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第13章、東野編
【1】高校卒業、東野涼太
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高校3年間は、あっと言う間だった。
彼女は作らず終わったが仕方ない。男は腐るほどいたが、そもそも女の子の絶対数が少なかったことと、誰かに告白されても、ずっと好きだった子には結局告白できずに卒業してしまった。
俺は、自宅に近い大学に入学した。
高校へは往復数時間掛かっていたから、自宅から通えるのはありがたい。
と、思っていたんだが。
「まさか、東野君と一緒の大学だとはな~!すげーよな!」
「……それは俺も言いたいよ。で、何でウチ入り浸ってんだよ」
俺は経済学部。
目の前のこいつ――浅野遥は、医学部。
お互い現役合格し、入学式でばったり再会したのだ。
名字は広瀬に変わっていたが、俺にとって浅野は浅野のまま。
転校後もたまにLINEは寄越してきていたが、全部変なのばかりで……。
「碧に言い寄んなよ」という牽制と、変なスタンプが送りつけられ、まるでスパムのようなLINEだった。
悲しいことに俺は白川に相手にされていないので、スルーするか、虫の居所が悪い時は「うるせえ!」と返していた。
しかし……ずっと付き合い続けてると思っていたのに、結構前に別れていたと聞いたのは、ついさっきのこと。
ちなみに、白川も母親姓である鈴木に戻っている。でも、白川も俺にとってはずっと白川で。
「多分、白川は彼氏いないよ。ずっとバイトばっかりだったし。バイト先に彼氏がいるのかもしれないけど……そんな話は聞いてないしなあ……」
「ふーん」
浅野は俺のベッドに勝手に横になり、靴下を脱いでいる。
知りたそうな顔してたから教えてやったのに、興味なさそうな顔しやがって。
「……ウゼーな~。ヨリ戻したいならさっさと連絡取れよ」
俺がそう言うと、浅野はあくびをした。
「涼ちん、腹減った」
「涼ちんって呼ぶのやめろ」
俺は仕方なく、キッチンでカップ麺をふたつ作り、部屋まで戻った。
親のことは、いろいろあったのだろう。昔はいろんな噂を聞いたこともある。
バターしょうゆ味の麺をすすりながら浅野の端正な顔立ちを見ていた。
すると、俺の視線に気付いたのか浅野はじっと見てきた。
「……何だよ」
俺ではなく、カップ麺を見ている?
「涼ちんの、うまそう」
俺のカップ麺はバターしょうゆ味。浅野のは、絶品とんこつ味。
「どっちでもいい」と言うから絶品を譲ってやったのに、何て我儘な……。
「……やるよ」
「サンキュー。涼ちんも食ってみ」
そんなに仲よくもねえ男と、カップ麺の半分こはちょっと嫌だが、絶品とんこつはやっぱり旨かった。
と言っても、どちらのカップ麺もうちの母のチョイスだが。
「……旨いな」と思わず漏らした俺に、浅野はひひっと笑う。
「次涼ちんち来る時はこれ持ってくるわ」
「いや、来なくていいから」
そんな調子で、浅野はちょくちょく俺の家に来た。
「かっこいいねえ、あの子。涼太の友達」
「友達じゃねえし……」
浅野について、俺の姉がキャーキャー言っている。
見てくれだけはいいかもしれないが、あいつは今も俺の敵だ。
……白川が浅野と別れていたのなら。
俺も――悔いのないように、伝えればよかった。
白川と会ったのは、卒業式の日が最後で。
卒業式のあと、遊ぶ場所の少ない地域で集まるとなるとカラオケぐらいしかない。
夜遅くまで、クラスみんなでカラオケで騒ごうとなったのだが、その日もバイトだった白川は、早めに抜けて。
目が合って、「東野君、またね」と俺に手を振ってくれたのが……最後。
浅野のせいで、モヤモヤしてきたじゃねえか。
白川は、高校の近くにある短大に進学した。
特進クラスの中でその進路選択は珍しかった。
白川が、「早く社会に出て働きたい」と千晴に話していたのは聞いたけれど……。
ちなみに、千晴は地元の女子大に進んでいた。
高校の近くに住んでいた奴らは今でも会えるのかもしれないけれど、俺は自ら赴かないと会うのは難しい。
だから、白川に偶然会えたとしたら、それは奇跡に近いことなのだ。
浅野とはそんな調子だったが、それなりにキャンパスライフを楽しみ、フットサルサークルにも参加して、青春のようなものを謳歌していた。
本格的にサッカーをしたいとも思わないでもなかったが、その険しい道は諦めた。
普通に卒業して、普通に就職。それでいい。それで十分。
文系の俺と違い、医学部の浅野は忙しくしていた。
初めは、こいつが医者になりたかったなんてと面食らったが、成績だけはよかったんだよな。
でも、俺には疲れたそぶりも見せず、たまにカップ麺を買いこんではバイクでやってくる。
男同士会話が弾むわけではないのに、漫画の趣味だけは合ったようで、毎週買ってる週刊漫画をまとめ読みして帰って行った。
そして、ベッドに寝転がって漫画を読みながら俺に尋ねる。
「涼ちん、女できた?」
「いや…」
彼女とは言えないまでも、何人かには言い寄られたりしたが、どれも好みのタイプではない。
「涼ちんかっこいいのにな。爽やかで」
「褒めてんのか?」
「褒めてるよ。いいじゃん、爽やか君」
「絶対褒めてねえだろ」
そうしてもうすぐ、大学生になってはじめての夏休み。
例の如く浅野が俺のベッドを占領しての漫画中に、高校サッカー部の仲間だった三浦から連絡があった。
学園のサッカー部OBで集まろうという話だった。
『涼太には遠くなるけどさ、久しぶりに来いよ!夜遅くなったら泊まってけよ』
ミウの穏やかな声は変わらない。
「マジか、行く行く。みんな元気かな」
『加納ちゃんが涼太にメッチャ会いたがってるって』
加納ちゃんとは、ひとつ下の女子マネだ。絵にかいたような慌て者だったが……懐かしいな。
彼女は作らず終わったが仕方ない。男は腐るほどいたが、そもそも女の子の絶対数が少なかったことと、誰かに告白されても、ずっと好きだった子には結局告白できずに卒業してしまった。
俺は、自宅に近い大学に入学した。
高校へは往復数時間掛かっていたから、自宅から通えるのはありがたい。
と、思っていたんだが。
「まさか、東野君と一緒の大学だとはな~!すげーよな!」
「……それは俺も言いたいよ。で、何でウチ入り浸ってんだよ」
俺は経済学部。
目の前のこいつ――浅野遥は、医学部。
お互い現役合格し、入学式でばったり再会したのだ。
名字は広瀬に変わっていたが、俺にとって浅野は浅野のまま。
転校後もたまにLINEは寄越してきていたが、全部変なのばかりで……。
「碧に言い寄んなよ」という牽制と、変なスタンプが送りつけられ、まるでスパムのようなLINEだった。
悲しいことに俺は白川に相手にされていないので、スルーするか、虫の居所が悪い時は「うるせえ!」と返していた。
しかし……ずっと付き合い続けてると思っていたのに、結構前に別れていたと聞いたのは、ついさっきのこと。
ちなみに、白川も母親姓である鈴木に戻っている。でも、白川も俺にとってはずっと白川で。
「多分、白川は彼氏いないよ。ずっとバイトばっかりだったし。バイト先に彼氏がいるのかもしれないけど……そんな話は聞いてないしなあ……」
「ふーん」
浅野は俺のベッドに勝手に横になり、靴下を脱いでいる。
知りたそうな顔してたから教えてやったのに、興味なさそうな顔しやがって。
「……ウゼーな~。ヨリ戻したいならさっさと連絡取れよ」
俺がそう言うと、浅野はあくびをした。
「涼ちん、腹減った」
「涼ちんって呼ぶのやめろ」
俺は仕方なく、キッチンでカップ麺をふたつ作り、部屋まで戻った。
親のことは、いろいろあったのだろう。昔はいろんな噂を聞いたこともある。
バターしょうゆ味の麺をすすりながら浅野の端正な顔立ちを見ていた。
すると、俺の視線に気付いたのか浅野はじっと見てきた。
「……何だよ」
俺ではなく、カップ麺を見ている?
「涼ちんの、うまそう」
俺のカップ麺はバターしょうゆ味。浅野のは、絶品とんこつ味。
「どっちでもいい」と言うから絶品を譲ってやったのに、何て我儘な……。
「……やるよ」
「サンキュー。涼ちんも食ってみ」
そんなに仲よくもねえ男と、カップ麺の半分こはちょっと嫌だが、絶品とんこつはやっぱり旨かった。
と言っても、どちらのカップ麺もうちの母のチョイスだが。
「……旨いな」と思わず漏らした俺に、浅野はひひっと笑う。
「次涼ちんち来る時はこれ持ってくるわ」
「いや、来なくていいから」
そんな調子で、浅野はちょくちょく俺の家に来た。
「かっこいいねえ、あの子。涼太の友達」
「友達じゃねえし……」
浅野について、俺の姉がキャーキャー言っている。
見てくれだけはいいかもしれないが、あいつは今も俺の敵だ。
……白川が浅野と別れていたのなら。
俺も――悔いのないように、伝えればよかった。
白川と会ったのは、卒業式の日が最後で。
卒業式のあと、遊ぶ場所の少ない地域で集まるとなるとカラオケぐらいしかない。
夜遅くまで、クラスみんなでカラオケで騒ごうとなったのだが、その日もバイトだった白川は、早めに抜けて。
目が合って、「東野君、またね」と俺に手を振ってくれたのが……最後。
浅野のせいで、モヤモヤしてきたじゃねえか。
白川は、高校の近くにある短大に進学した。
特進クラスの中でその進路選択は珍しかった。
白川が、「早く社会に出て働きたい」と千晴に話していたのは聞いたけれど……。
ちなみに、千晴は地元の女子大に進んでいた。
高校の近くに住んでいた奴らは今でも会えるのかもしれないけれど、俺は自ら赴かないと会うのは難しい。
だから、白川に偶然会えたとしたら、それは奇跡に近いことなのだ。
浅野とはそんな調子だったが、それなりにキャンパスライフを楽しみ、フットサルサークルにも参加して、青春のようなものを謳歌していた。
本格的にサッカーをしたいとも思わないでもなかったが、その険しい道は諦めた。
普通に卒業して、普通に就職。それでいい。それで十分。
文系の俺と違い、医学部の浅野は忙しくしていた。
初めは、こいつが医者になりたかったなんてと面食らったが、成績だけはよかったんだよな。
でも、俺には疲れたそぶりも見せず、たまにカップ麺を買いこんではバイクでやってくる。
男同士会話が弾むわけではないのに、漫画の趣味だけは合ったようで、毎週買ってる週刊漫画をまとめ読みして帰って行った。
そして、ベッドに寝転がって漫画を読みながら俺に尋ねる。
「涼ちん、女できた?」
「いや…」
彼女とは言えないまでも、何人かには言い寄られたりしたが、どれも好みのタイプではない。
「涼ちんかっこいいのにな。爽やかで」
「褒めてんのか?」
「褒めてるよ。いいじゃん、爽やか君」
「絶対褒めてねえだろ」
そうしてもうすぐ、大学生になってはじめての夏休み。
例の如く浅野が俺のベッドを占領しての漫画中に、高校サッカー部の仲間だった三浦から連絡があった。
学園のサッカー部OBで集まろうという話だった。
『涼太には遠くなるけどさ、久しぶりに来いよ!夜遅くなったら泊まってけよ』
ミウの穏やかな声は変わらない。
「マジか、行く行く。みんな元気かな」
『加納ちゃんが涼太にメッチャ会いたがってるって』
加納ちゃんとは、ひとつ下の女子マネだ。絵にかいたような慌て者だったが……懐かしいな。
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