【R-18】17歳の寄り道

六楓(Clarice)

文字の大きさ
上 下
42 / 128
第3章、碧編

【4】自立の階段

しおりを挟む
美咲ちゃんは大事に至らず良かったが、結愛ちゃんのことは…彼女が納得しているなら口出しすることではないけれど、きっと、遥はその事実を知っているから、結愛ちゃんを放っておけなかったのだろう。

そう自己完結をしてみたが、靄が晴れるには時間がかかりそうだった。

――もしかして…公園でのパーカー男も、あの大柄の先輩だったのかな?

いや、それだと遥が気付くか……


考えても答えの出ない問題を解いている気分になり、頭から振り払った。
もう、あの公園には行かないから、あんな危険に遭う事はない。

忘れていいのだ。あんなことは。


遥もバイトを始めるそうだ。
学校も、私立高校に転入するらしい。
遥のおばあちゃんの強い勧めだそうだ。

『来週からだって。だりぃー。自己紹介とかすんだぜ』

「モテないでね…」

『男子高だよ、バカ』

耳から聴こえる遥の声は、私の心のとげを温かく包んで、まあるく保ってくれる。
会っていないのに、遥を想う気持ちは前よりずっと強い。


「ただいまぁ」

バスを降りて家まですぐ。
玄関のドアを開けると、無表情で義父が立っていた。

「……あ、ごめんなさい…遅くなって」
「心配してたんだよ。ちゃんと家に連絡をいれなさい」
「はい…今度からします」

ヒモ男が父親のようなことを言うが、心の中は嫌悪感しかない。しかし、バイトを始めるにあたり、機嫌を損ねて反対されたくない私は、したたかに、殊勝に謝った。

「…あれ?お母さんと凛太は?」
「残業らしい。凛太は延長保育だそうだけど、もう帰ると連絡があったよ」
「そう……」

母の職場の近くの保育園は、20時まで預かってくれる。
が……義父って、家にいるとほとんど何もしていないように見える。

「食べなさい。お母さんが作ってくれてるから」

ご飯は、本当は私が作ってあげたい。でも、義父と一緒にいるのはやはり堪え難いものがある。

ソファに座る義父を斜め後ろから見、冷蔵庫に入ったサラダと鍋のシチューを温め直して、母もすぐ食べられるようにした。

途中から、義父のじっとりした視線に気づいていたが、負けるものかと半ば開き直ったように、大口を開けてシチューとサラダを完食した。

絶対に義父に屈しない。
卒業したら、ここを出て行くんだ。それまでは負けない。

じめじめとした梅雨が明け、7月になった。
遥や、小林先輩たちの姿もなくなったことには、もう誰も気に留めず毎日が過ぎている。

遥に付けられたキスマークはとうに消え、痕を残していない。そろそろ、気を張っていたのが緩み始め、遥会いたさに切なくなる日が増えてきた。


村上先生も、美咲ちゃんと私とを気にかけてくれている。
先日の観測会前は、高田部長と私、美咲ちゃんに、頂き物のプリンをくれた。「三つしかないから急いで食べなさい」と言われて、笑いながらかっ込んだ。

受験生の高田部長は、村上先生がやっている研究の道に進みたいらしく、進路の相談をしていたそうだ。

もうすぐ先生は、いなくなってしまうけれど……。
みんな、いろんな形で先生にお世話になっている。



東野君には、遥と付き合っていることを告げた。
遥の代わりに図書委員を引き受けてくれて、初めての当番の時間中に話したのだ。


「……そうかぁ…。薄々、そうかなーって…。あいつ転校前、必死で頼みこんできたんだよ。白川の連絡先教えてくれって。でも、白川もああいうのが好きだとは…」

と笑っていたが、何と、遥とは今もたまに連絡を取っているらしい。
遥は、私には何も言わないんだなぁ。



「いらっしゃいませ、こちらあたためますか?」

6月から無事始められたコンビニバイトも様になってきた。
バイトすることについては、意外にも母が「自分で稼ぎたいならいいんじゃない」と承諾してくれたのだ。但し、成績は落とさないこと、と。


あの優しそうなお兄さんは藤田さんという名前だった。このあたりではわりと名の知れた大学に通う21歳。
最近よく、誰か紹介してと頼まれる。

「ねえ、碧ちゃん。かわいい友達いない?」
「………何ででしょうか…」
「かわいい女子高生と話したいんだよー」
「彼氏持ちの友達しかいません…」

千晴は彼氏いるし。
美咲ちゃんは彼氏はいないが、最近高田部長と仲がいいのを知っている。淡い部内恋愛中の二人は羨ましく微笑ましい。


そんな毎日だが、夏休みに入るとすぐお給料がもらえる。
もらったらすぐに遥に会いに行くと決めている。

遥も同じ事を考えていたようで、すぐに会いに来ると言っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...