【R-18】17歳の落書き

六楓(Clarice)

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藤田先生と千晴

【2】ふたりの翌日。

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「惺、急ぐよ!バス来ちゃうから!」
「だって、まだおくつはけてないもん~」

私は腕時計を確認して、惺の水筒と幼稚園のバッグを持って、惺の頭に帽子をかぶせた。
もうすぐ惺の通う幼稚園バスが、マンション下まで迎えにきてくれる時間だ。

「パパはぁ?パパおしごとおやすみでしょ?」
「もうちょっと寝かせてあげたいの。お迎えには一緒に行くから。ほら、早くっ」

私は、惺の小さな手を引いて、エレベーターまで向かった。

エントランスを出て、道路の手前にある小さなマンションの広場へ歩いてゆく。
秋が深まり、銀杏の黄色い葉が少し落ちている。バスはまだ来ていなかった。

「ふー。よかった……」

こんなギリギリの行動、先生が起きてたら怒られてたことだろう……。
惺の教育に悪すぎるよね……反省です。


「あっ、パパ!」
「え?」

惺が、まぶしげにマンションの上階を見上げ、ぴょんぴょん跳ねて手を振る。
私も同じように、太陽の光を避けながら見上げると、ベランダに出ている先生の姿があった。

「いってきます、パパー!」

先生の表情はよく見えないけど、小さな息子の登園姿を見て手を振っている。
寝かせてあげようと思ってたのに、起きてたんだ。

惺と同じように手を振っているうちに、動物のかわいらしいペイントが施された幼稚園バスがやってきた。

「おはようございまーす!さとるくん、おはようございます」

笑顔の先生が降りてきて、両手を握って惺と挨拶を交わす。
いつもの朝の風景。

「いってらっしゃーい」
「いってきます、ママ!お迎え、ぜったいにパパときてね!」
「了解了解ー」

バスに乗り込む惺に軽く返事をし、バスが見えなくなるまで見送ってから、ベランダを見上げる。
先生はまだベランダにいて、私に気付くと軽く手をあげた。

今日は、紅葉学院の創立記念日で、先生もお休み。
惺が帰るまでだけだけど、日中にふたりきりになるのは久しぶり。

静かにドアを開けて家に入ると、先生はリビングのソファに座っていた。
昨夜、私たちが愛し合った場所で。

「惺が、『バス、帰りはパパと来て』って言ってた」
「ああ。朝も行くつもりだったけど……ベランダから見られてよかったよ」

寝ているものだと思っていたけど、そうではなかったらしい。
私が朝バタバタやってるのを見て、邪魔しないでくれたのだろうと思う。
先生は、そういう人だから。

「今日は天気がいいな」
「そうだねぇ」

先生はローテーブルに置いたコーヒーカップを取り、ぐっと飲み干すと立ち上がった。
そして寝室のシーツを洗濯しようとしている私から、シーツを取り上げる。

「用意したら。やっておくから」
「あ、うん……ありがとう」

どこかに連れていくと決めているようだ。
先生の振る舞いでそう気付く。

「哲さん、どこか行きたいところあるの?」
「いや、行きたいというか……せっかくだしな。水入らずも。昼飯でも食いに行こう」

洗濯機に入ったシーツの上に洗剤が注がれる。
それを見ながら、嬉しくなった。

デートみたい。嬉しい。

私はカジュアルなジーンズを脱いで、ワンピースを着た。
少し肌寒いので、上に薄手のコートを羽織る。
念入りにメイクをして、ソファで待つ先生の前で「かわいいですか?」と聞いてみた。

「……うん」

久しぶりに乙女気分な私に苦笑している。
先生もかっちりとしたファッションに身を包んでいて、とても素敵。

惺が生まれるまでは、先生に対してずっと敬語だった。
二人きりになると、その時を思い出す。




二人で家を出た。車に乗り込み走らせる。

今日は後部座席のチャイルドシートには誰も乗っていない。
それが少し落ち着かない。

「ふたりだけで乗るのなんて、ほんとに久しぶり……」

小さくつぶやく私の隣で、先生がふっと柔らかい微笑みを見せた。

「化粧品はあるのか?何か買い物するか」

そう言ってくれるけど、紅葉の並木道や、ゆったりとしたこの時間を先生と満喫したい、かも。
惺が生まれてからずっと走り続けてきた気がするから。

「このままドライブしたいなぁ。それでもいい?」
「いいけど、そんなことでいいのか?」

そうして、あてのないドライブが始まった。
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