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第12章、結愛編
【1】遥の誕生日
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4月2日。遥の誕生日。
天気がいいので、遥とふたりでバイクに乗って、また例の公園までお花見に来た。
ベンチでぽかぽかのお日様に当たり、ひなたぼっこをしながら、買って来たサンドイッチを食べる。
春だけど、この時期風は少し冷たい。
碧ちゃんに会ったことは遥にはまだ黙ってる……。
さすがに、ここまで勝手にしたら怒るんじゃないかと……。
そして、買って来たショートケーキも食べる。
ろうそくは付いていないけれど、誕生日だからハッピーバースデーも歌う。
音痴な遥は歌ってはくれないから、私だけ。
「誕生日おめでとー!遥ー!」
「……ありがと。18だな……免許取りてぇ」
桜は開花していて、見上げると淡いピンクの花が咲いていて。菜の花も向こうに咲いている。
この桜の色と、この前のお着物の色が似てるなぁーと、桜ばかり見上げていた。
「結愛、この前実家帰ったの?どうだった?おじさんとかおばさんとか」
「んーん?普通だよ?」
「……お前のその顔、何か隠してる時の顔だろ」
私は、何かを隠す時に唇がとんがるらしい。
「パパとママは、帰ったら嬉しそうにしてくれたよ。着物の写真見せたら、すごく喜んでくれたし……。遥のとこで撮ってもらったとは伝えてないけど」
「ああ。いいよ。そんなこと言ったらまた心配させんだろ」
遥はそう言って、コンビニのサンドイッチをぱくりと食べ、私も続いて食べた。
……実は、碧ちゃんに借りたハンカチを持って帰ってきてしまった。
あの子に借りをつくるのは嫌だから返したいんだけど、しばらく地元には戻らないし。
遥は住所知ってるけど、…………でもなぁ。
「何だよ。お前、挙動不審。トイレか?」
落ち着きなくそわそわ体を動かす私に、遥が眉を顰める。
「トイレじゃないっ。遥、これ、返しておいて」
洗ってアイロンをかけた、淡いブルー地にドットが入っているハンカチ。
ぶんっと遥に差し出した。
「返す?誰に」
「碧ちゃんに。」
「……会ったの?地元で?」
「うん。バイト終わるまで張ってた。コンビニの前で小一時間」
「逆にすげーなお前……」
遥は、勝手に会ったことを怒らなかった。
でもやっぱり、碧ちゃんは好きにはなれない。
想像していたより、よっぽどたくましくしたたかだったけど。
言い返すところは言い返してくるし、それなのに私の心配したり、解散時には普通に笑ってるし、嫌味を嫌味と受け取ってなかったりするし、最後には「ありがとう」って言って、帰って行って。
「碧ちゃんにさ、これでごしごし顔拭かれたんだよ。痛かった」
「ええ…?どういう状況だよそれ」
「……肌荒れるって言ったら、『肌なんか荒れたって治る』って言ってた」
そう言うと、遥が突然爆笑した。
「……元気そうだな。安心したわ。あいつにとったらお前も凛太も一緒なんじゃね」
「どういう意味?」
「いいや。ありがとな。結愛」
遥の手がぽんぽんと私の頭を撫でる。
なんかよくわかんないけど……。遥が笑ってるなら、いいのかな……?
「結愛がそのハンカチ持っとけば?あいつのことだから返せとも言わねぇだろうよ。嫌なら処分でいんじゃね」
「遥は、碧ちゃんに会わないの?会いに行かないの?」
「んー……。いや、俺には連絡ねぇし、俺も、今はいいかな。あいつも頑張ってるんなら、邪魔になりたくねえし……つーか、他に好きな奴でもいたら立ち直れねえし……」
「?」
最後の台詞は小さすぎて聞き取れなかった。
首を傾げる私の横で、遥が立ち上がって手すりに手を掛け、ニヤリと笑う。
「俺にもやりたいことがあるんだよ」
天気がいいので、遥とふたりでバイクに乗って、また例の公園までお花見に来た。
ベンチでぽかぽかのお日様に当たり、ひなたぼっこをしながら、買って来たサンドイッチを食べる。
春だけど、この時期風は少し冷たい。
碧ちゃんに会ったことは遥にはまだ黙ってる……。
さすがに、ここまで勝手にしたら怒るんじゃないかと……。
そして、買って来たショートケーキも食べる。
ろうそくは付いていないけれど、誕生日だからハッピーバースデーも歌う。
音痴な遥は歌ってはくれないから、私だけ。
「誕生日おめでとー!遥ー!」
「……ありがと。18だな……免許取りてぇ」
桜は開花していて、見上げると淡いピンクの花が咲いていて。菜の花も向こうに咲いている。
この桜の色と、この前のお着物の色が似てるなぁーと、桜ばかり見上げていた。
「結愛、この前実家帰ったの?どうだった?おじさんとかおばさんとか」
「んーん?普通だよ?」
「……お前のその顔、何か隠してる時の顔だろ」
私は、何かを隠す時に唇がとんがるらしい。
「パパとママは、帰ったら嬉しそうにしてくれたよ。着物の写真見せたら、すごく喜んでくれたし……。遥のとこで撮ってもらったとは伝えてないけど」
「ああ。いいよ。そんなこと言ったらまた心配させんだろ」
遥はそう言って、コンビニのサンドイッチをぱくりと食べ、私も続いて食べた。
……実は、碧ちゃんに借りたハンカチを持って帰ってきてしまった。
あの子に借りをつくるのは嫌だから返したいんだけど、しばらく地元には戻らないし。
遥は住所知ってるけど、…………でもなぁ。
「何だよ。お前、挙動不審。トイレか?」
落ち着きなくそわそわ体を動かす私に、遥が眉を顰める。
「トイレじゃないっ。遥、これ、返しておいて」
洗ってアイロンをかけた、淡いブルー地にドットが入っているハンカチ。
ぶんっと遥に差し出した。
「返す?誰に」
「碧ちゃんに。」
「……会ったの?地元で?」
「うん。バイト終わるまで張ってた。コンビニの前で小一時間」
「逆にすげーなお前……」
遥は、勝手に会ったことを怒らなかった。
でもやっぱり、碧ちゃんは好きにはなれない。
想像していたより、よっぽどたくましくしたたかだったけど。
言い返すところは言い返してくるし、それなのに私の心配したり、解散時には普通に笑ってるし、嫌味を嫌味と受け取ってなかったりするし、最後には「ありがとう」って言って、帰って行って。
「碧ちゃんにさ、これでごしごし顔拭かれたんだよ。痛かった」
「ええ…?どういう状況だよそれ」
「……肌荒れるって言ったら、『肌なんか荒れたって治る』って言ってた」
そう言うと、遥が突然爆笑した。
「……元気そうだな。安心したわ。あいつにとったらお前も凛太も一緒なんじゃね」
「どういう意味?」
「いいや。ありがとな。結愛」
遥の手がぽんぽんと私の頭を撫でる。
なんかよくわかんないけど……。遥が笑ってるなら、いいのかな……?
「結愛がそのハンカチ持っとけば?あいつのことだから返せとも言わねぇだろうよ。嫌なら処分でいんじゃね」
「遥は、碧ちゃんに会わないの?会いに行かないの?」
「んー……。いや、俺には連絡ねぇし、俺も、今はいいかな。あいつも頑張ってるんなら、邪魔になりたくねえし……つーか、他に好きな奴でもいたら立ち直れねえし……」
「?」
最後の台詞は小さすぎて聞き取れなかった。
首を傾げる私の横で、遥が立ち上がって手すりに手を掛け、ニヤリと笑う。
「俺にもやりたいことがあるんだよ」
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