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第三章 恋する駄女神
第134話 シャーロットの想い 天道の気持ち 後編
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「だからさ、こんな私に、シャーロットが合わせる必要なんて無いんだよ。むしろ、先輩に嫌われて惨めになるだけだぞ!」
天道の中にはきっと、シャーリーを憎む気持が少なからずあるはずだ。そんな相手にも優しく接し、諭すことが出来るのは、彼女の根が慈愛に満ちているあらわれなのかもしれない。
「そ……そんなこと!」
しかし、シャーリーはシャーリーで、天道の事を羨ましく思っているから、悲観的な彼女の発言を受け入れられず、真っ向から否定する。
「あるんだな~これが。シャーロットだって、先輩に私がどう見られてるか、わかってるでしょ?」
当然、天道も否定で返し……こうなってしまったら、後はもう根比べだ。こういった信念のぶつかり合いはどちらかが折れるまで続くだろう。
「……トオルは……照れ屋……だから……アサミのこと……嫌いじゃ……ない」
「うっ……そ、それを言われると、否定……できないじゃんか」
と思っていたのだが、二人の小さな戦争は、天道の敗北という形であっさりと終わりを告げる。
自惚れるつもりはないけど、俺を引き合いに出されたら、天道は引かざるお得ないだろうからな。特に、好意的な話題を持ち出されれば余計にである。彼女の顔が赤いのはそのためだろう。
押しにはとことん弱そうだもんなこいつ。態度に比べて生娘みたいな反応するし……実際生娘らしいけど。
そういう俺も、天道のことが嫌いじゃないなんてシャーリーに代弁されて、ドキッとしたと言うか、複雑な心境であることは確かである。
「と・に・か・く! 私は私のやりたいようにやってるだけで、その程度でなびく先輩ならこっちから願い下げなんだからね!」
にしても、話を続けるのは良いが、声がうわずりっぱなしでよっぽど恥ずかしかったんだろうな。未だに頬は真っ赤に染まり、顔を背ける仕草や語尾までおかしくなって、これじゃまるでツンデレの動きだ。
とはいえ、似てるのは動きだけで、彼女自身はツンデレと言うよりデレデレなわけだけど。
それに、べ、別に、あんたのことが気になってるわけじゃないんだからね! という薙沙ちゃんの声は、今年の春に発売された全年齢対象恋愛アドベンチャーゲーム、遥かな君に恋してるのヒロインの一人、時逆麻希の台詞で飽きるほど聞いたからな。あえて聞かなくても脳内補完はばっちしです。
「だって私は、先輩の真面目な所、誠実な所、一途な所、そういう所が好きなんだから、簡単に折れるようならそれこそ幻滅なの!」
それはともかく、これってシャーリーに対する言葉だよな? ガチ照れしながらだと俺への告白のように聞こえるんだが……くっそ、俺まで気恥ずかしくなるような発言は控えてほしいので、そろそろ落ち着いて頂きたい。
そう願った直後、まるで思いが通じたかのように深呼吸をした天道は、真剣な顔つきとなり再び会話を再開させる。
「でもね、それでも諦めきれないから、アプローチは続けるよ。チャンスがある以上、正々堂々、長い時間をかけて先輩に私を知ってもらいたい。天童薙沙ではなく、天道朝美としての私が、どんなにいい女なのかってことをね」
その瞬間、俺の体を駆け抜けるように、甘美な電流が剣先から柄頭までを貫いた。一瞬にして全身をまさぐるられたような感覚に、腰が抜けそうになる。これ、まずい、天道の誘惑技能だ! こいつ、恥ずかしくなった反動で、無意識に発動させやがったな。
「それでもし、先輩がシャーロットより私のことを好きだって思ってくれたら嬉しいけど、まっ、今のところ望み薄かな!」
幸い、シャーロットに見られているという緊張感と、高らかな笑い声を上げる天道の萌えない行動のおかげで深入りはしなかったが、危ない所だった。
「だからさ、今すぐシャーロットが私みたいになっても、これ以上先輩との距離が近づくことは無いって、私が断言してあげる」
そんなこいつに、よくわかってるじゃねぇかと、仕返しの一つもしてやりたい所だったが、無理して頬を引きつらせるような女の子にきつく当たれるほど、俺の心は無神経にできちゃいない。だから、困ってるんだけどな。
「それともう一つ。私は二番手で良いって、これは本当に思ってることだから。先輩の好きをシャーロットから無理やり奪う気はないよ。例えできたとしてもね」
それでも、こうして最後は笑顔を浮かべられるこいつは、本当にいい女なのかもしれない。
……妾は大丈夫ってシャーリーも言ってくれたし、彼女を愛人に……それは時期尚早すぎるか。シャーリーの事もはっきりしてないのに、二人目三人目なんか――
「だから、シャーロットはシャーロットのやり方で頑張り給え! 私に追い越されないようにね。はふっ、まだちょっと眠いかも。それじゃ私はもう一眠りするよ。ちゃんと気は張っておくから、シャーロットも早く寝なね」
そんな事を考えている間に、話しを終えた天道は、そそくさとテントの中へと戻ってしまっていた。
(あいつ……言いたいことだけ言って帰っていきやがった)
「……うん……アサミの……あれは……慣れない」
疾風怒濤の彼女の行動に呆れ果てていると、シャーリーも同じ感想を抱いているようだった。
そうだよな。普段、あれだけ傍若無人なバルカイトでさえ、彼女の前じゃ忠を尽くす騎士みたいになるのだから、こんな態度を取れる人間は、この国じゃあいつぐらいのものなのだろう。それも、シャーリーの素性を知った上で、と考えれば尚更である。
それを彼女がどう捉えているかまではわからないが、緩んだ頬から察するに、嫌とは思っていないようだ。むしろ、喜んでいるように俺には見える。
やっぱり、普通の女の子のように接して欲しい、自分も年頃の女の子で居たかった、みたいな憧れはあるんだろうな。
天道のおかげと考えるとちょっと釈然としないが、小さな夢の達成を喜ぶ彼女を見ていると、俺まで嬉しくなってしまう。何にせよ、これで大団円だな。
……正直に言おう、俺の頭はもう限界だった。変態的すぎる俺のシャーリーへの愛の確認から始まり、逆にシャーリーからの愛を確かめて、天道とシャーリーの仲、二人の気持ちを知って……もう何も考えたくない。
一月前まで、恋のこの字も知らなかった人間に、忙しなく変化を続ける愛のタイフーンはキツすぎた。叶うのならば、このまま終りを迎えんことを……
「……トオル」
しかし、その願いは聞き届けられなかった。少し頬を緩ませながら彼女の顔を見つめていると、シャーリーは突然立ち上がり、それと同時に俺の体を持ち上げる。そして二人は見つめ合い、真面目な表情で詰め寄られた俺は、強い意志を秘めた彼女の瞳から目を逸らす事が出来なかった。
「……正妻の……意地……頑張る……トオルを離さないよう……頑張るから」
(……お、おう)
今まで以上に並々ならぬ決意を含んだ彼女の言葉、それはとても嬉しかったけど、素直に喜ぶことなんてできなかった。だってそれは、この国を背負うことでもあって……こんな俺が、そんな大役を……
ピキッ
あっ、やばい。俺の中で何かが弾けた。たぶん、不安って言う名のストレスが行き着くとこまで行ってしまったんだと思う。視界は真っ白に染まって、頭がうまく回らない。
怖い、怖い、怖い。否定されるのが怖い、失敗するのが怖い、嫌われるのが怖い。王様になんて、なれるわけがないのに、そうしたらシャーリーに嫌われる! 捨てられる! 一緒に居られなくなる!!
「……トオル? ……熱い」
そんなプレッシャーに気圧された俺の体は、鍔に埋め込まれた宝玉を中心に発熱を起こし、聞く必要性のないことを、彼女に尋ねてしまう。
(俺からも一つ、いいか?)
「??」
(シャーリーは俺のこと、好き、なんだよな?)
シャーリーが普通の女の子だったら、こんなに悩むことは無かったのかもしれない。それに、こんな考えを持つ時点で、彼女と居る資格なんて無いのかもしれないけど、俺は聞いておきたかったんだ。彼女の心の内に在る本音ってやつを。そして、心に根付く不安を少しでも和らげたかった。
「な、なんで!?」
しかし、彼女の口からそれを聞く前に、答えはわかってしまった。震える腕に、揺れる瞳孔、半開きのまま戻らない口許に、痛いぐらいに柄を握り込む両手が、彼女の不安を如実に表していたのだから。
まただ、まーたやっちまった。また彼女を心配させてしまった。
(今日の寝起きのシャーリー、非難の目が俺だけに向いてる気がして。ほんとは嫌われてるんじゃないかって少し不安になってて……)
わかりきってるはずなのに、小さな懸念から自分の弱さをぶちまけて……情けない奴。
「あっ……ご……ごめん……なさい……でも……私をもっと……知って……ほしい……弱い所も……全部……甘えちゃ……だめ……かな?」
でも、彼女の本心が聞けて、俺は今とても嬉しい。
シャーリーの甘い、極上のアイスクリームのような我儘が、俺の体に染み込んでくる。不安で真っ白だった頭の中が、幸せで真っ白に塗り替えられていく。心も体も抱きしめられて、彼女に寄りかかってしまう。
(そっか……それじゃ俺も、もっともっとシャーリーに甘えても良いのかな?)
「……うん……良いよ……トオル……かわいいね」
明らかに冷静じゃない。そうわかっていても、彼女の母性に俺は抗えなかった。優しい姉が居たら、きっとこんな感じなんだろうな。本来の姿も年齢も理解しているはずなのに、幼女の姿でそのお姉ちゃん力は卑怯すぎる。
(年上に甘えるような男は、嫌い、かな?)
「……そんなこと……ない……大好き」
あぁ、もうダメだ。こんなに包み込まれたら、溢れる感情が抑えきれない。
(シャーリー、シャーリー! 俺も好きだ、大好きだ!)
「……もう……やっぱり……年下なんだ」
恋をすると女性は綺麗になるって言葉を耳にしたけど、そこに母性が上乗せされると、もっと美しく見えるものなんだな。だって、俺を年下の男の子と認識した瞬間、彼女の肌は艶を増し、唇もリップを塗ったかのようにみずみずしく潤い始めたんだ。
そして極めつけは、いたずらを楽しむ子供のように笑うギャップが、俺を完全に逆らえなくしていた。
「……だから……教えて……私に……トオルの事……もっと……知って……助けて……あげたいから」
生き生きとした綺麗な笑顔で、優しい姉のように振る舞われたら、抵抗なんて不可能に決まってる。
(……わかった。でも、少しずつな)
やっぱり俺、この娘には逆らえない。一生尻に敷かれ続けるんだろうな。そんな、字面にするとうらやまけしからん事を想像しながら、熱に浮かされるように俺は刀身を赤く染め、声を押し殺す。
「……うん」
いきなり全てをさらけ出すのは恥ずかしいけど、少しずつ少しずつお互いをわかっていきたい。今はこんなにぎこちないけど、それもまた恋の醍醐味なのだろう。そう考えながら、俺は彼女に見守られ、彼女の胸で小さく泣いた。
天道の中にはきっと、シャーリーを憎む気持が少なからずあるはずだ。そんな相手にも優しく接し、諭すことが出来るのは、彼女の根が慈愛に満ちているあらわれなのかもしれない。
「そ……そんなこと!」
しかし、シャーリーはシャーリーで、天道の事を羨ましく思っているから、悲観的な彼女の発言を受け入れられず、真っ向から否定する。
「あるんだな~これが。シャーロットだって、先輩に私がどう見られてるか、わかってるでしょ?」
当然、天道も否定で返し……こうなってしまったら、後はもう根比べだ。こういった信念のぶつかり合いはどちらかが折れるまで続くだろう。
「……トオルは……照れ屋……だから……アサミのこと……嫌いじゃ……ない」
「うっ……そ、それを言われると、否定……できないじゃんか」
と思っていたのだが、二人の小さな戦争は、天道の敗北という形であっさりと終わりを告げる。
自惚れるつもりはないけど、俺を引き合いに出されたら、天道は引かざるお得ないだろうからな。特に、好意的な話題を持ち出されれば余計にである。彼女の顔が赤いのはそのためだろう。
押しにはとことん弱そうだもんなこいつ。態度に比べて生娘みたいな反応するし……実際生娘らしいけど。
そういう俺も、天道のことが嫌いじゃないなんてシャーリーに代弁されて、ドキッとしたと言うか、複雑な心境であることは確かである。
「と・に・か・く! 私は私のやりたいようにやってるだけで、その程度でなびく先輩ならこっちから願い下げなんだからね!」
にしても、話を続けるのは良いが、声がうわずりっぱなしでよっぽど恥ずかしかったんだろうな。未だに頬は真っ赤に染まり、顔を背ける仕草や語尾までおかしくなって、これじゃまるでツンデレの動きだ。
とはいえ、似てるのは動きだけで、彼女自身はツンデレと言うよりデレデレなわけだけど。
それに、べ、別に、あんたのことが気になってるわけじゃないんだからね! という薙沙ちゃんの声は、今年の春に発売された全年齢対象恋愛アドベンチャーゲーム、遥かな君に恋してるのヒロインの一人、時逆麻希の台詞で飽きるほど聞いたからな。あえて聞かなくても脳内補完はばっちしです。
「だって私は、先輩の真面目な所、誠実な所、一途な所、そういう所が好きなんだから、簡単に折れるようならそれこそ幻滅なの!」
それはともかく、これってシャーリーに対する言葉だよな? ガチ照れしながらだと俺への告白のように聞こえるんだが……くっそ、俺まで気恥ずかしくなるような発言は控えてほしいので、そろそろ落ち着いて頂きたい。
そう願った直後、まるで思いが通じたかのように深呼吸をした天道は、真剣な顔つきとなり再び会話を再開させる。
「でもね、それでも諦めきれないから、アプローチは続けるよ。チャンスがある以上、正々堂々、長い時間をかけて先輩に私を知ってもらいたい。天童薙沙ではなく、天道朝美としての私が、どんなにいい女なのかってことをね」
その瞬間、俺の体を駆け抜けるように、甘美な電流が剣先から柄頭までを貫いた。一瞬にして全身をまさぐるられたような感覚に、腰が抜けそうになる。これ、まずい、天道の誘惑技能だ! こいつ、恥ずかしくなった反動で、無意識に発動させやがったな。
「それでもし、先輩がシャーロットより私のことを好きだって思ってくれたら嬉しいけど、まっ、今のところ望み薄かな!」
幸い、シャーロットに見られているという緊張感と、高らかな笑い声を上げる天道の萌えない行動のおかげで深入りはしなかったが、危ない所だった。
「だからさ、今すぐシャーロットが私みたいになっても、これ以上先輩との距離が近づくことは無いって、私が断言してあげる」
そんなこいつに、よくわかってるじゃねぇかと、仕返しの一つもしてやりたい所だったが、無理して頬を引きつらせるような女の子にきつく当たれるほど、俺の心は無神経にできちゃいない。だから、困ってるんだけどな。
「それともう一つ。私は二番手で良いって、これは本当に思ってることだから。先輩の好きをシャーロットから無理やり奪う気はないよ。例えできたとしてもね」
それでも、こうして最後は笑顔を浮かべられるこいつは、本当にいい女なのかもしれない。
……妾は大丈夫ってシャーリーも言ってくれたし、彼女を愛人に……それは時期尚早すぎるか。シャーリーの事もはっきりしてないのに、二人目三人目なんか――
「だから、シャーロットはシャーロットのやり方で頑張り給え! 私に追い越されないようにね。はふっ、まだちょっと眠いかも。それじゃ私はもう一眠りするよ。ちゃんと気は張っておくから、シャーロットも早く寝なね」
そんな事を考えている間に、話しを終えた天道は、そそくさとテントの中へと戻ってしまっていた。
(あいつ……言いたいことだけ言って帰っていきやがった)
「……うん……アサミの……あれは……慣れない」
疾風怒濤の彼女の行動に呆れ果てていると、シャーリーも同じ感想を抱いているようだった。
そうだよな。普段、あれだけ傍若無人なバルカイトでさえ、彼女の前じゃ忠を尽くす騎士みたいになるのだから、こんな態度を取れる人間は、この国じゃあいつぐらいのものなのだろう。それも、シャーリーの素性を知った上で、と考えれば尚更である。
それを彼女がどう捉えているかまではわからないが、緩んだ頬から察するに、嫌とは思っていないようだ。むしろ、喜んでいるように俺には見える。
やっぱり、普通の女の子のように接して欲しい、自分も年頃の女の子で居たかった、みたいな憧れはあるんだろうな。
天道のおかげと考えるとちょっと釈然としないが、小さな夢の達成を喜ぶ彼女を見ていると、俺まで嬉しくなってしまう。何にせよ、これで大団円だな。
……正直に言おう、俺の頭はもう限界だった。変態的すぎる俺のシャーリーへの愛の確認から始まり、逆にシャーリーからの愛を確かめて、天道とシャーリーの仲、二人の気持ちを知って……もう何も考えたくない。
一月前まで、恋のこの字も知らなかった人間に、忙しなく変化を続ける愛のタイフーンはキツすぎた。叶うのならば、このまま終りを迎えんことを……
「……トオル」
しかし、その願いは聞き届けられなかった。少し頬を緩ませながら彼女の顔を見つめていると、シャーリーは突然立ち上がり、それと同時に俺の体を持ち上げる。そして二人は見つめ合い、真面目な表情で詰め寄られた俺は、強い意志を秘めた彼女の瞳から目を逸らす事が出来なかった。
「……正妻の……意地……頑張る……トオルを離さないよう……頑張るから」
(……お、おう)
今まで以上に並々ならぬ決意を含んだ彼女の言葉、それはとても嬉しかったけど、素直に喜ぶことなんてできなかった。だってそれは、この国を背負うことでもあって……こんな俺が、そんな大役を……
ピキッ
あっ、やばい。俺の中で何かが弾けた。たぶん、不安って言う名のストレスが行き着くとこまで行ってしまったんだと思う。視界は真っ白に染まって、頭がうまく回らない。
怖い、怖い、怖い。否定されるのが怖い、失敗するのが怖い、嫌われるのが怖い。王様になんて、なれるわけがないのに、そうしたらシャーリーに嫌われる! 捨てられる! 一緒に居られなくなる!!
「……トオル? ……熱い」
そんなプレッシャーに気圧された俺の体は、鍔に埋め込まれた宝玉を中心に発熱を起こし、聞く必要性のないことを、彼女に尋ねてしまう。
(俺からも一つ、いいか?)
「??」
(シャーリーは俺のこと、好き、なんだよな?)
シャーリーが普通の女の子だったら、こんなに悩むことは無かったのかもしれない。それに、こんな考えを持つ時点で、彼女と居る資格なんて無いのかもしれないけど、俺は聞いておきたかったんだ。彼女の心の内に在る本音ってやつを。そして、心に根付く不安を少しでも和らげたかった。
「な、なんで!?」
しかし、彼女の口からそれを聞く前に、答えはわかってしまった。震える腕に、揺れる瞳孔、半開きのまま戻らない口許に、痛いぐらいに柄を握り込む両手が、彼女の不安を如実に表していたのだから。
まただ、まーたやっちまった。また彼女を心配させてしまった。
(今日の寝起きのシャーリー、非難の目が俺だけに向いてる気がして。ほんとは嫌われてるんじゃないかって少し不安になってて……)
わかりきってるはずなのに、小さな懸念から自分の弱さをぶちまけて……情けない奴。
「あっ……ご……ごめん……なさい……でも……私をもっと……知って……ほしい……弱い所も……全部……甘えちゃ……だめ……かな?」
でも、彼女の本心が聞けて、俺は今とても嬉しい。
シャーリーの甘い、極上のアイスクリームのような我儘が、俺の体に染み込んでくる。不安で真っ白だった頭の中が、幸せで真っ白に塗り替えられていく。心も体も抱きしめられて、彼女に寄りかかってしまう。
(そっか……それじゃ俺も、もっともっとシャーリーに甘えても良いのかな?)
「……うん……良いよ……トオル……かわいいね」
明らかに冷静じゃない。そうわかっていても、彼女の母性に俺は抗えなかった。優しい姉が居たら、きっとこんな感じなんだろうな。本来の姿も年齢も理解しているはずなのに、幼女の姿でそのお姉ちゃん力は卑怯すぎる。
(年上に甘えるような男は、嫌い、かな?)
「……そんなこと……ない……大好き」
あぁ、もうダメだ。こんなに包み込まれたら、溢れる感情が抑えきれない。
(シャーリー、シャーリー! 俺も好きだ、大好きだ!)
「……もう……やっぱり……年下なんだ」
恋をすると女性は綺麗になるって言葉を耳にしたけど、そこに母性が上乗せされると、もっと美しく見えるものなんだな。だって、俺を年下の男の子と認識した瞬間、彼女の肌は艶を増し、唇もリップを塗ったかのようにみずみずしく潤い始めたんだ。
そして極めつけは、いたずらを楽しむ子供のように笑うギャップが、俺を完全に逆らえなくしていた。
「……だから……教えて……私に……トオルの事……もっと……知って……助けて……あげたいから」
生き生きとした綺麗な笑顔で、優しい姉のように振る舞われたら、抵抗なんて不可能に決まってる。
(……わかった。でも、少しずつな)
やっぱり俺、この娘には逆らえない。一生尻に敷かれ続けるんだろうな。そんな、字面にするとうらやまけしからん事を想像しながら、熱に浮かされるように俺は刀身を赤く染め、声を押し殺す。
「……うん」
いきなり全てをさらけ出すのは恥ずかしいけど、少しずつ少しずつお互いをわかっていきたい。今はこんなにぎこちないけど、それもまた恋の醍醐味なのだろう。そう考えながら、俺は彼女に見守られ、彼女の胸で小さく泣いた。
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