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本当の家族 6

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『それに、なんとなくわかったよ?君が助かったその後の事について、気にしてるんだね。とくに、君の大切なベティーナの事!』
「ええ……」
『そんなのさ、気にしなくてもいいんじゃない?君はアルノーとどううまくやるか考えてればいいでしょ、その方がずっと建設的』
「そうもいかないのよ。それに、前の記憶から考えると、ヨーゼフ国王陛下が病床に伏せることになって、その後にも続く魔物の襲撃事件に対応することになるのは、ハンスとベティーナよ。あの二人が、自分たちの不利益なることを認めてきちんと対策をとれるとは思えない、政が傾けば国も傾く、アルノー様の元へと嫁げたとしても、この国という基盤があってこその貴族の暮らしだと私は思うの」
『…………』

 ハンスとベティーナをメインに据えた政治に未来があるようには思えなかった。有能な人材がいればいいが、プライドの高いハンスと、ああしてまだまだ幼いベティーナがその意見をきちんと取り入れることができるとは考えづらい。

 そう、遠くない未来に破綻することが予想できる。前のフィーネの記憶の終盤では、ほとんどベットで過ごしている記憶しかなかったため、フィーネは国がどんな状況になるのか知ることは出来なかったが、そう予想していた。

 きちんとテーブルに花瓶を戻して水を足し、花を丁寧に生ける。

 それから座り直したフィーネにカミルは、少し感心していた。あれだけの少ない情報から確かに未来に起こったことを予測して言い当てたフィーネに、今まで開示しなかった情報を彼女にならいっても問題ないだろうと思う。

 本当は、記憶を持ち越して過去に行くときに、みだりに情報を渡すことの危険性を精霊王から言い含められていたので、未来の出来事を知りたいというフィーネに、彼女が了承しないであろう方法を上げたりしていたのだが、ここまで予測しているのなら、もう言っても言わなくても同じだと思う。

『その通りだよ。……君が懸念していることは未来に起こる。何も行動を起こさずにいればきっと同じことになる。君は……どうしたいって望んでる?』
「え?……急ね。未来のことについて話をしてくれるなんて」
『大方を言い当てたんだから、僕が言っても言わなくても君はそれを想定して動くんでしょ?なら、悩む時間の短縮。君は、あの人とベティーナが不幸になると知って、どうしたいと望むの?』
「……望み……」

 そう言われてもフィーネには自分が何かを解決できるとは思えなかった、精々、ベティーナができるだけ大人になれるように甘やかさないぐらいしか考えられない。

『助けになってやりたいと望む?』
「助け?……助けって、例えば、陰からあの人たちの問題を解決したり?」
『方法は色々でしょ。君が得意な事でもいいし』
「……」

 フィーネが得意なことと言われて、一番に思いついたのは、調和師の力の事ではなく、物事の筋道を通して考えて対策をたてたり、出来ることを模索することだった。

 王妃としての資質として、必要なのだと言われ、ずっと学んできた力であり、それはフィーネの中で獲得した唯一誇れるものだった。

「でも、それをしてあげてあの人たちは、私のいう事を聞くかしら」
『さぁ? でもやってみたらいいんじゃない、そうやって悩んでいても、ベティーナが急に君みたいに沢山の事から答えを導く力を持てるわけでもないし、魔物の襲撃は変わらないでしょ?』
「……たしかに」

 ……それが、私がベティーナにしてあげられること、なのかもしれない。

 やって彼女が素直に受け止める確率、それをハンスが了承する確率、そういう事まで無意識的に考えてやっても意味がないと思っていたことでも、それをやるという行為には確かに意味があるように思えた。

 フィーネは後ろ盾を得た。その分より良い方向に、進むよう行動をするべきである。それがたとえ、意味をなさない事だったとしても、それを分かっていてもやるような自己満足をフィーネだって持っていい。

 その結果、分かり切った未来が来た時に、やれることはやったと思えるように。

 ……でも、じゃあ、それをやるということはベティーナを見捨てる準備になってしまうのではないの?

『考えすぎ!そんなのその時の感情で決めなよ。まったく君はさー』

 急に考えを読まれて、それも確かにと思えたので、魔物の襲撃についての対策案でも作って父の名前で提出してみようと、前々から薄っすら考えていたことを実行に移す決意をした。

 ……その書面を出すときに、ベティーナにお使いを頼んでハンスにも目を通してもらうようにするべきね。

 簡単に算段を頭のなかで立てて、その対策案についてのロジックを組み立てていると、ガチャっと控えめな音を立てて扉の開く音が聞こえてきた。

 ベティーナが頭を冷やして戻ってきたのだろうと思い、フィーネは急に自身の心情の変化からベティーナに厳しい事を言ってしまったことを謝罪しようと申し訳なさそうな顔を作って、扉の方に目を向けた。

『あ、マリーじゃん。来ると思ったよ』

 なかば呆れたようにカミルが言って、ふと姿が消える。どういう意味の発言だったか問い詰めたかったのに、真っ白な衣装に身を包んでいるマリアンネと目がばっちり合ってしまってそんなことも出来なくなった。

「……こんばんは、であってる?なんかこう、やった方がいい?ごきげんよう、ウフフって」
「…………あ、ええと、ノックをしてほしかったわ、せ、聖女様」
「やめてよ。そう呼ばれるの好きじゃないし、マリーでいいよ。フィーネ……さま?」

 小首をかしげて言われて「フィーネでいいわ」と反射的に返した。すると、昼には見せなかった笑顔で「わかった」とマリアンネは答える。そう会話している間にもマリアンネはフィーネの部屋へと入ってきて、白いドレスの裾を揺らして、フィーネのそばへとよる。

 フィーネよりも少し薄い髪色が純白のドレスによく映えていて、ハーフアップにしている髪にも、白いレースが編み込まれていた。可愛らしいその姿をじっと見降ろしていると、マリアンネは小さな口で弧を描くように微笑んだ。



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