【R-18】17歳の寄り道

六楓(Clarice)

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第5章、碧編

【5】窮地

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まだ、夜。


重苦しい何かを感じて目を開けた。






―――そこには。


義父が私の布団を剥ぎ、パジャマ代わりに着ていたTシャツの中に、顔を突っ込んでいる。


「―――っ!!」



恐ろしくて、声が出ない。
暗い中、部屋のドアをちらりと見ると、開いていた。

私、鍵をかけ忘れたの…?それとも、義父が開けた…?


今、私が起きていることに気付かれたら、逆上されるかもしれない。


凛太は……?寝室?

途端に嫌な汗が噴き出し、ドッドッドッと心臓が強く打ち始めた。



耳を澄ますと、布団のシーツが擦れる音の合間に、義父の荒い息づかいが聞こえてきて、身震いした。

今、何をされているのか把握できない。
服をめくられているだけなのか…



恐ろしい。
騒いで、殺されでもしたら―――。


そこまでされなくても、殴られたりしたら……凛太だって驚くだろうし、悲しむ。

母のいない、この日に。
なんて卑怯な男なのかと思うと、悔しくて涙がにじむ。

私、母の留守中に、この男に犯されるの?



寝ているふりをして、寝返りを打とうとしたら、義父は酒臭い息を撒き散らしながら、ついに私の乳房に触れた。

苛立たしいほどゆっくりと、乳房を撫でまわしている。
その手つきには気持ち悪さしかない。


……無理だ。


どうにか、机に置いているスマホで……





「碧ちゃん……起きてるの?」


義父が、耳たぶを舐め囁き、戦慄が走った。
声は出ないのに、体が勝手に震え出す。


「怖がらなくてもいいよ。優しくするから」

「い、いや……」

「本当?確かめていい?」

「あっ」

義父の手が、たやすくショーツの中に入った。


「いやっ、やめて、おとうさん…いや」

「あれ。濡れてるよ?一人でオナニーしてたの?」

「……っしてない」

「騒いだら、凛太が起きるよ?」


酒臭い。近寄るな。
何で私はこんな男に好きなようにされているんだ。

「……いたっ……」

義父の指が強引に私の中へ入り、快感の気配すらないそこを掻き回す。
私は、唇を噛みしめながら泣いた。



「碧ちゃんのあそこは若いから締まりがいいなあ…。ほら、クチュクチュ聞こえる?」


卑猥な言葉を存分に浴びせられ、義父の指は止まらない。
痛いんだよ、ヘタクソ!と心の中で叫ぶ。

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。

全く気持ち良くないのに、私が感じてると思いこんでいる義父はまともじゃない。


「ああ…勃起しちゃったよ。碧ちゃん、お口でできる?」


義父の甘い猫なで声に、ゾッとしながら首を振る。

すると、義父が鼻で笑った。




「お前に断る権利があると思ってんの?」

私の肩を乱暴につかみ、男臭いそこへ嫌がる私の顔を押しつけようとする。

「ほら。しゃぶれよ。俺に刃向えると思うなよ」



私は…こんなクズの言うとおりにしないといけないの…?
義父は、肩を揺らしクッと笑った。


「公園では、邪魔が入ったしね。……覚えてる?驚かせようとしたら、チャラいガキが出てきて、あー、碧ちゃんこんな男とセックスしてんのかって、がっかりしたな」


……公園?

……チャラいガキ?



私が顔を上げると、義父はまだ笑い続けながら、「春の日だよ」と言った。




春の……


遥に助けてもらった、あの時のパーカー男が―――。



「俺だよ。気付いてなかった?」


にやにやしながら、義父が私の肩を揺する。


「いいから咥えろよ。」


「…………」








逃げなきゃ。








私は、咄嗟に机の上のスマホを取り、震える手でどこかに発信した。

「お前、どこに掛ける気だ!貸せ」

義父が私のスマホを取り上げようと手を振り上げた。

「!」

頬をかすめたが、間一髪のところで避け、窓を開ける。


前にも、ここから飛び降りた。
―――遥と一緒なら、怖くなかった。


枠に足を掛けて、裸足のまま物置の上に飛び降り、庭に降りる。
義父はまさか窓から逃げ出すとは思っていなかったようで、しばらく呆然と私を見下ろし、すぐに私の部屋を出て階段に回ったようだった。

追いかけてくる…!?

凛太が残っているのが気がかりでならなかったが、とにかく身の危険を感じた私は、道路に向かって走り出した。


全力で走りながら、充電の切れそうなスマホを見ると、遥と通話がつながっていた。

『おい!何かあったのか?』

耳に当てると、遥の声が―――。


「は、はるか…」

『どうしたんだ?こんな遅く…もうすぐ3時だぞ』

「おっ、おとうさんに…襲われる……っ」


涙が次から溢れて言葉にならない。
遥は続けて何か私に話しかけるが、動転していた私は何も答えられず、かろうじて答えられたのは、今国道沿いの道にいることだった。

『そこにいろ!どっか店…は、ねえな、あの辺りは。ちょっと待ってろ!』

すぐに電話は切れた。
震えながら、裸足で走り続けた足を見ると、傷だらけになっている。
飛び降りた時に挫いていたのか、ジンジンとした痛みもある。

流れる涙を拭く事もできず、その場に力なく留まっていると、また手の中のスマホが鳴りだした。

“村上 浩輔”

先生からの着信に、慌てて電話に出た。

「先生…!」

『話は後だ。国道のどこあたり?今から車で行くから』

場所の説明をすると電話が切れ、ついに充電もなくなってしまった。


8月のこの夜もうだるような暑さだが、流れる汗は恐怖心からのものでしかなく、もうその場に立っていられなかった。

足が痛い。
息が……できない。

先生の車が来るまでの数分が、途方もなく長く感じた。


私の目の前で、シルバーの車が止まる。
何度も乗せてもらった、村上先生の車だ。

「……白川、大丈夫か」

その場に座り込んでいる私の前に、村上先生が片膝をつき、俯く私の顔を覗き込む。

「凛太置いて来ちゃった…」
「凛太?」
「弟を、置いて来ちゃった……」
「お父さんは弟にも危害を加えそうなのか?」
「……実の子だし、男の子だし…凛太には…何もしないと思うけど、おとうさん酔ってるから……」
「……わかった。何とかする。………怖かったな」

村上先生は、震える私に手を差し伸べ、ペットを撫でるように、私の頭を何度も撫でた。


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