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第3章、碧編
【4】自立の階段
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美咲ちゃんは大事に至らず良かったが、結愛ちゃんのことは…彼女が納得しているなら口出しすることではないけれど、きっと、遥はその事実を知っているから、結愛ちゃんを放っておけなかったのだろう。
そう自己完結をしてみたが、靄が晴れるには時間がかかりそうだった。
――もしかして…公園でのパーカー男も、あの大柄の先輩だったのかな?
いや、それだと遥が気付くか……
考えても答えの出ない問題を解いている気分になり、頭から振り払った。
もう、あの公園には行かないから、あんな危険に遭う事はない。
忘れていいのだ。あんなことは。
遥もバイトを始めるそうだ。
学校も、私立高校に転入するらしい。
遥のおばあちゃんの強い勧めだそうだ。
『来週からだって。だりぃー。自己紹介とかすんだぜ』
「モテないでね…」
『男子高だよ、バカ』
耳から聴こえる遥の声は、私の心のとげを温かく包んで、まあるく保ってくれる。
会っていないのに、遥を想う気持ちは前よりずっと強い。
「ただいまぁ」
バスを降りて家まですぐ。
玄関のドアを開けると、無表情で義父が立っていた。
「……あ、ごめんなさい…遅くなって」
「心配してたんだよ。ちゃんと家に連絡をいれなさい」
「はい…今度からします」
ヒモ男が父親のようなことを言うが、心の中は嫌悪感しかない。しかし、バイトを始めるにあたり、機嫌を損ねて反対されたくない私は、したたかに、殊勝に謝った。
「…あれ?お母さんと凛太は?」
「残業らしい。凛太は延長保育だそうだけど、もう帰ると連絡があったよ」
「そう……」
母の職場の近くの保育園は、20時まで預かってくれる。
が……義父って、家にいるとほとんど何もしていないように見える。
「食べなさい。お母さんが作ってくれてるから」
ご飯は、本当は私が作ってあげたい。でも、義父と一緒にいるのはやはり堪え難いものがある。
ソファに座る義父を斜め後ろから見、冷蔵庫に入ったサラダと鍋のシチューを温め直して、母もすぐ食べられるようにした。
途中から、義父のじっとりした視線に気づいていたが、負けるものかと半ば開き直ったように、大口を開けてシチューとサラダを完食した。
絶対に義父に屈しない。
卒業したら、ここを出て行くんだ。それまでは負けない。
じめじめとした梅雨が明け、7月になった。
遥や、小林先輩たちの姿もなくなったことには、もう誰も気に留めず毎日が過ぎている。
遥に付けられたキスマークはとうに消え、痕を残していない。そろそろ、気を張っていたのが緩み始め、遥会いたさに切なくなる日が増えてきた。
村上先生も、美咲ちゃんと私とを気にかけてくれている。
先日の観測会前は、高田部長と私、美咲ちゃんに、頂き物のプリンをくれた。「三つしかないから急いで食べなさい」と言われて、笑いながらかっ込んだ。
受験生の高田部長は、村上先生がやっている研究の道に進みたいらしく、進路の相談をしていたそうだ。
もうすぐ先生は、いなくなってしまうけれど……。
みんな、いろんな形で先生にお世話になっている。
東野君には、遥と付き合っていることを告げた。
遥の代わりに図書委員を引き受けてくれて、初めての当番の時間中に話したのだ。
「……そうかぁ…。薄々、そうかなーって…。あいつ転校前、必死で頼みこんできたんだよ。白川の連絡先教えてくれって。でも、白川もああいうのが好きだとは…」
と笑っていたが、何と、遥とは今もたまに連絡を取っているらしい。
遥は、私には何も言わないんだなぁ。
「いらっしゃいませ、こちらあたためますか?」
6月から無事始められたコンビニバイトも様になってきた。
バイトすることについては、意外にも母が「自分で稼ぎたいならいいんじゃない」と承諾してくれたのだ。但し、成績は落とさないこと、と。
あの優しそうなお兄さんは藤田さんという名前だった。このあたりではわりと名の知れた大学に通う21歳。
最近よく、誰か紹介してと頼まれる。
「ねえ、碧ちゃん。かわいい友達いない?」
「………何ででしょうか…」
「かわいい女子高生と話したいんだよー」
「彼氏持ちの友達しかいません…」
千晴は彼氏いるし。
美咲ちゃんは彼氏はいないが、最近高田部長と仲がいいのを知っている。淡い部内恋愛中の二人は羨ましく微笑ましい。
そんな毎日だが、夏休みに入るとすぐお給料がもらえる。
もらったらすぐに遥に会いに行くと決めている。
遥も同じ事を考えていたようで、すぐに会いに来ると言っていた。
そう自己完結をしてみたが、靄が晴れるには時間がかかりそうだった。
――もしかして…公園でのパーカー男も、あの大柄の先輩だったのかな?
いや、それだと遥が気付くか……
考えても答えの出ない問題を解いている気分になり、頭から振り払った。
もう、あの公園には行かないから、あんな危険に遭う事はない。
忘れていいのだ。あんなことは。
遥もバイトを始めるそうだ。
学校も、私立高校に転入するらしい。
遥のおばあちゃんの強い勧めだそうだ。
『来週からだって。だりぃー。自己紹介とかすんだぜ』
「モテないでね…」
『男子高だよ、バカ』
耳から聴こえる遥の声は、私の心のとげを温かく包んで、まあるく保ってくれる。
会っていないのに、遥を想う気持ちは前よりずっと強い。
「ただいまぁ」
バスを降りて家まですぐ。
玄関のドアを開けると、無表情で義父が立っていた。
「……あ、ごめんなさい…遅くなって」
「心配してたんだよ。ちゃんと家に連絡をいれなさい」
「はい…今度からします」
ヒモ男が父親のようなことを言うが、心の中は嫌悪感しかない。しかし、バイトを始めるにあたり、機嫌を損ねて反対されたくない私は、したたかに、殊勝に謝った。
「…あれ?お母さんと凛太は?」
「残業らしい。凛太は延長保育だそうだけど、もう帰ると連絡があったよ」
「そう……」
母の職場の近くの保育園は、20時まで預かってくれる。
が……義父って、家にいるとほとんど何もしていないように見える。
「食べなさい。お母さんが作ってくれてるから」
ご飯は、本当は私が作ってあげたい。でも、義父と一緒にいるのはやはり堪え難いものがある。
ソファに座る義父を斜め後ろから見、冷蔵庫に入ったサラダと鍋のシチューを温め直して、母もすぐ食べられるようにした。
途中から、義父のじっとりした視線に気づいていたが、負けるものかと半ば開き直ったように、大口を開けてシチューとサラダを完食した。
絶対に義父に屈しない。
卒業したら、ここを出て行くんだ。それまでは負けない。
じめじめとした梅雨が明け、7月になった。
遥や、小林先輩たちの姿もなくなったことには、もう誰も気に留めず毎日が過ぎている。
遥に付けられたキスマークはとうに消え、痕を残していない。そろそろ、気を張っていたのが緩み始め、遥会いたさに切なくなる日が増えてきた。
村上先生も、美咲ちゃんと私とを気にかけてくれている。
先日の観測会前は、高田部長と私、美咲ちゃんに、頂き物のプリンをくれた。「三つしかないから急いで食べなさい」と言われて、笑いながらかっ込んだ。
受験生の高田部長は、村上先生がやっている研究の道に進みたいらしく、進路の相談をしていたそうだ。
もうすぐ先生は、いなくなってしまうけれど……。
みんな、いろんな形で先生にお世話になっている。
東野君には、遥と付き合っていることを告げた。
遥の代わりに図書委員を引き受けてくれて、初めての当番の時間中に話したのだ。
「……そうかぁ…。薄々、そうかなーって…。あいつ転校前、必死で頼みこんできたんだよ。白川の連絡先教えてくれって。でも、白川もああいうのが好きだとは…」
と笑っていたが、何と、遥とは今もたまに連絡を取っているらしい。
遥は、私には何も言わないんだなぁ。
「いらっしゃいませ、こちらあたためますか?」
6月から無事始められたコンビニバイトも様になってきた。
バイトすることについては、意外にも母が「自分で稼ぎたいならいいんじゃない」と承諾してくれたのだ。但し、成績は落とさないこと、と。
あの優しそうなお兄さんは藤田さんという名前だった。このあたりではわりと名の知れた大学に通う21歳。
最近よく、誰か紹介してと頼まれる。
「ねえ、碧ちゃん。かわいい友達いない?」
「………何ででしょうか…」
「かわいい女子高生と話したいんだよー」
「彼氏持ちの友達しかいません…」
千晴は彼氏いるし。
美咲ちゃんは彼氏はいないが、最近高田部長と仲がいいのを知っている。淡い部内恋愛中の二人は羨ましく微笑ましい。
そんな毎日だが、夏休みに入るとすぐお給料がもらえる。
もらったらすぐに遥に会いに行くと決めている。
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