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谷間の闇の底 (アカイ24)
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いかん! と俺はもっけの幸い棚ぼたな僥倖に意識を溺れかけると同時に危機感も覚えた。俺自身が立ち上がってしまう! 当てたら当て返すという礼儀などこの世には無く、この場合は当たってくれてありがとうだが、こちらが当てたら事件となる。兎角この世は不平等だが俺はそれを受け入れる。だって温くて柔らかいのだもの。
しかも一つでなくて二つ。それに比べたらこっちは一本しかない。元からお返しになろうはずもなし。それにしても二本あったらさぞかし人生面白かろうに。ありがとうこの温もりは一生忘れない、と瞬時に判断した俺は断腸の思いで以って婦人の肩に手を当て少し押し、離した。
おっぱいは去り俺のは立ち上がっていない。OKギリギリセーフだったぜ、とホッとするもの束の間、婦人と目が合ってしまった。涙で潤んだ瞳でこちらを見つめているのは顔立ちが薄目で地味目な婦人。化粧は抑えめで自然であり色白でありそしてどこか薄幸な雰囲気がそこにあった。印象的でない無個性的。見方によっては美人とも言えるが、でもそれほどでもないようにも見えるという、とても微妙なところ。それでいて胸が派手で印象的なのだから凄まじいまでのアンバランスによる威力が生じているだなんて。弱さと強さの両極端さ。
「本当に助かりました。あの男にずっと追いかけられていてもはやここまでと思ったもので……恐かったとはいえ抱き着くだなんてとんだ失礼なことしてしまい申し訳ありません」
「いいえ。失礼なんてそんなことはありません」
心の底からそうである。これが失礼なら毎日俺に対して無礼千万を働いてください、ほらもっと俺に無礼を働いてくれよ! アハハッ毎日が無礼三昧だ。とは言わずにつまらなそうにそんなことには興味ありませんよという態度に俺は努めた。僕には性欲なんてありませんという風に受け止められることを祈りながら。だってほら世の中の漫画の主人公ってそういう感じだしさ。パズーだってヒロインを背負った際に凛々しい顔をしていたじゃないか彼女の胸が背中に当たっているのにそこを意識しあんな表情をするとはなんという男の子だろうかまさに漢だ。あと俯いているがどうかこちらの下半身は見ないようお願いしますとも思いながら。
「大変でしたね。喉が渇いているでしょうし、はい水筒をどうぞ。」
シノブが水筒を差し出すと婦人はありがとうと言いながら顔を横にしながら一口水を飲んだ。婦人の喉が膨らみ水を嚥下している様子を見ると俺は自然と唾を呑んだ。なんと儚げで細い首だろうと。それから息を整えるためか婦人が傍にあった岩に腰を掛け座ると荒々しく動いていたからか着衣に微かな乱れがあり鎖骨が見えた。
俺は見た。水がたまりそうなほどに深みのある鎖骨を。それなのにあのような大きなものを二つも持っているとは。意識がまたそちらに行くと視線が自然と鎖骨から下へと移りそこには深い谷があった。当然意識はそこへと谷底へと向かって落ちていくも奥は暗く底が見えない。長い長い谷間を俺は覗いた。人と谷と書いて『俗』。谷間に落ちる俺、まさにそこが俗であり人の闇である。分かりやすい俗っぽい欲望へ落ちていくと、闇がそこにありそれがこちらも覗いていた。まるで闇がこちらの心を読んだかのように問いかけてきた。聞こえたんだ。
『先っぽを見たくはないか?』
先の闇はまだ深い。だから俺は頷いた。もっと深みに向かわねばならないあの谷間の百合を目指して。
「申し訳ありませんでした。それでは失礼します」
息を吐きながら婦人が立ち上がるとシノブは驚いた。
「えっ一人で行こうとするの? それはいけないわ。しばらく私達と行きましょうよ」
「いえいえそんな迷惑ですよ」
「迷惑だなんてそんな。さっきの悪党がどこかで待ち伏せをしていたら危険じゃない」
「でも次も迷惑をかけたりしましたら申し訳なくて」
「そんなことありませんって、ねぇアカイ……」
シノブが同意を求めようとすると俺は前に出て立ちふさいだ。どこにも行かせはしない、なるものか。冗談ではない。
「これも縁です。一緒に旅をしよう。大丈夫、俺が君のことを護るから」
すると婦人は驚きの顔を向けつつも微笑みながら頭を下げた。乳も地面に向かってお辞儀をするのを俺は見逃さなかった。幽かに見えよう胸元の闇。魅入られしは俺という男。これもまた宿命か。
「ではご厚意に甘えて、すみませんよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
しかも一つでなくて二つ。それに比べたらこっちは一本しかない。元からお返しになろうはずもなし。それにしても二本あったらさぞかし人生面白かろうに。ありがとうこの温もりは一生忘れない、と瞬時に判断した俺は断腸の思いで以って婦人の肩に手を当て少し押し、離した。
おっぱいは去り俺のは立ち上がっていない。OKギリギリセーフだったぜ、とホッとするもの束の間、婦人と目が合ってしまった。涙で潤んだ瞳でこちらを見つめているのは顔立ちが薄目で地味目な婦人。化粧は抑えめで自然であり色白でありそしてどこか薄幸な雰囲気がそこにあった。印象的でない無個性的。見方によっては美人とも言えるが、でもそれほどでもないようにも見えるという、とても微妙なところ。それでいて胸が派手で印象的なのだから凄まじいまでのアンバランスによる威力が生じているだなんて。弱さと強さの両極端さ。
「本当に助かりました。あの男にずっと追いかけられていてもはやここまでと思ったもので……恐かったとはいえ抱き着くだなんてとんだ失礼なことしてしまい申し訳ありません」
「いいえ。失礼なんてそんなことはありません」
心の底からそうである。これが失礼なら毎日俺に対して無礼千万を働いてください、ほらもっと俺に無礼を働いてくれよ! アハハッ毎日が無礼三昧だ。とは言わずにつまらなそうにそんなことには興味ありませんよという態度に俺は努めた。僕には性欲なんてありませんという風に受け止められることを祈りながら。だってほら世の中の漫画の主人公ってそういう感じだしさ。パズーだってヒロインを背負った際に凛々しい顔をしていたじゃないか彼女の胸が背中に当たっているのにそこを意識しあんな表情をするとはなんという男の子だろうかまさに漢だ。あと俯いているがどうかこちらの下半身は見ないようお願いしますとも思いながら。
「大変でしたね。喉が渇いているでしょうし、はい水筒をどうぞ。」
シノブが水筒を差し出すと婦人はありがとうと言いながら顔を横にしながら一口水を飲んだ。婦人の喉が膨らみ水を嚥下している様子を見ると俺は自然と唾を呑んだ。なんと儚げで細い首だろうと。それから息を整えるためか婦人が傍にあった岩に腰を掛け座ると荒々しく動いていたからか着衣に微かな乱れがあり鎖骨が見えた。
俺は見た。水がたまりそうなほどに深みのある鎖骨を。それなのにあのような大きなものを二つも持っているとは。意識がまたそちらに行くと視線が自然と鎖骨から下へと移りそこには深い谷があった。当然意識はそこへと谷底へと向かって落ちていくも奥は暗く底が見えない。長い長い谷間を俺は覗いた。人と谷と書いて『俗』。谷間に落ちる俺、まさにそこが俗であり人の闇である。分かりやすい俗っぽい欲望へ落ちていくと、闇がそこにありそれがこちらも覗いていた。まるで闇がこちらの心を読んだかのように問いかけてきた。聞こえたんだ。
『先っぽを見たくはないか?』
先の闇はまだ深い。だから俺は頷いた。もっと深みに向かわねばならないあの谷間の百合を目指して。
「申し訳ありませんでした。それでは失礼します」
息を吐きながら婦人が立ち上がるとシノブは驚いた。
「えっ一人で行こうとするの? それはいけないわ。しばらく私達と行きましょうよ」
「いえいえそんな迷惑ですよ」
「迷惑だなんてそんな。さっきの悪党がどこかで待ち伏せをしていたら危険じゃない」
「でも次も迷惑をかけたりしましたら申し訳なくて」
「そんなことありませんって、ねぇアカイ……」
シノブが同意を求めようとすると俺は前に出て立ちふさいだ。どこにも行かせはしない、なるものか。冗談ではない。
「これも縁です。一緒に旅をしよう。大丈夫、俺が君のことを護るから」
すると婦人は驚きの顔を向けつつも微笑みながら頭を下げた。乳も地面に向かってお辞儀をするのを俺は見逃さなかった。幽かに見えよう胸元の闇。魅入られしは俺という男。これもまた宿命か。
「ではご厚意に甘えて、すみませんよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
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