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俺がシノブに負けるはずがないだろ? (アカイ46)

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 これはどういう状況だろうかとアカイは考え、すこし整理してみようと思った。

 俺はシノブの言葉を疑ったことによって彼女は怒り俺を殺しにかかっている、という可能性がある。これはつまり……喧嘩だ。つまり俺とシノブは喧嘩をしている。そうなのか? 女と喧嘩をしたことがないから俺には分からない。

 いままで一方的に不満顔をされたりメールやらで一方的に関係を断ち切られて来た経験しかない。ブロックからの音信不通で縁切ばかり。よって俺は男女の喧嘩がなにか分からない。女と対立するという概念が極めて薄い。

 相手はこちらに高圧的に命令し俺は項垂れるか、あっちが逃げるか遠くから攻撃してくるだけ。だいたい一方的な攻撃を喧嘩といえるのか?

 それはただのいじめや暴力なのでは? と俺は思うも少しニヤついた。待てよ。ちょっと反抗したら喧嘩となってそれは恋人になる条件を満たすのかもしれない。つまり怒りが裏返って愛になる現象。そうだこれが恋人同士の試練。

 俺は今まで相手の一方的な打ち切りに対して大人しすぎたのかもしれない。もう二度と会いたくないという連絡に対して、徹底的に戦ったり機嫌を取ったりなんてできなかった。恨み言を述べ、そして俺の方こそお前のことにはうんざりしていたと精神的勝利を宣言し終わらせてきていた。

 もしかしてそれがいけなかったのでは? しつこくみっともなくしがみついた方が良かったのでは? そうするのが恋人の条件なのでは? しつこい男は嫌われると信じて疑ってこなかったが、しつこくない男が好かれるとは限らないのでは? 俺がその証拠物件でありご確認いただきたい。そもそもしつこくないと女から存在を認識されないかもしれなく、それって好悪の段階にも上ってすらいないよね。

 ということでこのシノブの殺意については俺は……戦うことにする。そうだこれは一方的な絶縁宣言であるが、これに俺は抗う。君は勘違いをしているんだシノブ! と俺は言おう。

「勘違いしているのはあんたの方でしょ?」と返されそうだが、俺はくじけない。俺は弁えているから勘違いなどしていない。世の中のおっさんは十代の若い子と付き合いたいと思っているが、あいつらこそ弁えず勘違いしている。

 俺は、違う。俺だけは違う。

 俺は試練を乗り越えその先にある幸せが約束されているからだ。それはシノブの愛、俺はついに愛されるのだ。これまで一度たりとも女に愛された経験がないが、ついにここで愛されるものとなるのだ。

 この殺意はつまり最後の関門というところだ。殺意は裏返って愛となる……本当に? 毒が裏返って薬になるといえば俺的には納得力があるが、実際これはどうなんだろう? 漫画的価値観からちょっと離れてみよう。

 つまり殺意は殺意で純粋な怒りなのでは?

 自分への疑惑を抱いた存在に対する明白な殺意……そんな気が強いが、まぁそこは勘違いだ。そう俺はシノブの言葉が全て逆だとしても俺はシノブと共に行く。これは確実にそうだ。

 王子のことを愛していても、俺は一向に構わん。すごく嫌だがいまは我慢しよう。所詮アイドルとファンの関係性。憧憬は遠くにあって思うものだ。最終的に勝つのは俺なのだからそこは耐えられる。

 王子は死んでしまっても俺的には良い。いいやむしろ王子を亡きものにして悲しみに暮れるシノブに優しくすればこっちに落ちるかも……なんて卑怯な考えを! とアカイは自分の思考に説教するもすぐに反論する。悪いのは王子だ。

 あいつは全てを手に入れている癖に俺の唯一のものを奪おうとしている。許すことのできない悪党、それがお前がイエス13世! 名前に妙な感じを起こさせるのもさらに不快感を募らせる。

 いいか? 俺はこの世界の全てを肯定するものであるが、俺とシノブを引き離そうとするものは何人なりとも許容することはできない不寛容さマックス男だ。俺の憎しみの炎はそれであり、同時にシノブへの欲望が俺の愛の炎であるんだ。焼き尽くされたくなければ俺達の間に入り込もうとするのはやめるんだな? いいか俺以外の男達!

「アカイ、なにニヤニヤしてるの?怪しい人特有の怪しさが更に増すからやめなさいよ」
 
 カオルにツッコまれ俺は妄想から目覚めるた。いま俺達二人はひたすらに走っているが俺は頑張って前にでようとしている。走っている女の胸を見たい、走り抜く際に、ごくさり気なく、チラリと視線だけ振り向き、その揺れる双丘に眼球に焼き付けたい。

 しかし、それは叶わぬ夢。飛んでいても足の遅い俺はカオルの走りに付いて行くことすら叶わず、背中と尻を見るしかできない。尻か……俺はそれはそれでいいなと思いつつも、やはり胸が見たかった。仕方がない。出会ったあの日のあの衝撃を思い出すといまでも……

「アカイ、いい加減に妄想していないで走って!」
「あっその、はいすみません!」

 もう一度怒られると妄念を捨てながら俺は飛ぶ。しばらくするとカオルが立ち止まり、屈んだ。

「スレイヤー! 起きてしっかりして!」
「カオリ、か。シノブにやられた……」
「でしょうね……」

 二人の会話に俺は付いていけない。えっ? この明らかに強そうなスレイヤーに勝てるの? あのシノブが? 荷物を持つのもやっとで俺に持ってとお願いする美少女が? この最強忍者っぽいのを倒せちゃうの?

「いいね……」

 俺の呟きに二人の視線が向けられる。

「そうかそんなにシノブは強いのか。なら俺しかいないな」

 その強さを受け入れられるのは、この俺だけ。そう最高じゃないか。出会った時の予想通りにシノブはその驚異的な強さを封印されていたのだ。封印されし美少女……心躍る文字列。

 その封印されている間は俺がこの身で護り通し、そしてその封印が解かれた時、この俺が再びその力に封をする。どうして? そういうさだめであったから。それが俺がここにいる理由。俺達が出会った理由。よってシノブは俺と結ばれる……あまりにもあまりにも順当かつ当然かつ論理的な帰結。

「そうだ。変わらずシノブは俺に任せてくれ」

 義兄さんは大人しくしていてくれ、と言いかけたがアカイは黙った。シノブを他所の男に積極的に与えようと画策している男をまだ義兄と認めるわけにはいかない。しかもこいつは年下。目上のものとして話しかけるのは抵抗感がある。まずは義弟が義弟らしい態度をとらないとね。物事には順序があるのだよ順序が、そこを大切にしてこそ男同士の関係だ。

「アカイ……シノブが言っていた。お前を殺す、とな」

「スレイヤーを倒せるってことはもう力が八分ほど戻っているようだね。これは駄目だねアカイ。あんたなんて瞬殺だよ瞬殺。自分が死んだってことに気付かないほどの一撃でやられて生きているのか死んでいるのか分からないまま幽霊となってこの世にさまよう羽目になるから、一人で対処するのはやめときなさい」

「俺がシノブに敗れるとでも?」
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