俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第三章 恋する駄女神

第127話 美少女だからって無理なものはある

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 そう思った途端、心に眠る彼女への想いが嘘は駄目だと熱を上げた。俺の中の正義が卑怯な自分を許せなかったのだ。

 そうだよ、バカで優柔不断な俺は真面目なだけが取り柄じゃないか。そこを曲げたらただの根暗な変態になっちまう。

(……シャーリー! ごめん、俺――)

「それにしても、思ったより距離あるよね。こんなに大きく見えるのにさ。まだまだ魔物は出てきそうだし、いつになったら辿り着けるんだろ?」

 彼女に自分を偽りたくない。嫌われるなら自業自得と決意を固めた次の瞬間、俺の事など忘れたかのように天道は話を切り替え、そびえ立つ塔を眺めながら面倒臭そうにため息を吐く。

 そんな彼女に出鼻を挫かれ、完全に言葉を失くした俺は思わず意気消沈してしまう。どうして君はそうマイペースなんですかね……何を考えているのか、一度でいいからお前の頭の中をみてみたいよ。

「流石の私も朝まで戦うのはしんどいしな~。ってか、夜は別の問題があるし……先輩は大丈夫? 疲れたりしてない?」

(……あぁ、疲れてはいないよ、疲れては……な)

 天道やスクルドが頑張ってくれたおかげで、昨日のような魔力的疲労は感じない。だが、お前のおかげで精神の方はズタボロだよ。

「いやー、そっかそっか。ここまで頑張った甲斐があるってもんだね!」

 直前まで不機嫌だった天道が今はこうして笑っている。豹変する彼女を見ていると、俺とシャーリーがギクシャクしたことに大変満足しているように思えてくる。そのせいか、今までの彼女の行動が陰湿なものに思えてきて、好きでいられる自信がごっそりと無くなってしまった。

 このまま天道を嫌いになる事、それが俺とシャーリーにとっての最適解なのかもしれない。それでも、彼女は俺にとってのアイドルみたいなもので、今だってあの輝きは……こっちに来てからだいぶ色あせたな。

 そりゃ仕事中の彼女と、普段の彼女が別人なのは当たり前だと思うけど、ここまで幻想をぶち壊されると流石に萎える。いっそ、彼女だけここに置いていくか? いや、昨日の今日で約束を破棄するのもな。それに、今までの行動を考えると、置いて行った所でストーカーに早変わりするだけだろうし。

 愛してもらえるならヤンデレ大いに結構なんて考えていたけど、どえらいのに好かれちまったな……でも、この中で一番気さくに話せるのはこいつだし、友達以上恋人未満の元アイドル声優なんてポジション、この先一生縁がないと考えれば手放すのは勿体無いようにも感じる。いったい俺はどうすれば良いんだ!!

「でもどうしよ。このまま一日って考えると……」

「……アサミ……それなら……後は全部私が」

「大丈夫! 疲れてないよ! ただ面倒なだけだから!」

 そうこう考えてる間に、また喧嘩始めてるし。この二人、一見仲良さそうに見えて俺を挟むと犬猿の仲だからなぁ。当然だが、シャーリーは俺を離すまいと必死だし、天道も何だかんだでちょっかいを掛けてくる。妾で良いって公言するぐらいなら、今朝の言葉通り本気で仲良くしてくれると嬉しいんだけど……

 とりあえず俺も話に混ざろう。このまま二人が大事になったら、今度こそ正気でいられる自信なんか無い。

(でも、本当に遠く感じるな。これ、今日中に辿り着けるのかよ?)

「その事なのですがトオル様、一つよろしいでしょうか?」

 再び二人が睨み合う中、スクルドが真剣な口調で話に混ざってくる。

(なんだ、言ってみろ)

「発言のお許し、誠に痛み入ります」

 何をしでかすかわからない天道に比べれば遥かにマシではあるのだが、町を出てからというものこいつもこいつで終始真面目モードなのが違和感半端なさすぎる。背伸びする子供のような性格だった昨日とのギャップが大きすぎて、正直気持ち悪い。そのせいで俺の口調も無駄に固くなってしまう。

 ……駄目だ、本気で気持ち悪くなってきた。

 全員見た目が美少女とは言え、人間許容できる限界ってのがあってだな、縦横無尽に何度も何度も振り回され続ければ自然とやさぐれたくもなる。しかも、拒否権が用意されてないこの状況じゃ、女の子大好きな俺でも流石に無理。もし俺が人間だったら、今頃胃がキリキリしてる事だろう。

 彼女いない歴年齢のオタが突然ハーレムに順応しようとか、土台無理な話だったんだ。ごめんなシャーリー。やっぱ俺、ただの意気地なしだったよ。

「おそらくですが、この森を囲むよう軽度の結界が張られているものと思われます」

 しかし、そんな小さな我儘すらこの世界は許してくれないらしい。一応ここ敵陣のど真ん中だもんな、気を抜いてばかりもいられないか。そう思い直し、俺は心に活を入れた。

(結界……結界ねぇ)

「はい。正確に知覚は出来ていないのですが、この魔力の淀み、コンフュの魔法に近いものかと。そちらを薄く散布、陣として形成することによって意図的に塔へ近づけなくしているのだと思われます」

(コンフュって、混乱の魔法だよな。俺達自身に害とかは無いのか?)

「少々お待ちを。はむ……このぐらいの濃度でしたら体に害はございませんね。ご安心下さい」

 それは、魔力の濃さを測るための行為なのだろうが、自分の指を執拗に舐める彼女の仕草が俺にはとても扇情的に映って、胸が高鳴りを覚えてしまう。

「それとも……トオル様は淫れるスクルドをご所望ですか?」

 そんな彼女に劣情を催す俺を、まるで責め立てるかのように精一杯艷やかな声を上げながら、スクルドは唇から指を離しその間に細いアーチを描きだす。粘り気のある糸引く唾液と潤む瞳が相まって、幼女とは思えない艶めかしい色香を彼女は生み出していた。

(頼む、お前まで煩悩に塗れるのはやめてくれ)

 シャーリーとはまた違う魅力、幼女に惑わされるという背徳感が俺の体をゾクゾクと責め立てるが、なんとか抗うことに成功する。

 うちのパーティーだと淫魔に気を取られて忘れがちだが、女神という存在もまた人を惹きつける力を有しており、本気を出せば下等な人間を虜にするなど造作もないという事実を、俺は今思い知らされた。

「大変失礼いたしました」

 唯一の救いは、女神としての彼女がとても実直な人柄を有しているということ。昨日の彼女があのまま女神だったとしたら、俺の剣生は更に危うかった事だろう。ここまで違うとまるで二重人格だ。

 それに、そんなに真面目に謝らなくていいけど、シャーリーが霞むようなエロスを出すのはできればやめて頂きたい。恥じらいのない色欲は童貞には荷が重すぎる。

(で、なんでそんなもん?)

「こちらも私の推測なのですが、よろしいでしょうか?」

(思うことがあるならどんどん言ってくれ。その方が俺も助かる)

 先程から謙虚な姿勢を貫いているスクルドだが、できれば俺なんかに遠慮はしないで欲しい。もちろん、性的な話題は別問題だが。

 それに、こちら側の知識に関して彼女の右に出るような人間はそういないだろう。結界を見破った嗅覚と言い、その点に関しては一応信頼してるつもりだ。

「主様の寛大なお言葉に心からの感謝を」

 そんな普通のお願いに盛大な礼を返されるが、いつから俺はお前のご主人様になったんだよと。そう思う反面、まるで俺が女神を引き連れる勇者になったみたいで、少しだけ嬉しいと感じた。
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