【R-18】17歳の寄り道

六楓(Clarice)

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第1章、碧編

【6】恋

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自転車。昨日の場所には置きたくない……。
そう思った私の心を見抜いていたかのように、浅野君が口を開いた。

「帰りも送ってやろっか?」

つい、うんと言いそうになったが、口を噤む。
こんなに親切にしてもらっていいのかな?
昨日から、甘え過ぎている。

「悪いから、いいよ……」
「昨日の今日でここ来んの怖くねぇの?」
「……でも私、浅野君に甘え過ぎてるし……」
「……ま、無理強いしねーし。俺は歩いて帰れるから、ここまでついてきてやってもいいよ」
「悪いし……」

歯切れの悪い私を一瞥し、浅野君は自転車をとめながら言う。

「素直に甘えりゃいいのに。それか、俺に貸し作んのが嫌なら、言う事一個聞いてよ」
にこにこと笑顔で、提案を出してきた。

「どんなこと?私にできることなら」
「胸揉ませて」

浅野君はニヤーっと笑っている。

エロい発言だが、言いそうな事ではあったので、驚かない。
私が真面目に「………胸か……やだなぁ」と言ったら、「どこなら触らせてくれんの」とさらに突っ込んできた。

浅野君に触られてもいい場所か。
手をつなぐとか、ハグするとか。そういうことならできそうと考える。

「ぎゅってするのは?」と言うと、「何だよ、乗り気じゃん」と逆にうろたえているように見えた。

なんだ、胸触りたいのは冗談?
真面目に代替案考えたのに。
唇を尖らせていると、浅野君は私の前に立ち、両手で私を抱きしめた。

ぎゅうっと抱きしめられたら、表現できない感情が湧きあがる。
ずっとこうされててもいいくらいで、浅野君の匂いを目一杯吸い込んだ。

いい匂い。

私がじっと身を委ねているから、浅野君はおかしいと思ったらしい。

「ウソ、嫌がんないの」
「嫌じゃないもん」
「白川、もしかしてヤリマン?」
「・・・は?」

れっきとした処女なので、その誤解ははっきり言ってカチンと来た。
ぴったり抱き合っていた体を引きはがして、浅野君を見上げて睨んだ。

「したことないよ、そんなの」
「……ふぅん」

浅野君はそっぽを向いてしまい、それ以上聞いてくる事はなかった。

「浅野君はしたことあるの?」

ストレートに聞いたら、彼はとても困惑した顔をして「あるよ」と言った。


あるんだ。

…あ、そう。


デリカシーがなくて問題ばかりで関わりたくない彼に、昨日は救われた。
もっと近づきたくなっていた。

でも…誰かとエッチしたことあるんだ。
て言うか、今、もしかして彼女いたり?

思いの外優しくしてくれるから、ちょっと図に乗ってたな……。


「歩くのおっせ」

いつのまにか先を歩く浅野君が、私に声を掛けてきた。
駆け足で追いついたら、彼はまた前を向いて歩き出す。

頭の中は、浅野君の彼女(か、元カノ)はどんなだろう?でいっぱいで…

門の前まで着いたら、東野君が向こうから登校してきていた。

東野君が手を振ってきたので、私も明るく振り返す。
浅野君は興味なさそうな顔をして、先に下足室に向かった。

「おはよ、…浅野と一緒に来たの?」
「うん」

隠すのも変かなーと正直に答えたら、東野君は露骨に嫌そうな顔をする。

「やだな…」
「えー、何で?浅野君いいひとだよ」
「何でって、…わかんない?」

じいっと瞳の奥を覗き込むように問われて、心臓が跳ねる。
パッと目をそらしたら、東野君はふっと笑顔を見せ、私の隣を歩き出した。

歩幅を合わせてくれながら下足室に着き、私は自分のネームプレートが入っている上の方の靴箱を開け、東野君は下の方にある靴箱を開く。

少し背伸びして上靴を取ると、東野君の髪がスカートの先に触れた。


「あ、ごめん」
「ううん。中は見えなかったから大丈夫だよ」

パンティーは見えなかった……と。
東野君もそんなこと言うんだな。
そんなに、ミニスカートにはしていないのだが。
その瞬間、「白川さんはみんなのオナペットだ」という浅野君の発言を思い出した。

「東野君は彼女いるの?」

さっき、浅野君に聞いたのと同じようにストレートに尋ねたら、東野君の顔が耳まで真っ赤になった。

「……いないよ。なんでそんなこと聞くの……」

明らかにドギマギしている東野君に、じゃあエッチはしたことあるのかと尋ねたかったが、嫌な思いをさせてはいけないと踏みとどまった。

昨日まで意識していた東野君なのに、彼女がいるかどうか聞くのも、なぜか平気になっていた。
感情がガラリと入れ替わってしまったようだ。

それにしても、東野君彼女いなかったんだなあ。
女子校の可愛い子と歩いていた噂もあったのに、別れちゃったのか、デマだったのか…

その後、授業が始まっても、浅野君の姿がない。
何やってるんだろ?朝、一緒に登校したはずなのに。

家に帰っちゃったのかもと思っていたら、今年度初のHRの時間だった。


「遅くなったけど、生徒会立候補者と、委員決めます。やりたい人いませんか、推薦狙ってる人どうですか」
と、村上先生が立候補を募り、くすくすと生徒の笑いを誘った。
それでも、誰も手を挙げない。

すると先生は、去年学級委員だった東野君を指し、司会を任せて椅子に座って傍観し始めた。


学級委員を始め、各委員会2名ずつの選出となる。

図書ならやってみてもいいかも。
本は好きだし、放課後当番のときは早く帰らなくて済む。

誰も手を挙げない状況で、ドキドキしながら挙げてみた。
「白川さん」と、東野君に当てられて、立ち上がった。

「図書委員に立候補します」

東野君が、黒板に私の名前を書き終える前に、一番後ろから声がした。

「俺も、図書委員?やります」

浅野君が手を挙げていた。

えっ・・・、と浅野君に視線を送ったら、一度ちらりと私と目が合ったのに、ふいと逸らされてしまった。

図書委員では、他に立候補者は出なくて、浅野君と私に決まった。
生徒会立候補者は出ず、他の委員会も名前が埋まってゆく。
千晴は保健委員に立候補していた。


◇◇◇◇◇


放課後、浅野君を探したが、いない。
一体どこ行ってるんだろ?

「白川!帰るの?」

部活に行く途中の東野君に声を掛けられて立ち止まった。

「東野君、浅野君知らない?」
「……知らないけど……図書委員、浅野と一緒にするって決めてたの?」
「ううん、別に……」
「……そ。」

また、東野君は腑に落ちない顔をしていた。


「涼太ー。部活行こうぜー。あっ、碧ちゃん!今日もサッカー部見るの?」

普通科で、サッカー部レギュラーの三浦君が東野君を呼んだ。
ほぼ交流のない他科の生徒だが、、明るい彼は気さくに声をかけてくれるし、名前で呼ばれても嫌な感じがしない。
部活をすると、他科の子とも仲良くなれて楽しそうだ。

「じゃあ、行ってらっしゃい。がんばってね」

と、東野君の腕に少し触れると、東野君の難しい顔が綻び、「うん」と笑ってくれた。

遠のいて行く後ろ姿をしばし見送った後、再び浅野君を探しに校内をめぐる。





はあ、はあ。

走りながら探していたから、息も切れてくる。
浅野君、ぜんっぜんいないんだけどー……!

いつも、こっそりひとりでサッカー部を見ている場所辿りつき、窓を開けて運動場を見下ろした。

若葉の瑞々しい香りが風と共に窓から入り、髪がぱらぱらと乱れる。

浅野君、自転車の鍵…持ったままだし。
歩いて帰るしかないかぁ、と窓の桟に肘をついて、サッカー部のウォーミングアップを見ていた。
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