俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第三章 恋する駄女神

第115話 頑張る男の子は可愛い

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「……もう……ダ・メ……エッチ……アサミは……ハウス」

 小さくとても柔らかそうなシャーリーの唇、そこから漏れ出る単語を聞く限りどうやらそれは寝言のようで、俺は心の底から安堵した。

 危ねぇ、こんな状況見られたら何言われるかわかったもんじゃない。というか、こっちはこっちでいったいどんな夢を見てるんですかね。後、天道の扱いがすっげぇ気になる。

「なんだ寝言か」

 そんなシャーリーを見て俺と同じように安堵する天道であったが、俺達の会話がシャーリーの夢に影響を与えているのは明らかであろう。

(だから言ってるだろ、大声出すなって。次は本当に起きちまうぞ)

「ご、ごめん。気をつける」

 再び俺に怒られた途端、天道はまたまたしゅんとなり落ち込んでしまう。これはこれでなんだかペースが乱れされるんだよなぁ。こいつの快活な部分、それはとても魅力的だと思うけどTPOだけはわきまえて欲しい。

 因みに、TPOとはタイム・プレイス・オケージョンの略で、時間と場所と場合という意味である……いや、なんとなく説明してみたくなっただけだ、気にしないでくれ。

 とにかく、何でも良いから話を進めよう。しょぼくれたこいつの顔を見てると何故か俺がいたたまれない気持ちになる。

(にしてもお前、よく俺の妄想に気がついたな。かなり抑え込んでたつもりなのに)

「ああ、それ。実は私、結構、寝・た・ふ・り、してるんだよね」

 おぉ、さっきまで落ち込んでいたのに、主導権を握り返した途端いつもの元気いっぱい天道さんに戻ったぞ。この切替の早さだけは本当に感心する。う~ん、しょうがない、少し話を合わせるか。びっくりどっきりで騒がれたり、またすぐに落ち込まれても困るしな。

(なんだ、ずっと起きてたのか。なかなかいい狸寝入りだったぞ。完全に騙されたぜ)

 ……やばい、棒読みとまではいかないが喋り方に胡散臭さが……

「フフフ、現役声優をなめないでくれたまえ、寝息をたてるなど簡単なことだよワトソンくん」

 どうやら褒められたことが嬉しいようで、細かいとこまで気が回っていないようだ。それよりも、ワトソンくんって誰だよ。シャーロットホームズとでも言いたいのかお前は。そもそも発言してるの天道だし。

「それに、先輩が何考えてるか聞くの結構楽しいからね。頑張ってるのもよくわかるし」

 楽しいって……覗かれる側のこっちとしては、たまったもんじゃないんですけどね。

 にしてもこいつ、本当に楽しそうに会話するよな。今だって終始笑顔だし。

「だ、だって、先輩と会話してるんだよ? 嬉しくないわけないじゃんか」

 すると、今度は何故か薄っすらと頬を赤くしながら目を細めてくる。本当にコロコロと表情の変わるやつだ。それに、いくら天道が相手とは言え、はにかみながらそういう発言をされると何も言い返せなくなる。だってほら、そんなこと言われたら俺だって一応嬉しいし。ってか、心の中をさらっと読むなと。

「それに私、そんなに悩まなくてもいいと思うんだけどな。今の先輩は剣なんだし、いろんな苦労もあるんだろうからさ、もっと私たちに頼ってくれていいんだよ?」

 その申し出は大変嬉しいのだが、頼ってくれと言われても何をどうしたら良いのかわからないし、俺は十分なぐらい皆を頼ってるつもりだ。こんな木偶の坊相手に世話を焼き、変態として捨てられることもなく、オマケに人間扱いまでしてくれる。ここまでされてこれ以上を望むとか我儘すぎるだろ。

 まぁ、強いて不満をあげるとすれば、もうちょっと平穏に過ごしたいってことぐらいか。主に性的な意味で。

(そう言われてもなぁ。一応このパーティの中じゃ唯一の男って扱いなわけだし、お前らに頼りっきりってわけにもいかんだろ)

 そんな風に皆が俺に良くしてくれてる。だからこそもっと頑張りたいと思うし、男の子として少しでも頼って貰えるようになりたいって思うんだ。

 そりゃ、今の世の中男が女より頑張るのが当たり前、なんて時代遅れな考え方かもしれないけど、それでも女の子に少しはカッコいい所見せたいと思うのが男ってもんだ。特に俺みたいなひ弱な男は、異世界でぐらい誰かを守りたいって願うのは当然のことだと思う。

「そっかそっか、男の子には意地があるってやつなわけか。そうだよね、そんな体だけど先輩も男の子だもんね。うん、かわいい」

 かわいい。そんな言葉を惜しげもなく、それも笑顔で伝えてくる天道の姿が俺に告白してきた時のシャーリーとダブって見えて、心の中に戸惑いが生じてしまう。

 だって、不意打ち過ぎんだろ。最愛の人と同じ言葉、それも俺にしか言わないなんて言った言葉をこいつは簡単に言ってくるんだから。

(かわいいって、お前までそんなこと言うのかよ)

 だめだ、天道と目が合わせられない。意識しすぎで心がおかしくなる。

「お前までってことは、シャーロットにも言われたの?」

(ああ、出会ってすぐの頃にな)

 でも、今のこの気持ち、こいつには、こいつにだけは絶対にバレたくないと無理やり平静を装ってみせた。それに、今だからこそ、あの時を思い出すと気恥ずかしくなってしまう。

 なんだよ、告白の言葉で盛大に噛むとかさ。シャーリーに言われた言葉一つ一つだって、思い出せば思い出すだけ嬉しくて顔がにやけそうになるし。ううっ、羞恥心で死にたい。

 ……そう言えば、あれ以来大人の姿のシャーリーとまともに会話してないんだよな。

 別に、今のシャーリーに満足してないわけじゃないしディアインハイトが気軽に使えない代物なのもわかってる。けど、あの姿のシャーリーとまた話がしたい。突然そんな物悲しさが……ってあれ? なんだろう。今まで気づかなかったけど、俺ってばもしかして年上好き?

「でもシャーロットの気持ちもわかるな。できないことを頑張ろうとする姿って応援したくなるし、凄くかわいいんだもん。頭抱えて必死に悩んでる姿なんか、朝美ちゃんの母性本能バリバリに刺激してくるしね!」

 だってほら、これだけ上から目線で褒められてるのに、天道に言われてもさっきと違って全然心が揺れ動かない。

 まぁ、別のものなら目の前でたゆんたゆん激しく揺れ動いてるけど。

 という冗談は置いておくとして、やっぱり威厳の問題なのかね。例えば今の台詞、シャーリーに言われたと想像してみる事にしよう。

「できないことを頑張ろうとする姿、とても可愛らしいと思うし応援したくもなるわ。必死に悩んでる姿だって私の母性本能を刺激して、今すぐにでもそんなトオルを抱きしめたくなっちゃうもの」

 ……うん、やっぱりそうだ。ただの妄想だというのに今すぐにでもシャーリーに抱きしめられたいと思ってしまう。う~む、まさか知らず知らずのうちに属性という名の守備範囲が広がっているとは。人生何が起こるかわからないもんだ。そこ、妄想だから都合が良いだけとか言わない。

 それに、天道の言葉が全く響かないってわけでもない。こいつが俺を大切に想ってくれている、そのことだけはしっかりと伝わってくるから。

(全く、こんな自分に自身も持てない、怖がりなだけの臆病者のどこが良いんだか)

 だからこそこんな自分が許せないし、好きだと言ってくれる彼女達に不誠実な気持ちで向き合うなんてこと、俺にはできない。

「はいはい、そうやってすーぐ卑屈にならないの。それに、怖いって思えるのは悪いことじゃないんだよ。それだけ見極めができて冷静でいられるってことなんだから。それにほら、シャーロットって無鉄砲なとこ結構あるっぽいじゃん。だからさ、先輩ぐらい臆病な人が隣りにいてくれたほうが安心できると思うんだよね」

(天道……)

「もちろん! 私も後先考えない性格だから先輩にフォローしてもらわないと駄目駄目だけどね!」

 ただ、こいつをどう扱ったら良いのかそれだけは本当にわからない。わからなすぎて涙が出てくる。それに、自分の主張だけは本当に忘れないよな。その点だけは呆れを通り越して感心するよ。駄目人間っぷりをアピールするのはどうかと思うけど。

 まぁ、俺の場合は――

「ダメな所をアピールするのって甘えたがりの常套句じょうとうくだと思うんだけどな~。先輩のもそうでしょ?」

(お、俺のはそういうんじゃねーよ!)

「またまた。そういう所もまるっと受け入れてくれる女の子を探してるのはわかってるんだぞ」

(だからそういうのじゃ……そういうのじゃねーんだよ)

 そう、そういうのじゃないんだ。俺の場合、誰かを失望させたくないだけ。

 俺みたいな駄目人間はどうやっても完璧になれない事を知っていて、だからこそ皆が寄せてくれる期待を裏切らないという自信がない。自信が無いから予防線を張って逃げることを考えてしまう。

 こんな自分が誰かを幸せにするなんてこと、本当にできるのだろうか……
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