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1-1 爆誕☆ロリっ子JCプロデューサー
5. 泳いでたんだって溺れて気付いたり
しおりを挟む(…………気が散る……ッ!)
コーンフレークを掻き込み作業を始める。
数えて13曲目のオリジナルソングだ。今回のテーマはBPMテンション共に高めのブルースロック……いやまぁ、つまりいつも通りなんだけど。
適当にコードをジャカジャカ鳴らしながらイメージを固めていく。鼻歌交じりにメロディーを付け加え、足踏みでリズムを取りながらテンポを整える。
「…………」
「…………なに?」
「観察してます……」
「分かってるよそんなこと」
「他にすることも無いので……」
じゃあ帰れ。今すぐ。
壁沿いに並んだ折り畳み式ベッドに座り背中を預けるすばるん。作業風景をこれといって口出しもせず大人しく眺めている。
プロデューサーと言うからには曲作りの段階からアレコレ意見を飛ばして来るのかと思ったら、存在静かなものだ。
だからと言って集中出来るかと聞かれたら話は別。自宅でロリJCが寛いでいる時点で終わってる。何かが。
「この空間からユーマさんの楽曲が生み出されているのですね……なんと言いましょう。習慣が部屋を作り、部屋が音を作ると、そんな感じでしょうか」
「何が言いたいんだよ」
「……もう少し片付けては?」
「うるっせえな」
駄目だ駄目だ、こんな環境で曲なんて作れるか。一旦リセットしよう。ロリっ子に邪魔されて一時間近くもよく頑張った。えらい。
「……煙草、良くないですよ」
「嫌ならベランダでも出てろって。俺の家だぞ、好きに使って何が悪い」
「壁が汚れると退去時に余計なお金が掛かると聞いたことがあります」
「当分予定無いからええの」
甘ったるいバニラエッセンスの匂いが部屋に充満する。
二十歳を超えた瞬間「ロックンロールと言えば煙草だろ」みたいな雑なノリで吸い始めて以降、部屋の黄ばみと共にすっかり身体へ染み付いてしまった。辞める気も更々無い。
特に煙を気にすることも無くその場に留まるすばるん。両親が喫煙者だったりするのだろうか。
まぁ果てしなくどうでも良いけれど……子どもの前で吸うのは流石にちょっと気が滅入るな。
「普段もこんな感じで過ごしているんですか?」
「え。あぁ、まぁ……予定の無い日は曲作るか練習するかのどっちかだな」
賃貸アパートでギターでも鳴らそうものなら苦情の一つも避けられないところだが、今のところ文句を言われたことは無い。
例の隣に住んでいる大学生が家飲みか何かでいっつもドンチャン騒ぎしているから、大家さんの怒りはそちらへ集中している。都合の良い隠れ蓑だ。
「根本的なところを伺いたいのですが」
「……なに?」
四つ足で背後へ近付き肩へ顎を乗せて来る。
近い、近過ぎる。距離感が恋人だ。いくらロリだからって女の子だろ。もっと警戒しろ。怖い。手を出したくない。
「いくら良い曲を作っても……聴いてくれる方が居ないのでは、意味が無いと思いませんか。ユーマさん」
「クソ正論噛ますやん。ウザ」
「しかし、これは早急に解決すべき問題です。どれだけ素晴らしい音楽も、人の耳に入らなければ雑音でしかないのです」
もっともらしいことを言う。
んなこととっくに分かってるんだよ。
「……だったらプロデューサーさんよ。どうすれば俺の曲はもっと世間に広まるんだ? エエっ? やり方が分かったら誰も苦労しねえだろ」
「少なくともユーマさんは、他の皆さんが当たり前のようにこなしていることさえ出来ていません。今の宣伝方法、マーケティングは最適なものと言えますか?」
「……それは……っ」
勿論、上京して来た頃はよく考えていたさ。ただ曲を作って音源サイトに上げるだけじゃなくて、友達に協力して貰ってミュージックビデオ作ったり。
ツブヤイターでの拡散も勿論忘れない。完成した曲はなるべく早くライブで披露して、ステージングの幅を広げられるよう努めて来た。
でも……やっぱりダメなんだよな。今回のStand By Youみたいに、分かりやすいキッカケが無いと数字は伸びて行かない。
「ユーマさん。どうしてあのゴミ曲……Stand By You、略してスタバがあれだけ再生数を稼げたのか、理由を知りたくないですか?」
ゴミ曲扱いとどこからか訴えられそうな略称は目を瞑るとして。
既に答えは出ているといんばかりに、すばるんは自信満々に口角を吊り上げる。
「なんだよ。分かるってのか?」
「一言で言えば、私の功績です。私がツブヤイターで拡散したことで、多くのフォロワーが反応を示したのです。このように」
渡されたスマホ。すばるんのツブヤイターのプロフィール画面だ。
これといって癖の無い普通の一般人アカウントなのにやたらフォロワー多いんだよな。なんだったら俺より多いし。解せん。
「えっ……5,000リツイート!?」
動画投稿サイトのリンクと共に、このようなコメントが添えられていた。「美しいメロディーと泣ける歌詞。今から聴いておかないと勿体ない」とのこと。
いや、普通にすげえ……今まで新曲出したりライブの告知しても精々リツイート10個とかだったのに、これは恐るべき拡散力だ。
「…………このコメントって」
「すべてはリツイートと再生数のためです。本意ではありません。何度も言いますが私はスタバ嫌いです。吐き気を催します」
「あ、はい……」
意志に逆らってでも俺の知名度を向上させるために呟いてくれたようだ。でもあんまりその略称で嫌いとか言うな。余計な勘違いされるだろ。
「この結果がなにを表しているか、お分かりになりますか? とても単純なことです、ユーマさん」
「……サッパリ分からん。やっぱり世間はこういう甘ったるいラブソングを求めてるって、そういうことか?」
「いえ。曲の出来不出来は関係無いのです。この呟きのミソは……ズルなのです」
「ズル?」
言っていることが良く分からない。
誰も騙したつもりは無いんだけど。
「これは良い曲だ、既に人気がある、聴いていない人は遅れている……最初から固定観念を植え付けることで、大衆のミスリードを誘ったのです」
「な、なるほど……」
「幸い、私がツブヤイターで紹介しているミュージシャンは皆、素晴らしい方たちばかりです。普段から信頼を稼いでいたことも功を奏しました」
既に人気のあるものに群がる。当たり前っちゃ当たり前だが、言われてみれば確かにその通りだよな。
女性は特にそういう傾向があるだろうし。要するに、すばるんの説得力と女性の求めるニーズが上手いこと噛み合って、結果このリツイートと再生数というわけか。
「ユーマさん。貴方に足りないのは……私のような貴方の音楽を必要としている、或いは好んでいる層へ訴えかけるための、アプローチの方法、そして手数なのです」
「は、はぁ……」
「そもそも今どき、暑苦しいブルースロックを好んで聴くような人は絶滅危惧種なのです……売れるわけが無いのです……っ!」
これがこの世の真理だと得意げに人差し指を立てる。いや、暑苦しいって。すばるんでさえそう思ってるのかよ。シンド。
「では早速……具体的なアプローチへと移りましょう。ユーマさん、ツブヤイターを開いてください。そして私の指示通りに呟くのです……っ!」
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