たら助けるのが当たり前だろ?)
天道やシャーリーからは優しい優しい言われるけど、俺の中は正直どす黒い。それは天道も理解しているはずなのだが……なんで美化してくれるのかねぇ。それに、体裁を整えるため困ってる人が居たら、なんて言ってしまったが、助けるのは主に女の子である。勿論、男だって助けるけど、頼まれてないのにやるとなんか絡まれそうで怖いし。
でも、俺が居た世界だと、女の子に声を掛けるだけで事案扱いされかねないのがな……天道の時は、いじめだってのがわかってたから飛び出したけど、あれだって否定されたら事案扱いになりかねないもんな。そう考えるとちょっと怖い。そりゃお節介が過ぎるのも問題だけど、善意が悪としてとられる世の中ってのは、とても悲しく感じる。
「……その発言できる人が女の子いじめてニヤニヤするとか、凄い矛盾」
(いじめとは失敬な。可愛い女の子がいたら、からかいたくなる時あるだろ!? あれだよあれ)
「あれだよって……まぁ、私より小さくて可愛い子見たら、おもちかえりしたくなる時はあるけどさ……ってか、 先輩は好きな子をいじめたくなる子供か!」
(おう、まともに恋もしたことのない、彼女いない歴年齢だったDTで悪かったな)
しかし、こいつとの会話は調子が狂うと言うか、自然と幼馴染同士の口喧嘩みたいになってしまう。理由はよくわからないけど、自分で思っている以上にこいつとの距離は親密なのか、それとも昔なにかあって……なーんて、ラノベの主人公じゃあるまいし、子供の頃に仲の良かった女の子がいた、ってな感じのご都合主義があるわけ無いよな。そんな記憶、俺の中には一切ないし、あったらそれこそ中二病だ。
「せ、先輩と幼馴染!? も、もうちょっとだけ続けようか」
(……いえ、遠慮させて頂きます)
それに、人の思考を勝手に読むんじゃないよこの娘は……注意しても無駄だろうけど。でも、新しい話題を与えると食いついてくるのは流石ワンコ系女子、覚えておこう。
「う~~、ワン!」
この天道、まったくもってノリノリである。とまぁ、放っておけないと言えば、そこでしょぼくれてる緑髪の幼女の方か。
いつもニコニコ俺に這い寄る女神様は、未だ深刻そうな表情で地面を見つめている。普段明るい子が落ち込んでると声かけにくい感じあるけど、本当に声をかけづらい。特に、それが自分のせいだとか思っちゃうと、謝りにくいのも理解できる。
アニメなんかのこういうシーン、じれったいなー、なんて思って見てたけど、その場に立つとよくわかる。これは結構しんどい。
さて、どのように声をかけるべきか。
「あ、あの、トオル様」
これ以上彼女を悲しませたくないと臆病者らしく尻込みしていると、チャンスが突然向こう側からやってくる。今まで塞ぎ込んでいたスクルドが、消え入りそうなか細い声で俺の名前を呼んだのだ。勇気を出してくれた彼女のためにも、この好機、逃すわけにはいかない!
(ん、どした?)
「その……私めに罰をお与えにはならないのですか?」
怒ってますか? だったら、もう怒ってないよだし、ごめんなさいだったら、俺の方こそ悪かった、なんて言って、そこからもう一度俺の方から謝ろう。そんな事を考えていたんだけど、想像からかけ離れた斜め上の回答に、俺は困惑してしまう。
でも、罰を与えて欲しいってことは、こいつなりに悪いとは思ってるみたいだし、俺が冷静に対処して彼女の気持ちをほぐしてやれればきっと大丈夫。すぐに仲直りできるはずだ。
(と、とりあえず難は逃れたしなぁ。別に俺も怒りたいわけじゃないし、伝え方が悪かった部分もある。だからその……おあいこだ。言うことがあるとすれば、これからはむやみに動くなって事ぐらいだな。あと、駄女神とか怒鳴って悪かった。ごめん!)
よし、謝れた。これで今度こそ、わかりました以後気をつけます! みたいな感じで元のスクルドに戻るはず。そんな淡い俺の期待は、一瞬のもとに打ち砕かれる事となる。
「無いんですか! 罰をお与えにならないんですか! 詰ったり! 蔑んだり! 哀れんだりしないんですか!!」
正直わけがわからない。罵詈荘厳を求め鬼気迫る形相で詰め寄る女子とか見たこと無い。それ程までに、何故叱られることを望むのだろうか彼女は。
(えっと……しま、せんよ?)
「そんな! それでは私の気が収まりません! 主君を危険に晒した挙げ句罰が無いなど、戦乙女として、女神として、一生の恥です! 生殺しです!」
本音を言えば俺だって怒りたくない。だから拒絶をしたのだけど、それを振り切るよう大声を上げるスクルドの勢いに、全くもって為す術がない。おかしい、許そうとしているはずの俺の方が、何故か怒られてる気分だ。
それに、今の彼女の発言、途中まではまっとうなことを言ってるように聞こえたけど、明らかに最後の一文が違和感の塊だった。
これほどまでに仕置きを望み、鼻息を荒くする人間がこの世の中に存在するものだろうか? それとも、女神ってやつは何か欠陥を抱えた……いや、いるな。ある種の性癖の人間なら怒られて喜ぶはず。
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