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愛情の形 5
しおりを挟む愛している。フィーネにとってその気持ちは今の前のフィーネの記憶を手に入れても、まったくもって変わらない真実だった、しかし、関わり方については変える必要があるのではないかと感じ始めていた。
考えながらフィーネはベットの上で、ガラスの箱に祈りをささげる。中身は空っぽで、一つの面に小さなひび割れが入っている。その虚空に向かって魔力を注げば淡い光が部屋を照らし、暗い自室に光をともす。
小さな光はくるくると渦巻いて消えていく。この祈りは、実益は無く慣習のようなものだと理解していたが、魔法の根源はここからきているのではないかという仮説がフィーネの中に最も有力な説として浮上しており、早速実践しているところなのだ。
調和師の家系である母から受け継いだ物は、多々あったが、それらしい知識はこれ以外は与えられていない。こうして、祈りをささげることによって使える力なのだとしたら、祈っておいた方がいいに決まっている。
しかし、もし、この力が、人に宿り始めから使用できる量が決まっているものの可能性も大いにある。けれどもいつ使うかわからないのならいのなら祈っておくことに損はないはずだ、と帰り道を歩きながら決めたのだった。
だからあの時間は有意義なものであったし、外出を碌にしないフィーネにとって、街並みを眺めながらの散歩は頭の中をスッキリさせるのに持ってこいだった。
けれども、かかとの靴擦れは、包帯を巻いていてもシクシクと痛んで主張する。
これほど痛むのはサイズの合っていないベティーナの買ってきたあのヒール高いの靴を無理して履いたことが決め手になっていた。
……でも、サイズがあっていなかったのはきっとわざとではなかったのよ。だってあの子、人に贈り物なんて滅多にしないもの。
それ以外のことは、仕方のない事とは言えないのをフィーネはあまり考えたくなかったが、悪意ではないにしろ、心のどこかで確信はあったはずだと思う。
……あの子は、少し、自分の考えていることをきちんと理解するのが苦手なんだわ。
今日のロジーネとの対話をえてフィーネはそう感じた。彼女は女性であったとしても、きちんと自分の感情を処理する事ができていたし、何より理性的であった。フィーネの分析癖も理解して、反応を返してくれた。
本来、人と人というのは、正常な理性を働かせたうえで接しあうのが正しいはずだ。もちろん、そうできない時があってはいけないというわけではなく心がけの問題だ。
しかしそれがベティーナにはまったくない。感情的に動いて、その感情も言語化できないほどなんとなく認識して行動する。
今日のプレゼントについてフィーネは、あの高いヒールがベティーナのどんな感情に由来した物だったか想像がついている。
ベティーナはそんな高いヒールをフィーネが履きこなせない事を知っていた、そしてそんな靴では沢山歩けない事も知っていた。だから、警告なのだと思う。きっと今日と同じことをフィーネがしたら、また同じようにするしそれは困るでしょうというベティーナの遠回しな。
釘を刺されたと言い換えてもいい。しかし、そんなどす黒い感情は、自分では認められないし何よりベティーナ自身の自己評価に反する、だから、思いやりゆえにという綺麗な感情をかぶせたのだ。
だからこそそれを拒否をすると、ベティーナは癇癪を起すのだ。こんなに思いやっているのにそんな思いやりを受け入れられないはずがない、と。しかしそれは防衛反応に近い、彼女自身がその裏側にある醜い思惑を、まったくなかったことにするために、その思いやりをフィーネから感謝される必要があるから。
だから、その通りに返した。その恐ろしい無意識の行動の意味をフィーネもわからなかったふりをして。
……というのが今回のベティーナの考えのように思うけれど、まったくの偶然で私の考えすぎの説も濃厚よね。でも確かに言えることは、ベティーナはすこしやり過ぎたとは思っている。
なんせ彼女はそう思った時にフィーネにいつも愛しているかと問うからだ、だから、今回もその説で間違っていないと思う。
……幼いころからそうなのよ。あの有無を言わせない問いに、私はいつも愛していると言ってしまう。そうしてあげればベティーナの中でやってしまったことが正当化されて、前の私のような結果になってしまうのに。
すこし、前の記憶を思い出してみる。
フィーネを死にまで追い込んだのに、ベティーナはまったく罪悪感を感じている様子はなく、むしろ今までのようにフィーネが愛しているを言ってくれなくなって正当化のできなくなった彼女は、どんどんとその行動を過激にさせていった。
フィーネが壊れていくのと同時にベティーナも壊れていっているのが記憶の中から伺える。
だから、この関係もどうにか改善しなければならないのだが、その力は今のフィーネにはない。しかし自分の地位を奪われないようにするだけでなく、その問題とも真摯に向き合うべきだろう。
わかってはいても解決策は簡単には思い浮かばなくて、首をひねった。
そんな中、祈りを込めているガラスケースにふわっと光が反射して、視線を上げてみると、仏頂面のカミルが、フィーネのベットに伸ばした足の上に馬乗りになるように現れて、フィーネは突然のことに面食らって祈りをささげるのをやめた。
『……』
魔力の光が無くなると、暗闇の中で薄っすら光るカミルの光だけが光源になり、彼が跨っているふくらはぎの部分に視線を落とすが、まったく重さを感じない。枕を背もたれにして上半身を起こしていたのでこんな状態になっているのだが、カミルはどく気配がなく無言なので、なにか機嫌を損ねることをしただろうかと考えつつ声を掛ける。
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