俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第三章 恋する駄女神

第103話 女王の血脈

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「先輩! 私は、私は!」

 しかし、やはりと言うべきか、俺の目論見など知らんと言わんばかりにまたもや天道が絡んでくる。

 突然で悪いが、今の俺の正直な気持ちを述べさせてもらおう。……天道の相手をするのもだんだんとめんどくさくなってきた。

 自分でも酷いこと言ってるなーとは思う。思うんだけどさ、皆も疲れすぎてると誰かの相手したくないなーって思うことあるよね。今まさにそんな感じ。ぶっちゃけ疲れてるんですよ!

 俺の理念としてはやりたくないし、彼女にも悪いとは思うけど、ここは適当にあしらわせてもらおう。

(アー、ソウデスネ。テンドウサントモ、デアエマシタモンネ)

「扱いが雑! でも、それはそれで良い!」

 こっ酷い対応にショックを受けて、一度引っ込んでくれるかと考えていたのだが、予想を大きく裏切って天道さんは恍惚の表情を浮かべている。

 棒読み発言すらもすんなりと受け入れる上級者っぷりに、俺の言葉ならなんでもありか! と危うく口を滑らせてしまうところだった。そんなことしたら、当たり前じゃん! とめくるめくグダグダの世界へと誘われてしまう。そんなのはまっぴら御免だ。俺の体力が持たない。

 それにしても、これじゃあまるでどの選択肢を選んでもルート回避不可能なバグゲーのヒロインみたいじゃないか。いや、残念なことに攻略は既に完了しているのだから、その例えは正しくないのか? どっちかっていうと、ハーレムルートで一番粗雑に扱われるタイプのヒロイン?

 しかし、ここまで何でもありだと、逆にどこまでなら嫌われないのか試してみたいという好奇心が湧き上がってくる。だが、それを試すってことは天道を喜ばせるだけな気もするし、やりすぎて本気で泣かせるのも俺の主義に反する。それに、別の何かに目覚めてしまいそうな恐怖に俺は断念せざるお得なかった。

(とにかく、ディアインハイトは負担が大きいから注意して使えって、そういうことで良いのか、スクルド?)

「あ、はい! 用法用量を守って正しく使用さえすれば害は全くございません。それにですね、これからは私も付いています! トオル様に無茶はさせません! ですので安心してください」

 天道の態度に話の中心であるはずのスクルドでさえ呆けてしまっている。流石に申し訳ない気分になってきたのだが、謝ってもきっとトオル様のせいじゃありません! って逆に困らせるだけだろうし、ここは黙っておこう。

 さてさて、こうして心強い仲間が二人も増えたわけで、スクルドの言う通り俺とシャーリーの負担も減る……本当に減るのか? 

 戦闘面については間違いなく減るであろう。天道の強さは折り紙付きだし、スクルドの実力も疑うつもりはない。

 だけど、だけどな。二人の傍若無人っぷりを見ていると、精神的負担の方は明らかに増えそうなのだよ。実際、こうして既に増えてるし。二人共悪い娘じゃないのはわかるんだけど、アプローチが過剰すぎるのも考えものである。

 でも、それも俺のためと考えれば男冥利に尽きるわけだし、もうちょっと折り合いを付けられるように頑張ってみるべきか。そうだな、円滑なパーティー運用のためにもう少し頑張ってみよう。……出来るとは言ってないがな!

 それに、言ってる側から何かを話したそうにうずうずと目を輝かせているスクルドに、気味の悪いものを俺は感じている。なんだか、もう一波乱起こりそうだ。そして、その考えは見事に的中する事となる。

「それはそれとしまして、シャーロットさんがアサミさんのことを何故神聖使者セイクリッドなのか、と気にしたかと言いますとですね~」

「!? ……スクルド……まっ――」

「リィンバース王国初代女王、ブリジット・リィンバース様は、実は神聖使者でございまして、その血脈は代々受け継がれております。つまりです! シャーロットさんも純血の神聖使者なわけですよ!」

(シャーリーが……神聖使者?)

 神聖使者ってことは、要するに天使ってことだよな……天使? 王女様が天使? 

 シャーリーの制止を振り切り気持ちの良い笑顔で全てを暴露しきったスクルドの言葉に、俺は興奮を隠しきれずにいた。だってそうだろ! 俺の彼女は天使で王女な魔法幼女剣士なんだぞ!!

 今だからこそ冷静さを保っていられるが、向こうの世界にいた頃の俺ならまず間違いなく、ふおおぉぉぉぉぉ! 天使キタアァァァァ! シャーリーたんマジ天使! なんていう、どん引き間違いなしな台詞を叫んでいた自信がある。実のところ俺は、そのぐらい天使という属性に目がないのだ。

 しかも、クーデレ、高貴、王女、変身、幼女、大人の時の衣装……は俺のフェティシズムか。それだって、まるで彼女は俺のために生まれてきたのでは無いかと錯覚を覚えるほどに、シャーロットという女の子は俺の大好き属性てんこ盛りなのである。

 言うなれば、電車の戦士のクライマックスバージョンってとこだぞ! そんな彼女を見て落ち着きを保っていられると思うか? 叫ばずにはいられても興奮せずになんていられると思うか? いや、出来るわけがない! 反語。

 俺は体から溢れ出るこの魔力という名のパトスを、パトスを……ぶつける矛先が無くなってしまった。

 突然意気消沈して一体何があったのかって? そのシャーリーが、今俺の目の前で、泣きそうなぐらい深刻な表情を浮かべて唇を噛み締めているんだ。いくら属性バカな俺でも、こんな状況で喜んでなんかいられねぇよ。

 とにかく、気落ちする彼女をこのままになんかしておけない。でも、直接聞いた所で答えてくれるような娘でもない。なら、俺がシャーリーの悩みそうなことを当ててやろうじゃないか!

(なぁシャーリー? もしかしてさ、普通の人間じゃ無いってわかったら嫌われるとか、また怖がられるとか、そんなこと思ったんじゃないだろうな)

 そう息巻いた俺の言葉は、どうやら一発で的を得ることに成功したようである。一瞬彼女の肩が跳ね上がったのがその証拠であり、俺の質問にすぐさま反論しないことから間違いないだろう。全く、そのぐらいの事で何で俺がシャーリーの事嫌いにならなきゃいけないんだよ。

(何度も言ってるだろ、そんなことぐらいじゃおまえのこと嫌いになったりしねぇって)

 普段は冷静で冷たく見えるぐらいなのに、心の奥は純粋で見た目と同じぐらい子供っぽい。そんな彼女が愛おしくて愛おしくてたまらない。それが俺の本心だ。

 とはいえ、彼女の人間離れした部分に恐怖を感じてしまったことがあるのも事実である。

「……わかってる……でも……万が一とか……不安で」

 そんな事があったから、彼女が自分をさらけ出すことに恐怖を感じてしまうのもわかる。

(そうだな。どんなに好きあってる恋人同士だって、前提として俺達は他人で真意なんてもんはわからない。普通の人間と違うところがあったら、それで嫌われるんじゃないかってコンプレックスを覚えるのも正常だと思う。実際、それでおまえを傷つけたこともあるもんな)

 でも、そこで立ち止まってしまったら進展はない。だから、俺はシャーリーのことをもっと知りたいと思う。それで彼女を傷つけることになるかもしれないけど、それも全部ひっくるめて、受け止めて、もっともっと彼女の全てを俺は好きになりたいんだ。

(でも、安心しろ。そんなことで俺は、君のことを嫌いになんてならない。むしろ天使とか俺にとっては好きになる最高の調味料だよ。増々シャーリーのことが好きになった。これはマジで)

 そんな理想論を描きながら、俺は全ての思いの丈を彼女にぶつけきった。

「……トオル」

(シャーリー)

 俺の意志が伝わったのか、強張っていた彼女の表情は柔らかさを取り戻していき、惚けた熱い眼差しを俺へと向けてくる。

 こんな風に恋人同士が視線を交わし合ったら、自然と顔が近づいて、唇と唇が、なんてのが定番なんだろうけど、人の形をしてない俺に人並みの恋愛は送れない。それが当然で、仕方のないことと思ってきたはずなのに、そうなれない自分が何故か突然悔しくて、心の底がチクリと傷んだ。それを誰かに伝えたくて、思考が思いを描き出そうとする。

「あー、その。先輩がシャーロットのこと好きなのは飲み込めるんだけど、目の前で二人だけの空間作るのは流石にどうよ」

「それは私もアサミさんと同意見です。なんだか心がムカムカしてきました」

 その瞬間、甘ったるいこの雰囲気に当てられた怒り心頭の外野二人の野次によって、俺は正気へと引き戻される。

 瞳を潤ませていたシャーリーも一緒に正気に戻ったのか、恥ずかしそうに顔を俯かせながら俺のそばから離れていく。あのまま邪魔が入らなければほっぺにキスぐらいしてもらえたかも、なんて思うと同時に、どす黒い感情を垂れ流さずに済んだことにホッとする自分がいた。ある意味、助かったのか?

 それでも、幸せな時間を邪魔されたことに対しては少々腹立たしくも思ってしまう。

 だけどまぁ、こんな人前でおっ始めた俺が一番悪いのか。そう思うことで今回のことは諦めようと思う。キスの一つぐらいならいくらだってチャンスは有るだろうしな。

 ……そもそも、俺のほっぺってどこだ?
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