【R-18】17歳の寄り道

六楓(Clarice)

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第11章、碧編

【1】碧の春休み

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明日から、4月かあ。
レジを打ちながら、店の後ろに掛かっている丸い時計を確かめた。20時まであと少し。

「ありがとうございましたー」

お客様にお辞儀をしてレジを閉めると、藤田さんが何かを探すように店の外を見ている。

「どうしたんですか?」
「ああ、なんか外にすっげー可愛い子いない?髪の長い……」
「え?また、藤田さんの女の子の話ばっかりですね」

そんな藤田さんも千晴にはご執心だったけど、お断りされたそうで、結構長い間落ち込んでいた。
呆れながらも外を見てみると、その女の子と目が合った。なんか、見たことあるような……?

「碧ちゃん、20時だよ。はい、おつかれー」
「はい。お疲れさまでした。お先失礼します」

上がりの時間が来た。裏でオーナーに挨拶をしながらユニフォームを脱ぎ、店を出る。
次のバス逃したら、20分待ちなんだよね。
バス停の方向へ歩いていると、さっきの女の子が駆け寄ってきて、ドンっと腕を押された。

ジーンと腕が痺れた感じがして、今何が起こったのかわからない。地味に痛いし!

「……えっ?何ですかっ!」

腕を押さえながらその子を見ると――結愛ちゃんだった。
しかし、そのきれいな顔には憎しみしかない。

「白川碧でしょ。私のこと覚えてないの?遥の家で会ったの」

あからさまに敵意をむき出しにされて、少し後ずさった。

「……覚えてますけど、何ですか?」
「ちょっと話したいんだけど。」

結愛ちゃんは顎をしゃくり、道沿いにあるファストフード店を指した。

さすが……小林先輩とお付き合いしてたことだけはある……と言ったら語弊があるかもしれないが。
こんな可愛い顔をして、迫力満点だ。
それとも、ここまでさせるほど、私のことが嫌いなのだろうか。
怖気づきながらも、彼女についていった。


ファストフードの店内は、珍しく団体客が利用していて、私と結愛ちゃんはテラス席についた。
結愛ちゃんは氷のたくさん入ったコーラをテーブルに置いた。
勢いが強くて、タンッと音が響いた。

私に会いに来たのだから、……話は遥のことだろう。

遥とは、夏から連絡も取っていないままだし、村上先生とは、年末最後に会ってから、連絡を控えている。

年末、家まで送り届けてくれた時。
先生は、「またな」とは言わなかった。

俺がいると、お前をダメにしてしまう。
つらい夜は空を見上げろ。
そろそろ、自分の足で立ってみろ――。

そう背中を押されて、車を降りたあの寒い夜。


涙を隠して家に入り、自分の馬鹿さ加減に泣いた。
自分の都合で、縋って、頼って。
誰かから守られたくて、優しい気持ちを踏みにじって。
こんなどうしようもない私が、ぬけぬけと遥に連絡することなんてできなかった。
遥だって、きっともう私と関わらずに済んで、清々しているはずだ。

頼んだコーヒーを口にすると、結愛ちゃんは冷たい眼差しで、吐き捨てるように言った。

「私、あんたのこと大嫌い」
「……そうですか」
「遥だけじゃなくて先生にも手ー出してたんでしょ。最低」
「…………」

すごい言われ様に、伏せていた視線を上げた。

「……結愛ちゃんには言われたくない。」
「何ですって?もう一度言いなさいよ」
「結愛ちゃんだって、遥のこと大事にできてなかったでしょ。遥の家に勝手に上がって、惑わすようなことして」

一息で反論したら、結愛ちゃんはついていた頬杖を外して私に顔を近づける。

「ふーん。女にはちゃんと言うんじゃん。男の前では優等生演じてぶりっこっぽいのに」

そんなつもりは全くない。けれど、どこか痛いところを突かれているからなのか――結愛ちゃんの言葉に、カチンと来る。
屈辱で震える手をぎゅっと握り締め、結愛ちゃんに向き合った。


「事情も何も知らないのに、結愛ちゃんに口出しされたくない」
「事情を知らなくたって、遥に酷いことしてんのは変わんないでしょ。手当たり次第に男たぶらかして」

私は、確かに遥を傷つけた。
疎ましい義父から助け出してほしい一心で、先生に縋り手を取った。
その事が、「男をたぶらかした」ということなのか。
何も知らない人間には、そんな簡単で言葉で済まされるのか。
遥に対する裏切りは消えないけれど、遥と離れてしまった理由はひとつではない。
いろんな要素が混じりに混じって、こうなったと思っている。

……遥も、結愛ちゃんのこと、どこかで忘れていなかったもの。


「あんた、ロリコン先生とエッチしたんでしょ。最悪だよね」

結愛ちゃんは嘲笑しながらコーラのストローに可愛らしい唇をつけて、遥によく似たビー玉のような瞳を私に向けた。

私のことは何と言われてもいい。縋りついたのは事実だ。
でも、先生のことを……あんなに私たちを守ってくれようとした先生のことを、低俗な言葉で蔑むのは誰であろうと絶対に許せない。

「結愛ちゃん、間違ってる。私に意見しに来たんでしょ?先生のことまで悪く言わないで。遥が先生のこと悪く言ってたの?言ってないでしょ?」

遥が村上先生のことを、もし悪態をついていたとしても、心の中では絶対に先生を嫌いなはずはない。

「悪いけど、結愛ちゃんがそういう姿勢なら、何も話すことはないよ。それに、遥には合わせる顔ないから、連絡もできない」

私は、最後まで飲みきっていないコーヒーをトレイに乗せて立ち上がろうとすると、手首を掴まれた。
白く細い可憐な手には力が籠り、薄茶色の瞳が私をするどく睨む。

「逃げんの?」
「……お母さんと弟が待ってるから。心配掛けたくないの」

こんな細い手のどこに力があるんだろう、というぐらい、腕をギリリと掴まれてから解放された。
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