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第1巻 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とバーウの村~
第14話 「混合村へ帰ろう」
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**************************************
◇◇◇
撤退は無事に成功し、幸とピーネは、また最初に飛んできた場所へ戻って来ていた。
今回の町への遠征。
つまりは幸のこの世界の人間との初めての邂逅は、大失敗に終わった。
この世界のこと、自分が何をするべきなのか、なぜこの世界に招かれたのか、何一つとして手掛かりは得られなかった。
それどころか、町民との出会いにより、地獄の中で育ててしまった、弱い自分がまた顔を出す。
現実世界での過酷過ぎるイジメ。
その中で幸は完全に本来の自分を見失い、他人の顔を伺う人間不信になってしまった。
それでも、大鳥達、"birds"とのライブハウスでのライブや、ピーネとの出会いや、魔物達との宴の中で、少しずつ、自分を取り戻しつつあったのに……。
ただ、ひとまずとして、幸は、人間と魔物の関係性については知ることが出来た。
自分はこの世界での初めての出会いが魔物であり、しかも結果的にはいい魔物達で、楽しいひと時を過ごした。
なので、魔物には現状は悪いイメージを持っていない。
しかし、普通の人々にとっては、やはり漫画やラノベの様に、魔物は人間の恐怖の対象であり、排斥するべき対象なのである。
現実世界では全くと言っていいほど、人間関係を形成できなかった幸。
今日の出来事で、さらに自信を無くした。
異世界では仲良く出来た、迷わずの森の魔物達。
あの混合村で、みんなと楽しくギターを奏でながら過ごしていくのが、楽で楽しくて幸せなのではなかろうか。
幸がそう思ってしまうのは、今起こったこと、現実世界での日々を考えると当然なのかも知れない。
◇◇◇
………………。
…………。
……。
「はぁはぁ……。」
と息が切れているのは、幸だった。
これはピーネを止める為に走った時の分であって、ここまで逃げるために走って来たピーネはと言うと、平然としていた。
ピーネは息の一つも切れず、幸の新しい曲の演奏を聴いて、とても生き生きとキラキラしている。
問題の兵隊達は、村から出てくることはなく、なんとか逃げ切れたようだ。
今回のピンチも何とかギター1本で切り抜けた。
暗い面持ちで幸が口を開ける。
「おっ、俺……。
やっ、やっぱりずっと、こっ、混合村で暮らした方が……。」
「幸!!!
さっきの曲好きー!
楽しかった!」
幸の小さな弱音を遮るように、ピーネが幸に抱きついた。
怒りは完全に収まり、紅い羽を絡めてまたコートのような形になっている。
幸は現実世界の曲を弾くので、それがどんなにスタンダードな曲であったとしても、この異世界の魔物にとっては初めてのメロディーを聞くことになる。
スタンダードになると言うことは当然楽曲としての完成度が素晴らしいからだ。
故のピーネの興奮度合い。
そしてそれは、当然魔物だけでなく、人間にとっても……。
「私も好きー!」
幸の顔を胸に沈めるような形で抱きしめる新たな女。
「うっ……。
って、えっ、ちょっと!
誰……!?
あっ、あなたは誰ですか!?!?」
幸はもう既にピーネのスキンシップには慣れていたが、新たな女、しかも人間の女の子のスキンシップには免疫がない。
その女のロングの青い髪は、幸の鼻先をすべり、その発する甘くクラっとする匂いで鼻腔を突き刺す。
その女は路地裏でヴァイオリンを弾いていたあの女性だった。
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◇◇◇
撤退は無事に成功し、幸とピーネは、また最初に飛んできた場所へ戻って来ていた。
今回の町への遠征。
つまりは幸のこの世界の人間との初めての邂逅は、大失敗に終わった。
この世界のこと、自分が何をするべきなのか、なぜこの世界に招かれたのか、何一つとして手掛かりは得られなかった。
それどころか、町民との出会いにより、地獄の中で育ててしまった、弱い自分がまた顔を出す。
現実世界での過酷過ぎるイジメ。
その中で幸は完全に本来の自分を見失い、他人の顔を伺う人間不信になってしまった。
それでも、大鳥達、"birds"とのライブハウスでのライブや、ピーネとの出会いや、魔物達との宴の中で、少しずつ、自分を取り戻しつつあったのに……。
ただ、ひとまずとして、幸は、人間と魔物の関係性については知ることが出来た。
自分はこの世界での初めての出会いが魔物であり、しかも結果的にはいい魔物達で、楽しいひと時を過ごした。
なので、魔物には現状は悪いイメージを持っていない。
しかし、普通の人々にとっては、やはり漫画やラノベの様に、魔物は人間の恐怖の対象であり、排斥するべき対象なのである。
現実世界では全くと言っていいほど、人間関係を形成できなかった幸。
今日の出来事で、さらに自信を無くした。
異世界では仲良く出来た、迷わずの森の魔物達。
あの混合村で、みんなと楽しくギターを奏でながら過ごしていくのが、楽で楽しくて幸せなのではなかろうか。
幸がそう思ってしまうのは、今起こったこと、現実世界での日々を考えると当然なのかも知れない。
◇◇◇
………………。
…………。
……。
「はぁはぁ……。」
と息が切れているのは、幸だった。
これはピーネを止める為に走った時の分であって、ここまで逃げるために走って来たピーネはと言うと、平然としていた。
ピーネは息の一つも切れず、幸の新しい曲の演奏を聴いて、とても生き生きとキラキラしている。
問題の兵隊達は、村から出てくることはなく、なんとか逃げ切れたようだ。
今回のピンチも何とかギター1本で切り抜けた。
暗い面持ちで幸が口を開ける。
「おっ、俺……。
やっ、やっぱりずっと、こっ、混合村で暮らした方が……。」
「幸!!!
さっきの曲好きー!
楽しかった!」
幸の小さな弱音を遮るように、ピーネが幸に抱きついた。
怒りは完全に収まり、紅い羽を絡めてまたコートのような形になっている。
幸は現実世界の曲を弾くので、それがどんなにスタンダードな曲であったとしても、この異世界の魔物にとっては初めてのメロディーを聞くことになる。
スタンダードになると言うことは当然楽曲としての完成度が素晴らしいからだ。
故のピーネの興奮度合い。
そしてそれは、当然魔物だけでなく、人間にとっても……。
「私も好きー!」
幸の顔を胸に沈めるような形で抱きしめる新たな女。
「うっ……。
って、えっ、ちょっと!
誰……!?
あっ、あなたは誰ですか!?!?」
幸はもう既にピーネのスキンシップには慣れていたが、新たな女、しかも人間の女の子のスキンシップには免疫がない。
その女のロングの青い髪は、幸の鼻先をすべり、その発する甘くクラっとする匂いで鼻腔を突き刺す。
その女は路地裏でヴァイオリンを弾いていたあの女性だった。
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