【R-18】17歳の寄り道

六楓(Clarice)

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第6章、遥編

【5】三日間

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お前が取ろうとしたんだろ、と言いかけたが、言葉を飲み込む。
もう…村上はけじめをつけているのに、蒸し返すのは何か違う気がした。

すると、客間のドアが開く音がして、碧の母親がリビングのドアの陰に見えた。

「……村上先生、ありがとうございました」
「あ、……話はつきましたか」

俺は一気に水を飲み干して、冷たいグラスを握ったまま、とぎれとぎれに聞こえてくる。碧の母親と村上の話を聞いていた。

今、碧の親父は家に戻っているそうだった。

「この子たちの祖父母が生きていたらよかったのですけど、すでに他界してしまっていて……頼れる親族がいないので…本当に図々しくて、申し訳ありません」

碧とクソ親父と会わせたくないのと、今後の話をつけるために、一晩碧をこの家で預かるという話だった。

村上は、終始静かに母親を宥めていた。

昨日起きた事は、碧の母親のせいではないかもしれないけど……俺ならきっと、村上のように穏やかに対応できないだろう。
どんな事情があっても、碧の事ちゃんと見とけよ、って、思うしな……

村上だって、元担任っつったって男なのに、しかも前科ありなのに、簡単に信用して預けるあたり、なんか甘くね?
…まあ、今はあの危ない親父とひとつ屋根の下に置く方が余程危険か。

ここに預けるのがベストではないという事は、誰もが分かっているのだ。
親父がしでかした事は一応未遂だし、碧も母親も警察沙汰にしないつもりだそうだから、この後話がこじれないことを祈るばかりだ。


碧の母親は凛太を抱き上げて、俺たちに礼をした。
ここまでは車で来ていたので、出発するまで見送る。

「じゃあ、碧。先生にご迷惑かけないようにしなさいね」
「うん…。待ってるね……お母さん…」

母親は瞳を潤ませて頷いていて、抱かれている凛太が俺を見ていた。

「はるくん」と俺に手を伸ばす。俺はその赤くなっている手を取って、むにむにと握りながら、ある事を思い出した。

「あ。ちょっと待って」

俺は急いでキッチンに戻り、村上の家の冷蔵庫を勝手に開け、プリンを取り出して戻った。

「これ、凛太君にあげて下さい。喉痛がってたし、食べやすいかも」
「……ありがとう、浅野君。凛太を病院に連れてってくれたんですってね。本当にありがとう」

碧を少し細くしたような母親は、目を潤ませたまま、にっこりと微笑んでくれた。


二人が、帰って行った。
碧は庭の塀に手をついたまま、車が消えるまでずっと立っている。

「碧ー。腹減ってねえ?」

その後ろ姿に、努めてフツーに話しかけた。

「……減った…かな。よくわかんない……」

少し悲しげに笑う碧に、「出前取るか」と村上が提案する。

「出前もいいけどー、しょうがねえなー。俺が作るよ。何食いたい?」
と言うと、碧と村上が目を見開いた。

「遥、料理できるの!?すごい!」
「や、まあ…ちょっとは作れるよ。家に食いもんなかったら、作るしかないし…」
「やるなあ、浅野!」

何となくだが…碧は料理がダメそうだな。村上はあまり自炊しない派のようで、またしても尊敬の眼差しを浴びた。しかも二人分。

家事は嫌いじゃない。
晩飯もよく、結愛と一緒に作って食った。

あいつの親も夜勤のある仕事をしていて、夜は一緒にいることも多かった。
年頃になり、親から、二人きりで会うことを禁じられたが。


「遥、私、ハンバーグ食べたい。作れる?」

碧は目をキラキラさせている。簡単なメニューで助かった。

「いいよ。任せろ」

村上の車で食材を買い出しに行くことになった。
碧は家で留守番すると言うが、一人になって大丈夫か?と思いながらも、野郎二人で出発した。

気ィ重いな……
とりあえず仕事中の母さんの携帯を鳴らしてみたが、出る気配はない。
……メールするか。

『今、村上先生の家にいる。あさって帰るから、心配しないで』
と送信して、下拵えに取りかかった。

朝よりは空いている国道。
つるさきクリニックを過ぎ、整形外科も過ぎ、スーパーまで走り抜けていく。

「……センセーは、すげーな。俺だったら、碧の母親にあんな風に優しくできねえよ」

助手席での俺の呟きに、村上がふっと笑い、「そうでもないよ。まあ、みんないろいろあるよ」と言う。

そうでもない?
もしや、村上キレたのか…?
それ以上の詳細は教えてくれずにスーパーに着いた。

カゴを取り、玉ねぎを入れていたら、そのカゴを村上が持ち上げた。

「何?」
「俺が持つよ」
「……」

何だこのやりとり。カップルじゃねえんだよ。
合挽き肉をカゴに放り込み、献立を頭に浮かべながら一周回りレジに着く。みそ汁と、付け合わせと…。
米は今、碧が炊いている。

買い終えて、車まで戻る道すがら、村上が話し出した。


「浅野はしっかりしてるなぁ。そりゃあ凛太君にも懐かれるわけだ」
「センセー、凛太にめっちゃ泣かれてたね」
「ああ……落ち込んだよ」

本気で悲しげな村上に、多少同情しながら車に乗り込み、家に戻った。

「おかえり~!先生の家の炊飯器、高性能だね!」
と出迎えてくれた碧に、俺も村上もほっとしたと同時に心が和まされる。
その後すぐ、村上が俺に手招きした。

「家に連絡したか」

忘れてた…いや、忘れたふりをしていたが、村上は忘れてはいなかった。家への連絡。

「……今からするよ」

ここに住んでいる頃なら一晩俺がいなくったって誰にも気付かれなかったが、今の家はばあちゃんがいるからそういうわけにはいかない。怒らせたら、なぎなたで刺されかねない。


「……うまい。浅野、やるな」
「本当本当!うちのお母さんより上手だよ!」

外も暗くなり始めた頃、3人で食卓を囲み、ハンバーグの褒め殺しに遭った。

「……もう、いいよ…」

拒否ると、「照れんな照れんな」と、ますます辱めに遭わされる。
碧はずっと笑顔で、楽しそうにしていた。

食後の片づけは碧がすると言ったが、捻挫のこともあるしと村上が買って出た。
碧と二人でソファに座っていたら、母さんから電話が掛かってきた。


『村上先生の家って……どうして!?』

ヒス気味の母親の声が、受話口から聞こえた。凛太の泣き声の音量に比べたら、大したことはない。

「友達に会いに来たの。あさって帰るから…」

『突然びっくりするでしょう!村上先生のご迷惑になるから、帰ってきなさい!』

ほら出た。こうなるから話したくなかったのに……
でも、また、昔のように塞ぎこんで、パニックになる母さんを見たくはない。
そう言われたら、帰るしかねぇじゃん。と思っていると――。

「貸せ」

突然スマホが後ろから取り上げられた。
村上が気だるそうに壁にもたれかかって、母さんと話し始めた。

「突然代わりまして、すみません。ご無沙汰しています。村上です。…はい。……はい。ええ、うちは全然大丈夫ですよ」

村上は、新幹線で帰るとなると、今の時間ではギリギリなので泊めますと話し、なんと母さんも承諾した。

「はい、解決。ま、明日帰らないといけないけどな。一泊でもできたらマシだろ」

クソ。癪に障る。

…でも、

「ありがと、センセー」

礼だけは言ってやる。


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