俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第三章 恋する駄女神

第114話 嗜虐心

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(結構です!)

 心の整理もついていないこんな状態で淫魔の相手をするのは非常にしんどいのだが、無下にあしらうことも出来ず、ぶっきらぼうになりながらも俺は彼女に声を掛けた。

(ってか、もう起きたのかよ。それともなんだ? 寝付けないのか?)

 すると、天道は唇に自分の人差し指を当て、目を細めながら俺へと近づいてくる。

「うん、先輩のエロ妄想感じちゃってぇ、なんだかすごぉく、ド・キ・ド・キ。体、火照ってきちゃった」

 夜中テンションというかたぶん二人きりの弊害なのだろう。俺を困らせたい一心で自分の姿を精一杯エロく見せようとしているのだが、わざとらしすぎて逆に色気を感じられない。むしろ、ギャグなのではないかとすら思えてくる。

 しかも、俺の心は疲労のおかげか今とても強気になっていて、普段いじられてるお返しに俺の方からこいつを虐めてみたいという嗜虐しぎゃく心に駆られてしまう。

(おう、それじゃ勝手に自分で慰めてて良いぞ。最後までしっかり見ててやるから)

「ほぇ……鬼畜!? 先輩がいきなり鬼畜にぃ!!」

 普段の俺らしからぬ意地悪な態度で接してやると、天道は驚きのあまり隣の部屋まで聞こえる程の大きな声で騒ぎ出してしまった。

(こら、静かにしろ。二人が起きるだろ)

「ご、ごめん」

 そんな彼女を今度は優しく小声でたしなめると、まるで怒られた子犬のようにしゅんとしてしまい、なんだかとても可愛い……ゲフンゲフン。

「で、でも、その返しは予想外だったと言うか、不意打ちすぎてずるいと言うか……わ、私の一人エッチ、本当に見たかったりする、の?」

 そして、次の瞬間には俺の言葉をずるいとのたまってくるのだが、こちらとしてはお前の返しのほうがずるいと思うぞ。それに、この程度いつもお前がしてくることに比べれば……待てよ。ってことは、今優位に立ってるのは俺の方で、俺に主導権があるのか?

 今ならこいつを好きにできる。普段攻めの立場にいる彼女が受けに回るというこのギャップが、俺の中に眠る男性的な征服欲を刺激し、思い通りにしたいという欲望を増長させていく。

 こいつの場合サキュバスの特性も相まってか、卑猥に責めても許されるだろうという謂れのない安心感があり、切なげな彼女の息遣い、潤んだ瞳、紅潮した頬の相乗効果も相まって、高まりきった俺の闇は普段なら絶対に言えない言葉を平然と紡がせてしまう。

(そりゃ見たいに決まってんだろ? 野暮なこと聞くなよ。もちろん行為の中身だけじゃなくて、昇り詰めていくお前の淫らで可愛い声やその顔にも興味がある。それに、お前はもう俺の可愛い子犬ちゃんだ。嫌とは言わないよな?)

 とかなんとか、どこの出来損ないな乙女ゲームの俺様系キャラの台詞なんだよと。そんな風にツッコミたくなること請け合いな中二以外の何物でもないこの口上、これをおかしいと思えないぐらいに今の俺は冷静すぎたのだ。

 それに、この感情が間違っているとも思えない。女の子に興味があると答えた年頃の男子百人に、意中の女性の一人エッチが見たいですか? と尋ねたら百人が百人首を縦に振ると言っても過言ではないだろう。俺らぐらいの男子にとって女の子の体ってのはそれぐらい神秘の塊みたいなもんで、その秘密を解き明かしたいという思いは冒険心に通ずる物がある。神々しいまでの輝きを一目見たいと考えるのは当然の心理なのだ。ただ、目の前で行為中に自分の名前なんか呼ばれた日にゃ、逆にお預け食らってるような感覚になって押し倒すこと間違いなしだろうが。

「……わかった。先輩がそこまで所望するなら――」

(待・て! 冗談だ、冗談だから)

 とは言え、実際に見せつけられても困ってしまうのが健全な男子というもの。面倒くさいかもしれないが、男の子だって恋する乙女と変わらないぐらい心は純粋ピュアーなのだ。例外は認める。

「……ふ、ふふ。な、なーんて、流石の私でもこんな場所でする! わけ! ないじゃんか! 先輩ばっかじゃないの!」

(だから起きる、二人共起きるから)

 冗談という俺の言葉に突然笑いだしたかと思うと、再び大声で叫び散らす彼女の表情は窓から差し込む月明かりだけでわかるぐらいに赤面し、それはどんな鈍感なやつが見てもひと目で見抜けるレベルの完全な照れ隠しだった。しかも両腕をフリフリしたり、全身をプルプルさせているのがまた可愛らしい……って、さっきから何度も何度も天道相手に何考えてるんだ俺は。

「お、起きたら二人共催淫で寝かしつけるから、だいじょーぶ! せ、先輩も寝たいんだったら私が気絶させてあげるよ!」

(……お前の場合、気絶中にエロいことしてくるっていう絶対的な確信があるから遠慮しとく)

「あらら。私って信用ないな~」

 そんな彼女の上ずった声が治る気配は一向に無い。こういう所だけ見るとただの初な女の子なんだけどな。そう言えばこいつ、本人の話を鵜呑みにしていいならこの態度の割に経験無いんだっけか……それも俺のために。って、俺までこっ恥ずかしがってたら世話ないだろが。

(信用してほしかったら少しはおしとやかになってみせろ)

「う~んとね、それは無理。だって、先輩のこと大好きなんだもん。この思いだけは止められないよ」

 まだまだ慌てふためきながらも、そんな言葉を笑顔で伝えてくる彼女の姿に俺はどうしようもない憤りを感じてしまう。決して怒ってる方の意味じゃないぞ。ここまで素直に想いを投げかけられると気持ちが揺らぐというか、やっぱり嫌いになんかなれねぇよ。

(……で、落ち着いたか?)

 その戸惑いは声へと滲み俺の言葉をかすれさせるが、それを気にする余裕は彼女に無かったようで、素直に首を縦に振るだけでおちょくられるようなことは無かった。

(そうか。それなら――)

「む、それならせっせと寝ろとか言わないよね。心臓爆上がりしてるのは先輩のせいなんだから、ちゃんと責任とってもらうよ」

(……お前それ、自分から色目使っておいてセクハラされたって言ってるレベルの理不尽さなんだが)

「いいの。男の子は女の子をエスコートするものなの!」

 この脈絡も筋もなく上目遣いの涙目で有無を言わせない彼女の主張、これが許されるのだから男からしたら本当にたまったもんじゃない。そりゃ確かに百パーセント俺のせいじゃないとは言い切れないけどさ……これも女の子の特権ってやつなのかね。

 でも、もう少し、もう少しだけ男の子にも人権を下さい。

(はいはいわかりましたよ。それで、俺は何をしたらいいんですかね?)

「罰として、私が満足するまで話に付き合って」

(あ? なんだ、そんな事でいいのかよ)

 想像よりも生温いお叱りに呆れた声を俺が出すと、天道は更に不満気な表情で俺を睨みつけてくる。

「そんな事って……先輩は私をなんだと思ってるわけ?」

(いつでも万年発情期で、どこに居ようと俺の貞操を狙い続ける生粋の色欲狂)

「ちょっと! 私だって自重するときぐらいあるよ!」

 お前の脳内辞書にその言葉があると言うなら、毎回自重して欲しい所なのだが。

 それに、逆にまたエッチぃことお願いされても困るし。という言葉が最後に小さく付け加えられていたのを聞いて、お前こそ俺をなんだと思っているのかと小一時間問いただしたい気分にさせられたのと同時に、自重した理由がそれなのかと呆れを通り越して涙が出てきそうになる。

 むしろこの場合、俺が押せ押せのイケイケにでもなればこいつの抑止力になれるでは? とも考えたが、それこそ俺がおかしくなりそうなのでやめることにした。天道からのカウンターも怖いしな。

「ん……トオル」

 二人が睨み合う一瞬の静寂の最中、一際目立って聞こえたシャーリーの艶めかしい声に、俺達は同時に彼女の顔を覗き込んだ。
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