俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第三章 恋する駄女神

第112話 ある意味それはコスプレ衣装量産機

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「っ~~~~~ばか……ばか……ばか」

 相も変わることのない、シャーリーの可愛いらしい照れ顔に俺がぞっこんで見とれていると、突然彼女の右足が地面を離れ宙を待う。今まで見たことのない彼女の動きに、何事かと思考を巡らせようとした次の瞬間、俺の体を鈍い痛みが駆け抜けた。

 その後、続けざまに二度三度と同様の痛みが刀身に加わり、それと同時に体も左右へ揺さぶられる。痛み自体は苦悶するようなものではないのだが、衝撃で揺れ動く視線が視界リンク並に気持ち悪く、このままでは魔力を吐き出してしまいそうだ。

 とにかく状況を確認しようと、揺れる視線を痛みの場所へと強引に向ける。すると、一本の可憐で華奢な足が俺の体を高速で踏みつけているところだった。ありがとうございます! ではなく。

 どうやら、羞恥心に耐えきれなかったシャーリーが、俺に合わせる顔がないと暴力に訴えてきたようなのである。しかし、俺の体へ無数の蹴りを繰り出す彼女の右足にはいつも履いているブーツの姿は無く、なるべく傷つけないようにとソックスで踏みつけてくる彼女の優しさに、俺はついほっこりとしてしまう。でも、どうせなら生足が良かったな……いい加減にしろ。

 どちらにせよ、彼女が満足するまで踏みつけられる以外の選択肢は今の俺に存在していない。とは言え、ただ待つだけというのも味気なく、じっとしていても不快感が増すだけなので、とりあえず俺は複製端末を見ていて思いついた疑問をスクルドへと尋ねてみることにした。

(スクルド、その端末さ確かに便利だとは思うけど、なんでこんな物作ったんだ? お金は十分配布されるし、服の調達ぐらい訳無いと思うんだが)

 天道の話を聞くだけでも、異世界転生者には贅沢をしなければ一生困らないぐらいの額が配布されているはず。それにもかかわらず、異様に手厚いサポートを行う理由が俺にはわからなかった。

「理由ですか。そうですね、トオル様の世界ですと毎日衣服を取り替えるのが当たり前らしいじゃないですか」

(まあ、だいたい、が、そう、だな)

 そのスクルドの発言は、当たらずといえども遠からずって感じだ。その辺は国柄にもよるし、俺の国だって全員が全員じゃない……それよりも、魔力回路が揺さぶられすぎてそろそろ出そう。うっぷ。

「こちらの世界にはそういった風習がございません。お洒落な服もあるにはあるのですが少々割高ですし、何よりも向こうの世界とは流行りやセンスが全くもって違います。それにですよ、冒険をする上で服の持ち運びはとても不便ですし、戦闘に巻き込まれればシャーリーさんのケープのように失ったり、ボロボロになる可能性が少なくありません。そうなれば、あちらの世界の物は二度と手に入りませんし、それによってショックを受ける方も少なくありませんでした。そこでです! いつでも愛着のある異世界の服や新しいものが作れるようにと、慈悲深いオーディン様はこの魔導具を開発なされた、と言うわけなのです」

 誇らしげに話す彼女の長い説明を聞いてだいたい納得はできた。まぁ、そうだよな。二次元の場合、新しい衣装を考えるのがめんど……もとい、大人の事情でキャラの服装ってあまり変わらないことが多いけど、現実的な視点で見れば一度ボロボロになった服ってのは簡単に修復できない。それに、二度と手に入らないと思えば愛着も湧くわけで、そう考えるとお気に入りの服を失う事で精神的ダメージを受ける人間も少なからず居るわけだ。そのアフターケアと考えればおかしなことは何もないのか。

 俺ってどうも親切が信用できないっていうか、何か裏があるかもってつい勘ぐってしまうんだよな。特に上から見下してそうな奴。

「……これって……複製デュプリケートの……応用?」

「む、流石はシャーロットさん。お目が高い! この魔導具に使われてる魔術回路の命令プログラムには複製のものが使われています。そして、これだけの複製の回路を用意できるのなら、複製の魔法自体を転生者の皆様に授ければ良いのでは? とお考えになるでしょうが、生憎、複製を使うには最低限の資質と数年に及ぶ修行が必要になります。いくら異世界の皆様の魔力保有量が高いと言っても、この魔法に関しては使える方が限られてくるわけです。とは言え、この大きさの端末デバイスでは負荷に限界がありますので、服だけに特化した物へと改良したというわけなのです」

 複製って言うとバルカイトが俺を直したり、シャーリーの服を修復した時に使ったあれなのかな。細かい魔法の種類ってのは俺にはよくわからないけど、もしあいつの使った魔法がこれなのだとすれば、スクルドの説明を聞く限りあいつって凄いやつだったんだな。

 それもそうか。シャーリーのお目付け役だったらしいし、それなりの実力がなければそんな大役任されたりしないよな。

 でも、ちょっと待てよ? バルカイトと同じ能力が使えるのなら、この端末で強い防具を量産できる可能性があるってことか?

「ついでながら申し上げますと、古に作られし聖なる装備と呼ばれる物も見た目こそ再現は出来ますが、力までは再現不可能という点は予めご了承下さい。所詮は、小型端末用の魔術回路ですので」

(そうだよな。この程度の端末で伝説級の防具が作り放題なんてなったら、それこそ世の中イージーモードだもんな)

 尋ねる前に説明されてしまったが、要するにこの装置RPGで言うところの立ち絵変更用のコスプレアイテム量産機という位置づけらしい。俺自身、ゲームなんかで気に入った衣装があれば迷わずDLCを購入するぐらいコスチュームには目がない人間なので、個人的にこういう要素は嬉しかったりする。

 それにしても、シャーリーが途中からスクルドの話に興味を持ってくれて助かった。今では魔力もだいぶ安定しており、地面一帯に青白い吐瀉物をぶちかますなんて大事にはならなくて済みそうだ。

 そして、説明を聞いた限りこれならシャーリーに使わせても安心! とあっさりならないのが俺である。天然ドジっ子からの説明である以上、石橋は叩いて砕くぐらいでちょうどいい……って、砕いちゃだめか。

 そこでだ、俺の不安を吹き飛ばしてくれる人材がここには居る。そう、同じ端末を所有する天道に白羽の矢が立てられるというわけだ。通販番組の使用者の声はあまり当てに出来ないが、目の前で聞くなら問題ないだろ。特にこいつが俺に嘘をつくとは思えないし。というわけで、早速彼女にインタビューしてみようと思う。

(なぁ、天道はそれ使ったことあるのか?)

「なになに? 先輩は私のどんな姿に興味津々なのかな?」

 いきなり顔をにやけさせながら斜め上の返事を返す天道をみて俺は思った。どうやら俺は人選を間違えたらしい。

(そういうことじゃなくてだな、俺が聞きたいのは使用感の方だ)

「えー。つまんないの」

 不備や違和感等についての真面目な話をしたかったのだが、何時も通り茶化してくる天道の姿に俺は苛立ちを覚えてしまう。

(そうだな、俺はつまんない人間だからこれからお前に物は尋ねねーわ。聞かれてもどうせつまんないだけだもんな)

「も、もー、すぐに拗ねないでってば先輩。いつもの朝美ちゃんジョークだって」

 普段温厚で喧嘩の嫌いな俺だって怒ったり拗ねたくなる時はある。特に今は今日聞いた情報量の多さと、昨晩からの疲れがピークに達しているせいで余裕がなくなり始めているのだ。

「そうだなぁ。最初にいくつか試してみたけど、着た感じ違和感は無かったよ。材質なんかも思い通りに作れるし、いきなり分解されるような事は今までないかな。現に、この制服の上着複製品だしね。向こうから着てきたのは初戦の時に自分の魔法に巻き込んじゃったから。それと、先輩と出会った時に着てたボロ布、あれもこれで作ったものだよ。ってな感じのまともな回答ですが、ご満足いただけたでしょうか」

(できるなら最初からそうしてくれ)

 彼女がからかい上手なのはわかってるつもりだけど、もうちょっと場の空気を読んで欲しい。それに、怒らせて顔色をうかがうぐらいなら最初からやるなと。

「……トオル……これ」

 ほっとする天道の様子に小さなため息を吐いていると、どうしたら良いかな? と尋ねるようにシャーリーが俺へと端末を差し出してくる。スクルドの説明と天道の使用感を聞く限り体に悪い影響は無さそうだし、特に問題は無いか。

(シャーリーが便利だと思うなら貰っておけば良いんじゃないか?)

「……うん……ありがと」

 俺の言葉に彼女は両目を細めると、嬉しそうに声をほころばせた。凄く幸せそうだけど、シャーリーも女の子だしいろんな洋服が着れるってのはやっぱり嬉しいんだろうな。それに、可愛いシャーリーのコスプレってのもいっぱい見てみたい。

 別に彼女のことをお人形さんみたいに見てるわけじゃないぞ。女の子の、特に自分の彼女のいろんな一面を見てみたいって思いは男なら誰にでもあるはずだ。シャーリーみたいな綺麗で可愛い娘ならコス映えしそうだし当然当然!

 ほ、ほら、大人シャーリーのセクシーな感じも良いけど、こっちの可愛らしいシャーリーの――

「……エッチなのは……だめ」

 シャーリーのちょっとシックでエレガントな魔法少女姿を想像してみたのだが、サクッとバレて恥ずかしかったらしい。フリフリは多いけど、露出傾向は控えめだし可愛らしいと思うんだけどな。

 ああ、そうか。魔法少女ならむしろ二人でセットか! シャーリーと天道、ロリ体型とグラマーで十分に絵になる。しかも、天道の方はイベントで魔法少女コス披露してて、本物クラスの激カワ具合でお墨付きだし。

 そもそも、この程度でエッチとか言ってたら、戦士系とかバトルスーツ衣装とか耐えられ……ああ、これ女の子にキモいって言われるやつですよね~。いかん、疲れからなのか抑えが効かなくなってきてる……自重、自重。

「む、シャーロットのお着替え大会するなら私も混ざるよ! 私にならドンドンエッロいコス着せてくれていいからね」

「!? ……あ、アサミがするなら……私も……が、がんばる」

(えー、只今を持ちましてコスプレ大会は中止となりました。会場にお集まりのお客様は……さっさと風呂入って寝ろ!!)

 俺が夢見た美少女二人のコスプレ妄想。それを一人は笑顔で、一人は照れ顔で助長してくる少女と幼女の合わせ技。そんな二人の誘惑から溢れ出てくる煩悩を自制の心で抑えるため、今出し得る精一杯の雄叫びを心の底から俺は上げるのだった。
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