上 下
23 / 28
第1巻 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とバーウの村~

第24話「バーウの村へいざ行かん」

しおりを挟む

**************************************

……。

…………。

 高速飛行で飛んで行く物体は、今回も奇跡的に見つかる事なく、無事に村の外れまでやって来る事に成功した。

 スピード自慢が功を奏し、日が傾き始める前には到着し、まだ太陽は真上から照らしている。

「ふぅぁー!
 やっぱりピーネと空飛ぶの最高だね!
 気持ち良かったー!」
ヴァイオリンのケースにピーネのハープも引っかける事に成功したキヨラ。

 人生二回目のフライトも、気兼ねする事が何もない状態で、空遊観覧を楽しんでいた。

「どこが最高だよ……。」
三度の空中苦行を体感した幸が、白目を向いて吐き捨てた。
 今回も決死のしがみつきで、ギターを落とす事はなかった。

 とにもかくにも、バーウの村に到着した3人。
あとは目的通り、ライブのチケットを町中の人々に渡すだけである。

「どうしよっか……。
 本当は楽器は置いてった方がいいんだろうけど……。
 私が楽奴な事は村の人全員に知られているし、幸は酒場のマスターと喋ったんでしょ?」
キヨラが腕を組みながらどうするのがいいか考える。

「うん……。
 喋ったよ。」
幸は嫌な気持ちを思い出す。

「だよねー。
 あの人と喋ったのなら、村中の人がもう幸の事知ってると思った方がいいよ。
 だったら楽器持ってても、持ってなくても一緒だね。」
キヨラは残念そうに言う。

「楽器が無かったら、受け取ってもらいやすいだろうから……。
 ピーネに、ここで楽器を見てもらって、私達で配るとか出来たんだけどね。
 私は上手く顔を隠したりして。」
村人の不快はおそらく、楽器を見た時点から始まるというキヨラの考察。

「やだ!やだやだ!!
 置いてかれるのやだ!!!
 俺も一緒に行く!
 空から煙突にチケット入れるぞ!」
朝のチケット作りを除け者にされた恨みは深い。
 まぁ自分が寝ていたのだからしょうがないが。

「とっ、とにかく!
 もうこうなったら行くしかない!」
 幸も他人間との接触は恐怖でしかないが、それでも、"成すため"。
楽奴と、ひいては村人を"音が苦"の呪縛から解き放つ為に、頑張ると決めた。

        「「「「行くぞ!!!」」」

 3人は覚悟を決めて、バーウの村まで歩き出した。


…………。


……。


**************************************
 
 決戦の地。
 バーウの村の正門側にたどり着く。
そこには、堀を越えるための橋がかかり村まで続いてる。

前回と違うのは、村の入り口にはミスリルのセットアップの3人の警備兵が立っていることであった。

 入り口はそこしかない為、どうしようもなく、キヨラと幸の2人は橋をバーウの村へ向かい歩きだした。

「おっお前は!!
 昨日のギター野郎!!」
警備兵の1人は、幸達が昨日の騒ぎの渦中の者であると、判断出来る所まで歩いて来た途端、"ドダダダダッ"と走って来た。

 真っ青になり硬直する幸。

                                     “ガシッ”

「お前の演奏凄かったぞ……。
 音楽があんないいもんだなんて知らなかったよ。」
ミスリルセットアップは、幸を歯がいじめにして捕らえたりするのではなく、幸の肩を抱き、笑いながら言った。


「……えっ。
 あっ、ありがとうございます……。」
幸は意外な言葉に戸惑いつつも、自分への好意に素直に感謝する。

「村の奴らには、って言われたんだよ。」
警備兵は絶望的な事を口にしだす。

「でもな。
 お前達ライブしに来たんだろ?
 そのギターで、この村に音楽をくれよ。
 みんなの心を音楽で染めてくれよ。
 俺達はお前達を歓迎する為に待っていたんだよ。」
ミスリルセットアップは熱いセリフを、今熱い事言ったみたいな笑顔で幸に告げる。


「あっありがとう。
 俺達……、頑張るよ……。」
幸は予想だにしない熱い言葉を飲み込み、火傷しないように丁寧に噛み締めたのだった。

 3人にチケットを手渡して、3人に強い勇気をもらった2人は、ズンズンと村の入り口へ入っていった。
 

…………。


……。


**************************************
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

処理中です...