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精霊王 3

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 こうして献身的に仕えてくれるだけではなく、アルノーとの関係性について悩んでいたら、それをフォローするように動いてくれたりするのだ。自分がやらなければいけない事なのに、彼女たちが動いてくれるというのは少し罪悪感はあれども、今彼に会ってもうまくやれる気がしない。

 助かっている以外の何物でもない。

「……そうね。ありがとう二人とも、いつも助かってます」
「どうされたのですか?突然。当たり前のことをしているまでです、ね、姉さん」
「そうです……フィーネお嬢様とアルノー様はまだ難しい関係なのですから、無理することは無いのですよ」

 当たり前といわれても、前の側仕えであったロミーと比べてしまうと、そんな風には思えなくて、しかし、彼女たちに前の側仕えはそんな風では無かったと、ロミーの事を悪く言うのは違う気がして、曖昧に笑顔を見せる。

 それから、そんなに顔や行動に出ているのだろうか、と頬に触れてみたりした。

「そう言ってもらえるのはありがたいけれど、ずっと避けるわけにもいかないわよね。なんとか普通に接したいと思うし……そのアルノー様の心情も気になるのよ」
「焦らなくてもいいんですよ。わ、私の見立てでは、アルノー様はフィーネお嬢様にぞっこんですから」
「姉さんもですか?私もそう思いますね」

 なんだか、恋愛の相談に乗ってもらっているような感覚になりつつ、フィーネは、そうなんだろうかと首をひねる。たしかに、あの人はそれらしいことをいう事があるし、とにかくフィーネの害になることはしないのだとわかってはいるのだが、だからこそ不安なのだった。

「理由が分からないんです。その感情の根源がどこにあるのかわからなくて……」

 わりと、今の状況を気楽にとらえている侍女二人に、フィーネはより深刻そうな声音で言った。

 その言葉に二人は、顔を見合わせてお互いに小さく笑いあう。

「愛情なんてそんなものではないですか?」

 レナーテがいつものきりっとした表情を崩してフィーネを安心させるように言う。

「め、明確な理由なんてある方が珍しいぐらいですよ」
「そうかしら。……でも腑に落ちないというか」
「ふふっ、では、腑に落ちたら、もし理由がわかったら、フィーネお嬢様はアルノー様のお気持ちを受け入れるんですか?」
「……どうかしら、わ、わからない」
「結局、慣れていって、ゆっくり受け入れる以外ないのではないかと思いますけどね」

 エレナがそんな風にアドバイスをくれて。確かにそれが一番確実であり、普通に考えたらそうなのだ。しかし、それでもやっぱり初対面の時からある違和感がフィーネの心の中には残っていて、大切な話とやらを聞くために彼と会う約束を立てなければならないのに、気が進まない。

 ……わからないというのは、怖くて、それにアルノー様に合わせる顔がないし、第一まだ何も終わっていないし、やることだってたくさんあるし。

 そんな風にグダグダと言い訳が出てきて、フィーネは、しょんぼりした。

「アルノー様もそれは理解されていると思いますよ、ですから、次の休暇まで待ってもらえるように、交渉してまいりましょうか?」

 はっきりとしないフィーネに、レナーテが提案する。おもわず、反射でお願いと言ってしまいそうだったが、そういう訳にもいかないだろうと、思い直す。

「そんなことをレナーテに頼むなんてできません。アルノー様にレナーテが怒られてしまうかもしれませんし」
「あら、主を守るのも側仕えの務め、いつもはなんでもこなす主が、困っているのなら私たちの出番でしょう」
「出来るところは、楽をしてもいいんです。フィーネお嬢様」

 そう微笑む二人に、頼れる従者というのは、こういう人たちの事を言うのだなと、納得しつつ、そうさせてもらおうと思う。

 じゃあ、お願いと、言うために彼女たちを見上げる。しかし二人は、フィーネではなく、その少し上を見ていて、風がフィーネの髪をさらってふんわりと持ち上げる。

 ……???

 髪を押さえて振り向くと、一番大きなメインの窓が開けられていて、木の枝を足場にして、大剣を腰に携えた騎士がにこっと笑ってフィーネの方を見ていた。

 その騎士は一応フィーネと面識のあるフォルクハルトであったため、混乱しながら会釈をした。

 するとフォルクハルトは、窓の小さく開いた部分から手を入れて、がこっと鈍い音をさせながら、窓枠を外した。

 それは空中に放られて落ちていく。それをフィーネは視線で追って、自分に伸ばされた手に気が付かずに簡単に捕まってしまう。

「ッ、」

 襟首を引かれて窓の外に引っ張り出される、その行動に既視感を感じつつ、咄嗟に、フィーネをとどめようと手を伸ばしたエレナの手に、伸ばせば届きそうだとわかった。しかしそれではきっと、フィーネとともに窓の外に引っ張り出されて、エレナが危険だと判断し、ふっと小さく息をついて落ち着いてから声を出す。

「フォルクハルトが、連れ去ったっと、アルノーさまにっ、つたえっ」

 途中まで言ったところでフィーネは俵のように担がれた。そのせいで腹が押されて、言葉に詰まる。

 あっという間に浮遊感がして、いつのまにか地面だった。ガシャンと落ちた窓が割れる大きな音がする。

「は、離してっくださ」
「喋ると舌噛むよ~」

 言ってすぐにフォルクハルトはフィーネを担いだまま走り出した。それはフィーネが全力疾走するよりも早く、揺れも酷い。

 抵抗したら振り落されて地面と衝突しそうで、フォルクハルトの衣服にしがみついて、落ちて大怪我をしないように気を付けるのだった。



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