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「貴方も飲めるなら付き合いなさい、ロイ」
「ええ、承知しました」

 部屋に戻ったリディアは、ティーテーブルに腰かけて、祝杯をあげた。

 ああして仕返しをするために、何度かお酒を飲んでみたが、自分はそれほど強くないという事を知っているので、一杯だけにとどめるつもりだ。

 本当なら、あの場で必要なことを言うためにきちんと飲んで、オーウェンにも同じ思いをさせてやりたかったのだが、彼らを圧倒するほど飲めるわけではないので、常にノンアルコールのぶどうジュースをロイに注いでもらっていたのだ。

 作戦は大成功、今までの苦痛のすべてとは言わないが、仕返しはできただろう。

「常に偉そうなオーウェンの最後の顔、最高に良かったわ。協力してくれてありがとう、ロイ。貴方はとっても優秀だわ」

 お腹は水分で苦しかったが、勝利の美酒とやらの味を知っておきたかったので丁度良い。

 慣れないアルコールの風味はあまり嬉しいものではないけれど、なんだかおいしい気もした。

「いえ、リディアお嬢様の為ですから当たり前の事です」

 言いながらも彼は向かいに座って、自分で注いでワインを呷る。

 彼がいなかったら、説得力のある材料を集めるのに苦労しただろう。

 金銭を支払っているとはいえ、ここまで尽くしてくれる人間もなかなかいない。これからも彼を大切にしていきたいところだ。

「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。その調子でこれからも頼むわよ。新しい婚約者がどんな人間でもこの家を守って見せる……流石に二度目の婚約破棄は結婚に響くもの」
「……」
「どうかしたの?」

 どこの誰がリディアの婚約者として名乗りを上げるのかと、見当をつけていたが、リディアの声に珍しくロイは答えず、さらにお酒を煽って、それから少し赤らんだ顔をこちらに向けた。

「……あの、リディアお嬢様」

 どうやら相当弱いらしくすぐに酔ってしまったらしい。ここまで弱いとなると下戸という部類に入るだろう。

「なに?」
「その婚約の相手、私ではいけませんか?」
「……」
「ずっとお慕いしておりました。その動じない姿勢も、気の強い所も、好いております。クラウディー伯爵には、自分で直談判します。どうか……私を受け入れてくださいませんか」

 目が潤んで、頬が赤い。彼が真剣だというのもわかるし、そういう気持ちがあったのかという驚きもある。

 しかしそれと同時に、打算的なことを考えた。彼の実力や家同士の兼ね合い、家格のつり合い、瞬時に考えて、父は了承すると踏んだ。

 ……できないことは無いでしょうね。男爵家とは懇意にしているし。経済的に苦しいときに助ける形で、ロイを雇ったけれど領地の事業が成功してから男爵家は上り調子ですもの。

 総合的に考えて、良いと評価したが、リディアはロイ相手なのでつい気を抜いておちょくるように言った。

「それは、酒の席での戯言かしら」
「……違います。飲んでません。飲めませんから、ですが付き合えと言われましたので、貴方様に振る舞った物を拝借しております」
「でも、顔が赤いわ」
「羞恥心からです」
「……なるほど」

 化粧で頬を赤らめていたリディアとは違って、彼は普通に羞恥心を感じると赤くなるらしい。

 そんな風になるほどに、リディアの事が好きらしい。

 ……けなげね。

 彼の告白にそんな感想を持ってから、小さく笑って「良いわよ、よろしく。ロイ」と短く返した。

 そのとてもさっぱりした返事でも、ロイは心底嬉しそうに、無邪気に喜んだのだった。




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