俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

文字の大きさ
上 下
146 / 526
第三章 恋する駄女神

第145話 私を叱ってください

しおりを挟む
 三階層で体験した様々な出来事により、俺達が塔の主に遊ばれていることが判明した。先程のトラップ地獄、真面目に考えれば俺達を殺すチャンスなんていくらでもあったように思える。それなのに、必ず抜け道を用意する親切心は、正しくゲーム感覚なのだろう。

 本音を言えば気に食わないが、そのおかげで助かってるのも事実であり、感謝しなくてはならないのが実情である。しかも、某有名RPGのごとくキャンプポイントまで作られてしまうとぐうの音も出ない。と言う訳で、俺達は今、四層の一室で休息をとっている。

 周囲には何もなく、壁掛け式の燭台がいくつか灯るだけの小部屋だが、英気を養うには十分であろう。既に部屋内は調査済みで、罠のたぐいは無く、何故か守護の結界が張られていた。至れり尽くせりの待遇に不安を抱くものの、休める時に休もうというシャーリーの提案もあり、敵の厚意に甘えているのが現状だ。

「ねー、先輩ってさー、たま~に、ものすご~く、鬼畜になるよね」

 そんな中、真面目に考えている思考とは裏腹に、俺の体は天道の手によってネチネチと責められていた。先程のあれを相当根に持っているらしい。

(だから言ってんだろ、俺は別に優しくなんか無いの。放っておけないっていうか、困ってる人が居たら助けるのが当たり前だろ?)

 天道やシャーリーからは優しい優しい言われるけど、俺の中は正直どす黒い。それは天道も理解しているはずなのだが……なんで美化してくれるのかねぇ。それに、体裁を整えるため困ってる人が居たら、なんて言ってしまったが、助けるのは主に女の子である。勿論、男だって助けるけど、頼まれてないのにやるとなんか絡まれそうで怖いし。

 でも、俺が居た世界だと、女の子に声を掛けるだけで事案扱いされかねないのがな……天道の時は、いじめだってのがわかってたから飛び出したけど、あれだって否定されたら事案扱いになりかねないもんな。そう考えるとちょっと怖い。そりゃお節介が過ぎるのも問題だけど、善意が悪としてとられる世の中ってのは、とても悲しく感じる。

「……その発言できる人が女の子いじめてニヤニヤするとか、凄い矛盾」

(いじめとは失敬な。可愛い女の子がいたら、からかいたくなる時あるだろ!? あれだよあれ)

「あれだよって……まぁ、私より小さくて可愛い子見たら、おもちかえりしたくなる時はあるけどさ……ってか、 先輩は好きな子をいじめたくなる子供か!」

(おう、まともに恋もしたことのない、彼女いない歴年齢だったDTで悪かったな)

 しかし、こいつとの会話は調子が狂うと言うか、自然と幼馴染同士の口喧嘩みたいになってしまう。理由はよくわからないけど、自分で思っている以上にこいつとの距離は親密なのか、それとも昔なにかあって……なーんて、ラノベの主人公じゃあるまいし、子供の頃に仲の良かった女の子がいた、ってな感じのご都合主義があるわけ無いよな。そんな記憶、俺の中には一切ないし、あったらそれこそ中二病だ。

「せ、先輩と幼馴染!? も、もうちょっとだけ続けようか」

(……いえ、遠慮させて頂きます)

 それに、人の思考を勝手に読むんじゃないよこの娘は……注意しても無駄だろうけど。でも、新しい話題を与えると食いついてくるのは流石ワンコ系女子、覚えておこう。

「う~~、ワン!」

 この天道、まったくもってノリノリである。とまぁ、放っておけないと言えば、そこでしょぼくれてる緑髪の幼女の方か。

 いつもニコニコ俺に這い寄る女神様は、未だ深刻そうな表情で地面を見つめている。普段明るい子が落ち込んでると声かけにくい感じあるけど、本当に声をかけづらい。特に、それが自分のせいだとか思っちゃうと、謝りにくいのも理解できる。

 アニメなんかのこういうシーン、じれったいなー、なんて思って見てたけど、その場に立つとよくわかる。これは結構しんどい。

 さて、どのように声をかけるべきか。

「あ、あの、トオル様」

 これ以上彼女を悲しませたくないと臆病者らしく尻込みしていると、チャンスが突然向こう側からやってくる。今まで塞ぎ込んでいたスクルドが、消え入りそうなか細い声で俺の名前を呼んだのだ。勇気を出してくれた彼女のためにも、この好機、逃すわけにはいかない!

(ん、どした?)

「その……私めに罰をお与えにはならないのですか?」

 怒ってますか? だったら、もう怒ってないよだし、ごめんなさいだったら、俺の方こそ悪かった、なんて言って、そこからもう一度俺の方から謝ろう。そんな事を考えていたんだけど、想像からかけ離れた斜め上の回答に、俺は困惑してしまう。

 でも、罰を与えて欲しいってことは、こいつなりに悪いとは思ってるみたいだし、俺が冷静に対処して彼女の気持ちをほぐしてやれればきっと大丈夫。すぐに仲直りできるはずだ。

(と、とりあえず難は逃れたしなぁ。別に俺も怒りたいわけじゃないし、伝え方が悪かった部分もある。だからその……おあいこだ。言うことがあるとすれば、これからはむやみに動くなって事ぐらいだな。あと、駄女神とか怒鳴って悪かった。ごめん!)

 よし、謝れた。これで今度こそ、わかりました以後気をつけます! みたいな感じで元のスクルドに戻るはず。そんな淡い俺の期待は、一瞬のもとに打ち砕かれる事となる。

「無いんですか! 罰をお与えにならないんですか! なじったり! さげすんだり! 哀れんだりしないんですか!!」

 正直わけがわからない。罵詈荘厳を求め鬼気迫る形相で詰め寄る女子とか見たこと無い。それ程までに、何故叱られることを望むのだろうか彼女は。

(えっと……しま、せんよ?)

「そんな! それでは私の気が収まりません! 主君を危険に晒した挙げ句罰が無いなど、戦乙女として、女神として、一生の恥です! 生殺しです!」

 本音を言えば俺だって怒りたくない。だから拒絶をしたのだけど、それを振り切るよう大声を上げるスクルドの勢いに、全くもって為す術がない。おかしい、許そうとしているはずの俺の方が、何故か怒られてる気分だ。

 それに、今の彼女の発言、途中まではまっとうなことを言ってるように聞こえたけど、明らかに最後の一文が違和感の塊だった。

 これほどまでに仕置きを望み、鼻息を荒くする人間がこの世の中に存在するものだろうか? それとも、女神ってやつは何か欠陥を抱えた……いや、いるな。ある種の性癖の人間なら怒られて喜ぶはず。

 もしかしてこいつ……試してみるか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

処理中です...