88 / 128
第13章、東野編
【2】高校卒業、東野涼太
しおりを挟む
思わず笑顔で三浦と電話する俺を、漫画を一冊読了した浅野が、透き通るような瞳で俺を見ていた。
「……な、何?」
浅野に言ったのだが、ミウが『え?』と聞き返して来る。
「あ、こっちのこと――何でもないよ」
浅野はあくびをしてまたベッドに横になり、違う漫画を手に取る。
ミウに、「浅野が家にいるんだよ。なんか知らねえけど来るんだよ」っつってもなぁ……。
それより。
サッカー部で集まるのも楽しみだが、せっかくそっちに行くなら、白川にも会いたい。
ミウは千晴にフラれた後もアタックし続け、今普通に友達にはなっているはず。
恥ずかしながら、白川に直接連絡を取る勇気がない……。
そうなると、千晴、もしくはミウからの千晴に頼むしかない。
浅野には何も言わずに、ミウと白川たちと4人で会うか?
などと、セコい考えが次々と浮かぶ。
セコい。器が小さい。自分でもその自覚はあるから許してくれ。
でも、あれだけ好きだったんだ。
誰にも邪魔されずに、もう一度会いたい。
そう願うぐらいいいじゃないか。
白川に会いたい。
会って、玉砕覚悟で告白したい。
ずっと好きだったと伝えたい。
困らせてしまうかもしれないけど、言わずに悶々とするよりは……。
夜な夜な白川を想い浮かべたあの日々。
白川のあの姿を想像して、自分のものにして自己処理に励む日々(若さゆえ)。
浅野と付き合いだしたと聞いた時は、心が粉々になった。
……大嫌いだった浅野遥。
こういう、何でも自分の思い通りになると思っていそうな奴が一番嫌いだった。
話は高校1年生の頃に戻る。
クラスの奴ら何人かが女の話で騒いでいた。「誰の話?」と聞くと、俺を含め発情期の面々は目を輝かせて楽しげに話し出す。
「白川だよー。あの乳揉んでみてえな」
「愛想いいしな~」
「毎日あいつでオナれるわ」
「みんなのオナペットだな」
白川は大人しいがいい子だと思う。
よく見ると可愛らしく、俺は嫌なイメージを抱いたことがなく、むしろ好感を抱いていた。
そんな白川が、不特定多数にクソみたいな妄想をされているのが耐えられなかった。
自分はさておき。
「やめろよ」
つい正義感を出して、刹那的に盛り上がっているだけの話を止めてしまった。
「何だよ、涼太狙ってんの?」
「ああ。狙ってる。だからその話やめてくれる」
そう言い捨て、鞄とadidasのバッグを取り部活に行こうとしたら、同じく教室を出ようとしていた浅野と偶然ぶつかった。
「ってーな…」
俺に睨みをきかせ、俺の前を歩く浅野。
「お前がぼーっとしてるからだろ」
いつもなら言い返さないのに口をついて出た。
その時はむしゃくしゃして仕方なかった。
浅野は、180ほどある俺と目線が変わらない。睨まれると凍りつきそうなほど鋭い視線だが、俺には何も言わずにふいっと教室を出て行った。
………が、行き先が一緒なのか、ずっと俺の前を歩いている。
ずっと後ろを歩くのも癪だ。
追い抜かそうとした時、廊下の突き当たりの窓で佇む白川が振り向いた。
「あっ。東野君!浅野君も、バイバイ」
白川は、浅野にも俺と同じように、目を細めて手を振った。
浅野はうんともすんとも答えず、俺は背後にいるため表情は見えないまま、角を曲がって階段を降りていった。
でも白川はそんな浅野に、俺と同じ笑顔だった。
浅野が降りていった後、俺は白川の前にバッグを置いた。
「今日もサッカー部見て帰るの?」
「うん。がんばってね」
「がんばるよ」
たびたびサッカー部を眺めて帰る白川。
いつしか彼女に惹かれていた俺は、いいとこ見せるために部活も張り切っていて……。
俺とはよく話すし、俺のこと好きなのかなと思っていたけど……そうでもないの?
「東野君?」
「あ、じゃあ。またね。部活行ってくる」
「うん」
恥じらい気味に笑顔を見せる白川。
俺のことを好きなんじゃないの?
目が合うと必ず微笑んでくれる。
俺はいつ白川に告白しようか、そればかりを考えていた。
急がないと盗られてしまう気がしていた。
――そう。嫌な予感はしていた。
ある朝、白川と浅野が二人で登校してきたのを、俺は目の当たりにしてしまった。
俺はいつもと変わらず白川に手を振ったが、顔を引きつっていたかもしれない。よりによってそいつなのかと。
浅野は俺に気付くとすぐに離れて行った。
「おはよ、…浅野と一緒に来たの?」
「うん」
笑顔で答える白川に、俺は少し苛立った。
あいつだけは嫌だ、あんな、人をバカにした奴。
俺は部活も勉強も精一杯食らいついていっているのに、あいつはロクに授業も受けていないのに、村上は面倒事に関わりたくないのか、浅野には何も注意しない。
その上、成績だけはいい。ありえないだろ。漫画かよ。
白川の事も成績の事も、それが醜い嫉みだとは気付かないまま、ただただ浅野が憎らしかった。
なのに……
転校する前に、あの浅野が、俺に電話で懇願してきた。
白川の連絡先を教えてほしい、と。
プライドも金繰り捨てたような浅野に、同情したのがまずかった。
俺の恋はあっさりと破れた。しかもオウンゴール。
「おーい、涼ちん、帰るわ」
「あ、……お、おう」
浅野の前で思いっきり回想に耽っていた俺は、慌てて立ち上がる。
「え?送ってくれんの?いつも『じゃあな』で終わりなのに」
「麦茶取りに行くだけだよ」
二人で階段を降り、浅野は俺の母親に「お邪魔しました」と挨拶をする。意外と礼儀正しい奴だ。
こいつも……白川に未練があるんだかないんだか知らねえが、今度こそ俺が。
悪いが、抜け駆けさせてもらう。
「じゃあな~。また来週来るよ。ジャンプ読みに」
「ああ……」
俺の生返事に、浅野はメットを被りながら、曇りのない瞳を向けて言った。
「別に、俺に遠慮しないでいいから。会いたかったら会えば」
「――えっ?」
「碧だよ。じゃあな。また来週」
フルフェイスのヘルメットでは表情はわからないが、バイクは走り出し、俺はその場に立ち尽くしていた。
「……な、何?」
浅野に言ったのだが、ミウが『え?』と聞き返して来る。
「あ、こっちのこと――何でもないよ」
浅野はあくびをしてまたベッドに横になり、違う漫画を手に取る。
ミウに、「浅野が家にいるんだよ。なんか知らねえけど来るんだよ」っつってもなぁ……。
それより。
サッカー部で集まるのも楽しみだが、せっかくそっちに行くなら、白川にも会いたい。
ミウは千晴にフラれた後もアタックし続け、今普通に友達にはなっているはず。
恥ずかしながら、白川に直接連絡を取る勇気がない……。
そうなると、千晴、もしくはミウからの千晴に頼むしかない。
浅野には何も言わずに、ミウと白川たちと4人で会うか?
などと、セコい考えが次々と浮かぶ。
セコい。器が小さい。自分でもその自覚はあるから許してくれ。
でも、あれだけ好きだったんだ。
誰にも邪魔されずに、もう一度会いたい。
そう願うぐらいいいじゃないか。
白川に会いたい。
会って、玉砕覚悟で告白したい。
ずっと好きだったと伝えたい。
困らせてしまうかもしれないけど、言わずに悶々とするよりは……。
夜な夜な白川を想い浮かべたあの日々。
白川のあの姿を想像して、自分のものにして自己処理に励む日々(若さゆえ)。
浅野と付き合いだしたと聞いた時は、心が粉々になった。
……大嫌いだった浅野遥。
こういう、何でも自分の思い通りになると思っていそうな奴が一番嫌いだった。
話は高校1年生の頃に戻る。
クラスの奴ら何人かが女の話で騒いでいた。「誰の話?」と聞くと、俺を含め発情期の面々は目を輝かせて楽しげに話し出す。
「白川だよー。あの乳揉んでみてえな」
「愛想いいしな~」
「毎日あいつでオナれるわ」
「みんなのオナペットだな」
白川は大人しいがいい子だと思う。
よく見ると可愛らしく、俺は嫌なイメージを抱いたことがなく、むしろ好感を抱いていた。
そんな白川が、不特定多数にクソみたいな妄想をされているのが耐えられなかった。
自分はさておき。
「やめろよ」
つい正義感を出して、刹那的に盛り上がっているだけの話を止めてしまった。
「何だよ、涼太狙ってんの?」
「ああ。狙ってる。だからその話やめてくれる」
そう言い捨て、鞄とadidasのバッグを取り部活に行こうとしたら、同じく教室を出ようとしていた浅野と偶然ぶつかった。
「ってーな…」
俺に睨みをきかせ、俺の前を歩く浅野。
「お前がぼーっとしてるからだろ」
いつもなら言い返さないのに口をついて出た。
その時はむしゃくしゃして仕方なかった。
浅野は、180ほどある俺と目線が変わらない。睨まれると凍りつきそうなほど鋭い視線だが、俺には何も言わずにふいっと教室を出て行った。
………が、行き先が一緒なのか、ずっと俺の前を歩いている。
ずっと後ろを歩くのも癪だ。
追い抜かそうとした時、廊下の突き当たりの窓で佇む白川が振り向いた。
「あっ。東野君!浅野君も、バイバイ」
白川は、浅野にも俺と同じように、目を細めて手を振った。
浅野はうんともすんとも答えず、俺は背後にいるため表情は見えないまま、角を曲がって階段を降りていった。
でも白川はそんな浅野に、俺と同じ笑顔だった。
浅野が降りていった後、俺は白川の前にバッグを置いた。
「今日もサッカー部見て帰るの?」
「うん。がんばってね」
「がんばるよ」
たびたびサッカー部を眺めて帰る白川。
いつしか彼女に惹かれていた俺は、いいとこ見せるために部活も張り切っていて……。
俺とはよく話すし、俺のこと好きなのかなと思っていたけど……そうでもないの?
「東野君?」
「あ、じゃあ。またね。部活行ってくる」
「うん」
恥じらい気味に笑顔を見せる白川。
俺のことを好きなんじゃないの?
目が合うと必ず微笑んでくれる。
俺はいつ白川に告白しようか、そればかりを考えていた。
急がないと盗られてしまう気がしていた。
――そう。嫌な予感はしていた。
ある朝、白川と浅野が二人で登校してきたのを、俺は目の当たりにしてしまった。
俺はいつもと変わらず白川に手を振ったが、顔を引きつっていたかもしれない。よりによってそいつなのかと。
浅野は俺に気付くとすぐに離れて行った。
「おはよ、…浅野と一緒に来たの?」
「うん」
笑顔で答える白川に、俺は少し苛立った。
あいつだけは嫌だ、あんな、人をバカにした奴。
俺は部活も勉強も精一杯食らいついていっているのに、あいつはロクに授業も受けていないのに、村上は面倒事に関わりたくないのか、浅野には何も注意しない。
その上、成績だけはいい。ありえないだろ。漫画かよ。
白川の事も成績の事も、それが醜い嫉みだとは気付かないまま、ただただ浅野が憎らしかった。
なのに……
転校する前に、あの浅野が、俺に電話で懇願してきた。
白川の連絡先を教えてほしい、と。
プライドも金繰り捨てたような浅野に、同情したのがまずかった。
俺の恋はあっさりと破れた。しかもオウンゴール。
「おーい、涼ちん、帰るわ」
「あ、……お、おう」
浅野の前で思いっきり回想に耽っていた俺は、慌てて立ち上がる。
「え?送ってくれんの?いつも『じゃあな』で終わりなのに」
「麦茶取りに行くだけだよ」
二人で階段を降り、浅野は俺の母親に「お邪魔しました」と挨拶をする。意外と礼儀正しい奴だ。
こいつも……白川に未練があるんだかないんだか知らねえが、今度こそ俺が。
悪いが、抜け駆けさせてもらう。
「じゃあな~。また来週来るよ。ジャンプ読みに」
「ああ……」
俺の生返事に、浅野はメットを被りながら、曇りのない瞳を向けて言った。
「別に、俺に遠慮しないでいいから。会いたかったら会えば」
「――えっ?」
「碧だよ。じゃあな。また来週」
フルフェイスのヘルメットでは表情はわからないが、バイクは走り出し、俺はその場に立ち尽くしていた。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる