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新しい居場所 9

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 フィーネは悪くない。きっといま必死で、フィーネと最後にした会話を思い出してフィーネを捕まえる情報がないかと探しているロミーの頭の中をのぞいた。

 見えたのは、深夜の記憶。フィーネはロミーに傷心旅行に行くと嘘ついてトランク二つしか持たずに迎えの馬車に乗った。しかし、そんなフィーネにロミーは、若干の良心が痛んだのか、もしくは、今までやってきたことがバレているか心配になったのか、実は知っていたけど言えなかったなんて都合の良い事を言った。

 そんな程度ではないくせに、協力的なふりをして、フィーネを陥れていたくせに。

 しかし、フィーネはやっぱり、ロミーの罪悪感を消してやるために許すといった。そんな声に、やっぱりロミーは自分のやったことには気が付かれていないのだ、彼女はまた間抜けな顔をして戻ってくると確信して悠々と屋敷に戻ったのだった。

「ねえっ、どうするのっ!!母さまっ!!姉さまどこに行ったの!?私の計画は!!」
「知らないわよ!!分からない、分からないけどっ、……これが知れ渡ったら……」
「なによ、どうなるっていうの?駄目になるの?でもいいじゃない、いなくたって、別に、それに帰ってくるわよ、姉さまが私を置いてくはずないもの、許してくれるはずだもの!!」

 たしかに、この事実が王族の方にまで知られてしまえば、いくらベティーナとフィーネの立場を入れ替えるなんていうとんでもない作戦を決行しようとしている王族であっても、フィーネが誰かを頼って、どこかに身を寄せているということが簡単に想像がつく。
 
 そうなると、匿っている人によっては厄介な事態になるのだとわかるだろう。

 計画は見送りになる可能性が高い。

「なんでそんな深刻そうな顔するの??ありえないでしょ、あの姉さまよ。あの人どんなことがあったって家出したりしなかったじゃない!!私のところに帰ってきたじゃない」
「黙って」
「姉さまは私が一番大切だって言ったもの!!私を邪魔するなんてありえないの!!」
「だまりなさい!!」

 母親の怒号にベティーナは、怒鳴り返したかったが、大喧嘩に発展した時に、一人で二人を落ち着けるためにサンドバックになってくれる丁度良いフィーネはもういない。

 仕方がないのでベティーナは少しだけ黙ることにした。

 こんな歳ばかり取って、汚いおばさんの言う事を聞くのは癪に障るし、フィーネだったらベティーナの気持ちを受け止めて、落ち着かせてくれるのに、と自分の姉に会いたくなった。

 歳だって同じで、身長も同じぐらいだけれどもベティーナにとってフィーネは、なによりも誰よりも、本当はそばにいてほしい頼れる人物だった。

 環境のせいで歪みに歪んだ愛情は、姉を手に入れる男から、姉の立場奪い、姉ごと手に入れたいと願うほどに。

 疑う事のない愛情を与えてくれた、同じ歳の家族を、これからもずっとベティーナのわがままを聞いて、ベティーナを一番に大切にして人生を掛けて幸せにしてほしい。

 そんなベティーナの考えをカミルは読んで、殺人でも見てしまったような気持になった。それはつまり、とにかく嫌なものを見てしまったという意味であり、他に例えるなら、浮浪人に施しをあたえたら、元気になったそいつに強盗に入られたという事件を知った時の心地をというか。

 ……最悪。

「……ベティ、このことは誰にも言わない事にしましょう」
「どういう事?」

 ビアンカは、冷静さを欠いた青い顔でロミーをひっぱたき続けるベティーナに言うのだった。

 手をぶるぶると振るわせてビアンカは、復讐に怯えながら、空想に走った。

「フィーネは貴方に甘かったもの、きっと大丈夫よ。帰ってくるわ、そうでなくても貴方の邪魔なんかできないわよ。デビュタントの日にハンス殿下にいなくなったと伝えればいいのよ、そうしましょう?」

 とんだ愚策だったが、ビアンカにはわかっていた。この計画はフィーネにばれた時点で終わるのだと、それに、彼女は、ベティーナよりも常識的だった。

 だからひたすらに、フィーネには、洗脳のように仕方ないと思わせるようなことを言い含めてずっと育ててきた、時には厳しく当たったが、それでも彼女自身のプライベートを犯すようなことはしていない。

 フィーネは、優しいが馬鹿ではない。何かしらの手を打ってくるだろう。

 それが、フィーネの母親のエルザの名前を使って豪遊してきたビアンカの首を絞める事になるのか将又、どう考えてもやりすぎていた娘のベティーナに向くのかそれは、高確率できっと娘の方に向くはずだ、と希望的な観測をした。

 そしてどうにでもなれと、フィーネが何もせずにこのまま社交界からも消えてひっそりと過ごしてくれることを望みながら、この事態を協力者に伝えないということに決めた。

「……それで何とかなるの?でも、姉さまは?私の姉さまは?探しましょうよ、いなくていいわけないじゃない!!!!」

 ビアンカの提案にベティーナは癇癪をおこして絶叫して喚き散らした。

 それに反応するようにビアンカも叫び始めて、人間じゃないなとカミルは思った。

 ロミーがひそかに、居室の出入り口へと向かって足を引きずりながら逃げようとしている。これからどこかに逃亡する算段でも立てるのだろう。

 ……痛い目に合えばいい。

 カミルはフィーネの大切な侍女だから、今までやらなかったことをやった。

 風を操って、ロミーを派手に転ばせたのだ。そうすると、二匹の獣とかした二人が逃げ出そうとしたロミーに気が付いて、意味の分からない言葉を発しながら物を投げたり殴りかかったりするのだった。

 ロミーの安否などどうでもよくて、カミルは部屋を出て、この屋敷に入る前より随分すっきりした気持ちでタールベルク伯爵邸を出た。

 お屋敷はまだ壊れていないけれど、それも時間の問題だろう。たったの一週間で、中身はぐちゃぐちゃだ。やっぱりフィーネがいない事には上手くこの屋敷は回らない。

 それがわかっただけで、カミルの気持ちは晴れやかだった。





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