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第6章、遥編
【2】17歳、浅野遥
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――などと思っていたはずなのに、目を覚ましたらもう到着直前で、慌てて荷物を持ってホームに飛び降りた。
後は、電車を30分乗り、そこに村上が車で迎えに来る。
村上と碧にメールをし、しばらく電車に揺られた。
「浅野ー!こっちだよ!」
駅に着き、指定されたロータリーまで歩いてると、聞き慣れた声に呼ばれた。
村上が俺に向かって手を振っている。しかもちょっと嬉しそうに。
「……センセー、なんで笑ってんの。こんな時に」
喜ばれると、つい憮然とした対応をしてしまうが、村上はそれでも笑っている。
「久しぶりだなと思ってさ」
「あー、まあ…………碧は?」
「寝てるんじゃないかな、凛太君と。」
車は国道を走り、村上から、昨日からの経緯を聞かされた。
凛太が朝から具合が悪く、碧も足を捻っていて、出張中の母親は午後早めに戻ってくる事。
母親から父親には連絡済みだという事。
「親父に逆切れされたら怖くね?センセー、誘拐犯扱いされないの?」
「お母さんの承諾は得ているわけだから、大丈夫だろう。……父親は、気の小さな人間だから、これ以上の危害を加えてくることはないと思うって……お母さんはおっしゃってたけどね」
「……ふうん。まあ親父はいいや。それより、碧にまた手ー出してねえだろな」
こんな状況でも、俺の本題はこれだ。
村上は片眉を上げ、フッと笑った。
「大丈夫だよ。お前を裏切らないって約束しただろ。忘れたのか」
「一度失くした信用はそう簡単には取り戻せるかよ」
「そうか。俺は嘘はついてないけどな。じゃあ、また信用してもらえるように頑張るよ。……でもそれだと、白川のことも信じられないの?」
「そういうわけじゃ……」
バツが悪くなり、フンと余所を向く。そんな俺を見て村上は微笑んでいた。
「つーかセンセー、こんな状況でよく笑えるな…」
何か言い返したくて悪態を吐く。村上は微笑んだままハンドルを切り、家に着いた。
広いガレージに車を停めキーを抜き、それぞれのドアから車を降りる。
俺がドアに手を掛けた時、声が聞こえてきた。
「……お前が元気そうなのが嬉しかったんだよ。それだけだ」
村上の言葉は、たまにぐっと来る時がある。
その後村上は、病院に行く時のためにと後部座席の荷物を片づけていた。
「……先行くよ、センセー」
村上を残して玄関を開ける。
すると、部屋から廊下に顔を出す碧がいた。
「碧!」
反射的に靴を脱ぎ捨てて家に上がり、床にぺたりと座り込んでいる碧の前に膝をついた。
―――が、碧は俺と目を合わせず、小さな声で怯え切っているような返事しかしない。
不安が過りながら足に目を移すと、湿布の上からでも足首が腫れ上がっていることに気付く。
「………何これ、めっちゃ腫れてんじゃん。折れてる?」
「…ど、どうだろ?痛いけど、我慢できる範囲だよ」
だとすると、折れてはいないのか。
遅れて玄関を上がって来る村上に振り返る。
「センセー、このあたり整形どこ?」
「国道沿いにあるよ。白川は俺が連れて行く。浅野は、凛太君連れてって」
村上は最初から決めていたように言った。
凛太を?
「俺が?いいけど、………」
村上と碧が目を合わせている。……ただならぬ関係に見えて、若干イラついた。
「小児科は…内科と一緒になってるクリニックがあったかな。でも、今凛太君が眠れているなら、先に朝飯食うか、白川。診療時間内に行けたらいいから、少しは時間がある」
リビングに通され、村上が袋一杯のパンをテーブルに置く。
さっきから車ん中でいい匂いがしていると思っていたのはこれだったのか…
ま。パンはいいとして、凛太放置か?
「凛太は別室?ここ連れてきて寝かせていい?」
「――ああ、頼むよ」
村上がやけに素直に答え、碧が微笑んでいた。
碧と二人で客間に行き、寝ている凛太の顔を覗き込む。
額や首に手を当てると……熱っ!
熱が出るとこんな熱いもんか。……でも、苦しそうではないか。
凛太を布団ごとリビングまで移動させた後、碧とテーブルについた。
「うわあ~♡おいしそう~♡」
村上が買ってきやがったパンを見て、碧は女子らしく喜び、村上はコーヒーを淹れている。
「センセー、俺にもくれんのー」
「お前、何で拗ねてるんだ。いるなら食え。凛太君は…おかゆかな」
チッ。
大人の余裕をふんだんに見せつけてきやがって。
と、碧が並べたパンを見ると、すげーうまそうで、一つ手に取り袋を開けた。
「ありがとう、先生も…遥も………」
碧が、目を合わせず……俯きながら呟く。
……泣いてる…のか。
「碧は何も気にすんな」
碧のせいでもないのに、悪いのは親父だろ。
彼女がピンチなら、駆け付けるのも当たり前だし。
本心からそう言ったら、やっと碧と目が合った。目を真っ赤にして俺を見つめている。
すると、コーヒーを淹れていた村上から
「浅野はブラック飲めないだろ」と突然つっ込まれる。
「あ?何で知ってんだよ!」
答えたら、村上も碧も笑ってる。
確かに俺はミルクと砂糖はいるけど……そんな笑うことか?
………でも、碧が笑ってるなら、別にいいけどな。
「ふふ…仲良いね、ふたり……。……」
碧は、泣き笑いのような顔を見せる。
村上と俺が仲良しかどうかはさておき。
碧のクソ親父はブッ殺したいぐらい憎いけど、…俺が来た事で碧が、少しでも心が楽になれば。
何か一つでも役に立てたなら、それでいいよ。
急ぎ足で食べ終え、家を出る支度をしながら、「凛太、体温測った?」と碧に確認した。
「あっ、うん、39.4℃あってね、…保険証はこれで…身長体重はここに書いてて…」
と、碧は青い星柄のリュックごと俺に渡す。
「持病ある?薬は?」
「あ、軽い喘息で……お薬は、予防で飲んでるのがあって………えっと、これかな」
と、リュックのポケットから見覚えのある薬を見せられる。
俺も小さいころよくお世話になったその薬。
なんかすでにもう懐かしいけど……そうか、凛太もその気ありかと苦笑した。
後は、電車を30分乗り、そこに村上が車で迎えに来る。
村上と碧にメールをし、しばらく電車に揺られた。
「浅野ー!こっちだよ!」
駅に着き、指定されたロータリーまで歩いてると、聞き慣れた声に呼ばれた。
村上が俺に向かって手を振っている。しかもちょっと嬉しそうに。
「……センセー、なんで笑ってんの。こんな時に」
喜ばれると、つい憮然とした対応をしてしまうが、村上はそれでも笑っている。
「久しぶりだなと思ってさ」
「あー、まあ…………碧は?」
「寝てるんじゃないかな、凛太君と。」
車は国道を走り、村上から、昨日からの経緯を聞かされた。
凛太が朝から具合が悪く、碧も足を捻っていて、出張中の母親は午後早めに戻ってくる事。
母親から父親には連絡済みだという事。
「親父に逆切れされたら怖くね?センセー、誘拐犯扱いされないの?」
「お母さんの承諾は得ているわけだから、大丈夫だろう。……父親は、気の小さな人間だから、これ以上の危害を加えてくることはないと思うって……お母さんはおっしゃってたけどね」
「……ふうん。まあ親父はいいや。それより、碧にまた手ー出してねえだろな」
こんな状況でも、俺の本題はこれだ。
村上は片眉を上げ、フッと笑った。
「大丈夫だよ。お前を裏切らないって約束しただろ。忘れたのか」
「一度失くした信用はそう簡単には取り戻せるかよ」
「そうか。俺は嘘はついてないけどな。じゃあ、また信用してもらえるように頑張るよ。……でもそれだと、白川のことも信じられないの?」
「そういうわけじゃ……」
バツが悪くなり、フンと余所を向く。そんな俺を見て村上は微笑んでいた。
「つーかセンセー、こんな状況でよく笑えるな…」
何か言い返したくて悪態を吐く。村上は微笑んだままハンドルを切り、家に着いた。
広いガレージに車を停めキーを抜き、それぞれのドアから車を降りる。
俺がドアに手を掛けた時、声が聞こえてきた。
「……お前が元気そうなのが嬉しかったんだよ。それだけだ」
村上の言葉は、たまにぐっと来る時がある。
その後村上は、病院に行く時のためにと後部座席の荷物を片づけていた。
「……先行くよ、センセー」
村上を残して玄関を開ける。
すると、部屋から廊下に顔を出す碧がいた。
「碧!」
反射的に靴を脱ぎ捨てて家に上がり、床にぺたりと座り込んでいる碧の前に膝をついた。
―――が、碧は俺と目を合わせず、小さな声で怯え切っているような返事しかしない。
不安が過りながら足に目を移すと、湿布の上からでも足首が腫れ上がっていることに気付く。
「………何これ、めっちゃ腫れてんじゃん。折れてる?」
「…ど、どうだろ?痛いけど、我慢できる範囲だよ」
だとすると、折れてはいないのか。
遅れて玄関を上がって来る村上に振り返る。
「センセー、このあたり整形どこ?」
「国道沿いにあるよ。白川は俺が連れて行く。浅野は、凛太君連れてって」
村上は最初から決めていたように言った。
凛太を?
「俺が?いいけど、………」
村上と碧が目を合わせている。……ただならぬ関係に見えて、若干イラついた。
「小児科は…内科と一緒になってるクリニックがあったかな。でも、今凛太君が眠れているなら、先に朝飯食うか、白川。診療時間内に行けたらいいから、少しは時間がある」
リビングに通され、村上が袋一杯のパンをテーブルに置く。
さっきから車ん中でいい匂いがしていると思っていたのはこれだったのか…
ま。パンはいいとして、凛太放置か?
「凛太は別室?ここ連れてきて寝かせていい?」
「――ああ、頼むよ」
村上がやけに素直に答え、碧が微笑んでいた。
碧と二人で客間に行き、寝ている凛太の顔を覗き込む。
額や首に手を当てると……熱っ!
熱が出るとこんな熱いもんか。……でも、苦しそうではないか。
凛太を布団ごとリビングまで移動させた後、碧とテーブルについた。
「うわあ~♡おいしそう~♡」
村上が買ってきやがったパンを見て、碧は女子らしく喜び、村上はコーヒーを淹れている。
「センセー、俺にもくれんのー」
「お前、何で拗ねてるんだ。いるなら食え。凛太君は…おかゆかな」
チッ。
大人の余裕をふんだんに見せつけてきやがって。
と、碧が並べたパンを見ると、すげーうまそうで、一つ手に取り袋を開けた。
「ありがとう、先生も…遥も………」
碧が、目を合わせず……俯きながら呟く。
……泣いてる…のか。
「碧は何も気にすんな」
碧のせいでもないのに、悪いのは親父だろ。
彼女がピンチなら、駆け付けるのも当たり前だし。
本心からそう言ったら、やっと碧と目が合った。目を真っ赤にして俺を見つめている。
すると、コーヒーを淹れていた村上から
「浅野はブラック飲めないだろ」と突然つっ込まれる。
「あ?何で知ってんだよ!」
答えたら、村上も碧も笑ってる。
確かに俺はミルクと砂糖はいるけど……そんな笑うことか?
………でも、碧が笑ってるなら、別にいいけどな。
「ふふ…仲良いね、ふたり……。……」
碧は、泣き笑いのような顔を見せる。
村上と俺が仲良しかどうかはさておき。
碧のクソ親父はブッ殺したいぐらい憎いけど、…俺が来た事で碧が、少しでも心が楽になれば。
何か一つでも役に立てたなら、それでいいよ。
急ぎ足で食べ終え、家を出る支度をしながら、「凛太、体温測った?」と碧に確認した。
「あっ、うん、39.4℃あってね、…保険証はこれで…身長体重はここに書いてて…」
と、碧は青い星柄のリュックごと俺に渡す。
「持病ある?薬は?」
「あ、軽い喘息で……お薬は、予防で飲んでるのがあって………えっと、これかな」
と、リュックのポケットから見覚えのある薬を見せられる。
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