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1巻

1-2

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「湊さんのことが嫌ってわけじゃなくて……こんな……今澤さんがだめだったからすぐ乗り換えるみたいな状態が……んっ」

 わずかな理性で最後の抵抗を試みるが、唇の隙間から湊さんの唇が押し入ってきて、言葉にならない。

「……すぐに無理して忘れなくていい。利用してくれて構わない。俺を選んでくれたら、後悔はさせないから――」

 失恋の傷も、友人の心ない行為も、湊さんの何もかも包んでくれるような温かさがいやしてくれるみたいだ。この人といたら、今澤さんのことを忘れられるかもしれない。

「三谷……返事は?」

 優しい声に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。困惑や不甲斐なさで心の中がごちゃ混ぜになりながらも、湊さんの想いに胸打たれている自分が確かにいる。
 目の前にいるこの人を受け入れたい、と思った。

「私でよければ、よろしくお願いします……」

 なんて、簡単な女だ。
 自分でもそう思うけれど、湊さんのこの迫力と妖艶さには、つい服従してしまう。

「……もう、れる」

 硬く反り返った熱杭が、クリトリスとひだを滑った。とろとろの透明な蜜をまとって、険しい表情をした湊さんの体重が乗ってくる。私は目をつぶってこくこくと頷いた。
 奥のほうまで入ってきた湊さんで、私の中が目いっぱい広げられる。

「……あっ、あぁ……っ、ん」

 苦しい。だけど気持ちよくて、なぜか涙が出そうなくらい胸がいっぱいで。
 湊さんは、心配そうな瞳で私を見下ろしながら、緩やかに動く。私の反応をじっくりと確かめ、いつくしむようなキスを唇に、体中に、何度も何度も落としてくれる。

「み……みなと……さ」

 あまりにも甘く、深い快感から逃れるように名前を呼ぶと、彼はぽつりと呟いた。

「…………夢みたいだ」

 本当に幸せそうに言うから、目頭が熱くなって、湊さんの首に手を回してしがみ付いた。
 深く深く繋がり、湊さんの怒張に奥をぐりぐりと刺激される。
 たまらなくなったその瞬間、湊さんの動きが速まった。

「ひっ、ん、みなと、さんっ」
「悪い、もう、限界」
「私もっ……もう……っ」

 絶頂に向かうように激しく揺らされる。愛液が飛び散り、淫らな水音が鳴り響いた。

「くっ……」

 湊さんが眉根を寄せ、精を吐き出すと、私の奥が更に絞り出させるようにきつく収縮し、ひくひくと痙攣けいれんした。
 こんな私でもいいのかな。
 本当に、今澤さんのこと、忘れられるかな。

「湊さん。こんな中途半端な私でも……いいんですか」

 二度目の絶頂を迎えたあと湊さんに尋ねてみると、「そのままのお前でいいよ」と頬にキスをされた。
 失恋から一転。鬼上司が私の彼氏になった。


 そして、月曜日――
 私のデスクに、先ほど必死で作った資料が飛んできた。彼氏になったはずのイケメン鬼上司が、まさに鬼のような顔をしてすごんでくる。

「要領りーんだよ! 今まで何聞いてたんだ! やり直せ!」

 やはり、鬼が降臨していました――
 鬼度三割増し。

「はい……やり直します……」

 結局、土曜も日曜も湊さんちにお泊まりした。彼氏になった湊さんは本当に優しくて、甘くて……。ここはカフェか何かかと勘違いしそうなほどのステキな朝食を作ってくれたり、私が泊まりに来る日のためにと言って買い出しに行って、いろいろと買ってくれたり。どこへ行くにも手を繋ぎ、家にいる時はずっとくっついて、目が合うとキスを交わし、そうするとまたいちゃいちゃが始まる。
 エンドレス溺愛で、身も心もとろけさせられた週末だった。だからといって仕事でもこのぐらい優しくしてほしいなどとは思っていないが……二日間甘々あまあまで過ごした上でのこのギャップは恐ろしい。
 元々、このぐらい怒ってたっけな。
 つまり、こっちが本物の湊さん?
 はああ……
 溜息をついてパソコンに向かっていると、今澤さんがコーヒーを置いてくれた。

「あ、ありがとうございます」

 ちょうど飲み物を買いに行こうと思ってたところだったので、ありがたくいただく。

「お金払います」
「いいよ。僕からの差し入れだから」
「そんな……」

 今澤さんは百七十センチちょっとの身長で、くせのないすっきりとした顔だち。髪は少し柔らかくて茶色がかっていて、瞳も色素が薄い感じだ。最初はハーフなのかと思っていた。

「そのデータ、僕も見させてもらったよ。よくできてると思うけど、湊さんは完璧主義だからね……」
「いえ……これも修行ですから」

 そう答えると、今澤さんは優しげに目を細めて、

「できることがあれば手伝うから、遠慮なく言ってね」

 と言い、自分の業務に手をつけ始めた。
 このさりげない優しさが、本当に好きだった。
 熱いコーヒーをふうふう冷ましながら飲んでいると、今澤さんが遠くを見ていることに気がついた。その視線を追ったら、……沙梨が、他部署の男性と話している。
 再びちらりと今澤さんの横顔を見ると、悲しそうな、複雑そうな顔をしていて。
 今澤さんは、本当に沙梨に夢中なんだなぁと痛感した。私の入る隙なんてきっと最初からなかったのだ。
 そんなことを思いながらコーヒーをデスクに置き、首を大きく回して仕事に取りかかった。


「三谷、まだいたのか」

 会議で抜けていた湊さんがデスクに帰ってきた。もう午後九時前だ。働き方改革により、役員の事前許可がない限り九時には退勤しないといけない。
 気がつけば、他のメンバーはほぼ退勤しているようだった。今澤さんも、デスクにバッグは置いてあるけれど姿は見えない。どこかで打ち合わせかな。

「はい、あとちょっとで終わります」
「早くしろ。無許可での残業は禁止だ」
「…………」

 本当に、昨日とは別人みたい……
 私の隣――今澤さんの椅子にふてぶてしく座る湊さんをじっと見ると、「あ?」とすごまれた。恐ろしい。

「……休みの日と全然違いますね」
「そりゃそうだろ。こんなところでケツでも触れっつーのかよ」
「ケツ! セクハラ!」
「お前、声でけえ」

 口が悪すぎるし意地悪な笑い方だけど、笑った! 会社で!

「湊さん、やっと笑った」

 そう言うと、湊さんは少しむっとしたような顔をしつつ、デスクの下で私の手を握った。
 オフィスには他に誰もいないのだけど、誰かに見つかったら――今澤さんが戻ってきたら、とひやひやした。
 でも、湊さんの手はすごく温かくて、ほっとして、同時にドキドキする。

「今日もうちに来い。俺はもう少し残るから。勝手に入っといて」

 湊さんはスーツのポケットからキーを出し、私の膝の上に置いた。チャリ、と音がするのと同時に、オフィスのドアが開く。

「あ、湊さん、戻られてたんですね」

 今澤さんが慌ただしげに湊さんに近寄り、今進めている案件の話を始めた。
 湊さんの淡白な返答にもめげずに、今澤さんは一生懸命進捗しんちょくを伝えている。
 私は、湊さんの家のキーをそっとポケットに入れ、白熱する二人を横目に、先にオフィスを出た。
 湊さんの家は、ここから歩いていける距離にある。タクシーを使うか、どうするか……
 晩ごはんはどうしよう……

「――あ、結衣!」

 考えながらビルの前のロータリーを歩いていたら、沙梨が手を振ってきた。

「あれっ、沙梨遅いね! 残業だったの?」

 沙梨は人事部人材育成課にいる。残業の多い営業部と違って、今の時期は基本的に定時で上がれるはず……。あ、今澤さんと待ち合わせか。

「今澤さんは、まだ湊さんと話してるよ」
「あっ、そうなんだ? 湊マネージャーってかっこいいよねぇ」

 かっこいい……?
 甘い声を出す沙梨に、「お、おう」と答える。
 アンタには今澤さんがいるでしょっ、と言えない、へタレの私。
 それに、それに、湊さんは今、私の彼氏、なんだから――
 この間まで、今澤さんのことが好きだったのに……湊さんに対して独占欲が芽生えている自分に驚く。

「湊マネージャー、人事部でも人気あるよ~。結衣の代わりにアシスタントになりたいって言ってる子、結構いるもん」
「へ~……。毎日罵声を浴びたいのかな……」
「あの厳しさがいいんじゃない」
「へえ……」

 ノリについていけなくなってきたところで、沙梨が私の背後を見た。
 振り返ると、遠くからでもわかるスタイルの良さとイケメン臭。
 私の鬼上司が険しい表情で立っていた。

「湊マネージャー! お疲れさまですッ」
「ああ。お疲れさま」

 湊さんは普段どおりの淡白な対応だが、沙梨の目はハートになっている。

「三谷はまだ帰ってなかったのか」
「はい……」

 苦笑いしながらちらりと湊さんを見ると、彼はビルのエントランスを振り返って言った。

「今澤なら、もう出てくると思うよ。お疲れさま。三谷、帰るぞ」

 湊さんが私の背中をぽんと叩き、「行くぞ」と言う。

「……あ、はいっ。沙梨、ばいばいっ」
「え……あ、うん、お疲れ!」

 沙梨を残し、先を行く湊さんを走るようにして追いかける。湊さんは足が長いし、歩くの速いし、全然立ち止まってくれないから息が切れてくる。

「み、湊さんっ……」

 曲がり角を曲がったら、ようやく立ち止まってくれた。
 はあはあと呼吸を荒くする私を、息をのむほど怖い顔をした湊さんが見下ろしてくる。

「え、なんですか……」

 怒られる? と身構えたら、大きな手でぎゅっと抱きしめてくれた。

「ど、どうしたんですか?」
「……いや。別に……」

 あんなに怖い顔で優しく抱きしめるなんて反則っ…!
 ドキドキを隠しながら、湊さんの胸の中でまったく関係のない質問を繰り出す。

「ご飯はどうしますか?」

 私がカレーしか作れないことを、湊さんはご存じである。私が料理が苦手だという話は、営業部での鉄板のイジられネタだった。

「……お前は何食いたいんだ」
「焼き鳥……かな?」

 湊さんは苦笑し、「じゃあ、行くか」と指と指を絡ませるようにして手を繋ぐ。不覚にもドキッとした。
 こんな繋ぎ方をこの人とするなんて、少し前は考えられなかった。

「それにしても、焼き鳥好きだな。色気も何もねえ店なのに」
「それがいいんですよー。あったかくて」

 自然体でいさせてくれるあのお店は、湊さんに教えてもらった。
 私がたくさんお酒を呑める体質ならもっと楽しいんだろうけれど。
 のれんをくぐって、カウンターに座って注文をし、レモンサワーとビールで乾杯する。前回来た時は、まさか付き合うことになるなんて思ってもいなかったのに。不思議な巡り合わせに感謝していたその時――

「結衣ー!」

 背後から聞き慣れた甘いソプラノボイスが響き、次いでポンと肩が叩かれた。

「……さ、沙梨」

 いつものとおり、完璧に可愛らしく微笑む沙梨と……そして、その後ろには今澤さん――

「お二人の姿が見えたので、ご一緒したいなと思って」

 沙梨は、小首を傾げ、私と湊さんを見てにっこり。
 今までこの手の提案を断られたことがないのだろう。沙梨は返事を待たず、湊さんの横の椅子にちょこんとバッグを置いた。逆に、今澤さんが「お邪魔じゃないかな」と気を遣っている。
 私は複雑な思いを抱きながらちらりと湊さんの顔を見たが、ポーカーフェイスでどう感じているのかわからない。

「……四人ならテーブル席でいいんじゃねぇの。あっち空いてるし」
「わー! うれしーい! じゃあ、結衣、隣に座ろ?」
「う、うん」

 急展開に戸惑いながら、店員さんに声をかけて、年季の入ったテーブル席に移動させてもらった。
 壁際の席で、奥に湊さんと今澤さんが座り、湊さんの向かいに沙梨が、今澤さんの向かいに私が座る形になった。
 沙梨はしきりに湊さんに話しかけている。そんなに実のある内容ではないが、話がまったく途切れない。今澤さんと私は所在なげになんとなく笑い合った。
 ほら、沙梨。湊さんにばっかり話しかけてるから、今澤さん困ってるよー!

「お待ちどおさまー」

 届いた串を手に取ってかぶりつく。焼きたての香ばしさと脂の乗った香りが鼻腔をくすぐる。やっぱりここの焼き鳥は最高。具材が大きめなのもいいところだ。お腹も空いていたのでどんどん食べ進めていたら、沙梨が箸を使って串から肉を外し始めた。

「お前、それ取ったらありがたみねえだろ。そのまま食えよ」

 湊さんが苦笑しながら沙梨に言う。

「えーっ。だって、喉の奥突きそうなんですもん。食べづらいし危ないかなって」
「三谷見てみろよ。このぐらい豪快に行けよ」

 湊さんが私を指したせいで、大口を開けて串の横からワイルドに食らいついている私にみんなが一斉に注目する。
 今澤さんも私を見てる……

「ちょっと、湊さん! そんなこと褒められても嬉しくないですよ!」

 反論すると、今澤さんと沙梨が笑った。

「ところで、湊マネージャーって、結衣とよく飲みに行くんですか?」

 沙梨が湊さんにきらきらした瞳を向けて尋ねる。

「ま、直属だし、たまにはな」

 あ……湊さん、隠した。もしかして、私が今澤さんのこと好きだって言ってたから、すぐに湊さんと付き合うの、外聞が悪いと思ってくれたのかな。
 いかにも湊さんらしい気遣いに心の中で感謝しながら、レモンサワーのグラスに口をつける。

「それより、お前ら二人はどうなんだ。あんまり目立つようなことはやめてくれよ。周りが気を遣うんだからな」

 湊さんの言葉に、今澤さんが小さくなる。自身の恋愛事情は隠しておいて、沙梨たちには釘を刺すあたり、なかなかの図太さだと思う。
 その後は、それぞれの業務や共通の同僚の話題など、当たり障りのない会話をしてお開きとなった。
 気がつくと、沙梨の足元が怪しいことになっている。
 すっかり酔っ払って、この前の私と変わらないんじゃ……

「――大丈夫? 沙梨」
「ちょっとハイペースだったからね」

 今澤さんが沙梨の腰を支えて、タクシーを拾おうとしている。
 その触れ方を見て、二人は深い仲なのだということを痛感した。

「じゃあ、今澤。秋本をよろしくな」

 湊さんはあっさりしたもので、今澤さんに沙梨を託すと、「三谷」と私を呼ぶ。
 今澤さん、一人で送るのは大変だと思うけど、いいのかな……
 少し気になったけれど、湊さんの目が怒っているような気がしたので、迷いを振り切る。

「今澤さん、また明日!」

 二人にぺこりと礼をして、湊さんのもとへ走った。

「とんだ邪魔が入ったな」

 湊さんが小声で言いながら舌打ちをした。悪い顔にすっかり豹変……。そんな横顔を見て、思わず笑う。

「……何見てんだよ」

 湊さんは、悪い顔のまま私を睨む。精悍せいかんで端整な顔ですごまれると、やはり迫力があって、う……と一歩下がった。

「見てませんよ……」

 思いっきり見ていたくせに、嘘をつく私。
 沙梨の世話を焼く今澤さんの姿には、やっぱり二人は付き合っているんだなと実感させられたけど……そのことよりも、湊さんまで沙梨の可愛らしさに惹かれてたら寂しいな、なんて感情が湧いてくる。

「元気ねえな。疲れたか?」

 ぐしゃりと頭を撫でられ、道端で抱き寄せられた。もうすぐ日付が変わりそうな時刻。あたりに人の姿はないけれど、こんなところでいちゃいちゃするのは気が引ける。

「こっち向けよ」
「そういえば湊さん……私のこと、食いしん坊扱いしてましたよね」
「ちまちま食う女よりいいだろ」

 そ、そう? 笑いものにされた気がしていたのだけれど。あれはいい意味だった?

「それより、お前も今澤と見つめ合って笑ってただろ」
「それは――」

 言い訳をしようとしたのに、湊さんの熱い口づけが答えさせてくれなかった。

「ん……んふっ……み、湊さん……」

 息ができない。
 奥へ、奥へと湊さんが進み、口内が湊さんで満たされて、立っていられない。湊さんは私の腰を引き寄せて、ねっとりと味わうようにキスしていて。
 湊さんに嫉妬されているのが嬉しくて、何もかも捧げたくなる。

「――お前な。俺以外の男に、可愛い顔見せるんじゃねえよ」
「……えっ……」
「今日は寝かさねえからな。かせやがって」

 耳元で言ったかと思うと、突然腕をぱっと離し、湊さんは歩き出す。

「……ま、待ってくださいっ」

 ぱたぱたと追いかけると、湊さんは怒った顔をしつつも私の指に長く美しい指を絡ませた。
 湊さん……
 私……今澤さんのこと、本当に忘れられるかもしれない。
 湊さんのマンションに着くと、何度か愛し合ったベッドに連れていかれてかれるように服を脱がされた。
 湊さんのジャケットが雑に置かれるのを、ベッドに横たわりながら見る。

「やっぱり今澤が気になる?」

 しゅるしゅると外したネクタイをジャケットの上に放り、ベッドをきしませて湊さんが私の上におおいかぶさる。

「……気になるというか……もう、沙梨の彼氏、ですし」
「気になってんじゃねえか。あー、イラつく……」
「あッ」

 ブラジャーを両手でぐいと上げると、湊さんは現れた小さな果実にすぐに口をつける。そして舌でれろりと転がし、私の表情を確かめた。

「こんなこと、今澤にさせんなよ」
「させませんよっ、ていうか、そんな仲になりませんっ」
「……そうかな」
「え? ――あッ」

 湊さんの手が、私の下腹部を包む薄いブルーの布の中に忍び込み、くすぐるように動く。

「あっ、やっ、くすぐったいですっ……」

 お尻を振って逃れようとしたら、勢いよく下着を引き下ろされた。そして、片足を強い力で高く高く上げさせられる。湊さんの眼前にさらされた女の部分を急いで片手で隠す。私が慌てている様子を見て、湊さんは意地悪く口角を上げた。

「こういうの好きだろ。大人しく任せろ。優しくしてやるから」

 ああ……
 見事なツンデレだなあ。
 今日は会社であんなに怒ってたのに。
 湊さんの指で左右に秘密が開かれる。蜜があふれた花びらに彼の吐息がかかると、目いっぱい広げられている状況を嫌でも自覚してしまう。暴かれた花蕾を見つめる湊さんに、たまらず懇願した。

「やっ……、そんなところ、じっと見ないでください……」
「ああ。見られるだけじゃ物足りないよな?」
「ちがいます……っ、そんな意味じゃなくて、あっ」

 震える肉芽にキスされ、体中に電気が走ったような衝撃を感じてのけ反った。

「あぁんっ、あぁ」

 優しく、濃厚に舐められて。
 この先、湊さんなしじゃいられないんじゃないかと思うぐらい、その舌は優しく愛撫を施してくる。小粒なしこりがねっとりと舌で包まれ、時にはれろれろとさすられ、その刺激で私の膝が痙攣けいれんする。快感に体をよじっても、膝ががくがく震えても、湊さんは放そうとせず、陰核にじっくりと濃厚なキスを続ける。
 体の奥のほうに悦楽の熱が溜まる。あられもない声を上げて、髪を振り乱したいのに、快楽が強すぎてただ耐えることしかできない。気がつけば透明な愛液が太ももを伝って、シーツまで濡らしていた。

「き、キモチいいですッ、湊さん……」
「……そうか。俺も興奮してる」

 ようやく足を放してくれた。そして湊さんはすべてを脱ぎ捨て、そそり立った自身の熱杭を上下に扱き始めた。自分の屹立を扱く姿に驚いたが、あまりにもつやっぽくて見惚れてしまう。
 こんな極上の男の、こんな姿――

「止まらねえな。結衣のここは……。どんどん垂れてくる」

 湊さんは熱杭を握りながら私のひだに手を伸ばした。先ほどの愛撫により蜜があふれているのは一目瞭然いちもくりょうぜんだ。湊さんの中指がするりと肉襞をき分けて入ってくる。
 少しき回されただけでちゅぷりと卑猥な音がして、恥ずかしくてたまらなかった。

「すごいな……どうなってんの。そんなにいじられるの気持ちいいのか?」
「ん、んーっ!」

 軽くき回され、花蕾を指先で弾かれる。ビクンと体が跳ねてさらにシーツを濡らした。
 いよいよ湊さんは上体を起こし、ヘッドボードから出した小さなパックを開け、自分の男に極薄のへだたりをあてがった。


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