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36 できること
しおりを挟む理性をすべてとかされて頭の中がお花畑になった僕はそのままぐっすりグレンの部屋で眠った。
そして眠ってすぐ、冷や汗をかきながら覚醒して息を殺してグレンの部屋を出た。
グレンがそれに気が付いていたのかどうかはわからないが、引き留められるようなことはなく、屋敷に戻っても姉さまは自分の部屋に引きこもっている様子だった。
中を覗こうかとも思ったけれど、もしかしてバルトロメウスがまだいるのではないか、そうであったら邪魔をしてしまう。そう自然に思えて、一夜を過ごし、頭が幾分スッキリした。
僕ってばグレンと結ばれたのかとか、恋人になったのかとか、頭の中は幸せ一色で、ああこれは色恋ボケしているなと自分でも思う。
しかしわかっているからこそ、思い直して考えることにした。
グレンがあそこまで言ってくれて、僕を引き留めてくれて、彼に言われた二人とも幸せになれるのかという問いに僕は頷くことができないと気がつかせてくれた。
だから方法を変える必要がある。投げやりでない方法を選ばなければ、だって、まぁ、自分にだって人生がある。と、罪悪感から取らなかった選択肢を選び取ることができた。
……グレンが思いを打ち明けてくれて……よかった。
素直にそう思う。しかし、それを言って何もかも忘れて頭をピンクにできるのはもう少し先だろう。
やるべきことはいろいろあるし、原作も終わっていないし。
……ま! それに何より、僕付き合うとか……グレンと付き合うとかよくわっかんないし! いまだにグレンの僕に対する好意とか処理しきれてないし!
イチャイチャとかできるわけもないよね!
え、だってこんなに都合よく僕に惚れてくれるとかマジで? ま! 気持ちはわかってんよ! とにかく大事には思ってくれてるよね! いなくなるのは駄目だって思うぐらい。
だからそれは答えるけど……いろいろ終わったら向き合うから、今はね、今は僕も僕のやることをやるだけだ。
そう結論付けて僕はフィルに声をかけた。
それは、このルートの大まかな流れを変えるためだ。
僕は学園内にある庭園のガゼボにルシアを呼び出していた。彼女とは直接面識はないので、フィルに頼んで折り入っての相談があると伝えてもらえば彼女は快く受け入れて僕の指定した日時にやってきてくれた。
放課後、午後の日差しがちょうどよく過ごしやすい時間。庭園にはそよそよと秋の風が吹いていた。
フィルは少々警戒している様子で、ガゼボに置かれたテーブルセットにつきつつも、チラリと僕のことを見る。
お茶の準備を連れてきた侍女にしてもらい、下がったのを確認してから僕は二人に向き直った。
フィルは相変わらず顔面の主張が強い、警戒されていると一瞬で空気が凍るのだ。
しかしそれとは対照的にルシアはにこやかに僕と向き合ってていて、そこにいるだけで空気が和む。陽だまりのようなぽかぽかとした温かさに、僕はなんだか自分がひどく醜い生き物のような気がしてきた。
……ああ~、これが主人公パワー……。
存在しない謎のパワーを感じつつ、その肩に乗っているコランも僕の事をあまり好意的に見ていないので二対一で場の空気は少々悪いといった状態になるが、まずは話を通してくれたフィルに視線を向けた。
「えっと、まずはフィル。急にお願いしたのに話を聞いてくれてありがと。助かったよ」
「……別に。アンタと俺は一応友達だしね。それにニコは、ルシア様の秘密を知っている人間でもあるし……その件の話なんでしょ?」
「うん。……あまりいい知らせってわけでもないし……フィルも言われたと思うけどアラン様がちょっとばかり……その、知りたがってるっていうかねぇ」
前回、彼女の秘密を知っているならば話せと脅しに近い形で言われた僕は、その逆らえない人から秘密を探られているという事実から何とか話を持っていこうと話題に出した。
するとフィルは、一口紅茶を飲んでから、難しい顔をしてルシアに視線を向けた。
「実は俺も、アラン王子殿下から直接、声をかけられてルシア様と仲がいい俺は何か知ってるんじゃないかって話をされたんです。ニコラスは……アラン王子殿下には借りがあって逆らえない……そうでしょ?」
「ご、ごもっとも」
「だからこのまま隠しておくのは難しいって、そういう話か」
「……うん」
僕の話の内容をルシアに説明してくれた彼に、僕は正直ほっとした。
……だってフィルだしね! 見晴らしがいい場所を選んだのはぶっ殺されて隠蔽されないためだし!
やりかねないと思ったんだよ! だって、姫さま至上主義って感じだし、このままいくと僕がっていうか……姉さまが確実にばらしちゃうからその前にまずはこの問題を片付ける。
そのためにはフィルからのヘイトを買わずにどうにか姫さまバレしてもらうしかない!
「そう、なんだ。……それでわざわざ、話をしに来てくれたんだ。ニコラス」
ルシアは、フィルの言葉を聞いてすぐに僕に視線を向けてくる。その瞳は同情的であり僕を責めるつもりはなさそうだった。
……よし! いい感じ、やっぱり行き違いが起ってフィルに勘違いで報復されたらたまったもんじゃないし!
これで何とか……。
頭を縦にぶんぶん振って同意する、しかしふとフィルが言った。
「ま、秘密を守れないならいっそここで……っていう選択肢だってあると思います。ルシア様、そのぐらいこの問題は深刻な話だよね、ニコラスには悪いけど」
……あれ?! いい感じに切り出せたと思ったのに!? 血の気、多くない?!
「もしアラン様が姫さまに協力してくださらない場合、それにフィアノーガの別の派閥を支援する方が価値があると思った場合、危険度は……本当にシャレにならない。俺だけで守れるなんて大口は叩けないです」
言いながらフィルは真剣な騎士の顔つきになって、自分の腰に携えている剣に触れて考えられる可能性を口にした。
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